第183話 戦いが終わって……(二日後)


 こんにちは、エルフィリアです。

 ヤマルさんの公的依頼ミッションのお手伝いをして二日が経ちました。

 昨日調子が悪かったヤマルさんとコロナさんですが、今日も体調は芳しくないようです。

 やはり夜眠れてないのが堪えているらしく、昨日より辛そうな顔をしていました。

 ですので今日はお二人とポチちゃんを連れて街の公園へとやってきました。

 王都の公園とは全然違い、草原の一角を仕切ったようなとても広い公園です。

 そんな園内の中にある木陰で今私はピンチを迎えています。


(うぅ……どうしましょう……)


 自分の今の格好は端的に言えば膝枕をしています。

 誰を、と言われたらもちろんヤマルさんです。

 いえ、もっと正確に言えばヤマルさんを、ですね。

 どうしてこうなったのかと少し前の事を順を追って思い出すことにしました。


 先も述べたようにあまり寝れてないせいで調子が思わしくないヤマルさんとコロナさんを公園へ連れ出しました。

 本来なら部屋で寝てるのが一番なんでしょうが、その部屋で寝れないので気分転換にでもと誘った次第です。

 この公園は先日のお仕事のときに街の方に教えてもらった場所。

 今日は天気も良いのでお弁当を持ってやってきたのです。

 そして木陰に陣取りお昼も済ませたところでお二人にお昼寝をしてはどうかと提案しました。

 良い天気に加え公園には穏やかな風が吹き、気温も暖かく絶好のお昼寝日和だと思います。

 もちろんお二人は最近寝付けないと言うことなので、私の方でちょっとした物を用意させてもらいました。

 それは花や香草が詰められた小瓶です。

 これは昨日、私がお二人の為に作った物です。エルフの村で寝付けない時にこの匂いを嗅いで気分を落ち着かせるアイテムです。

 それを教えたとき、ヤマルさんは『アロマみたいだね』と言ってくれました。

 多分ヤマルさんの世界でも似たようなのがあるんでしょうね。

 作り方自体は比較的簡単なので、エルフの森じゃなくても作成出来るのはこれの良いところだと思います。


 ともあれお二人にそれぞれ小瓶を渡し横になって貰ったところ、程なくしてコロナさんが、少ししてからヤマルさんが寝入ってしまいました。

 私のアイテムがお二人の寝るお手伝いが出来たようでとても嬉しかったです。

 ちなみにポチちゃんは昼食後、真っ先に丸くなって寝てました。

 寝てるポチちゃんを見ていると本当に私達を背に乗せる戦狼とは思えないですよね。どちらかと言えばただの愛玩系子犬にしか見えませんし……。


(あぁ、そうでした。ここからちょっとおかしなことに……)


 そして私以外の全員が寝てしまったので……そう、魔が差したと言いますか……。

 農業が盛んなこの街ではお昼過ぎのこの時間は皆さんお仕事中。

 だだっ広いこの公園にいるのも私達だけで、しかも自分以外は夢の中。

 つまり……誰も見ていない!


(何で自制しなかったんでしょう……)


 こう、寝て完全に無防備なヤマルさんを見てたら何というかム……けふけふ、悪戯心が出てきちゃったと言いますか……。

 名前を呼んでも反応無し。

 軽く頬を突いても反応無し。

 ここまで完全に無防備なのは初めてヤマルさんを見かけたあの倉庫以来でしょうか。

 まぁあの時はヤマルさんは私に気付いてなかったので色々全開でしたけど……。

 そのときの事を思い出したせいか、何か今のうちに色々やっちゃえ!って悪魔の囁きが聞こえてきまして、気付いたら膝枕してたんですよね。

 この間もしましたけどあの時は治療目的でしたし……。


(それで我に返ってどうしようかと思ってたらコロナさんがいつの間にか起きて……起きて? 半分寝ぼけてたから起きてると言うかは微妙だった気もしますけど……)


