第140話 ヤマルのソロプレイ1


 あの後しこたま総ツッコミを食らい続け、銃剣について根掘り葉掘り問い質されることになった。

 一応武器の良い使い道が何かあるかもしれないと思ってはいたので、性能について把握している部分は彼らには大人しく話すことにする。

 そう、大人しく話したのだが……。


「ヤマル、銃剣こいつについてだが基本誰かに喋るのは止めておけ。手の内見せたくないと言えば普通の冒険者ならそれで引き下がるはずだ」

「あ、やっぱりですか……」


 『風の爪』のメンバーの先ほどからの反応を見る限りそんな感じはしていた。


「当たり前だ。そもそも高名なドワーフが作った試作武器だろ」

「う」

「しかもエルフの技術込みだろ? さっきの威力見たら誰だってこれ欲しがるだろ」

「うぅ」

「これ全部精霊樹なんだよね。それも精霊石込みで……私の杖より良い物じゃん、杖じゃないのに」

「ごめんなさい、もうその辺で勘弁してください……」


 がっくりと項垂れるこちらに満足したのか、仕方ないなぁと笑みを浮かべるスーリ達。

 ともあれいつものじゃれあいもそこそこに武器の審議に入る。


「まぁ性能聞いて実際見た素直な感想としては武器としては破格だろ。何よりお前が普通に使えてる時点で汎用性の高さが分かる」

「私みたいな前衛からすれば、そこまでごつい武器を持った相手と斬り合うのは避けたいかなぁ。牽制目的なら重量武器を軽々と振っているって勘違いさせると良いかもしれないわね」

「てかそれ絶対初見殺しもいい所だろ。そんなのからあんな速度で矢が出てくるとか誰も思わねーよ」

「曲射とか風に乗せるような扱いは出来ませんが、誰でもその威力を出せるのは羨ましいですね。ひたすら真っ直ぐにがコンセプトみたいですし、弓矢使ったことの無いヤマルさんにはとても良い武器だと思いますよ」

「と言うかやっぱり私の杖より上物じゃない。交換しなさいよー! 近遠魔法全対応武器とかズルいと思うんですけどー?」

「いや、これ近接戦は向かないから……」


 ともあれ武器単体の性能としてはやはり破格だったようだ。

 まぁそりゃそうだよな。ラムダンが言うように自分が扱えてる時点で誰でもこれを使う事が出来ると言ってるようなもんだ。

 ワンオフで量産には向かないが、こんなのを常設装備にした集団がもし出来たらと思うとかえげつなさすぎる。


「んでそいつ持ってからも戦ってはいるんだろ? その辺はどうなんだ?」

「あー、それがですね……またまた相談事なんですが」


 ポツポツとこの武器を手に入れてからの変化を話す。

 確かにこの銃剣のお陰で以前よりは確実に戦えるようにはなった。

 コロナ達の協力もあり王都に帰ってくるまでの間に倒した魔物の数も十や二十では無い。

 その中には自分が仕留めた魔物も何匹かはいるため一応成長出来ている自覚はある。


「ただ何と言いますか……前より連携しづらいと言うか動き難いと言うか、違和感あるんですよね」

「コロナちゃん達と上手くいってないとか?」

「まぁ人数増えたからじゃねーの?」

「コロ達とは上手くやってるし、人数が増えたことによる連携の難易度が上がったとはまた別な感じなのよ。反応が微妙に遅れる……あぁ、元々人よりは遅いんだけど、なんか体が直ぐ様動けないみたいな?」


 息が合わないと言うか上手く合わせられないようなもやっとした感覚。

 今はまだ小さい感じだが、何か起きる前に解決しておきたい問題である。


「ふむ。最近の二、三戦はどんな感じだった?」

「どんなも何もど安定ですね。エルフィが魔法で補助してドルンが止めてコロが仕留める。自分は合間縫って合わせたり接敵前に可能なら数減らしでしょうか。人数増えて安定感が増しましたよ」


