第133話 宴会


「と言うわけで明日の夜はラムダンさんとこで宴会することになりました!」

「「イエーー!!」」

「い、いえー……?」


 こちらの言葉に諸手を挙げて喜ぶコロナとドルン。

 対照的にノリに付いていけないのかエルフィリアはおずおずと片手を小さく挙げるに留まっていた。


 あの後『フォーカラー』の面々には悪いと思いつつも席を外してもらった。

 彼らも一応自分らの顔を『風の軌跡』の面々に売れたし、その上『風の爪』と繋がりも出来たため満足して帰って行った。

 その後ほんの少しだけ時間を貰いラムダンに相談事があるからどこかで話せないかと持ち掛けたのだ。

 もちろん彼らは遠征仕事から帰ってきたばかりである。

 なので後日で良いからと言ったところ、折角久々に自分らが帰ってきたのと長期依頼打ち上げを兼ねて一緒にご飯でも食べないかと誘われたのだ。

 話自体はその時かもしくはまた日を改めてと言うことになり、街の案内をコロナに任せ自分はラムダンらと打ち合わせのために一旦別行動を取ることになった。

 そして宿に戻りラムダンらと話し合って決まったことを皆に告げた訳である。


「宴会っつったけどどこかの店か?」

「ううん、今回はラムダンさんとこの庭でやることになったよ。あ、さっき一緒に行ってきたんだけど……」


 皆と別れた後の事を思い出しながら彼らにその時のことを話す。

 冒険者ギルドを出てまず真っ先にラムダン達の自宅へと一緒に向かった。

 彼らの家は中心部から離れた郊外にあり、結構広い庭付きの二階建ての一軒家だった。

 家を守ってたイーチェに出迎えられ明日の事を話すと、人数が普段より多いので庭で宴会しようと言う話になったのだ。


「それで庭でお肉焼いたりワイワイするんだって」


 聞いた話だとバーベキューみたいな感じだった。

 もちろんバーベキューセットがこの世界にあるか不明だが、向こうが任せろと言っている以上はお任せするしかないだろう。


「え、でも全員分の食材の費用大変じゃ……」

「向こうはお帰りなさいパーティーって名目で騒ぎたいから気にするなとは言ってたけど、流石にそれじゃ悪すぎるからね。なのでこっちはこっちで用意しようかなと思ってるよ」


 と言うわけで明日は夜までにお買い物タイムだ。

 肉とかのメイン食材はあちらが用意するらしいので、こっちが用意するのはそれ以外となる。


「とりあえず俺はいつも通りデザートの氷菓もどきかなぁ。肉とかだと多分食後に合いそうだし」

「んじゃ俺は酒だな。王都なら色々取り揃えてると思うから探してこよう」

「エルフィはサラダとかお願いしようかな。コロは……」


 コロナも料理は出来るが得意料理は肉や煮込み系の物。

 今回そちらはイーチェが用意してくれるので出番があるかと言われたら……今のところは無いかもしれない。


「じゃぁコロは当日イーチェさんの手伝いお願いしようかな。人数が人数だから人手足りなくなりそうだし」

「うん。あ、でも買い物中に何か作れそうなのあったらやってもいいよね?」

「もちろん。その辺の判断はコロに一任するよ」


 尚ポチも手伝いたがっていたが残念ながら料理は出来ないため明日の荷物持ちと言うことになった。

 雑務で悪いと思いつつも、手伝えることがあった為か本人は満足そうにしている。


「んじゃ明日の動きはそんな感じで。ラムダンさんらには個人的な恩義がかなりあるから、皆協力よろしくね」



 ◇



 翌朝。

 いつもより少し遅い時間に起床しのんびりと朝食を取っていると来客があった。

 珍しいこともあるもんだなと思っていたら、玄関先で応対してたイーチェが自分を呼びにくる。

 どうやら来客はヤマルだったようだ。

 こんな朝にどうしたのだろうか。もしかしたら急遽夜の宴会に行けなくなったのかと思いながら自分が対応に当たるとどうも逆らしい。

 彼が言うには知り合いの子も今夜食事とかどうかと誘われたそうだ。

 だがこちらとの約束が先だった為悪いと思いつつも彼は断った。だがその知り合いも中々忙しい人で時間があまりとれないらしい。

 そこで折衷案として呼んでも良いかとの相談だった。

 ヤマルは『『風の爪』とは接点も何もない人物なので無理そうなら諦める、その知り合いも聞くだけ聞いて駄目ならまた今度』と言う話にはなってるので無理強いはしないとのこと。