 そう、気付いたらコロナさんがとろんとした目で上体起こしてこちら見てたんですよね。

 なんか妙な威圧感があって気圧されそうになったんですが……。

 コロナさんはこちらから視線を逸らすとのそのそと四つん這いでヤマルさんの右隣まで移動し、彼の腕を引っ張りそれを枕にして寝てしまいました。

 所謂腕枕と言うやつです。もちろんヤマルさんは全然気付いていません。

 さもそれをやるのが当たり前と言わんばかりの自然な動きでした。 

 若干唖然としていたら更にいつの間にかポチちゃんがヤマルさんのお腹の上に移動してましたし……。

 何と言いますか、ヤマルさんは愛されてるなぁって光景です。

 そのままそっとお二人の頭に手を伸ばして軽く撫でてあげると少しだけむず痒そうな反応を返してくれます。

 あの戦いの後からずっと調子悪そうでしたし、今はゆっくりと休ませてあげるのが一番だと思いました。


(……そう、あの時はそれが一番だと思ってたんですよね)


 現状と変わらない少し前の出来事。

 相変わらず私の膝の上で穏やかな寝息を立てているヤマルさんと隣で寝るコロナさん。

 普通ならこのまま起きるまで寝かせてあげるべきなんでしょうが……。


(あ、足が……)


 普段からこのようなことを長時間しないせいか、既に足に痺れを感じてきてしまいました。

 この調子では足の感覚がなくなりそうになるまでそう時間は掛かりそうにありません。

 それまでにお二人が起きる可能性も殆ど無いでしょうし……。

 何せヤマルさん達にとっては恐らく二日振りの熟睡。

 この調子ではいつ目を覚ますか分かりませんが、少なくとも起きるまでにはしばらく時間が掛かる事は間違いないでしょう。

 足を動かそうにもその拍子に起こしては悪いですし……。


(でも立てなかったらヤマルさんがおぶってくれる……あ、でも左手が……)


 未だ包帯に巻かれた痛々しい左腕。

 骨折自体は治ってはいるので動かせるそうですが、まだ痛みがあるらしく今はそれの治療中だそうです。

 ポーションに漬した包帯を毎日取り替えてるお陰もあり、日に日に良くはなっているみたいですが……。

 

(……うん、我慢しましょう。私に今出来ることはゆっくり寝かせてあげることでしょうから)


 自分の足を犠牲にしても、今はお二人の睡眠時間の確保を優先させることに決めました。



 尚その後はその後でまた大変でした。

 寝るには良い気候でしたので私も足感覚が無くなった辺りからうとうとし始め舟を漕いでいたのですが、どうやらヤマルさんが最初に目を覚ましたらしく自分の置かれた状況に驚いて動いてしまったのです。

 痺れた足の上で頭を動かされたせいで感覚が一気に全身に広がりまず私が眠りから覚醒。

 そのまま反射的に立ち上がろうにも足に力が入らず前のめりに倒れこんだところでコロナさんとポチちゃんが目を覚ましました。

 コロナさんはコロナさんで『何故腕枕!?』と半分パニックを起こし、ヤマルさんもヤマルさんで慌てて起き上がろうにも上手く行かず……と、三者三様に驚いたままの慌しい目覚め。

 でもヤマルさんもコロナさんも寝る前よりはずっと元気になって……有り体に言えば『いつも通り』になってくれたので、そんな慌てるお二人の様子を見ては思わず笑みがこぼれてしまうのでした。



