第132話 冒険者ギルドでの反応


 人波から解放され、少し大通りから離れたところまで歩いては皆で小休止に入る。

 別に冒険者ギルドまでの道が遠い訳では無いのだが、いかんせんもみくちゃにされた時間が長すぎた。

 ドルンはそうでもないがコロナやポチは若干気疲れした様子が見て取れるし、エルフィリアに至ってはもう一杯一杯である。


「ごめん、まさかここまで街の人がノリが良いとは……」


 各員身だしなみを整える中、ポチの毛並みを直しながら謝罪を口にする。

 確かにあえて注目させてその後徐々に慣らしていくのが当初の予定だった。

 しかし王都の市民は予想以上に好奇心旺盛で物怖じしない人達だった。

 自分の予想では注目は浴びるし興味は引くものの寄ってくる人達はもっと少ないと考えていた。

 何せ見た目だけは怖いドルンとポチである。二の足を踏むと思っていたのだ。

 しかし内面を正しく捉えてるのか、最初の少女がポチを触った事を皮切りに結果あんな状態まで膨れ上がってしまった。


「いや、ありゃ仕方ねぇわ。人間はもっと控え目だと思ってたんだがな」

「あはは……でもヤマルやポチちゃんがお仕事とかで街の人達に知られる機会が多かったからじゃないかな」


 確かにコロナが言うように自分の依頼傾向は雑務がメインだった為、街の人と関り合う回数も自然と多くなっていた。

 もちろん個人的にはポチは恐れられるよりも好かれる方が嬉しいけど……うぅん、加減って難しい。

 そんなこちらの心情を知ってか二人は笑って許してくれたがやっぱり申し訳なくなってくる。

 そして一際疲れているエルフィリアに再度謝罪の言葉を口にした。


「エルフィもごめんね。いきなりあれはキツかったでしょ」

「えぇ、まぁ……。でもヤマルさんが言ってたの本当の事だったんですね……。そっちが、その、びっくりしちゃいました」

「ヤマル、何か言ったの?」

「ん~……?」


 なんだろう、パッと思い付かないが……。


「その、私のような体型でも……」

「……あぁ」


 その言葉で思い出した。

 確かに以前エルフの村で体型について落ち込んでいたエルフィリアに、人間感覚だととてもスタイルが良いと話した。

 そして彼女の顔も例に漏れず他のエルフと同じで美人だ。目隠れさんではあるものの女性らしさは隠しきれていないし、そりゃモテない道理は無い。


「…………」

「……? どしたの、何か顔についてる?」

「いえ。ヤマルさんは普通だなぁって思いまして」


 まぁこんな濃いメンバーからすれば否が応でも普通に見えるだろう。

 見た目込み込みで悪い方向にぶれない限りは至ってノーマルだ。自分でもその自覚はある。


「まぁ目立った見た目や特技とか無いしね」

「そう言う意味じゃないんですが……。あ、もう大丈夫ですので冒険者ギルド行きましょう。遅れちゃいましたし……」


 見ればコロナとエルフィリアも身だしなみは何とか整え終えていた。

 とりあえず一息ついたところで再び冒険者ギルドの方へ向かうことにする。

 先ほど同様こちらを窺う人は多かったものの、もう話が出回ってるのか今度は囲まれるようなことは無かった。

 ただやはりそこは好奇心旺盛な子ども達。コロナの尻尾やエルフィリアの耳に興味を持ち、こちらと並走しながら色々話しかけてくる。

 そんな子ども達にコロナは笑顔で、エルフィリアはおっかなびっくりではあったもののしっかりと対応していた。

 だがそれも少しの時間だけ。子ども達とは冒険者ギルド付近で別れると、全員で見慣れた建屋へと入っていく。


「こんにちわー」


 流石にここに来るまでにある程度時間は経過している為ギルド内はいつもより閑散としていた。

 残っているのはいつも通りギルドの職員と依頼に出遅れた冒険者、後は自分達みたいに休みの人ぐらいだろう。

 そんな彼らだが自分が入ってくるや否やものすごく呆れたような視線を向けてきた。

 どうやらすでに先程の話は耳に入ってるらしい。