 とりあえずヤマルが自分に相談しに来るぐらいだから人柄は問題無いだろう。なので二つ返事で来るのは大丈夫だと返答をする。

 ただ更に人数が増えることで色々心配な部分も出てきた。庭の容量は大丈夫だろうが肝心要の必要な食材が増えるということである。

 しかしそこはヤマルが前以てちゃんと話を詰めていた。もし許可が下りても急な話の為、その知り合いはちゃんと追加の食材を自分達で用意すると言質を貰っていたそうだ。

 なのでこっちはこっちで予定通り進めてくれれば良いらしい。

 話がまとまるとヤマルは家に上がらずそのまま帰っていった。

 その知り合いに早めに報告するのとあっちはあっちで何か準備すると言っていた。


「と言うわけで少し客が増えることになった。ヤマルの知り合いだからよっぽど変な人物では無いと思うがその人には礼節は弁えておくように」


 朝一の家族顔合わせの場で皆に先ほどのことを伝えておく。

 とは言え今日の予定もやることも何も変わらない。ただ夜の宴会に人が少し増えるといったぐらいだ。


「ラムダンさん、何人増えるんですか?」

「まだはっきりとはして無いらしいがヤマルが言うには一人は確定。だが恐らくもう三~四人ぐらいは増えそうとか言ってたな」

「どんな人なのか聞かなかったの?」

「まぁ夜になれば来るんだからその時に、だそうだ」

「ヤマルの知り合いかぁ。その話だとドワーフやエルフの子の関係者じゃなさそうだよね」


 ヤマルの所に加わった新しい仲間のドワーフとエルフ。

 ドワーフは俺も獣亜連合国へ行った時やこの国で働いている人は見たことはある。だがエルフは話は聞いていたが見るのも会話するのも初めてだった。

 そんなエルフが、よりによって犬猿の仲と言われているドワーフと一緒にパーティーを組んでいる。ヤマルは一体どんな手を使ったのだろう。

 例えドワーフが居なくてもエルフが森から出てくるだけでも珍しいことに違いはないので興味が尽きることはない。


「エルフかぁ……。私が現役のときは会わずじまいだったから楽しみね」

「むしろ話した人間の方が絶対少ないわよね。何で外に出たのかしら。しかも一緒にいるのがヤマルとか……」

「ヤマル人畜無害そうだからじゃない?」

「ありえそうだなぁ。警戒心高いとか言われてるエルフだろ。何かの拍子にとかあいつだとしそうな感じはするもんなぁ」


 昨日は仕事帰りと言うこともあり詳しくは聞けなかったが今夜ならたっぷり時間はある。

 酒の席でなら多分気楽に色々聞かせてもらえそうだ。

 そんな事を考えているとダンとスーリが何やら悪巧み……とまではいかないが妙なことを話し合っている声が聞こえた。


「ねぇダン、賭けない? ヤマルが連れて来る知り合いがどんな人なのか」

「賭けは構わねーけどノーヒントすぎて賭けにならねーだろ」

「だからせめてどんな仕事してるとか、そーゆーのでどう?」

「……確かにそれならまだ絞れるか」


 ヤマルが連れて来る相手か。少しぼかしてたのでこちらも内心では気にはしているところだ。

 そのまま聞き耳を立てつつ二人の会話の続きを大人しく窺うことにする。


「えぇと今分かってるのだとまず私達と顔見知りでは無いのよね。知ってたら名前伏せる必要も無いし」

「だな。それでいて多分王都の住人だろ。流石にあいつらも帰ってきたばかりで外の人間出迎える可能性は低そうだもんな」

「後は忙しくて中々時間取れない人かぁ……」

「確定で来るのがその人だろ? 残りは多分って事だから普段から一人ではないとかか」


 情報をまとめてもやはりどの様な人物が来るか見当もつかない。

 人数だけで言えば同業者に近い感じではあるが、冒険者なら俺に黙っておく理由など全く無い。

 そもそも隠す理由がよく分からない。言って問題ないなら隠す必要性が無いとの事。

 ……何か普段街に来れない人とかか?


「俺は商店の人にするわ。なんか一番ありそうだし」

「私はコロナちゃん繋がりで傭兵ギルドの人で」

「二人とも甘いわねー。ヤマルが言わなかったってことはそこそこ表に出づらい人なんじゃない? ってわけで私はギルド長……そうねぇ、魔術師ギルドのマルティナさんとかどうかしら?」


 横からフーレが自信あり気な笑みを浮かべ会話に参加する。

 職ではなく個人名になってはいるが、それだけ自信ありと見ているんだろう。

 確かに魔術師ギルドはヤマルやポチも所属しているので繋がりが無いわけではない。それに獣魔師は珍しいらしいのでギルド長が目を掛けていたとしてもなんら不思議は無い。


「義兄さんも賭ける?」

「そうだな……まぁたまには良いか」

「お、義兄貴がやるの珍しいな。実は知ってるってのは無しだぜー?」

「それは無いから安心しろ」

「それで義兄さんはどんな人だと思うの?」

「ふむ……」


 尋ねられ腕を組ながら思案する。

 先のダンとスーリの会話を基に自分なりに推論を組み立てていく。

 そして導き出された結論はフーレのマルティナ説に近いものだった。


「案外貴族とかあるかもしれないな」

「えー……あるかなぁ?」

「お貴族様ねぇ。仮にヤマルと何らか伝手があったとして市民の宴会に来たがるのか?」

「まぁそういう物好きもいるかもしれないだろ」


 すでに物好きレベルでは済まされない面々がいるのだ。何かの拍子に貴族と知り合っていたとしても不思議ではない。

 王城自体にはチカクノ遺跡の研究員らと繋がりがあるわけだし、その際に顔見知りになったと考えれば辻褄は合う。

 まぁダンが言うように市民の宴に参加したい物好きがいるかは疑問ではあるが……。


「さ、話はここまでにして俺達も動くぞ。各自昨日決めた役割通り行動してくれ」

「うぇーい」


 パンパンと両手を打ち話を切り上げさせる。

 今日は大人数だし準備するものも多い。のんびりしていたらあっという間に時間になってしまう。

 皆がそれぞれ散らばる中、自分もイーチェに頼まれた買い物を済ますべく家を後にした。



 ◇



「お邪魔しますー」


 日も暮れかけ辺りが夕闇に徐々に染まろうとした頃に『風の軌跡』の面々は我が家へと到着した。

 出迎えるとそこには予想通り色々と用意してきたものを両手に抱えている彼らの姿だった。

 ポチに至っては左右にバランス良く色んな物をぶら下げている。


 ヤマル達を庭まで案内し進捗を確認すると準備はほぼ終わっていた。

 庭にはいくつかのテーブルと休憩用の椅子が十個。

 若干行儀悪く感じるかもしれないが今回は立食形式だ。単に人数の都合で椅子やテーブルが足りなかったので苦肉の策である。

 とりあえず適当なところに彼らの荷物を置かせ、まずは乾杯の音頭を取ることにした。


「あれ、ヤマルの連れはまだだけどいいのか?」

「あー、ちょっと遅れるみたい。先に始めてて良いよだって」


 本来なら全員揃ってが望ましいがそう言うことなら仕方がない。

 用意したカップに酒や果実水を互いに注ぎ終えると皆の視線がこちらに集まる。

 挨拶をするのは主催者であり年長者でもある自分の務めだ。まぁあのドワーフとエルフの方が多分年上だが、今日は客人なのでノーカウントだと頭の中からその考えを追い出す。

 そして自分が木製のカップを掲げると、皆もそれに倣いそれぞれのカップを一斉に掲げた。


「今日はヤマル達が帰ってきたことに、そして遠路遥々この地に来てくれた新しい友人に……乾杯!」

『乾杯!!』


 カン、コンと木製カップがかち合う音が響き渡り宴会の開始を告げる。


「どんどん焼くから皆遠慮無く食べてね」

「あ、手伝いますー!」

「エルフィリアさん、お話しよっ!」

「私も良いですか? エルフの方とお話し出来るの嬉しいですし」


 皆が一杯目を飲み干すとそれぞれがしたいように思い思いに散っていく。

 イーチェはコロナと一緒に料理を開始。エルフィリアはうちの女性陣に囲まれあれこれと質問攻めを受けていた。

 ヤマルとポチは持ってきた荷物を解き配膳作業に入り、ダンとドルンは酒を片手にイーチェの前で肉はまだかと急かしていた。

 流石に来客に仕事ばかりさせるのも悪いので自分もヤマルの手伝いに入る。


「結構買ってきてくれたんだな」

「折角の宴会ですからね。それにうちにはぶっちぎりの飲兵衛がいますし……」


 その飲兵衛が誰かは聞くまでも無い。

 荷物の大半も殆どが酒だった。と言うより樽で持ってくるのは流石はドワーフと言った所だろうか。

 ちなみにその酒樽はドルンによっていの一番で荷解きをされ会場のど真ん中に設置されている。


「これは女将さんとこで厨房借りて作った生野菜サラダですね。エルフィは野菜系の料理上手いんですよねー。こっちは自分が後で調理する為の果実から搾った100%の果実水。後はコロがおつまみ少し作ってくれました」

「どれも助かるな。皆に配れば喜ぶぞ」


 どうやらこちらで用意したメインの食材以外をピンポイトに取り揃えてきたらしい。

 ヤマルはこういう気遣い部分は良く出来るよなぁと感心する。なんだろうな、考え方の根っこ部分が何かこの辺の人間には無いような感じだ。


「そう言えばヤマルの知り合いって……」

「ごめんくださーい!!」


 知り合いの事を聞こうとしたら玄関の方から聞き慣れない男性の声が聞こえてきた。

 感じとしてはヤマルの様に優しい声色の持ち主のようだが、彼がヤマルが言ってた知り合いだろうか。


「あれ、あの声は……ちょっと行ってきますね」

「あぁ。お前の知り合いならそのままこっちまで連れてきてくれ」


 了解しました、と言うとヤマルは玄関の方へ走って行った。

 どんな人が来るのか、若干の不安と楽しみが混じったような心持で待つことしばし。

 ヤマルが何人か引き連れて戻ってきた。


「お待たせしました。えっと、この子が今日呼んだ子です。他の人も全員知り合いではありますが……」

「はじめまして。ヤマルおに……こほん、ヤマルさんからお話は伺っています。私の名前はレーヌ、よろしくお願いしますね」


 まるで自分が代表者とばかりに一歩前に出て挨拶をする少女。

 ニコリと柔和な笑みで会釈する姿はとても自然で様になっており、この場にいるのがとても不釣合いなぐらい上品なオーラを纏った女の子だった。


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