第158話 カーゴ改造案


「すまん、文字が読めん」

「……紙とペン下さい。書き出しますから」


 教授にカーゴの権限を渡し、彼があれこれと操作しようとしたところでそんなことを言われた。

 自分とメムだけなら読めた古代の言語も彼らからは何が書いてあるかすら分からないらしい。

 フローティングコンソールを出し、受け取った紙とペンにそれらを写植するように何処に何が書いてあるか書き写していく。

 その後は一つ一つ操作し、この言葉はどのような意味を持っているのかなど説明しながらカーゴを操作していった。

 そんな自分と教授の回りには他の研究員らが地べたに座りながらまるで講義を聞くように色々なメモを取っていく。

 そしてある程度教授に伝えたところでようやく解放されるに至った。

 しばらくはゆっくり休憩したい。そんな思いから彼らから少し放れ、敷地内に植えられた木を背もたれに地面へと座り込む。


「ヤマル、お疲れ様」

「わふ」


 一息ついたところでコロナがポチを連れてやってきた。

 彼女はそのまま自分の隣に座ると自身の膝の上にポチを乗せる。


「んー、疲れた……」

「皆ぐいぐい来てたもんね」


 コロナは苦笑を浮かべるも自分としてはあまり笑えない。

 いや、色々調べてもらってる手前無碍に扱うつもりはない。ないのだが流石に限度ってものが……。


「横になる? ひざ貸す?」


 ポンポンとコロナが軽く膝を叩くと、乗っていたポチが了解とばかりに地面に降りる。

 魅力的な提案だしポチの気遣いもとてもありがたいがそこは丁重にお断りした。


「そいえばドルンとエルフィは?」

「ドルンさんは何か準備あるとか言って研究室の一室借りてたよ。エルさんはドルンさんに頼まれて外行ったけど」

「……エルフィ一人で大丈夫?」


 何の用事かは知らないけど種族的にも性格的にも一人にして大丈夫なのだろうか。

 俺には言われたくないと返されそうだが、それでも心配なものは心配である。


「有名人だし昼間から変なことする人はいないと思うけどなぁ。それにヤマルが心配するのも分かるけど、そろそろ一人で行動させた方が良いと思うよ」

「う~ん……まぁ四六時中一緒にいられる訳でもないし少しずつ慣らした方が良いか」

「そうそう。ヤマル、エルさんに少し過保護な部分あるしね」

「う……まぁ村長さんに頼まれた手前どうしてもね」

「あれ、私の両親にも同じ様に頼まれてなかったっけー?」

「うぐ……でもコロ強いし……」


 そんなこんなでコロナにややからかわれながら雑談をしていると、研究室の方から何やら野太い声がした。

 コロナと顔を見合せ声のする方を見ると、窓があるであろう場所から太い手が少しだけ見える。


「ドルンかな」


 人間用に設計されてる建物のためドワーフの彼では身長が足りないのだろう。

 そのせいか子どもが手を伸ばしてるような感じになってしまっている。


「おぉーい! メム連れてこっち来てくれ! 会議するぞぉー!」


 姿は見えずとも間違いなくドルンの声だ。

 呼んでるってことは先程コロナが言ってた準備が終わったのだろう。


「今行くー!」


 とりあえずそう返事しては親指と人差し指で丸を作り手を引っ込めるドルン。

 まぁ少しは休憩出来たし研究員は現在教授らと一緒に殆どがカーゴに付きっ切りだ。

 多分内々での何かの話し合いになるだろう。


「ヤマル、行こ」

「ん」


 立ち上がってはズボンに付いた埃を軽く落としてはメムを呼び、二人を伴って研究室の方へと向かうことにした。



 ◇



 ドルンが先程いたであろう部屋に入ると小さな会議室だった。

 中央に大きめの四角いテーブルがあり、一辺に椅子が二つずつ合計八つ並べられている、


「お、来たな。ヤマルがやっと空いたから進められるってもんだ」


 会議室にはドルンが一人だけ。

 ただすぐに始めれるようテーブルの上には何かの設計図やスケッチの紙が並べられていた。


「これは……カーゴ?」

「あぁ、今持ってるのはカーゴの寸法が書いてるやつだな。こっちはざっくりとした外観図だ」


 まるでプラモデルの設計図か機械の図面でも見てるような感じである。

 情報を落とさないよう事細かに必要なデータが網羅されている図面だった。


「どうせしばらくカーゴは向こうが調べまくるだろうしな。それなら今の内にこっち決めちまおうと思ったわけだ」


 こっち、と見せるのは一枚の設計図。

 見ればカーゴの前方から棒の様な物が二本突き出しており、まるで屋台のラーメン屋かリアカーを髣髴させるデザインだった。