 とりあえずコロナ達を適当な所に座るよう指示を送り、一人で受付カウンターにいる男性職員の元を訪れる。


「……もう話入ってたり?」

「結構な人気だったみたいだな」


 恐る恐る職員に聞くとため息混じりの返答をされてしまった。

 やはり騒ぎの件は伝わってたらしい。まぁ情報収集を大事にする冒険者ギルドなら当たり前と言えば当たり前か。

 そんな職員は腰に手を当てホールの一角に座って休憩しているコロナ達の方へ視線を向ける。


「しかし見るまでは話半分に聞いていたんだが本当にドワーフとエルフなんだな。どこで知り合った?」

「えーと、それぞれの村ですね。一緒に来てくれることになった理由はまぁ色々ですが」

「職人気質のドワーフと森から滅多に出ないエルフが付いてくる理由なんて想像出来ないんだが……。まぁポチを最初に加えたお前なら今更かもしれんな」


 よく分からないが何か納得されているみたいなのでそういう事にしておこう。

 とりあえず挨拶もそこそこに今日の用事を済ませることにする。


「えーと、それでパーティーの面々が見ての通り増えたので変更申請したいんですが」

「あぁ、分かった。あの二人で良いか?」

「ポチも一緒にお願いします。ドワーフの方はドルン、エルフの方はエルフィリア=アールヴです」


 加わる三人の名前を告げ職員に『風の軌跡』の編成を変更してもらえれば登録完了である。

 一応それぞれの所属ギルドも書いてもらった。空欄だとやっぱ見映えがあまり良くないし折角エルフィリアもギルド入りしたのだ。皆一緒が良いだろう。


「よし、終わったぞ。しかしお前のパーティーって面白い奴しかいねーな。どうなってんだ?」

「皆良い子ですよ?」

「中身じゃ無くて種族とかだよ。エルフも戦狼もこんな至近距離で見るのだって俺ですら初なんだから……ん?」


 言葉を区切り職員が何かに気づいたかの様に顔を上げ入り口の方に視線を向ける。

 何だろうと思っていると自分にもその理由が分かった。何やら外からドタバタと走っているかのような複数の足音。

 それらが入り口付近で停止し二人して誰が入ってくるんだと見守る中、ドアから顔を覗かせたのは見知った青年だった。


「あいつは確か昨日お前に突っかかってた奴だな」


 職員が言うように現れたのは『フォーカラー』のリーダーのアーレ。

 何かを窺うように室内を覗いていたが、カウンターにいる自分に気づくと早足でこちらへとやってきた。

 その後に続く他の面々。全員どこか緊張したような面持ちだが自分に何か用でもあるのだろうか。


「どしたの? 昨日あげたポーションが変だったとか?」

「ばっか、そんなんじゃねぇよ。ちょっとこっち来てくれ」


 よく分からぬままアーレに腕を引っ張られギルドのホールの端っこへと連れて来られる。

 そして彼らは顔を貸せとばかりに手招くと、まるで円陣でも組むかの様な体勢で全員の顔を付き合わせた。


「《薬草殺しハーブスレイヤー》、あれ見たか?」

「あれ?」

「ほら、そこにいるエルフやドワーフの人達ですよ」


 アーヴが視線だけホールの一角で座っている『風の軌跡うち』の面々の方に向ける。

 何かしたかとコロナ達の方へ顔を向けようとするが、すんでのところで槍を持った青年に頭を押さえられた。

 黄色いバンダナを槍に巻いたこの少年は確かキイスと言う名前だったはずだ。


「いきなり見ちゃダメだろ。あの大物をけしかけけられたらどうするんだよ」


 彼が言う大物と言うのは間違いなくポチのことだろう。

 と言うかその嗾けることが出来る飼い主がここで頭押さえられてるんですが……。


「僕はあのエルフの方に弓教えてもらいたいなぁ……」


 そう言うのは右手首に緑のバンダナを巻いているミグ。

 やや童顔気味な顔のせいか、キラキラと期待に胸を膨らませるその姿は少年そのものである。

 でも残念なことにあのエルフさんは弓を使えないんですよ……。


「恐らくあのドワーフがまとめ役でしょうね。年齢も然ることながら身に纏う雰囲気が古強者そのものですよ」


