第162話 閑話・聖女と女子会 それぞれの結婚観


「はー……エラい目にあったわ……」

「自業自得だと思いますけどね。自分達だけ楽しようとするからですよ」


 あれからスーリさん達の詰問会から大暴露大会へと発展しました。

 そして最終的には騒ぎすぎたため店員さんによってお店から追い出されるまでに……。

 うぅ、一応私神殿では聖女と言われてるんですが……。

 そんな人が騒いでお店から追い出されたなんて周りの皆には口が裂けても言えませんね……。


「このままお昼どこか行っちゃおっかー」

「その前にちょっと休憩したいんですが……」

「あー、確かにちょっとはしゃぎすぎたかもしれないわね」


 と言うわけで皆で近くの公園へ。

 王都の中にこの様な場所があったのですね。少し大通りから外れてるせいか今までこの様な公園があったなんて知りませんでした。

 園内は敷地を取り囲むように植木がなされ、中央には噴水とベンチがあり思った以上に広く整っています。

 中に入ると流石に人数が多かったせいか、すでにいた方々から少し注目を浴びてしまいました。


「セレスちゃん、気にしちゃダメよ。このメンバーで目を引くなって方が無理なんだし」

「そうそう。まぁ何かあっても基本戦える人ばかりだから大丈夫だからね」


 私を安心させるように笑顔で任せてよと告げるフーレさんとスーリさん。

 そう言えば私以外は冒険者の方……ですよね?

