第130話 王都一のイロモノパーティー


 パーティーと言っても色々な組み合わせがある。

 例えば冒険者だけのパーティーや、他から雇ったり手伝ってくれたりと形態は様々だ。

 夫婦や家族でする人、幼馴染で構成する人。

 今日出会ったばかりの人と組むなんてことも珍しくない。

 老若男女、パーティー一つ一つに特徴がある。

 知らないパーティーを見てあの組み合わせはどんなのだろうと考えるのは色々と楽しいものだ。


「ドルンさんも魔術師ギルド行きたかったの?」

「そりゃ人王国の首都の魔術師ギルドなんか魔道具作りの総本山みたいなもんだろ? 人間の魔法はどうにもならんが、俺からすればあの技術は是非とも見ておきたいところだ」

「でも、ドルンさんはヤマルさんの武器でもう作ってませんでしたっけ……」

「厳密にはあれはエルフの技術だからな、似てるが別モンだ。俺らのパーティーが持ってる物だとコロナのリボンとかポチのブローチなんかがそうだな」

「わふっ」


 さて、他の人から見たらこのパーティーはどう見えるのだろうか。

 人王国所属の冒険者パーティーではあるが、メンバーは自分を除き全員人間ではない。

 獣人にドワーフはまぁ……うん、かなり低確率になるだろうけど無いわけではない。

 だが戦狼とエルフは珍しいどころではないだろう。

 幸い今は子犬モードとフード被って隠している状態だから見た目だけで言えばそこまででもない。

 だが道行く人がこちらを見ては、何故か『あぁ、またか』みたいな顔をしている。

 ……いや、確かにポチの件もあるけどドワーフ加わったぐらいで……流石にもう無理か。

 獣亜連合国ならそうでもなかったが、やはり人王国で獣人や亜人種多めの構成はどうしても目立ってしまう。

 いつになるか分からないがその内エルフィリアもフード外して歩くんだろうし、なるべく早めに周知させた方が良いかもしれない。


「あ、見えてきたよ。あの建物がこの街の魔術師ギルドだね」


 もはや来るのも何度目だろう。

 ……何か来る度に問題抱えている気がする。何も無かったのは初回の《生活魔法ライフマジック》を買ったときぐらいじゃないだろうか。

 いや、今日は大丈夫なはずだ。

 レポート提出はギルド員の仕事だし、新人の斡旋もごくごく普通。

 むしろエルフの希少性を考慮すれば喜んでくれるんじゃないだろうか。

 うん、気が楽になってきたぞ。今日は安心して案内出来そうだ。


「とりあえずギルドマスターのマルティナさんがいるかだね。約束したわけじゃないから時間取ってもらえれば良いけど……」


 レポートも獣魔師のだから受付にポンと渡すのはちょっと不安が残る。

 エルフィリアの件もあるし、マルティナに会えたら一緒に渡してしまえば良いだろう。


「ま、とりあえず入ろ。聞かなきゃ分かんないし」


 ともあれ自分を先頭に全員で中へと入る。

 いきなり亜人種を引き連れて現れた人物に何事か、と皆が視線を向けるも、『あぁ、またあなたですか』みたいな顔をされた。非常に悲しい。

 心にグサグサ来る視線に耐えつつまずは受付の人の所へ向かう。


「今日はどうされました? ポチちゃんが何か壊しちゃいましたか? それとも新しい魔物と契約したとか?」

「俺、そんなにやらかすように見えますか……?」

「あんな目立つパレードしてたのは誰でしたっけ?」


 それを言われたらぐぅの音も出ない。

 あの時はポチが小さくなるの知らなかったししょうがなかったんだ、と言った所であの事実は取り消せはしない。

 悲しみを背負いつつとりあえず本題を切り出すことにする。


「すいません。あの、マルティナさんとお話出来ますか? レポートの提出とちょっと相談したいことがありまして」

