第156話 大型運搬


「さて、では会議を始めよう。まずはこちらの資料を見ていただきたい」


 明けて翌朝。

 前回のときと同じ様に町の役場の一室へとやってきた。ここでまず今後の予定を話し合うらしい。

 メンバーは自分ら『風の軌跡』と一緒に来た教授や研究員の上長、そしてブロフェスだ。


「昨日エアクラフターとカーゴ、そして新たに発見した建屋の大よその大きさだ。そしてこちらは町の地図、あとこの辺りの地図もだな」


 中央のテーブルに広げられた資料は町と周辺地図。

 今日はあのカーゴやエアクラフターをどうやって地上まで運び出すかを決めるらしい。


「まずはエアクラフターやカーゴを運ぶ道をどうするかだ。意見あるものからどんどん話していって欲しい」


 教授がそう告げるとまずは上長の一人が会話の口火を切った。

 そして彼の後に続くよう次々に別の人が意見を言い皆で最適解をすり合わせていく。


「垂直に穴を掘れば多くても十五メートルぐらいで済みますね。ただそこからどうやって上に上げるかが一番の問題ですが」

「上と言っても一旦横にずらさないとダメですけどね。何せ真上は町がありますし」

「反対に横に掘れば穴自体は長くなるけどその内外に出れるな。なにせこの町は丘の上にある」

「ただあんまり穴が長いと不安があるんだよなぁ。落盤もだが町の外に直通だろ? そこから魔物が入ってきたら遺跡経由で入り込まれかねないぞ」

「見張りを立てるのは……うぅん、現実的じゃないか。ただでさえ少ない人数から裂かねばならないし」

「ドルンさん、アレはどうだ? ほら、なんか渦巻くような形の……」

「あぁ、螺旋状か。省スペースで済むがやはり現実的じゃねぇな。傾斜がきつくなるし、緩やかにしようとしたら結局場所を取る羽目になっちまう」


 ああでもないこうでもないと言葉が飛び交うが一向に進まない。

 基本的に穴を掘って外に運ぶ事自体は確定のようだが、いかんせん先の話通り問題が山積みである。


「ヤマル、お前んとこだったらどんな感じだったんだ?」

「うぇ?! え、あー……えーと……」


 そんな中ドルンに急に話を振られ思わずきょどってしまった。

 慌てて自分のところ……日本だとこの場合どうするかを思い出そうとする。

 ……いや、そんなことするまでも無かった。どうにもならないからだ。


「自分のところは基本道具ありきだったからね、しかも大型で専用のやつ。用意出来ないなら今回は別の方法しかないかと……」

「うーむ……」


 重機が使えない以上日本人知識では目新しいアイデアは無理だ。

 やはり安全に運ぶならやはり遠回りになってもすべて掘り起こすのが一番な気もする。

 まぁそんな工事は時間も労力もお金も掛かるのでよっぽどの事が無い限り出来ないのだが……。

 どうしたもんか、と思い少し発想を変えた意見を出してみることにする。


「うーん、自分らはエアクラフターやカーゴは使うために欲しいので掘り出す前提で話してますけど、皆さんはそこまで執着しなくても良いのでは?」

「む……」


 現状現物が手元に欲しいのはあくまで自分等であり、教授ら研究員は現物そのものがあれば調べるには問題ないはずだ。

 もちろん王都の施設に運べるのならばそれが一番なのだろうけど、この遺跡そのものだって持ち運べないから現地で調べたりしている。

 なら運び出すのが困難なエアクラフターは多少は不便ではあるがここで調べても良いのではないか、と思った次第だ。


「まぁ後は……エアクラフターとかがバラせれば運びやすくはなるんでしょうけど……」

「無理だろうな。解体はともかく組立がキツそうだ」


 設計図も無い状態で未知の技術の産物を解体するのは流石に駄目とのこと。

 予想通りとは言えままならないものである。


「せめてあのカーゴを運び出せて有用性が示せれば国から援助は貰えるんだが……」

「現状では分からない人間からしたらただのがらくたにしか見えないのが辛いな」


 古代の叡智の産物と言えば聞こえは良いが、動かなければ残念ながらアンティーク品でしかない。

 前回は危険な部分もあり、国の管轄内だから兵を派遣してもらえたが今回はそうもいかないだろう。

 どうしたものかと皆で悩む中、実は昨日から考え思いついたアイデアが一つある。

 あまり現実的では無い上にほぼ一回こっきりに近い方法だが……。

 とりあえず採用されるかは不明だが出すだけ出すことにした。もしかしたらそこから別の案が出てくるかもしれないし。


「えーと、多分だけどカーゴだけならまだ運び出せる方法あるかも」

「そうなのか?」

「うん。まぁやり方自体がほぼ俺ら専用だし、ドルンとエルフィに色々手伝ってもらわないといけないんだけど……」


 ほう、と皆がこちらに注目する。

 これだけ識者、考古学者、技術者など自分よりずっと頭が良い人達に見られるとどうも落ち着かない。


「まぁ出来るかどうかは聞いてからだな。言ってみろ」

「うん。端的に言うと『舟』で上げるのはどうかなぁって思って」


 

