第161話 聖女と女子会2


 ヤマルさんに仲間のエルフィリアさんと同業者のフーレさん、スーリさん、ユミネさんを紹介していただきました。

 久しぶりにコロナさんにも会いましたが、あれから怪我の後遺症も無いようでほっと一息です。


「へぇ、こないだまたチカクノ遺跡行ってきたんだ?」

「で、またそこで新しいの見つけたと……。遺跡ってそうポコポコ見つけれるものじゃないんだけどなぁ……」


 そして現在、六人掛けのテーブルを囲んで皆でお話をしています。

 私、コロナさん、エルフィリアさんの三人、スーリさん、ユミネさん、フーレさんの三人が向かい合うようテーブルを挟んで座る形ですね。

 最近コロナさん達が行ってきたチカクノ遺跡という場所でのお話に耳を傾けます。

 どうも以前もヤマルさんはすごい発見をしたらしく、今回も同等の事をしたそうなのです。


「それでカーゴって物を掘り出してきたんだけど……」


 まだまだ続くコロナさん達の冒険譚。

 今はそのカーゴと言う馬車に似た様な物を掘り出し、その調査と改造を行っているみたいです。

 同行したお城の考古学会の研究員さんと、まだ会った事の無いヤマルさんの仲間であるドワーフのドルンさんが中心となっているとか。


(少し羨ましいかも……)


