第184話 家族との再会
【お知らせとお詫び】
182話と183話の出す順番を間違えてしまいました。大変申し訳ありません。
本来一昨日出す予定の182話は昨日UPし、現在は差し替え済みです。
よろしければご一読くださいませ。
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「それじゃそろそろ行ってくるね」
夕食も済み夜もふけ本来ならゆっくりしている時間帯。
そんな中、自分は外に出掛ける準備をしていた。
自分の室内には皆が集まっている為少々手狭になっている。
「ヤマル、一緒に行かなくても大丈夫?」
少々心配そうに問いかけるコロナにこちらは問題ないとばかりに首を縦に振る。
「まぁ街中だし大丈夫だよ。ポチには着いてきてもらうし」
「わん!」
腕の怪我は完治していないが痛みは以前よりは引いている。
頑張れば我慢しながらではあるが走るぐらいは出来るだろう。
それに今から行くのは領主の屋敷。時間的にあまり大勢で押しかけても迷惑になってしまう。
「まぁ用心に越したことは無いからな。一応
「あ、メンテナンス終わったんだ。ドルン、ありがとう」
「気にするな。とりあえず見たところ問題は無かったから安心して良いぞ」
ドルンから折りたたまれた銃剣とマガジンを受け取り右肩にかける。
ちなみに他の荷物は今回は置いていくつもりだ。
手紙も昼間の内に全員に配り終えたので特に何か持っていく必要も無い。
「あの、気をつけて行ってきて下さいね」
「うん。いつ戻れるか分からないから、皆は先に休んでていいからね」
それじゃ、と軽く手を上げ皆に見送られながら宿を出る。
すっかり夜も更けた外は本当に暗い。王都のように魔道灯も常設されているわけでは無いので精々家屋から漏れる明かりが道を照らす程度だ。
(まぁ俺なら問題ないけどね、っと)
《
ただ街中を移動しているだけではあるが、やっぱり王都との違いを感じてしまう。
王都ではこの時間帯はまだ酒場等はやっているため、大通りだとまだまだ騒がしい声が聞こえるのだ。
しかしこちらは農家の人がメインの街。早朝より仕事をする人が多いため、すでに静まり返っている家もちらほら見受けられる。
そんな静かな通りをのんびり歩いていてふと気付く。
上を見上げれば日本では殆ど見る事が出来ない満天の星空だった。
やはり空気が澄んでおり明かりが少ないこの地域では良く見えるらしい。
そう言えば獣亜連合国へ行ったときの野営時もこんな空を見たのを思い出す。
(でもさすがに知っている星座はないなぁ)
異世界なのだから当たり前と言えば当たり前なのだが、ついつい有名どころの星座が無いか目で追ってしまうのは性だろうか。
そんな夜の散歩を楽しみつつ目的地の屋敷までやってくると、相変わらず正門には兵士の人が二人ほど立ち怪しい人がいないか見張っていた。
彼らに挨拶を交わすとすでに話は通っているらしくすんなりと門を開け中へ招いてくれる。
そして敷地内に入り玄関を潜ると初日に見かけた十歳ぐらいのメイドの少女が待機していた。
確か彼女の名前はメイだったか。昼間に手紙を渡す際に名前を呼んだので何となく覚えている。それにこの屋敷で彼女は一番の年少だったから印象に残っていた。
メイはこちらに一礼すると門番から自分の案内を引き継ぐ。
彼女に案内されその小さな背中を追うように後を着いていくと、不意にメイは立ち止まりこちらへと振り向いた。
そしてぺこりと深々と頭を下げる。
「フルカド様、改めてお嬢様からのお手紙ありがとうございました」
「え……あ、いいよいいよ。仕事だったんだし、改めてお礼を言われるような事でも無いしね」
「それでもお礼言いたかったんです。お嬢様からのお手紙、本当に嬉しかったので……」
そう言う彼女の表情は言葉通りとても嬉しそうに笑みを浮べていた。
先程まではメイドとしての仕事用の表情ではあったが、今は歳相応と言った感じの笑顔。これが多分彼女の素なんだろう。
しかしここの使用人にしてはこの子は他の人に比べ明らかに年齢が低い。
この子より年上となるとそれこそラウザのお付の若い兵士あたりになるんじゃないだろうか。
「……あ、そっか。君がレー……じゃなくて、女王陛下と昔から一緒にいる……」
「私の事を知っているのですか?」