「ギルドマスターはそうそう会える人じゃないんですが……まぁいいです。ちょっと待っててくださいね、聞いてきますから……三モフで!」


 こちらの眼前にこれでもかと言うぐらいに三本指を突き出す受付嬢。

 何が言いたいか理解出来てしまったので頭の上にいるポチを降ろし大人しく彼女へと預ける。

 受付嬢は嬉しそうにポチを受け取り宣言通り三回モフると満足した顔で聞きに行ってくれた。……ポチを抱き抱えたままで。

 そのまま待つこと数分。マルティナがギルド長室まで来るようにと彼女に言伝したのでそれに従い全員で建屋の上へと向かうことにする。

 もちろんポチは回収した。少し抵抗されたが最終的にポチが自分で脱出してきたので彼女の奮戦空しくポチは自分の頭の上へ。

 物凄い恨めしそうな目をしてたので顔を背け、足早にマルティナの元へと向かう。


「ドルンも来るの? 魔道具なら一階の売店にあったはずだけど」

「そっちはそっちで後で見るがな。出来れば開発工程とか見せてもらいたい」

「あの、流石にそれは無理なのではないでしょうか……」

「まぁそうだろうな。だが聞くだけならタダだろ? ここの長がダメって言えば俺だってスッパリと諦めるわ」


 そんなこんなで会話しながら階段を上がるとあっという間にギルド長の部屋へと到着する。

 ドアをノックすると中から『どうぞー』と懐かしい女性の声が聞こえた。


「失礼します」


 中に入るとマルティナは執務中だったらしく書類と格闘している最中だった。

 彼女はこちらに視線を向けると笑顔になり、手をヒラヒラと軽く横に振る。


「ヤマル君おかえりー。で、今度は何やらかしたの?」


 開口一番に身も蓋もない事を言われた。

 がっくりと肩を落としつつとりあえず全員を室内へと案内する。


「あら、何か増えたわね。お仲間さん?」

「えぇ。獣亜連合国あっちで自分に付いてきてくれることになった二人です」

「へぇ、良かったじゃない。あ、ごめんなさいね。改めてご挨拶するわ。魔術師ギルドのギルドマスターをしているマルティナよ」


 椅子から立ち上がり自己紹介をするマルティナにドルンとエルフィリアがそれぞれ挨拶を返す。


「それで今日はどうしたの? 生憎仕事立て込んでるからあまり長くは話せないけど……あ、とりあえず皆座って」


 マルティナに促され全員が備え付けのソファーにそれぞれ腰掛けた。

 そして彼女が執務机から自分達の対面の椅子に移動したところで本題を切り出す。


「えーと、今日は三件ほどありまして……。まず簡単なところからですが獣魔師のレポート提出です。下で渡しても良かったんですが一応マルティナさんに先に見せた方が良いかなと思いまして」

「あー、そうね。王都うちには獣魔師いないし他の子じゃ対応難しいかな。見せてくれる?」


 どうぞ、とカバンからレポートを取り出しマルティナに渡すと彼女はそれをめくり始める。

 ただしその速度が尋常ではなかった。まるで速読術のような光景で本当に見ているのかと疑わしき速さだ。


「ん、まぁ細かいところは後でゆっくり見ておくわ。十日後ぐらいまでに気になる点書いておくから取りに来なさい」

「マルティナさんすごい……」

「ほぉ、流石はギルドを任されるだけあるか」


 皆が感心しマルティナの鼻が高くなってる中どうにもこうにも怪しさを感じる。

 本当に読んだのだろうか。いや、マルティナは間違いなく才女ではあるし速読術ぐらい覚えててもおかしくはない人物だ。

 ……試しに何か聞いてみようか。

 一応レポートを作ったの自分だから何ページに何が書いてるかは把握している。

 どうしたものかと考えているとマルティナがこちらへと目配せしてくるのが見えた。

 そして彼女の目は雄弁に物語る。


(余計なこと言ったら帰ってもらうわよ?)