 今の生活に不満があるわけではないのですが、やはり外の世界と言うものは憧れてしまうものです。

 もちろんその分危険なのは頭では分かってはいます。

 例えば先の遺跡以外でのお話ですと、コロナさんの国にあった遺跡でとても大きなトレントと言う樹の魔物と戦ったとか。

 それでもコロナさんの様な獣人や亜人の方々が暮らす獣亜連合国、国内でも魔法を専門に学ぶ魔法都市マギアや多くの人や物が行き交う貿易都市クロード。

 この世界の人が住む様々な場所を聞くと行ってみたいと思ってしまうのです。


「あ、セレスちゃん。ごめんね、ずっと私達が話をしてばかりで詰まらなかったでしょ」

「そんなことは無いですよ。どのお話も私の知らないことばかりでとても楽しいです」


 心配そうにこちらの顔を覗きこむスーリさんに笑顔で応えます。

 確かに行ってみたいのは本音ですが、今のお仕事を放り出すことをしたくないのも偽らざる本音です。

 今はこうしてお話を聞かせていただけるだけでもとても楽しいですし、まだまだ時間はたくさんあります。

 お仕事が一段落ついて少し余裕が出たら、少しずつ世界を見て回るのもいいかもしれませんね。

 その時はヤマルさんに頼んでみるのも良いかもです。あの人なら……あ、でもヤマルさんは故郷に帰りたがっているんでしたっけ。

 先日の彼の言葉に少し心が締め付けられたのを思い出します。

 私だけじゃ無く他の皆さんもそうだったのは意外でしたが……。


「セレスちゃん?」

「あ、いえ。なんでもありませんよ」


 いけないいけない、今日は私のために皆さんが色々してくれているんですから。

 今日一日を満喫すること。それが今一番大事なことです。


「じゃぁ話題変えよっか?」

「良いけど何にするのよ。共通出来そうな話題とかとなると……」

「ふっふーん、あるじゃない。恋話こいばなって乙女の特権が!」


 その瞬間三名ほど反応したのを私は見逃しませんでした。

 コロナさんとエルフィリアさんはピクリとその特徴的な耳を動かし、ユミネさんが何かに怯える様にビクリと体を震わせたからです。


「うら若き乙女の恋話なんて皆大好物でしょ?」


 その言葉に少し逡巡した後小さく頷くエルフィリアさん。

 コロナさんは目線をキョロキョロさせ、フーレさんもそっけなさそうな様子でしたが特に否定する様子もありませんでした。


「コロナちゃん達は何かないのー? 手近にフリーなのいるじゃない」

「あー……ヤマルとは特には……」

「無いの? 本当に? 獣亜連合国に行ってる時にデートしたとか何か貰ったとか」

「一緒には居たけどデートって感じのは……。あ、でも買って貰った物なら」

「あるの?!」


 スーリさん、物凄い食いつきようです。

 フーレさんもチラチラと窺いながら聞いてますし、エルフィリアさんもコロナさんの顔をじっと見ています。

 同じ仲間ですが知らなかったのでしょうか。


「えっと、今使ってる剣と……」

「なぁんだ。もっと可愛い物あげればいいのに」

「このリボンとか」

「お、それヤマルがあげたんだ? 意外とセンスあるのかな?」


 ガッカリしたかと思えば再び興味津々にコロナさんのリボンを見るスーリさん。

 コロコロと表情が変わる性格なんでしょうね。見ていてとても可愛らしい方だと思います。

 確かにコロナさんが頭につけてるリボンはとても可愛いデザインですし。


「コロナさん、それ確か魔道装具でしたよね」

「うん、そう――」

「ちっがうわよ! 私が望んでるのはそういうのじゃなくてー!」


 バンバンとテーブルを叩き何かを訴えるスーリさんでしたが、直後フーレさんの拳骨で即座に鎮圧されてしまいました。

 まぁ、その。多分話の流れからあれは装備品の類だったのでしょう。

 スーリさんの言いたい事は分からなくはないですけど、これも立派なプレゼントだと思うのですが。

 それに男性からのプレゼントはされたこと無いので私としては少し羨ましいですし……。


「もぅ、ヤマルのヘタレー。こんな可愛い子が常時近くにいて手を出さないってどーゆーことよー」

「手を出すような人がそうそう異性とパーティーは組めないでしょ。まぁもう少し何かあってもよさそうなのは同感だけど……」

「男ならもっとがーっとがっつきなさいよー!」

「その結果がギルドのでしょ。ヤマルがあぁなってもいいの?」


 フーレさんがそれを口にした途端他の方々がとても渋い顔をされてました。

 アレが何なのかは確証は持てませんが、以前ルーシュさんと一緒に冒険者ギルドに行った時に追いかけて来た方々のことでしょうか。

 ……ヤマルさんがあんな風になるとは思えませんが、確かになってしまったら物凄く嫌ですね。


「ぶぅ……。エルフィちゃんは何か無いのー? それだけスタイル良いんだからエルフの村で彼氏の一人や二人いたんじゃないのー?」

「ふぇ?! あ、いえ、その……恋人とかそう言う人は、いたことなくて……」

「あら、意外ね」


 話題を振られたエルフィリアさんが慌てふためき、最後には顔を真っ赤にして俯いてしまいました。

 でも確かにフーレさんが仰るように少し意外です。

 エルフィリアさんのエルフと言う種族は長命。見た目こそ私の少し上ぐらいですがなんと私の十倍以上もの時を過ごしているとか。

 それほどの時があり、とても女性らしい体つきをしている彼女に未だ恋人がいたことがないとは。

 エルフの男性は人間とは感性が違うと言うことでしょうか。


「いえ、その……。村では私の様なだらしない体の人はいなくて……皆さんスラッとしてて美しくて……」

「あー、その、ね。ヤマルから聞いた話なんだけど……」


 ポツポツと話し出すエルフィリアさんとそれをフォローするコロナさん。

 お話を聞く限りエルフの方の美的感覚は顔の美醜ではなく……むしろ美形しかいないので体型が重視されるみたいです。

 そして村ではエルフィリアさん以外の方はスラッとした細身の方ばかりで、私達の感覚からしたら太っている扱いになってしまうとのこと。

 不思議な感性ですが種族的なものなんでしょうね。

 なので外に出てからエルフィリアさんは自分の見られ方が変わったことには驚いているそうです。


「それに、その、前フラれちゃいましたし……」

「あ……」

「その、ごめんね……?」


 ……エルフィリアさん、そんなことが。

 一体断わった男性は誰なんでしょうか。男性受けは良さそうな感じしますけど……。

 ヤマルさん……ではないですね。多分そうなったらギクシャクしてとても同じパーティーではいられないでしょうし。


「いえ、もう大丈夫ですよ。ヤマルさん達にも良くしてもらいまし」

「あー、なんかヤマルなら甲斐甲斐しく世話してるの似合いそうねぇ」

「そのヤマルとはなんも無かったの? 確か村に来たヤマルと知り合ってそのまま同行だっけ?」

「最初は着いていく予定は無かったんですけど、お母さん……村長命令でして」

「あら、それはそれは……」


 目元は見えませんが遠い目をした感じのエルフィリアさん。

 多分私たちの知らないところで色々なことがあったんでしょう。

 そんな様子を見かねたコロナさんが話題を変えようとしてか別の質問を投げかけます。


「そう言えば私もヤマルとの出会い聞いてないかも。どんな感じだったの?」


 コロナさんがそう訊ねた途端、エルフィリアさんの顔が何故か真っ赤に染まりました。

 そしてそれをスーリさんが見逃すはずも無く、彼女は身を乗り出すような形で物凄く良い笑顔を浮べています。


「おやおやぁ~? これは何かあった顔ですわよ、お姉様」

「その口調はやめなさい。でも何あったのよ。正直ヤマルがあなたにそんな顔させることをするとはあんまし思えないんだけど」


 スーリさんの態度は咎めても聞くことに関しては止める様子は無さそうです。

 コロナさんも何やらジト目で疑うような視線をエルフィリアさんに送っています。


「で、ヤマル何やらかしたのよ?」

「えぇと、その……最初に言っておきますけどヤマルさんは何も悪くなくて……」

「じゃぁエルフィちゃんが何かしたの?」

「うぅ……そういう訳でもないんですが不幸な事故と言いますか……」


 顔を真っ赤にしたままエルフィリアさんがヤマルさんとの出会い……と言うより初遭遇時の事を話始めます。

 それによると村に迷い込んだヤマルさんはエルフに捕まり、身柄拘束の為に村はずれの倉庫に軟禁される事になったそうです。

 その倉庫はエルフィリアさんの日中の隠れ家みたいな存在でありその日もそこで過ごしていたのですが、急に誰かが来て驚き物陰に隠れたところでヤマルさんが中に入れられたとか。