 アーヴが鋭い視線で意見を述べるが残念ながらハズレである。

 目の前に居る自分がリーダーなんですよ、と言ったらこの子達は信じてくれるだろうか。

 ……無理だろうな。多分鼻で笑われるか冗談が過ぎると怒られる未来しか見えない。


「俺としてはあの犬の獣人の剣士が気になるな。一番若そうなのに混ぜてもらえるって事はかなりの手練てだれってことだろ? 手合わせしてぇ……!」


 唯一何も間違っていない事を言うアーレ。

 女の子としてではなく剣士としてちゃんと見てるのが個人的にポイントは高い。

 あ、いや。一点だけ間違ってたか。あの中で一番若いのはポチである。

 でもまぁポチはカウントしてないだろうし誤差範囲だろう。


「で、皆はどうしたいの?」


 結局の所自分を引き込んで彼らはどうしたいのだろうか。

 協力して欲しい事があるなら手を貸すことは吝かではないが、肝心要のそこが分からねば何も出来ない。


「……そりゃまぁ、あれだ」

「お近づきなりたいですね。色々お話聞きたいです」

「でも俺らのような半人前じゃ恐れ多いと言うかなぁ」

「機嫌損ねたらと思うと……」


 なるほど、どうやら彼らは尻込みしてるらしい。

 皆良い子達なんだが……と分かっているのは良く知っている自分の視点だからこそ。他の人には近寄りがたい雰囲気でもあるのかもしれない。

 しかしここに来るまでに街の人には散々囲まれていた。市民と冒険者では色々と目線が違うのかもしれない。


「それでだ。《薬草殺し》の二つ名持ちであるお前に代表して是非コンタクトを取ってもらおうとか思ったりしてな」

「……代表なら目の前にリーダーがいるでしょうに」

「この中で冒険者歴一番長いのお前だろ? 行って……く、れ……?」


 気付けば皆の表情が何か徐々に驚愕へ、そして恐怖へと変わっていく。

 どうしたの?と声を掛けようとしたそのとき、自分の頭の上にずしりと生暖かいもこもこした物のが覆いかぶさるように乗ってきた。


「せ、戦狼……!」


 アーレがそう言うと彼らは四人揃って自分を見捨て見事なバック走で一目散に壁際に退避する。

 その足並みたるや流石幼馴染と言わんばかりの揃い方だった。性格は違えど根っこの部分はどうやら同じらしい。


「くぅん?」

「ポチ、重いよ。待たせたのは悪かったけどさ」


 そう言うと頭に掛かる重さが消え、代わりにポチの顔が真横へとやってくる。

 『フォーカラー』の四人が震える中、ポチの顔に手を回すと優しくそのままゆっくりと撫でた。

 目を細め耳を力なく垂らすポチはやはり大きくなってもポチのままである。


「ヤマル、お話終わった? ドルンさん達も心配してるよ」

「あ、ごめんごめん」


 更にポチの後ろからコロナもやってきた。

 彼女は覗きこむようにこちらの顔を見ては、次に『フォーカラー』の四人に顔を向ける。


「どしたの?」

「あー……何かびっくりしたみたいだから気にしないで良いよ」

「そう? 知らない人達だけどヤマルの知り合い?」

「まぁ昨日からのだけど……。ほら、夜話した」


 その言葉にあー……と妙な納得顔をしては『この人達が……』とコロナはまじまじと四人を見つめる。

 そんなこちらの様子に完全に混乱してる四人だったが、流石にこのまま黙っておくのも酷だろう。

 ……いや、別に隠すつもり無かったけどさ。無理矢理黙らされただけで。

 コホン、と咳払い一つし、ポチから手を放しては改めて四人に向き直り自己紹介をする。


「えーと、一応この子達所属の『風の軌跡』を率いるリーダーやってます。希望通りお近づきなれそうだから結果的には良かったんじゃないかな?」


 彼らの緊張を解こうとちょっと冗談めいた口調で話しかけるも、まだ信じられないと言った様子の四人。

 どうしたものかなぁ、と困っているとまるで示し会わせたかの様に彼らの大絶叫がギルド内に響き渡ったのだった。



 ◇



(借りてきた猫みたいになってる……)