(了解)


 目力で釘を刺されてしまったなら黙るしかない。

 まだ話は二件あるしここで臍を曲げられて困るのは自分だ。

 と言うか良いかっこしたいのは分からなくも無いけど見栄張らなきゃいいのに……。


「それで二件目は?」

「あぁ、それは俺からだ。端的に言うと魔道具の技術に興味がある。良ければ開発工程を見学させて欲しい」

「流石にそれは無理ね。魔道具の開発は魔術師ギルドでも機密性の高いものだし」

「無論そこは承知している。だがまず俺の腕と知識を見極めて欲しい。ヤマル、俺が作ったそいつを見せてやってくれ」


 そいつとは銃剣のことだろう。

 脇に置いておいたそれを手に持ちマルティナへと渡す。傍から見たら二つ折りになった変な四角いソレ。

 最初彼女も変わった武器みたいなものと見なしていなかったのか不思議そうな顔をしていたが、何かに気付いたのか徐々にその顔が驚愕へと変わる。


「あの、これって……」

「魔道具とは系統が違うが俺達がこいつ用に作った物だ。ヤマル」

「はいはい。マルティナさん、ちょっと預かりますね」


 再び銃剣を返してもらい立ち上がるとなれた手つきで在るべき姿へと変形させていく。

 流石に矢を出す訳には行かないためマガジンは挿し込まないが、代わりに銃身の左側面にたたまれてるレバー部分に軽く魔力を流し単独でそれを引き起こした。

 少し前に矢が無い状態でもこの形態にしてもらえるよう手を加えてもらった。

 この状態では矢が発射されることは無いが、代わりに銃口から矢を撃つ時に使用する風の魔力が放たれるようになっている。

 試しにやってみたが殺傷性は無いがかなり強い風の塊が至近距離で放たれる感じだった。

 ポチの《魔法増幅ブーステッドマジック》をした《生活の風ライフウィンド》が威力としては近いと思う。


「え、すごいわね。これ……もしかして精霊樹?! それにはめ込まれてる石も精霊石なんじゃ……」

「流石はギルドマスター、いい観察眼を持っているな。どうだ、これを作れる俺の知識と技術があれば何かしらアドバイスが出来るかもしれないぞ?」

「……確かにこれほどの物を作れる人なら……でも今すぐ返事は出来ないわね。検討するから数日待ってもらえるかしら」

「あぁ、それで構わねぇ。良い返事を期待しているぜ」


 にかっと笑顔を返すと、話は終わりとばかりにドルンは腕を組み目を伏せる。

 彼女も手に取った銃剣を見てなにやら呟いていたが残念なことにそれは自分の商売道具である。

 先ほどの受付同様中々返してくれないマルティナから何とか奪い返すと、最後の用件を彼女に話した。


「最後はエルフィリアが魔術師ギルドへの加入を希望しています。そこでマルティナさんに何か口添えもらえないかな、と」

「新人加入なら私としては歓迎するわよー。でもヤマル君の頼みでも口利きは難しいかなぁ。君みたいに獣魔師でもないし。正式に試験受ける分には許可は出すけどね」

「あー……それがですね。試験受けるのはともかくちょっと見ていただきたいのが……」


 エルフィ、と名前を呼ぶと彼女も流石に隠すのはダメだと分かっているらしく大人しくフードを取る。

 その下から現れるのは髪から突き出すような長いエルフの耳。

 自分達にはもう見慣れた光景であるが果たしてマルティナはどう判断を下すのか。


「えーと、見ての通り彼女はエルフです。獣亜連合国の魔術師ギルドはどちらかと言えば魔道具売買がメインですし、魔術師らしい魔法を使う彼女なら人王国でのギルドがいいかなぁ、と思いまして」


 どうでしょうか、とマルティナ尋ねるが、彼女はエルフィリアを見たまま驚き硬直していた。

 どうしましょうとエルフィリアが困り顔でこちらを見てくるので仕方なく自分が対応する。

 マルティナの目の前に手をかざして軽く上下に振り彼女の名前を呼んだ。


「マルティナさーん?」

「……はっ?!」

「あ、気付きました? それで彼女の加入をお願いしたあ痛ったぁ?!」


 スパーンと小気味良い音と共に頭に痛みが走った直後、そのままマルティナに頬を抓られる。


「ヤマル君ダメでしょ! エルフ勝手に連れてきちゃ!」

「いだだだ! 勝手じゃないですって本人承諾済みですから!」

「仮にそうだったとしても元居た場所に帰してあげるべきでしょ! エルフが外に出ること無いんだから、もし迷子だったらちゃんと親御さんの所に送り届けなきゃダメじゃない!」