 コロナさんだけ確か傭兵でしたっけ。一番小柄ですのに……。

 同じぐらいの歳なのに、私以外荒事に慣れてるのは純粋にすごいと思います。


 とりあえずそんなたくましい皆さんと一緒にベンチで休むことにしました。


「そう言えばさっきの話でちょっと気になったんだけど」

「何、スーリ。また変なこと聞くのはダメよ?」

「純粋な知的好奇心と言って欲しいなぁ。ほら、私こう見えても魔術師だし」

「知的好奇心の魔術師様ねぇ……」


 ここ数時間でお二人の姉妹のやり取りは見慣れてしまいました。

 でも言葉とは裏腹に見ているだけでもお互いが信頼しあっているのが分かるのでとても微笑ましいです。


「で、一応聞いてあげるけど何?」

「えーと、コロナちゃんとエルフィちゃんに聞きたいんだけど……」


 名指しで呼ばれた瞬間、二人がびくりと肩を震わせました。

 今度はどんな事を聞かれるのだろうと完全に警戒態勢に入ってしまってます。


「あ、別にコロナちゃん達個人のことじゃないよ。ちょっと獣人とエルフで気になってることがあって」

「分かる範囲なら別にいいよ」

「私も言えることでしたら……」

「ありがと! でね、前どっかで聞いたんだけど、獣人って一夫多妻の家族あるって本当?」


 その言葉にコロナさんは口元に手を当てて少し考え込んでしまいます。

 コロナさんも獣人と言う種族ですし、ご家族もその様な感じなのでしょうか。


「う~ん……かなり昔はそれが一般的だったみたいだけど、今は人と一緒かな? もちろん中には一夫多妻の人もいるけど少数派だと思うよ」

「そうなんだ?」

「まぁ人からしたら半分動物みたいなものに見えるからそう思うかもしれないけどね。でも人間だって一人で多くの女性囲ってることあるでしょ?」

「あー……でもそれは貴族とか特権階級の人ばかりだよ。どうしても血筋残そうとする人達で、一般人は全然そんなことないよ」

「人間だとそうなんだね。獣人だと一般家庭でもいるはところはいるし、特に気にしない人も多いけど……」


 その後コロナさんとスーリさんらが話し合ったけ結果、やはり似てるようで少し違うと言うお話になりました。


 まずこの世界の人間は基本的には男女一組と言う形みたいです。

 法的に一夫多妻や多夫一妻は問題無いらしいのですが、やっているのは先程スーリさんが仰ったように王族貴族の方々ばかりのようですね。

 それも大貴族と呼ばれるような方がそうなるそうです。

 普通の貴族はあまりそういった傾向は少ないんだとか。

 後継者問題とかてゴタゴタするからじゃない?とスーリさんは予想してましたが、残念ながらこの場に貴族の方はいらっしゃらないので真偽の程は不明です。

 私も貴族の方とお話することは多い方ですが、そこまで込み入ったことは聞きませんし……。


 対してコロナさんが仰る獣人ですが、こちらも現在は男女一組が主流のようです。

 ただ遠い祖先の時代では逆に一夫多妻が主流の時もあったみたいですね。その流れからか一般家庭においても少数派ではありますがそのような家庭もあるみたいです。


「そもそも何で一夫多妻が主流の時代あったの?」

「んー、昔は今ほど生活が安定していなかった時代もあったからみたいだけど……」


 あくまで伝え聞いた話、と前置きした上でコロナさんが獣人の歴史も交えて教えてくれました。

 今ほど生活が安定していなかった時代。その時獣人達がとった行動は手を取り協力し互いに分け与えると言うことでした。

 その方針は親から子へ、子から孫へ伝えられ、結果恋愛においても一人の人を好きになったら二人で愛してもらえば良いと言う考えにまで至るようになります。

 その為一夫多妻が主流だった時期では一人の男性に複数人で協力して夜這いかけることもあったとか……。

 流石に今ではそんなことは……無くはないらしくたまに起こるとの事。

 見た目は人とさほど変わらないせいか、その話を聞いては驚きを隠せませんでした。


「あ、でも獣人と言えど多夫一妻は殆んど無いよ」

「あれ、そうなの? 一夫多妻はあるのに?」

「分け与えの精神があっても、男性と違って女性は子を宿せるの一人だけだし……」

「あー……」


 ……えーと、その。

 つまり一夫多妻なら男性はそれぞれ奥さんを愛せますし子も宿せますが、逆だと女性が身篭られた際に他の旦那さんは愛することも自分の子を宿すことも出来なくなる……と言うことですよね?

 うぅん、理屈は分かりますけど何かこう……いえ、それは私の意見でしかないですね。

 それで種族が円満に回ってるのでしたらきっと良い事なんでしょう。思うことはありますがそう言うものと考えていた方がよさそうです。


「あの、コロナさん自身はどちらなんでしょうか?」

「そうですねぇ……私としてはやっぱり一人の人とかな。両親もそうだったし、奥さんがもう一人いるともやっとしちゃいそうだし」

「まぁそれが普通……って思うのは私達が人間だからだよね」

「そうね。余所は余所、うちはうち。一番良い形に収まってるのなら回りがとやかく言う必要は無いわね」


 うんうんと皆が頷き話がまとまったところで全員の視線がエルフィリアさんに向けられます。


「エルフィちゃんのところはどうなの? 長寿だし獣人や普通の亜人は違うと思うけど」

「エルフは……多分人間の方と一緒ですね。一夫多妻なんて聞いたこともないですし……」


 んー、と人差し指を口に当て思い出すように話し始めるエルフィリアさん。

 そもそも長寿種の方の結婚観ってどんな感じなのでしょうか。


「エルフの人ってその辺の話全然聞かないわね。まぁそもそもエルフ自体が外に出てこないからなんだけど……」

「他の種族との違いよりエルフの普通ってどんな感じなの?」

「えーと……確か……」


 うーんうーんと必死に記憶を引っ張り出そうと考え込むエルフィリアさん。

 実際そこまで悩むぐらいエルフは結婚とかしないのでしょうか。


「結婚自体は……そうですね、やっぱり長寿種なせいか数十年単位ですし、子どももあまり……。一番下の子で確か四十歳ぐらいだったと思います」

『四十歳……』

「あと、その……あまりそっち方面が薄いと言いますか、エルフはストイックと言いますか……。興味がないのか、その……やり方分からない人もそれなりに出てきちゃいまして……」