「あれを馬車代わりにするならこういうの必要だろ? でも加工するにもガワ部分に手を加えなきゃいけねぇからな。メムはすまんが手を加えたらまずい部分教えてくれ」

「分かりマシタ」

「ヤマルとコロナは何か良いアイデアあったら言ってくれ。気になった点でも良いぞ」

「そうだね……。出来ればこの引く部分二種類欲しいかも。ポチが引くパターンのやつと俺らが引くパターンのやつ」


 そうしながら四人でまずは移動方法についてアイデアを出し合っていく。

 途中ポチを大きくし実際体のどの辺りで引くか、カーゴとの距離は、二種類の場合使わない方はどうするか等々。

 採用不採用はともかく今はアイデアの数を重ね、明らかに駄目なものを除外する。

 そうして議論を重ねた結果、移動に関しては次の様な改造を施すことになった。

 まずカーゴを引く持ち手部分は二種類。これは自分のアイデアが採用され、ポチが引く場合と自分らが引く場合の二つを用意することになった。

 使用しない持ち手はカーゴの前面部分に立てかけて固定する。

 そして天井部に外に出る穴を一つ開けようと言う事も決まった。

 こちらは穴と言うよりは天板であり、必要に応じて開閉する仕組みだ。主な用途としてはエルフィリアの目を使った警戒や、自分が銃剣を使っての早期威嚇や迎撃に用いられるとのこと。


「とりあえずこの二つは確定だな。残り何か不便あったら都度その点は書き留めていこう」

「ん、了解」

「さて、んじゃ次だ。正直こっちが色々話を聞きたいところなんだが、何か内装希望あるか?」

「内装かぁ……」


 内装。つまりカーゴの中身をどうするか。

 中の荷物をすべて運び出した結果、現在のカーゴは完全に四角い空間だけになっている。

 それなりにスペースはあるので何をどう配置するのも自由だ。


「やっぱ椅子は欲しいよね。出来れば人数分」

「でも椅子だけじゃ折角のスペースもて余しちゃうよね」

「となると……うーん、カーゴみたいなのは他には無いから似たようなのだと馬車になるのか」

「でも私達が知ってる馬車って乗り合いや商隊のだね」


 乗り合い馬車は基本椅子だけだし、荷物用の馬車は文字通り荷物のみだ。

 商隊の馬車も似たり寄ったりであり、知ってる限りでは普通の内装付きの馬車は知らない。


「内装が凝った馬車ってそれこそお金持ち専用?」

「多分……私達には縁のない代物だよね」

「まぁ俺らはそんな高い馬車とか乗ることも無かったからなぁ。その辺は仕方ねぇよ」

「ならキャンピングカーが近いのかなぁ。でもあれ俺乗った事ないしなぁ……」

「きゃんぴんぐかー? なんだ、それ?」

「んー。うちの世界にあった乗り物で、簡単に言うと家の機能を納めた馬車って言えばいいかな。一部屋にキッチンやお風呂、トイレに寝室全部揃ってる感じなんだよ」

「ほぉ、移動する家か。中々面白いな、それ」


 興味ありげに自分の言ったことに対しメモを取るドルン。

 しかしあのカーゴがそこそこ広いとは言え流石にキャンピングカーと同等は無理だろう。

 そもそもこの世界のキッチンと冷蔵庫が入るかすら怪しいし。


「まぁそれについては後で聞くとして、とりあえず快適な馬車がどんなのか調べるところからだな。指針にはなるだろうし」

「そりゃ異世界のアイデアよりは現地産のやつが流用効きやすいだろうけど当てはあるの?」

「ある」


 意外にもこちらの疑問に対しきっぱりと言い切るドルン。

 しかしドルンの言う当てとはどんなのだろう。鍛冶ギルドの伝手か何かで馬車の製作者と繋がりが出来たのだろうか。


「実は今エルフィリアに使い頼んでるのそれなんだよ。多分そろそろ現物と使用者連れて戻って来ると思うんだが……」


 その時、まるでそのドルンの言葉を聞いていたかのように会議室のドアがノックされる。

 扉の外の人に中に入るよう促すと、現れたのは件のお使いに行っていたエルフィリアだった。


「あの、お待たせしました」

「おぅ。んで、首尾は?」

「あ、はい。問題無くこちらに案内しましたよ。あの、どうぞ中に……」


 エルフィリアが更にドアを大きく開けると見知った人が姿を見せた。

 それは以前ちょっとした事で知り合うことになったとある大貴族の孫娘のシンディエラ=クロムドーム。

 彼女も研究室は珍しいのか、少し視線があちこちに飛んでいる様子だった。


「シンディエラ様?」

「えぇ、久しぶりね」


 軽い笑みを浮べる彼女は以前の様な刺々しい感じはなりを潜めていた。

 何と言えばいいだろうか。話しやすくなったと言うのが一番しっくりくる。


「びっくりしたわよ。いきなりエルフが私に手紙を届けにやってきたんですもの」

(あー、そう言うことか……)