「うん、ちょっとだけね。一緒に来て欲しかったみたいな話も聞いたけど……」
「そう……ですね。出来れば……いえ、私ではお勤めが果たせないでしょうから……」
そう、確かレディーヤが言うにはこの子ではレーヌの従者としてはともかく女王陛下の従者としては年齢も出自も足りないとのことだった。
歳はさておき出自はどうしようもない。
何せこの子はレーヌがエンドーヴル家に来る前から一緒にいた子である。当時の一貴族としてほぼ無名に近いレーヌの従者では、流石にどれだけ仲が良くても王族の従者に抜擢されるのは不可能だった。
特に即位時は国内がまだ不安定だったと言う事情もあったし……。
でも逆に言えば、年齢を重ね従者として相応しい仕事が出来る様になればチャンスはあると思う。
「今は無理かもしれないけど、君がもう少し年齢を重ねて女王陛下と一緒にいるに相応しい働きが出来るようになったらチャンスはあると思うよ」
「そう……ですか?」
「うん。君にしか出来ない事が絶対あるからね」
何せまずレーヌ自身が彼女の身元を保証できる。
そして更に言うなら、レーヌにとって彼女は気心が知れた間柄だと言うのがとても大きい。
こればかりは歳月を積み重ねなければならないのだが、現在レーヌと一緒にいた時間が一番長いのは母親とこの子である。
レディーヤならその点の有用性は分かっているはずだ。
「何だったら今日希望を伝えてみたらどう? 折角のチャンスなんだし、自分は側に居たいんだって」
「……? あの、伝えるってどなたに……?」
「……あれ、今夜の事は何も聞いてない?」
こちらの問いかけに首を縦に振り肯定を促すメイ。
誰も教えていなかったのだろうか。
でも確かレーヌが言うにはここの領主一家と使用人は結構仲が良いと聞いている。
もちろん公私混同しないよう日中はその辺は弁えているが、この様に一人だけ何も聞いていないようなことはしないはずだ。
……何か目的でもあるのかもしれない。
「そっかそっか、まぁすぐに分かるよ」
「わかりました。それではこちらに」
そう言って再び歩き出す彼女の後を着いて行くと、案内されたのはこの間の応接室ではなかった。
中に入るとそこはかなり広い部屋。部屋の中央に縦に長い机が置かれ、その上には真っ白なテーブルクロスが敷かれている。
壁には絵画や活花、それと明かりのランプがあり、天井からはシャンデリアのような豪奢な硝子細工がぶら下がっていた。
そしてこの部屋が何なのか理解する。ここは恐らく領主一家の食堂だろう。
そんな中、テーブルの長辺側に領主一家が横並びに座り、その後ろにイーゼルら使用人たちが立っていた。
集めれる人を全員集めたのか、中々壮観な光景だ。
そんな大人数がこちらが部屋に入ってくるなり視線が一斉に向けてきたので少し気圧されてしまった。
「お待たせ致しました。フルカド様をお連れしました」
「ご苦労。メイもこっちに来なさい」
「はい」
領主の言葉に従いメイもこちらを離れ使用人らの列へと加わっていく。
今から何が始まるか分かっていないようだが、何かするのは先程少し話したためかさして驚くような様子ではなかった。
そして領主らに改めて頭を下げ挨拶をすると早速とばかりに本題を切り出される。
「さて、では早速で済まないが準備をお願いできるかい? 私もだが、見ての通り皆も楽しみにしていてご覧の有様なのだよ」
「旦那様、流石に楽しみにするなってのは無理なお話ですよ」
「そうそう。お嬢と久々に話せるってゆーんで集まったんですからね!」
やいのやいのと皆が今から起こる事をどれだけ楽しみにしていたかと矢継ぎ早に語っていく。
主に対して些か口調が緩い気もするが、当人は特に気にした様子はないので普段からこんな感じなのだろう。
そして今から何が起こるのか漸く知ったメイが口許に手を当てとても驚いた様子を見せていた。
そんな彼女を見ては周囲の使用人たちが頭を撫でたりしていた。多分サプライズ狙いだったんだろう。
皆の和気藹々とした雰囲気に思わず笑みがこぼれる。
「分かりました。では早速取り掛かりますね」
そう言ってはポケットからスマホを取り出し手早くメムへと繋げる。
今回ここに来た理由は彼らをレーヌと話をさせることだ。
どうやら領主やレーヌのお母さん、それにラウザには夜に話が出来るかもしれないということを手紙に書いていたらしい。