 ヤマルさんはその時エルフィリアさんがいるのは知らず、村長である彼女の母親と謁見するために渡された服にその場で着替え始めたそうです。


「……つまりその着替えシーン目撃してしまったと」

「はい……」

「まぁ、その、災難だったわね?」


 皆さんから同情の視線を受けるエルフィリアさんですが、恥ずかしがっているもののそこまで嫌がってる様子は無いのは気のせいでしょうか。

 ……きっと気のせいですよね。私が同じ立場だとやはり困ってしまいますし。

 何とも言えない雰囲気になったせいか、フーレさんがコホンと一つ咳払いすると私の方へと向き直りました。


「セレスちゃんは? やっぱり神殿だと厳格そうなイメージあるからそもそも恋愛禁止だったりするのかしら?」

「私自身はそこまで厳しい戒律は無いのですが、昔から女性ばかりのところでしたのでそう言ったお話は無いですね」

「やっぱりそうなんだ。じゃぁあまり結婚願望とかも?」

「そうですね……その内良い人がいれば私もそうなるのかな、と思います。でもまだ異性の方を好きになったことないので……」

「へぇ、珍しいわね。それとも神殿だとそれが普通なのかしら?」

「私の周りで夫婦になられた方もいらっしゃいます。なので私がたまたまそうだっただけかもしれませんよ」


 神殿で結婚の儀式をする方もすでに何組か見かけています。

 どの方も幸せそうなお顔をされてますし私も将来そうなれたら良いとは思いますけど、それはきっとまだまだ先のお話。

 まずは人を好きになるところからでしょうね。

 見聞はしますが経験が無いので今ひとつ理解出来ない事ではあるのですが……。


「皆に聞いてるけど、そう言うフーレさんやスーリさんはどうなんです? 以前恋人がいたとか今好きな人がいるとか」

「う……」


 将来の私の相手はどんな人になるのかなぁと思っていると、コロナさんが逆にお二人に問いただしはじめました。

 その途端、お二人はコロナさんから視線を背け明後日の方向を向いてしまいます。


「私達は、まぁ程ほどに……?」

「中々良い人ってのはねぇ。同業のアレは絶対お断りだし」

「そう言う意味だとお義兄ちゃん捕まえたお姉ちゃんは大当たりだよね。あんな人滅多にいないし」

「まぁでもその辺の話聞きたいならちょうど良い人がいるじゃない。ここで唯一相手がいる人が、ねぇ?」


 フーレさんがそう言うと私とエルフィリアさん以外の全員の視線がユミネさんに向けられます。

 なるほど、ユミネさんには恋人がいたんですか。

 だから最初に恋話の話題が出たときに反応していたんですね。


「あんまうちの愚弟とのノロケは聞きたくはないけど……」

「経験者の言葉は大事だもんねぇ」

「エルフィリアちゃんも赤裸々に話してくれたんだし、ユミネも話してもらわなきゃねぇ」

「う~……じゃ、じゃぁ二人の過去のそういうお話をしてくれたらいいですよ!」

「うぐ……ユミネも言うようになったわね」


 今まで黙って聞いてたユミネさんが一転攻勢。反撃とばかりにお二人を責め立て始めます。

 そこにコロナさんが加わり一気にテーブルが騒がしくなりました。

 慌てて弁明するスーリさんとフーレさんに早く話してと急きたてるコロナさんとユミネさん。

 そんな四人をエルフィリアさんはおろおろと見ていて……何と言うか、とても楽しいです。


(あぁ、これが友達とのお話なんですね)


 以前手に入らなかったものがこうも簡単に……いえ、本当はこんな簡単な事だったんですね。

 もしもっと早く動いてたらヤマルさんに相談する前にお友達出来ていたのでしょうか……。

 いえ、もしかしたら今からでも……。


「フーレさん、スーリさん」

「あ、セレスちゃん! 二人を止めてくれると……!」

「ダメですよ、私も話したんですから。あ、懺悔なら本職ですから聞いてあげますよ?」

「「ちょ……!!」」


 にっこりと笑顔で応対するとお二人はまるでこの世の終わりのような絶望の表情を見せてくれたのでした。


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