 単に頭数が増えただけではなく今までいなかった壁役と魔法使いだ。

 互いの足りない部分を補うよう上手い具合に合致出来ているので危険からはかなり遠くなっていると思う。


「じゃあ率先して援護は出来てないか?」

「する前に終わることも割とありますからね。それにこの武器は人に向けるのは危ないですし、むしろしない方が安定してるかも?」


 人任せと言うと聞こえは悪いが、下手にやるぐらいなら何もしないのもまた援護である。

 勿論援護して欲しい時は声が掛かるのだが、その際に少し上手くいかないのだ。


「なるほどな、大体分かった」

「流石ラムダンさんですね。悩み事の原因あっさりと見つけるとは……」


 やはり即座に対応することが出来るラムダンはベテランだと言うのが良く分かる。

 冒険者歴数ヶ月の自分には無い数々の経験や知識の引き出しが彼にはあるんだろう。

 そしてなんと彼はありがたいことにその悩みの解決方法まで提示してくれた。


「いや、似たようなのは何人も見てきたからな。で、だ。解決方法だが……ヤマル、一人で狩猟依頼請けてこい」



「………………へ?」



 ◇



「ただいー……ん?」


 もうすぐ日も暮れようとする頃に宿へと戻ってきた。

 あの後ラムダンらに色々話を聞きユミネに更に教えを請い、その後ご飯に呼ばれたり用事で別の所に寄っていたらこんな時間になってしまった。

 そして宿兼酒場に入ろうとしたところでいつもと違うことに気付く。

 この時間帯は酒場を開けてまだ間も無い。だから普段は客はいても賑わうにはまだ早い時間だ。

 しかし今日に限って言えば妙に繁盛している。

 何かのサービスデーかなと思いつつ入り口を潜ると、繁盛の原因が目の前に現れた。


「いらっしゃいま……あ、おかえり!」


 目の前に現れたのはトレーを片手に給仕をしているコロナ。

 ただしその格好は普段着ではなくフリフリのエプロンを身につけたメイド風ウェイトレスだ。

 白と黒のシックな色合いの服だが明らかにスカートの丈が短い。

 普段ロングスカートだから気にすることは殆んど無いのだが、いざこうして表に現れるとなんかこう、ドキドキする。


「ヤマル、そんなに見られると恥ずかしいよ……」

「あ、ごめん……」


 頬を赤らめ恥ずかしそうにスカートを押さえるコロナに諌められ視線を上へ。

 しかし流行っていた理由が良く分かった。普段恰幅の良い女将さんが切り盛りしているところに、こんな可愛いウェイトレスがいたらそりゃ人が集まるだろう。

 ただ開店時間直後にも関わらずどうやって嗅ぎ付けたのかは謎だが。


「女将さんが暇なら手伝いしろって。あ、ちゃんとお給金は出してくれるよ」

「そかそか。エルフィとドルンは?」

「エルさんは今日はまだ……。部屋にはいるみたいだけどね。ドルンさんは……」


 と、コロナの視線を追うと客に混じって酒盛りをしているドルンの姿があった。

 まぁあれなら放っておいても大丈夫だろう。むしろ酔っ払いに絡まれたくないので見なかったことにする。


「じゃあ俺はエルフィを見てくるよ」

「うん、お願い。はい、これエルさんの部屋の鍵。女将さんから預かってるのだから後で返してね」

「了解。少しは落ち着いてると良いけど……」


 コロナから鍵を受け取り階段を上がり二階へ。

 途中コロナのお尻に手を伸ばそうとしてぶっ飛ばされてた客に合掌を送りつつエルフィリアの部屋に向かう。


「エルフィ、起きてるー? 起きてなくてもちょっと入るよー」


 ドアをノックしそう言うと中からガタガタと物音がした。

 多分ひどい顔になってるから見せたくないんだろうなぁと察し、中が静かになったのを待ってドアを開ける。


「お邪魔しますーっと」


 予想通りベッドはエルフィリアが潜り込んでる為に一人分盛り上がっていた。

 布団の上から膝を抱えてるように丸くなっているのが良く分かる。


「エルフィ、イーチェさんがサンドイッチ作ってくれたからここ置いておくからね。今は部屋出なくても良いからちゃんと食べておくこと」


 恋破れた傷心なんて基本時間で癒すしかない。

 彼女の中で気持ちの整理が着くまでは長い目で見てあげるのが一番だろう。

 まぁだからと言って飲まず食わずでは死んでしまうのでちゃんと食べるようにとだけは言っておく。

 コロナの言葉通りなら今日は何も食べてないはずだし。


「出来たら明日から顔見せてね。皆心配してるからさ」


 もぞもぞとこちらの言葉に呼応して動く布団。

 YESかNOか分からないがとりあえず反応してくれるだけでも安心する。


「何かあったら……まぁ無くても俺でもコロの部屋でも来て良いからね」


 なるべく優しく声を掛けイーチェのサンドイッチをテーブルの上に置き、備え付けの水差しに《生活の水ライフウォーター》で中身を補充しておいた。

 あまり居座っても迷惑だろうしやることは済んだ。そしてそのまま部屋を出ようとしたところで再びもぞりと布団の布ズレの音が耳に入る。


「ヤマルさん……あの……」


 布団から顔は出してないためくぐもったエルフィリアの声がこちらに届く。

 元気が無いのとか細い声量のせいで聞き取りづらいが、それでもちゃんと声を出してくれたことは嬉しい。


「その……迷惑掛けて、すいません……」

「いいよいいよ。気持ちの整理はゆっくりやればいいからね。あ、でもさっきも言ったけどご飯はちゃんと食べること。食べてくれないとリーダー権限使っちゃうよ?」


 もちろんそんな権限など無いのだがこうしておけばエルフィリアは多分食べてくれるはず。