 あれからとりあえずドルン達の元へ戻り、事情を説明した上で『フォーカラー』の四人をこちらのテーブルへと招いた。

 肩を小さくさせ誰の目にも明らかにガチガチになっている四人。アーレに至っては若干顔色が悪くなっている。


「あー。まぁ同じDランクだし今更そう畏まらなくても……」

「そうだぞ。昨日ヤマルに突っかかったぐらいの気概が丁度良いんじゃないか?」


 ドルンの言葉に四人が全員びくりと体を震わせる。

 その言葉には冒険者としては自分も同意はするが、この状態でドルンが言うと『うちのリーダーに何突っかかってんだ』と聞こえなくも無い。

 そしてやはりそう思われてしまったのだろう。アーレに他の三人からの批判めいた視線が送られていた。

 それを見ているだけでなんだか物凄く居た堪れなくなってくる。

 もうどう声を掛けて良いか分からず途方に暮れていると、不意にアーレがこっちの顔を真っ直ぐに見据えてきた。

 物凄い真っ直ぐとした視線。まるで自分から目を背けないぞと言う確固たる意思がヒシヒシと伝わ……いや。


(これ自分以外に目を合わせるの止めたな……)


 差し当たって『風の軌跡』のリーダーは自分なのだから彼がこちらを見ることは間違っていない。

 そしてこのメンバーの中で一番顔を合わせやすかったのが自分だったんだろう。


「色々噂は聞いていた。《薬草殺し》は臆病者とかそう言うのだ。だが今なら分かる……例えどの様な名でも二つ名の最速記録保持者レコードホルダーは伊達じゃないと」

「え、ちょっと待って。それ初耳なんだけど」


 しかも悪名での最速記録保持者とか泣きたくなってくるんだけど。

 だがアーレはこちらの言葉を無視したままおもむろに頭を下げる。


「悪かった。よく知らずに色々突っかかったのは俺の落ち度だ」

「あ、いいよいいよ。そっちのやったことなんて可愛いもんだし……」


 頭を下たままのアーレに問題ないと告げ昨日のことは綺麗サッパリ水に流す。

 大体よく知らずに殺されかけた事だってあった。アレに比べればこんなの問題の内にすら入らない。

 だがこの場でそれをちゃんと言っておかないと彼らも今後不安だろう。何せ自分の周囲にいるのがつわもの揃いなんだし。


「と言うわけで謝罪はここまで。折角の同業者なんだからそうギクシャクした関係は俺も嫌だからね」

「お、おぅ……」


 パンパンと手を叩きこれでこのお話はおしまいと告げる。

 そして彼らに対し自分達の面々を紹介。『フォーカラー』の四人も自己紹介を済ませた後少しの間軽く談話の時間だ。

 折角なので彼らに王都の冒険者についてドルンとエルフィリアに語ってもらうことにする。ついでにここ最近の情報など何か目ぼしいことがあれば教えてもらうことにした。

 最初は緊張していた四人も話していくうちに徐々に硬さが抜けていく。

 その様子にもう大丈夫そうだな、と思っていると、やや騒がしい一団がギルド内へと入ってきた。


「つっかれたぁ~! 飯にしよーぜ、飯!」

「何言ってんの、報告が先に決まってるでしょ。それに先にお風呂に……あ」


 こちらに……と言うかポチの大きさで向こうも気づいたのだろう。

 二番目に入ってきた女性がこちらを見て声をあげると同時、最初に入ってきた青年もこちらを向いては嬉しそうに手を振ってきた。


「おー、ヤマル達帰ってたのかよ! 何かエラい人数が増え……え、誰だその可愛いボインちゃげふぉっ!?」


 見知った青年、ダンがエルフィリアを指差し驚くも、その直後どこからともなく飛んできたやじりの無い矢が彼の側頭部を強襲。ピンポイントでこめかみを強打されたダンは側転混じりに吹き飛び顔面から床に突っ込んで行く。

 目の前で弟が吹っ飛んだことなど特に気にもせず、女性——フーレはこちらに向けて軽く手を上げていた。


「お前達、帰ってきたからって気を抜きすぎ……お?」


 そして現れる『風の爪』の残りの面々。

 こちらの顔を見るや否や呆れ顔だったリーダーのラムダンが嬉しそうな表情に変わりこちらの帰りを出迎えてくれたのだった。

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