そこで昼間の内にメム経由でレーヌの予定を聞き、今夜は問題ないとの事だったのでこうして実現したわけだ。
彼らだけでなく使用人らも集まっているのは、領主達が折角と言うことで希望者を募ったとのこと。
「もしもし?」
『マスター、お待たせしまシタ。こちらはすでに準備は整ってイマス』
「ん、了解。じゃぁこっちもテーブルの上に置くからいつも通りお願いね」
そして通話をしたままスマホをテーブルの上に置き皆に画面が見えるよう調整を開始する。
「ヤマル君。今誰と話していたのかね?」
「あ、今のは王都にいる自分の知り合いですね」
「ふぅむ……にわかには信じがたいがそんな小さな魔道具で遠くにいる人物と会話が出来るのか……」
領主の言葉に使用人らのざわめきが大きくなる。
彼が言っている事がまるで信じれないと言った感じなのだろう。ここにいない人物と会話をするなど、この世界の技術からすれば夢物語もいい所なのだから無理もない。
「えっと、小さくてすいませんがここに女王陛下が映ります。見づらいかもしれませんが、声だけはちゃんと聞けるように調整はしますのでご安心下さい」
「ここにレーヌが……? あの、その魔道具の中にレーヌが入っている訳ではないんですよね?」
「はい、奥様。女王陛下は間違いなく王都にいらっしゃいます。そしてこれは決して危険な行為では無いためご安心下さい」
流石に女王になったとは言え実の娘のことだけに一番心配そうな顔をしているのがこの人だ。
名前は確かマームさん。現在レーヌの唯一の肉親である。
彼女に安心させるようなるべく優しく答え、スマホのセットも無事完了。
現在はまだ真っ暗な画面だが、こちらの合図と共に映る手はずになっている。
「準備できました。皆様、始めてもよろしいでしょうか?」
「あぁ、お願いするよ」
「では……メム、よろしく」
『了解デス』
スマホのスピーカーからメムの声が聞こえると同時、真っ暗な画面が明るくなりそしてそこにはドレス姿の見知った少女が姿を現した。
いつもよりも若干おめかししている様子なのは久しぶりに家族と会うからだろうか。
『あ、お義父様、お母様。それにお兄様に皆も……お久しぶりです』
本当に嬉しそうな笑みを浮かべ画面の中のレーヌが頭を一度下げる。
それを見た領主夫妻は喜び、そして久しぶりに娘を見れたおかげかどこか安堵した表情をしていた。
ラウザに至ってはスマホに向かいブンブンと手を振り自らの存在をアピールしている。
「お嬢、お久しぶりです!」
『本当に久しぶり……皆も元気そうで安心しました』
「うおぉ、本当にお嬢と会話できてる!?」
「すげぇ……え、何これ欲しい! 旦那様、これ買いましょうよ!」
「まぁ待ちなさい。私も既に打診したが残念だが断わられてしまっているのだよ」
「これあれば毎日お嬢様とお話できますのに……」
一気に盛り上がるエンドーヴル家の一同。
もう大丈夫そうだなと思い彼らの輪から離れ部屋の隅の方へと移動する。
流石に今日の主役はレーヌと彼らだ。自分がしゃしゃり出ていい場面ではない。
離れたことで全体が見えるようになり、皆の行動も多種多様なのが良くわかる。
前面の領主一家とそのすぐ後ろの使用人らは食い入るように画面を見つめ、上手く画面が見れない人らは耳を済ませるようにレーヌの声を聞いていた。
(……お、あの子がちゃんと話したか)
見ると一歩前に出て両手を握りまるで祈りのポーズのような格好でスマホに向け何かを訴えるメイ。
ここからではどんな会話をしているか聞き取れないが、多分さっき廊下で話したように自分の希望を伝えたんだろう。
それにどうやらちょっと泣き出してしまったらしい。思いもよらなかったレーヌとの久方振りの会話にお願い事と色々あって感極まってしまったのかもしれない。
その後も長い時間をかけ空白の時間を埋めるかのように皆がレーヌと話していく。
領主夫妻が優しい表情で話しかけたり――。
ラウザは何か言われのか真っ白に燃え尽きて床にへたり込んだり――。
他にも使用人たちがあれやこれやと盛り上がったり。
彼らとレーヌの会話はかなり盛り上がり、その結果宿に戻ったのは深夜といって差し支えないほどの時間になるのだった。
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