 ◇



「待たせて済まなかったね。私がこの地の領主、ファウザー=エンドーヴルだ」


 何故かエルフィリアに膝枕されコロナに腕枕をしてた日から明けて翌日。

 漸く話を聞ける準備が整ったと言うことで、自分達『風の軌跡』は再び領主の屋敷へとやってきた。

 以前ラウザと会談した部屋に案内されると、そこには領主夫妻とラウザ、それにイーゼルと護衛の兵士数名が自分達を迎えてくれたのだ。


「はじめまして、領主様。『風の軌跡』のリーダーの古門 野丸です」


 出迎えてくれた領主に向かい自己紹介を兼ねて一礼。

 他の皆も自分に習い挨拶をしたところでファウザーに促されそれぞれ椅子へと座る。


「さて、本題の前にまずは領主として礼を。あの公的依頼ミッションでの事は息子から聞いている。君達がいなければもっと被害が出ていたかもしれないと」

「いえ、自分達だけでもどうにもならなかったはずです。この地の冒険者や農家の皆さん、それにラウザ様が一丸となって動いたからこその勝利だと自分は思っています」

「それは謙遜かね?」

「いえ、本当のことですよ」


 自分達も活躍は出来たが、それ以上に冒険者の人やここの兵もたくさん活躍したのを目の前で見ている。

 ありふれた言い方かもしれないが、今回の勝利は間違いなくこの地に住む皆の勝利だろう。自分達はそれに手を貸しただけに過ぎない。


「まぁそう言うことにしておこう。実際に私が見たのはすべてが終わってからだったからね。……では改めて本題に移ろう。娘から手紙を預かっていると聞いているが間違いないかね?」

「はい。こちらがその手紙になります」


 カバンから手紙の束を取り出し、まずは領主宛の手紙を最初に差し出す。

 そして領主が受け取ったのを見ては続いて奥方へ、そしてイーゼルや兵士達などこの場にいる面々に順番に配り歩いていく。

 余ったのはここにいない料理長や庭師、それに使用人などだ。

 こちらに関してはこの会談のあと手渡しをする予定になっている。もちろんそれに対しては既にラウザ経由で許可は取ってある。

 それぞれの人の所まではイーゼルが案内してくれる手はずだそうだ。


「遠路遥々ご苦労だったね。レーヌの依頼とは言え、密輸まがいの事をさせてしまいすまなかった」

「いえ、これも仕事ですし女王陛下には自分達もお世話になっています。それを考えたらむしろこのぐらいこなさなくては冒険者として廃ってしまいますよ」

「そうか。それでもあの子が任せるってことは信頼されているんだろう。冒険者としては中々接する機会は無いだろうが、良ければ今後も娘の力になってあげて欲しい」

「はい。ご期待に沿えるよう頑張ります」


 そしてその後は軽い雑談に加え今後の仕事の話となった。

 現在指名依頼という形で自分達はエンドーヴル家から依頼を受けている。

 まずはデッドリーベアの氷漬けの継続。これは運ばれる王都まで毎日継続して行う業務だ。

 後はエンドーヴル家の兵士らと一緒に道中の護衛をする予定になっている。

 その際報告のためにラウザを王都に向かわせるとのこと。片道だけではあるが彼も一緒に守るように頼まれた。

 他にも細かい日程や詳細を詰めつつファウザーと話していると、上手く会話が途切れるのを見計らいラウザがコホンと咳払い一つをする。

 なんだろうと皆の注目が彼に集めまると、その手には先日渡した彼宛のレーヌからの手紙が握られていた。


「すみません、ちょっと一点この手紙について聞きたい事があるのですがよろしいですか?」

「はい、分かる事でしたら構いませんが……」


 改めてなんだろう。

 手紙の内容について自分は完全にノータッチである。何が書いているかは不明だが、少なくとも個人宛の手紙で自分に質問が飛んでくる内容があるとは思えないが……。


「この手紙の最後に義妹からこう書いてありました。『もし私と話したいのであればこれを運んできた人を頼ってください』と。これはどの様な意味合いでしょうか? 王都で義妹と会うなら貴方を頼れということなのですか?」

「……あ」


 最初は何の事か分からず、ラウザからの言葉を心の中で反芻する。

 そもそもレーヌは何故自分にこの依頼を出したのかと考えたところで漸く合点がいった。

 もちろん理由として自分が彼女と親しいのもあるだろうし、そのお陰で信用してもらえてるのもある。だがそれだけなら他の人間を使ってもいいはずだ。

 それをしなかった本当の目的が、今ラウザが言った手紙の内容なんだろう。

 確かにあれが出来るのはこの世界において現在自分一人しかいない。


「なるほど、承知しました。その書かれていた内容についてですが、そのままの意味ですね。……ラウザ様、皆様。もしよろしければレーヌ様と久方振りにお話してみませんか?」


 ほんの少しだけ得意気な口調でそう訊ねる。

 そんなこちらの様子とその言葉の内容にラウザ達はしばらくポカンとしていたものの、すぐさま二つ返事を自分に返すのだった。


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