「その親御さんに頼まれたんですよー!」


 瞬間、物凄い勢いでエルフィリアの方にマルティナが顔を向ける。

 鬼気迫る表情に映る言葉は『本当?』の二文字。

 エルフィリアにもそれは分かったのだろう。まるでキツツキの様な速度で首を縦に振っていた。

 見る人から見れば見事なヘッドバンキングだと言わしめただろう。


「それにこれ、こーれ!」


 スマホを取り出し急いで操作し、マルティナに向けとある写真を突き出すように見せる。

 それはエルフの村で散歩した時に取った写真の数々。

 中には住人が不思議そうにこちらを見ているものもあったし、長を含めた集合写真もあった。


「これが村に居た証拠ですよ!」

「……ヤマル君、お姉さんは信じてたわよ」

「そう思うなら頬抓ってる手を離してくれませんかね」


 おっと、と何事もなかったかの様にようやくマルティナの手が離れる。

 ヒリヒリする頬を擦りつつじと目でマルティナを見るも、彼女はこちらの視線をかわすように立ち上がっては本棚の一角へと歩いていった。

 確か自分のときもあんな感じに加入書探してたな、と思いつつその様子を大人しく見ていると、予想通り一枚の紙を手に取りこちらへと戻ってくる。


「まぁギルドとしてはエルフの魔術師なんて断わる理由は無いわね。『特別魔術研究員』が無難かしらねー、獣魔師と一緒であまり居ないけど」

「えと、『特別』……ですか?」

「そ、特別。普通ならそのまま『魔術研究員』だけど、エルフの魔法なんて人間じゃ使えないもんね。まぁやってることは同じよ。魔法のことをレポートにまとめて提出してくれれば報酬を支払うわ」


 一応魔術研究員のことをマルティナに聞いておく。

 魔術研究員は魔術師ギルドでも数が多い職種で、読んで字の如く魔法の研究を行う人達だそうだ。

 新しい魔法の開発、既存の魔法のアレンジ、自分でも使えなくても他の魔法の研究結果等幅は広い。

 エルフィリアに求められるのは『エルフの魔法』なら何でも良いとのこと。

 人間に亜人であるエルフの魔法は使えないので直接的にどうにかなるわけではないが、それを読み解くことで何かしら得るものがあるかもしれない。

 現状彼女しか出来ないため『特別』なのだそうだ。


「まぁエルフの魔法が外に出しちゃ駄目って言うのなら書かなくても良いけどね。お金は出せなくなるけど」

「えと、それって私居座るだけになってしまうのでは……」

「言い方悪くなっちゃうけどそれでもこっちとしてはメリットあるからね。何せ亜人は種族的に魔法使いっぽい魔法を使える人殆どいないし、しかもエルフでしょ? 魔族と同等の魔力持ちの種族の子が加入してくれるってだけでも箔が付くからね。まぁでも……」


 と、マルティナは一息つくと不意に柔和な表情を見せる。


「今のはギルドマスターとしての考え。私個人としては同じ魔術師なんだし、一緒に仕事していけたらなって思うわ。人の魔法の知識とかでエルフの魔法に影響与えたり出来たら楽しそうじゃない」

「はい……そうですね、ありがとうございます」

「良いのよ、これからも仲良くしてね」


 ほっこりして良い話だなぁと思うが未だに痛む頬の件が無かったことにされてるのがちょっと辛い。

 でも黙る。大丈夫、自分は空気読める子。

 エルフィリアが折角良い感じになっているのにそれを壊すようなことはしない。

 でもマルティナさん、せめてこちらの心見透かしたように微妙に口角ひくつかしてるの止めて欲しかったです。

 笑うの我慢してるのバレバレですよ。


 何てことを言えるわけも無く、ギルド加入書に嬉しそうに記入しているエルフィリアを大人しく見守っておくことにした。

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