第129話 《薬草殺し》を追いし者


「なっ、なっ……!」

(あ、地雷踏んだかも……)


 プルプルと体を小刻みに震わせ今にも怒り出しそうな青年。

 だが申し訳ないが彼のことは本当に知らない。

 特にこんな鮮やかな赤髪の冒険者なら、どこかで接点があれば少なくとも記憶には残るはずだ。


「はーい、リーダーストップ」

「むぎゅっ?!」


 赤髪の青年の後ろから更に三人の青年が現れると同時、まるでカエルを潰したような声が発せられる。

 そんな彼を左右と後ろから三人がかりで取り押さえるとそのままずるずると連行して行った。

 そのあまりの手際の良さに思わず唖然としてしまう。

 そして自分から離れた場所で四人が何やら言い合いを……いや、赤髪の青年と他三人が対立するように話し合い始めた。

 しかし多勢に無勢か、はたまた口喧嘩は弱いのか。不満げな赤髪の青年をその場に残し別の青年がこちらへとやってきた。

 頭に青いバンダナを巻いた落ち着いた雰囲気のある青年だ。


「うちのリーダーが騒がしくてすいません」

「あー、いえ。大丈夫ですけど……」


 しかし本当に誰だろう。

 今目の前にいるこの青年も自分の記憶には無い。

 単に記憶には無いだけで実はどこかで面識を持った可能性はあるが……。


「ちょっとうちのリーダーがあんな状態なので自分が代わりに。改めてはじめまして。そっちと同じDランク冒険者パーティー『フォーカラー』のアーヴです」

「あ、どうも。『風の軌跡』の古門野丸です」


 良かった、はじめましてってことは初対面だったようだ。

 忘れてたらどうしようと思ってただけにほっと一息である。


「それでえぇと……何であんな感じに?」


 少なくとも見ず知らずのパーティーに喧嘩を売るような真似はした覚えはない。

 いや。敵意持ってそうなのはあのリーダーの子ぐらいだから個人的に何かしてしまったのだろうか。


「まぁ、その……なんて言えばいいんですかね……」


 アーヴも困ったように後頭部をかきながら理由を話してくる。

 そもそも自分と彼らは顔を見ること自体今日が初めてらしい。

 あのリーダーである赤髪の青年が自分を特定したのは、彼らが聞いていた特徴と《薬草殺し》の二つ名が一致したからとのことだそうだ。

 そんな子が何でまた、と思っていると彼らがここに来てからの事を簡潔に話し始める。


 彼ら『フォーカラー』は約三ヶ月ほど前に王都にやってきた同じ片田舎の村出身の四人組。

 村でも若い四人は魔物や動物を狩猟していたが、他の村人との競争が激しく稼ぎは微々たるものだった。

 そこで村を出て冒険者として一山当てるべくここへとやってきたそうだ。


(時期的に獣亜連合国に出発した時期かな)