 ◇



 結局あの後自分の案が採用されることになった。

 無難に横穴掘って丸太の上に置いて滑らすとか、縦穴掘ってロープで引き上げるとかもあったものの、安全面や人手の無さから没案となった。

 ほぼ消去法な気もしたが自分の案に皆が修正をかけることでどうにか形となる。


 結果から言えば無事カーゴを地上に出すことに成功した。

 自分の提案は端的に言うと縦穴に水を溜め、舟に乗せたカーゴを徐々に上に持っていこうって案だ。

 そのためまず街中で余裕のある場所を決め、そこから下に向け穴を掘る。掘り方は前回同様エルフィリアとの共同作業だ。

 縦穴が終わればカーゴやエアクラフターのある建屋からの横穴掘り。どちらの穴もカーゴを運ぶために遺跡から建屋までの穴よりは広く開けるようにした。

 その後の縦穴の底までカーゴを運び、そこでドルンらが舟を組み立てカーゴを乗せる。

 この運搬方法をやるにあたり溜めた水が逆流しないようにすることは絶対条件であったため、横穴はカーゴと舟の材料が全て運ばれた後に完全に埋めた。

 後は舟の完成を待ち、自分とポチが協力して増幅された《生活の水ライフウォーター》で船体を浮かせるだけである。

 一応傾いても大丈夫なように浮かした先から水底部分を順次凍らせていたものの、流石にドルンはその辺はしっかり考慮していたようだ。舟はバランス良く浮かびその心配も杞憂に終わる。

 地上に出た後は今か今かと待ち構えていた教授らに舟ごと渡し、自分は縦穴の埋め作業へ戻った。

 横穴と違いこの穴は残してもいいのではという意見もあったが、流石に三階分ほどの高さもある縦穴をそのまま残すのは危ないということで埋めることにした。

 どちらにせよ同じ方法で上に物を上げるには自分がひっきりなしで水を注がねばならない為この手は使えない。

 丘の上にあるこの町では自然と水は流れて来ないし、通常の魔法では溜める前に消えてしまうからだ。

 コロナとドルンに手伝ってもらい胴体にロープを巻き、一度水を凍らした上でその上に立っては順次気化させていく。

 一気にやると爆発する可能性あるのでそこは細心の注意を払った。

 終わればエルフィリアにバトンタッチ。自分が上から水を消していったとは逆に彼女は底から土壁を戻しゆっくり穴を埋めていく。

 これらが終わるころにはカーゴも船から降ろされ大型の荷馬車へと積みなおされていた。


 そして作業開始五日でカーゴ搬出の準備は全てとどこおり無く終わる。

 今後は現地班はエアクラフターを中心に調査を進め、王都に残ったメンバーはカーゴと一緒に見つかったエアクラフターの細かいパーツを研究室で調べていくそうだ。


「何かここに来る度に予想より長い時間いるよね」

「次に来るときもまた何かあったりするかもね……」


 帰り道、ポチの背に乗りながら後ろに座るコロナに今回のことを話し合う。

 行きとメンバーが違うのはエルフィリアが魔力の使いすぎで現在グロッキー状態だからだ。

 魔力回復用のポーションを少しだけ買ってあるものの、いかんせんこれはとてもマズいためよっぽど緊急でない限り飲む人間は少ない。

 エルフィリアに一応差し出したところ匂いをかいだだけで突き返されてしまった。

 あれだけ青い顔をしていたのにも関わらず、あの大人しいエルフィリアが断固たる意志で断わるぐらいだからよっぽどなんだろう。

 結果彼女はドルンと一緒に馬車に乗っている。多分横になってるため護衛の頭数としては数えれそうに無いが、遺跡であれだけ頑張って魔法を使った彼女を責めるのは酷と言うものだ。


「カーゴ貰えるかなぁ?」

「それよりまずは動くかだけどね。まぁ動いても調査が先だろうけどさ」


 今日中には王都には戻れる予定なので本格的な調査は明日からのはず。

 ……ただ今回同行できなかった居残り組みがカーゴを見たら徹夜で調査をやりかねない気はする。

 調べる分には構わないのだが、メムを交えない調査は流石に今回は遠慮して欲しいとこだ。


「もしちゃんと動いてカーゴ使わせてもらえるようになったら早速魔国行くの?」

「んー……これもそうなったときに相談しようかと思ってたんだけど、魔国行く前に別の所に試しで旅したいなと考えてるんだよね」

「そうなんだ? どこか行きたい場所でも出来たの?」

「いや、単に試運転と使い心地知りたいのよ。ぶっつけ本番で数ヶ月単位での長距離は怖いからね。道中で壊れたり動かなくなったらどうしようもないし」


 理想は往復十日程度ぐらいの場所で何か依頼でやれるのが望ましい。

 カーゴの性能やレポートも研究員らは欲しいだろうし、実際動かしてみないとわからない部分は多いだろう。

 改善点があるなら魔国に行く前にしっかりと対処をしておきたい。


「まぁどちらにしてもまずはこれをちゃんと王都に運ばないとね。運搬中に壊れたとか目も当ててられないし」

「うん、そだね。でもちょっと楽しみかも、宙に浮くってどんな乗り心地になるんだろうね」

「浮いてるぐらいだから今までの馬車みたいにガタガタしない感じかなぁ。まぁ俺も乗った事ないしそこはちゃんと動いたときのお楽しみだね」


 そんな世間話を交えつつもしっかりと護衛自体はこなしていく。

 そして行きより警戒は必要だったものの、カーゴ自体に妙な存在感があるせいか敵対しそうな人も魔物も一切姿を見せることは無く、無事王都の研究室へと搬入されていった。


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