『やり方が分からない……』

「なので、えと、さっきヤマルさんが捕まってた倉庫にそういった本が保管してあったり……」

『…………』


 流石に普通ではないのは皆さん分かっているようでどの方も何も言えなくなってしまいました。

 いえ、普通ではなく人として見た場合は、でしょうか。

 それでも自分達の普通との齟齬の大きさには皆さん思うところがあるようです。


「なんと言うか……」

「うぅん、種族特性と言えばそれまでかもしれないけど……」

「生物としてそれは……あ、でも長寿種だからなのかなぁ」


 むー、と皆さんが何とも言えない顔をしてしまいました。

 ちょっと良くない空気になってきてますね。これは少しフォローした方が良いかもしれません。


「でもエルフさん達はそれで悠久の時を生きているわけですし、それが一番良い形なんだと思いますよ」

「セレスさん……」

「種族の数だけ営みがあります。必要ならコロナさん達獣人の方々みたいに変わっていくでしょうし、問題ないのであればエルフの方々のようにそのままなんだと思いますよ」


 ね?と最後に笑顔を向けると、エルフィリアさん以外の皆さんが何故か惚けた様な顔をされてました。

 あれ、私神殿でいつもやってる通りにしただけなんですが……なんでしょう、この反応。

 信徒の皆さんの悩みの際は大体この様な感じで対応しているのですが、何か間違ったか変な事言ってしまったのでしょうか。


「セレスちゃん、なんかすごい……」

「え……?」

「いや、びっくりしたわ。修道服着てるってのもあるけど、何か話してる間神々しさみたいなの出てた感じよ」

「いえ、そんな事は……」

「人間の聖女様ってセレスさんのような人を言うんでしょうね」

「エルフィリアさんまで……!」


 前の世界では聖女候補ではありましたけど、改めて面と向かって言われると物凄く気恥ずかしいんですが……。

 何とかして皆さんを止めようと思っていると、不意にスーリさんが正面から抱きついてきした。


「わぷ……!」

「もぅ、セレスちゃん良い子過ぎだよぅ!」

「スーリさん、ちょ……」


 バタバタ両手を動かすもスーリさんはびくともしません。

 確か魔術師と仰ってたはずですが、この世界の魔法使いの方は腕力が高い傾向にあるんでしょうか。


「はーい、そこまで」

「うに!?」


 フーレさんがスーリさんの顔に手を当てやや強引に引き剥がしてくれました。

 抱きつかれたのは初めてでちょっとびっくりしてしまいましたが、嫌な感じは全然しないのですね。

 ……いえ、誰でも良い訳では無いですけど。多分スーリさんやこの場にいる方なら全員大丈夫のはずです。


「しかしここまでとは思わなかったわねぇ。スーリ、少しは見習いなさいよ」

「フー姉こそセレスちゃんのお淑やかさ見習うイエナンデモアリマセン」


 右手に握られた拳を見てスーリさんは即座に言葉を引っ込めてしまいました。

 本当にこのお二人は仲が良くて羨ましいです。私にも姉妹がいたらこのような感じで仲良く接する事が出来たでしょうか。

 ……どちらかと言えば多分私が妹になってそうですね。ルーシュさんもですが引っ張ってもらうことばかりですし。


「フーレさん、スーリちゃん。そろそろお昼行きません? 良い時間だと思いますけど」

「あー、そうね。どこ行こうかしら。セレスちゃんやエルフィちゃんは食べれないものある? 戒律や習慣でダメな物あればそれ外すけど」

「私は大丈夫ですよ」

「私もセレスさんと同じで特に問題はないです」

「となるとどこにしようかしらねぇ」

「あ、ならあそこにしようよ、大通りのオープンテラスのお店! 天気良いしこういう機会じゃないと中々無いし!」


 あれよあれよと言う間にお店が決定してしまいました。

 私はその様なお店は知らないので皆さんにお任せするつもりでしたが、決断力の速さと情報量の多さはさすが冒険者の方々と言った所でしょうか。



 ともあれ即断即決と言わんばかりにスーリさんを先頭に公園を出立。

 道中も皆さんと会話しつつ私達はそのお店へと歩を進めるのでした。

 


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