 まぁご飯のことを意識させれば自然と体が欲するだろう。


「じゃぁあまりお邪魔してもあれだしもう行くね。おやすみ」

「……おやすみなさい」


 最後まで顔は出してくれなかったが会話出来たのは一歩前進だろう。

 そのままエルフィリアの部屋をそっと出ては鍵を掛け、とりあえずは大丈夫そうだと報告しにコロナの元へ向かうことにした。



 ◇



 明けて翌朝。

 今日も皆にお願いし——エルフィリアがまだ本調子じゃなかったのも理由だが——ポチだけ連れて冒険者ギルドへとやってきた。

 昨日ラムダンに言われた『一人で狩猟依頼を請ける』。

 彼が言うには今の自分はどこまで動けるのか分かっていないのではないかと言うことだった。


 例えばコロナと会うまではポチが居たとはいえ一人で外に出てたし薬草を採取したりスリングショットを使ったりしていた。

 もちろん魔物からも沢山逃げた。

 しかしこれらは逆に言えば『自分がどこまで出来るか』を体で覚えたことに他ならない。

 だが現在の自分は旅先での経験やデミマールでのしご……特訓を経て身体能力が多少なりとも上がった。

 そして新しい武器も増えた。

 これらの変化が自分の出来ることの範囲を変え、その結果今まで明確だった境界線があやふやになってしまったのではないかと言うことだ。

 普通ならその後の経験から調整出来るのだが、周囲の面々が強いため出番が回らず中々それが進まなかった為と思われる。


 なので今日はどこまで一人で出来るのかを試す意味合も兼ね、ラムダンのアドバイス通り一人で狩猟依頼を受けることにした。

 もちろん怖いし緊張もするので無理はしない。

 少しは成長したとは思うがまともな狩猟依頼を一人で受けるのは初めてだし、逃げる時は逃げることを肝に銘じておく。

 逃げる見切りもまた自分の限界を知る一つの要素だし。


「おはようございまー……」

「お、来たかヤマル!」


 中に入るといつもの強面冒険者らが今日に限って集まってきた。

 自分を取り囲むように集まるむさ苦しさに戸惑いつつ、何かあっただろうかと思ってるとふと気付く。

 寄ってきた冒険者らは自分を見ておらず、何故か今入ってきた入り口の方を注視していた。


「……あの?」

「なぁ、あの噂のエルフの子はどこだ?」

「街中で見かけたやついるんだが俺らまだ見てねーんだよ。な、な、飛び切りの美人さんなんだろ?」


 ……あぁ、エルフィリア見に来たのね。

 だが残念。彼女は失恋のショックでまだ宿に引きこもり中だ。

 もしそれを言ったら彼らはどうするだろう。

 チャンスと思い宿に押しかけるだろうか。

 それとも振ったセーヴァのとこに行って返り討ちに遭うだろうか。

 ……どっちにしても碌なことにならなさそうなので黙っておこう。


「今日はいないよ、自分一人だし」

「けっ!」

「おら、皆解散解散。仕事行くぞー!」

「待ってて損したわ」


 分かっていたが色々とひどい。

 口々に不満を言って冒険者らが依頼板の方へと向かっていく。この調子ではもうしばらくエルフィリアは混雑時には来させない方がいいかもしれない。

 とりあえず息を小さく吐きまずは気持ちを切り替える。

 魔物の討伐依頼は冒険者にとってはメジャーな依頼であると同時に人気の依頼でもある。

 危ない分報酬は高めの傾向にあるため倒せる相手ならば冒険者にとって一番の収入源なのだ。

 だが問題が一つ。


「うへ、あの中行くのか……」


 依頼板の前には今や遅しとばかりに冒険者がひしめき合っている。

 いかつい男の筋肉が成すむさ苦しい肉の壁。物理的にも精神的にもあの中に突っ込むのは色々と勇気がいる。

 いや、仮にあれが女性だけで形成されてても突っ込むことは出来ないけどさ。


「……よし」


 困ったときはまず相談。

 スマホの時計を見れば依頼が張り出されるのはもう少し後。今ならカウンターは空いているはずだ。

 そしてそちらを見ると予想通り誰もいないカウンターに職員が数名依頼受付の準備をしているところだった。

 その中でもいつも世話になっている男性職員を見つけ彼の所へと向かう。


「おはようございますー」

「おぅ、どした?」


 冒険者に負けず劣らずの強面の職員だがもう見慣れたもの。

 最初の頃は見る度にビビッていたが見慣れたことと人となりが分かったので今では普通に話しかける事が出来るようになった。


「実は……」


 何か良い依頼の取り方は無いか、と尋ねるも、即座に返ってきたのはそんなものは無いだった。

 当たり前の話だがそんなものがあれば皆あの様に待っていないらしい。


「ちなみにどんな依頼が欲しいんだ? いつものお使いか?」

「いえ、Dランク相当で何か討伐依頼があれば……」

「お前が? いやまぁ討伐依頼はあるがすぐ無くなる……あぁ、今はあれがあったか」


 何かを思い出したのか奥へ引っ込む男性職員。

 程なくしては依頼書を一枚持って戻ってきた。


冒険者ギルドうちからの依頼でな。最近良く出てるんだがお前もやってみるか?」

「自分から相談しておいてなんですが良いんですか?」

「まぁギルドが誰かを贔屓ばかりするわけにはいかんが経験積ませるために斡旋することもあるんだ。昨日もそんな依頼を別の冒険者に出したからな」


 まぁ見てみろ、と言われ手渡された依頼書を広げるとそこにはこう書かれていた。


 『Dランク依頼:タングルホーン討伐』と。

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