 ようやくそこで合点がいく。

 エルフィリアは現在分かってる限りでは森の外に出ている唯一のエルフであり、王都でも彼女のことはそれなりに話題に上がっている。

 そんな子がやってきたとあれば少なくとも用件ぐらいは聞いてしまうだろう。ドルンも上手い手を考えたものだ。


「まぁ私も時間あったし前の事で迷惑掛けちゃったしね。お詫びと言う訳じゃないけど協力してあげるわ」

「ありがとうございます、シンディエラ様。それで今日は馬車を……?」

「えぇ、表に待機させてあるから好きなだけ見なさい。あ、でも勝手に弄るのはダメよ。馬車の所に爺がいるから何かあれば聞くと良いわ」


 得意気にそう告げる彼女に皆が礼を言うととても満足そうな笑みを浮べるシンディエラ。

 こう言う顔を見ると歳相応の女の子って感じがして少し安心する。何せ普段から彼女はどこか大人びた雰囲気や態度をしているし……。


「じゃぁ早速確認してきますね。皆、行こっか」

「ちょっと待ちなさい。貴方だけ少し残ってもらえるかしら」

「あ、はい。分かりました」


 ドルンらには後で行くと告げ自分一人だけシンディエラと一緒に会議室へと残る。

 部屋から出ていく時にコロナが少しだけ不安そうな表情を見せたものの、すぐにドルンの後を追っていった。


「それでどうかされましたか?」

「……とりあえずもう口調普通にして良いわよ。私の事もシンディで構わないわ」

「宜しいので?」

「公私の分別はちゃんとつけるのでしょう? 女王陛下と懇意にしてる人が私にずっと敬語なのもね。……あ、プライベートな場での話だからね!」

「分かりまし……んんっ。分かったよ、シンディ」

「よろしい。まぁ大した用事ってわけでもないわよ、少し世間話に付き合いなさい」


 そう言うと座るように促されたので先程まで座ってた椅子へ再び座り直す。

 すると彼女は先程のコロナと同じく当たり前の様に自分の隣の椅子へと座った。


「それで、あの三人と犬が貴方のパーティーメンバー?」

「そうだよ。皆良い人達だから助かってるよ」

「良い人かは分からないけど珍しい人達ね。そもそも人間がいないじゃない」


 その後は本当に他愛の無い話だった。

 この間の茶会の後からあのカーゴを掘り出すまでの話、コロナ達の話、最近何をしていたかなどだ。


「そう言えば今日はフレデリカは?」

「あの子は現在謹慎中よ。流石に勝手に殿方の寝室に侵入したどころか同衾とあってはやり過ぎだもの。仕方ないわ」

「まぁ自分としては再発しなければそこまで目くじら立てることはないからね」

「えぇ。でもけじめはけじめよ。そこは人の上に立つ者の一族としてしっかりしなければならないわ」


 ちなみに謹慎と言ってもシンディエラの別邸ではなくちゃんと彼女の自宅の方である。

 つまりクロムドーム領に帰されたと言うことらしい。領地がどこにあるか分からないけどちょっと可哀想な気もする。


「でも今回はあんなことしたけど普段は大人しくて良い子なのよ。あまり嫌いにならないであげてね」

「うん、分かったよ。……でもあれだね、シンディもなんだかんだで優しいよね」


 瞬間、彼女の顔がとても分かりやすく真っ赤になる。

 それを見て正直珍しいこともあるものだと思った。何せ彼女程の貴族ならば世辞含め色々と褒められる機会は多いだろう。

 なのに何故か今回はこの状態だ。もしかしたら褒められ慣れてると言うのは自分の勝手なイメージなだけで実際は違うのかもしれない。

 なら折角の機会だし沢山褒めてあげてもバチはあたらないだろう。


「そ、そそそんなことないわよ!」

「そうかな? フレデリカの事ちゃんと気にかけてるし、『嫌いにならないであげて』なんて中々言えないと思うよ」

「~~ッ?! も、もうこのお話は終わりよ! 終わり! ほら、私達も馬車に向かうわよ!」


 こちらの返事を待たず勢いよく椅子から立ち上がってはシンディエラは一人で部屋を出て行ってしまった。

 やはり褒められ慣れていなかったのだろう。こんな少しの事でも脳内のキャパシティ超えてしまうとか、彼女の今後の社交界が少しだけ心配になってくる。


(俺も向かうか)


 そう言えば前回彼女とのお茶会時に馬車に乗せてもらったのを思い出す。

 しかしあの時はお茶会でボロを出さないための最終チェックとかをしていて良く覚えていない。それだけ自分の精神状態もあっぷあっぷだったんだろう。


 とりあえず皆をそう長い間待たせるわけにもいかないため、足早にシンディエラの馬車の元へ向かうことにした。


  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます