第157話 カーゴ始動


 カーゴを運び終えた翌朝、『風の軌跡』を含めた関係者を集め改めて色々と調べることになった。

 見える範囲の外側はともかく、中や実際の起動テストなどは流石に発見者である自分らがいないと駄目らしい。

 なので研究者らは昨日の時点から口酸っぱく早く来い朝一で来いと言ってきた。

 無視しても良かったのだが個人的に楽しみであったことと、聞かないと後々面倒そうだったので言われた通り城が開門すると同時に中へと入っていった。

 離れの研究室に向かうとすでに人だかりが出来ており、研究者は元より物珍しさから城の兵士らなどの姿も見受けられた。

 

「うっわ、シュールだなぁ」


 しかしそれ以上に正直な感想が思わず漏れてしまう。

 西洋風の城の敷地、芝生の広場に佇む鈍色のカーゴはコンテナにしか見えない。

 そんな風貌の物体の周囲に人だかりが出来るとどうしてもそう思えてしまった。


「お、来た来た! おーい、早くしてくれ!」


 こちらを見つけた研究員の一人が大きく手を振る。

 彼の言葉に全員の視線がこちらに集まり思わず気圧されそうになるものの、後ろにいたエルフィリアが支えてくれた。

 ……いや、違う。自分の後ろに隠れたからたまたまそのような形になったようだ。

 そのまま前に進みカーゴに近づくと、人ごみの中からメムが一歩前に出てくる。

 

「マスター、お待ちしてまシタ」

「お待たせ……って言うか朝一で来たんだけど……」


 開幕ダッシュとまではいかないがかなり早く来たのにそれでこの人数か。

 どれだけ待ちきれなかったんだろう。

 ともかくこれ以上待たせると暴動になりかねないため早速始めることにする。


「それでこれからどうするの?」

「まず最初に動力を入れマス。ただし当時の状況からセキュリティがある事が予想されマス」

「せきゅりてぃ?」

「あー、カギみたいなもんだよ。勝手に動かされないための防犯装置。で、それ解けるの?」

「はい、少々お待ち下サイ」


 そう言うとメムはカーゴの側面の一角に近く。

 何をするんだろうと思っていたら、メムの目が軽く明滅した。おそらくカーゴと何か通信でもしているのだろう。

 少し待っていると『ピ!』と自分には聞き慣れた、そして久しぶりに聞く電子音が聞こえてきた。


「「おぉ……」」


 後方から漏れ出る研究員らの感嘆の声。未知との遭遇に期待が物凄く跳ね上がっているのが見なくても分かった。

 と言うか誰もカーゴが動いたことに関して驚く素振りが無い。

 どうしてかと思うも、そう言えば見える範囲は調べるかもと言ってたのを思い出す。

 メムも操作手順は知ってるとは言え、さも当たり前のように操作していた。動力が無事なのは知っていたのかもしれない。


「メム、これ動くの気付いてたの?」

「ハイ、昨日の運搬時にエネルギー充填を確認していまシタ。私の充填タイミングと同じでしたので稼働に問題無いと判断しまシタ」


 やはりメムは気付いていたようだ。

 一応補足するとその事については運搬後に研究者らには伝えていたものの、本格的な調査は自分等がいないと始まらないのでこのタイミングで良いと判断したらしい。

 どちらにせよ現状メムでなければスムーズにセキュリティ解除は行えないのでそれを踏まえての判断だった。


「マスター、こちらに来ていただいてもよろしいデスカ」

「はいはい」


 メムに呼ばれカーゴの近くに移動すると、メムの目の前のカーゴの一部がスライドしたかのように横に動いていた。

 そしてその中には縦二十センチ、横十五センチ程の長方形の白い板が縦方向に張り付いている。


「こちらに手を当てて下サイ」

「こう?」


 皆が注目する中言われた通りに板に手を当てる。

 すると再び小さな電子音がすると同時に掌から妙なこそばゆい感じがした。


「セキュリティ及び認証登録終わりまシタ。これでこのカーゴを動かせるのは私とマスターだけデス」

「あれ、他の人は駄目なの?」

「追加登録は出来マス。権限譲渡には私かマスターの操作が必要になりマス」

「てことはプログラム生きてるのか……。変更とかは出来たりは?」

「残念ながら無理デスネ。当時の状況からソースコードのプロテクトは強いタメ、与えられた操作内でのことしか行うことが出来まセン。コードの変更等は専用の施設に行く必要がありますが現在では施設自体が無いのデス」

「あー、じゃぁ仕方ないか。まぁでも動くだけでも儲けもんだし……何?」


 メムとカーゴについて話してると不意に服の袖口を引っ張られる。

 振り向けば予想通りのコロナの姿だが、彼女もその後ろにいる一同も皆似たような顔をしていた。

 端的に言うなら『何言ってるの?』である。


「ヤマル、何言ってるのか全然分からないんだけど……」

「すまない、こっちもさっぱりだ。ソースとかぷろ……なんだ? 何の事なんだ?」

「あー……まぁその辺は後でメムにゆっくり聞いてください。とりあえず続きしましょう、続き」


 全く分からない人にプログラム関連のことを言っても上手く伝わるかわからない。

 彼らの知識欲なら分かるまで聞いてくるかもしれないが、そんなことをしていたら日が暮れるどころか徹夜になるかもしれない。

 なので全部メムに丸投げした。本人も多分プログラムで動いてるロボットだろうし適任だろう。


「では続いて操作説明を行いマス。操作は基本マスターのように権限を持った人間に限られマス」

「人間? メムさん、私達はダメなの」

「ダメです」


 即答されガァン!と分かりやすくショックを受けるコロナ。と、それ以上にショックを受けているドルン。

 そんな中エルフィリアだけはショックと言うよりは残念そうではあるものの、なんでだろうと疑問を持っている顔だった。


「当時は人間の敵対勢力デスヨ。仮に奪われても使わせないようにシマス」

「あー……そう言えばそんなこと言ってたなぁ」


 メムと初めて話したときに古代人はコロナら獣人や魔族らの祖先と戦争をしていたらしい。

 確かにそれならセキュリティで弾くだろう。何せ人間以外と設定すればそれだけで済むし。


「さて、続けまショウ。マスター、カーゴに向けて手をかざして下サイ」

「こうかな?」


 言われた通りにカーゴに向けて手をかざすと『ヴン』と言う低い音と共に突如緑色の板が空中に現れた。

 いきなり出てきたことにびっくりしては思わず上体をそらしてしまう。

 だが出てきたものを改めてまじまじと見て気付く。これ、板じゃなくて……。


「ホログラム?」


 半透明の緑色にやや発光したコンソールだった。

 よくSFとかで見るタッチパネルと殆ど同じ。まさかこんなところでお目にかかれるなんて思いもしなかったため徐々にテンションが上がってくる。


「フローティングコンソールデス。マスターの魔法と同じで触ると透けマス。対応する部分をタッチすることで操作シマス」

「へぇー、すごいぐぇ?!」


 続けて触ろうとしたところで背中から思いっきり圧力がかかりそのままコンソールを突き抜け地面に倒れこむ。


「重いぃ……」


 何とか首を動かし後ろを見ると自分に折り重なるように研究員らが圧し掛かっていた。

 どうやら出てきたコンソールを見ようと皆が見ようとしてこうなったらしい。

 折り重なりながらも宙に浮いたままのコンソールを見ようとしているせいか中々どいてくれない。


「皆サン、マスターの上からどかないと協力しまセンヨ?」


 しかしそこで鶴の一声。

 メムがそう言った瞬間示し合わせたかのように乗っていた面々が全員起き上がる。

 ようやく人の体重から解放され土ぼこりを払いながら起き上がっては、気を取り直し再びコンソールに向き直る。


「えーと、確か触れると操作だっけか……」


 改めてコンソールを見ると四角い画面に区分けされた文字が浮いているような状態だった。

 カーゴ本体に対して操作や、アクセス権限などのシステム周りなど分かりやすく並んでいる。


「まずはカーゴの中を確認しまショウ」

「おっけ、開けばいいんだよね。えーと、これか。後ろ側開けますんで離れてくださいー!」


 カーゴの背面方向に群がる人らを一旦後ろへ誘導し、コンソールを操作する。

 開けるよう命令を入れると、何やら空気が洩れるような音と共についにカーゴの扉が開かれた。

 後ろの扉は観音開きの様に開くと、そのまま左右に分かれるようにドアは側面部へとスライドしていく。


「う……」


 しかし中から洩れ出た空気の臭いにその場にいた一同が思わず顔をしかめる。

 何か腐ったような、あまり体に良くない臭い。

 だが勇気と好奇心のある研究者らが数名名乗りを上げると、彼らは意気揚々と中へと入っていった。

 しかし気持ちと体はやはり別らしい。数分もしないうちに体調が悪くなったのか全員表へと出てくる。

 一応彼らの話を聞くと、中を調査したところ何か箱の中に臭いの元凶があったそうだ。

 果てしない年月のせいで原型は留めていないが、恐らく食べ物だったのではないかと言うのがメムの推察。

 人間などの死体なら少なくとも何かしら痕跡は残るからその辺りではないので安心して欲しいとの事。

 ともあれ臭いをどうにかしなければ調査もままならないと思い、何か無いかとコンソールを触ると丁度良いのがあった。


「別のドア開けますねー」


 後ろのドアを開けたまま左右のドアも操作する。こちらは人がすれ違える程度の幅ではあるものの、左右両方についているだけあり両方開けた事で換気がしやすくなった。

 ただその分臭いも飛ぶことになり、そのせいか鼻が効くであろうコロナとポチがものすごく遠くまで退避してしまった。


「まぁまずは中の荷物を運び出すぞ。物の判別は後でメムにやってもらおう。原型あれば分かるものもあるかもしれないからな」


 とりあえずカーゴの中の物品を運ぶため一旦操作は中止。

 研究員らが次々と運び出す物品は基本的に箱が多かった。やはり当時何か積んでいたのであろう。

 ただ量がそこまで無いと言うことだったので、病院で荷を降ろした後か、もしくは何かの用事で立ち寄っただけの人のカーゴだったのかもしれない。


「よし、これで全部だ」


 最後の一つの荷物が運び出され、改めて中を除き見る。

 何か面白そうなものでも無いかと思ったが、見事なまでに何も無い。

 ただひたすら四角い空間があるだけだった。


「何も無いな」

「少し古代の機械とか期待したんだけどなぁ」


 臭いもある程度飛んだため改めてメムとドルンと一緒に中に入る。

 思ったよりも中は広く、自分が両手を挙げても天井に触ることすら出来なかった。

 ここに椅子とか並べればそのまま大型の乗合馬車になりそうな感じだ。


「そういやそれ移動できたのか」


 それ、とドルンが自分の近くに浮かんでいるコンソールを指差し尋ねてくる。


「うん、何かこう手の平で縁に触れるとそっちに動くみたい」

「なおコンソールはこの中でも使えマス。外ならカーゴに手を向ける必要がありマスガ、中でしたら上に手の平を向けることで出マス」


 ちなみに消し方はコンソールの両端を両手で内側に潰すような動作をすることで消えるらしい。

 試しにやってみるとコンソールは手の動きに合わせ折れ曲がると同時に消えた。

 そしてそのまま手の平を上に向けると再びコンソールが現れる。


「何かヤマルの《生活の光ライフライト》みたいだな」

「あっちと違ってこっちは触ると反応あるけどね。さて、他のも試してみようか」


 そして続いて試すのは一番気になっていた浮遊の部分だ。

 周囲の研究員らを一旦カーゴから下がらせ、コンソールから浮くよう指示を飛ばす。

 すると久しぶりの起動のせいか少しだけ揺れた後、音も無くカーゴがふわりと宙に浮いた。


「おぉ、すげぇ……!」

「本当に浮いてるよ、これ……。メム、どのぐらいまで高さ出るの?」

「仕様上ではもっと出せマスガ、当時の情勢から地面から一定の高さと定められてマス。底面を擦ることは無いでショウガ、そこまで高さは出せないカト」

「まぁあまり高く浮いても降りるのきついからこれでいいのかな。鳥の魔物とかにつつかれても困るし……」


 ともあれ一番の懸念事項だった浮遊機能が生きているのは大きかった。

 そのまま地面に下ろそうか、と思っているとドアの隙間から物凄く羨むような顔をした面々が姿を見せる。

 その顔は何も言わずとも雄弁に語る。

 ずるい、自分も乗りたい、早く乗せろ。

 勝手に乗らないのはメムの先程の言葉が効いているからだろうが、何らかの拍子に決壊するとも限らない。


「……では順番ですからね。順番」


 今日はまともな調査とか無理そうだなぁ、とこの後の未来予想図に辟易しつつ、子どものような目をした大人達に一日中付き合うことになった。



 なおこの後教授にカーゴの権限付与設定をするまでの三日間、立て続けに拘束されることになるのをこの時は知る由も無かった。

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