 それなら互いに見たことが無いのは当然である。

 一応彼らがここに来た日付をアーヴに確認してみたら予想通りだった。丁度自分達が旅立って数日後ぐらいに入れ違いになるように彼らは王都に着いたようだ。


「そして僕達は同じパーティーを組みました。村でも一緒でしたし連携も慣れた相手の方が良いですからね」


 それからは割とトントン拍子に事は進む。

 元々魔物退治もしてるだけあり腕っぷしに自信もあった彼らは順当にDランクまで昇格した。

 昇格までの期間を尋ねたが、やはり自分に比べるとずっと短い期間だ。

 まぁこの辺は俺が遅すぎるのもあるけど……。


「うーん……でも今のところ自分と接点全然無いよね?」


 そもそも物理的に交わらないのだから当たり前と言えば当たり前。

 しかも自分が帰ってきたのは昨日である。接点など作りようが無い。

 当然の疑問を投げかけるとアーヴがその後のことについて語り始めた。


「同じ冒険者ですから知ってると思いますが、DランクからCランクに中々上がれないのは知ってますよね」

「まぁそれは……」


 冒険者のランクで最初の壁はやはりDランクでの昇級。ここで足踏みしている人も多く中々Cランクへとなる事は無い。

 やはりストッパーになってる戦狼アレの存在もだが、Eランクまでと違い条件が色々付くからだろう。


「でも冒険者になってまだ三ヶ月ぐらいでしょ? 自分が言うのもあれだけどそれでDは普通かやや早いぐらいじゃないの?」


 流石に三ヶ月でCランクまで上がれるのは一握りだろう。

 もしくは傭兵上がりで戦闘力がそもそも備わっていた人材ならありえるかもしれない。

 ペース的に見ても彼らがDランクであることには何も不思議な事ではないのだ。

 ……まぁ自分が以前Cランクに一足飛びに上がりかけたのは例外として今回は横に置いておく。


「いえ、自分らの今のランクは不満は無いんですよ。他の冒険者見てるとやっぱり上にいる人は相応の理由があるの分かりましたし。ただ……」

「ただ?」

「最近ちょっと他の人から発破掛けられたと言うか煽られたと言うか……」


 そのままアーヴの話を聞いていたらようやくあのリーダーの子が敵意向けていたのが何となく分かった。

 ただし完全に良いとばっちりである。

 要約すると彼らは彼らで普通に仕事こなしていたのだが、調子よく喜んでたところでこう言われたそうだ。

 『そんなんじゃ《薬草殺しハーブスレイヤー》にすら届かないぞ』と。

 奇しくも自分が居なかった時期であり、彼らはその《薬草殺し》について何も知識を持っていなかった。

 しかし二つ名持ち、それも《殺しスレイヤー》系列だ。

 ハーブの部分には疑問に思ったものの、これは自分達は期待されているのではないかとそのときは思ったらしい。

 だが情報を集めていくと色々と出てくる悪い意味での逸話の数々。

 曰くホーンラビットから逃げしかも追いかけられた。

 曰く薬草のみで生計を立てていた。

 そんな情報が入る中、初の魔物討伐が戦狼だった等と明らかに度を越してる冗談も入るようになり、ようやく自分達はその底辺冒険者にすら及んでないと言われていることに気付いたそうだ。

 そこで憤慨したのがあのリーダーである。

 少なくとも彼らは魔物はしっかり倒しているし普通に依頼をこなしている。

 良くも悪くも冒険者としては普通と見なされがちだが、だからと言ってその《薬草殺し》に劣っているとは到底思えない。

 実際自分もアーヴから『フォーカラー』の依頼をこなした数を聞く限りでは、自分よりはしっかりと冒険者家業していると思ったのが正直な感想だ。

 この事についてはリーダー以外は単に発破掛けられたと分かっているみたいだが、自分が率いるパーティーがいつまでも《薬草殺し》の下に見られるのが嫌だったそうだ。

 しかし当の本人は数ヶ月も音沙汰無し。

 ずっとその事を言われるのかと鬱憤が溜まりきっていたところに運悪く帰ってきた自分を見つけたのが事の顛末である。


「うーん……でもやっぱそっちが上じゃないの?」

「まぁ体外評価であればそうかもですけどランクとしては同じですからね。最近では同列に見られるのも嫌だそうで……」

「なら俺より早くCランクに昇格するのが一番早いんじゃないかな。同じランクで上だの下だの言ってたらキリがないし」

「そうなんですけどね……」


 やっぱり普通はその考えに行き着くが、早々ランクは上がるものではなくどうしようかと彼らも悩んでいるところなのだそうだ。


「話は終わったか? つまり、俺たちがお前より上だってことを認めさせなきゃならないんだよ!」


 そして痺れを切らしたリーダー君がこちらの会話に入ってくる。

 その後ろでは残りの二人が小さくごめんと手を挙げていた。


「まぁ話は分かったけど……。それでどうしたいの?」

「今ここで宣言しろ。《薬草殺し》は『フォーカラー』より下だと!」

「うん、良いよ」


 別に彼らより上でも下でもやることは変わらないし。

 正直宣言したところで何か制約が掛かる訳でも無い。

 下手に問題起こされるよりはこのまま円満解決に持ち込むのが一番だ。


「俺より君達の方が上だって認めるよ。これでいい?」

「いや、もっと悔しがれよ! 先に冒険者になってて後ろから抜かれたら悔しいだろ?!」

「う~ん……でも自分より年下とかですごい人は沢山見てきたからなぁ。今更四人増えたところで悔しいとかはあまり……」


 身近な人で言うならコロナだし、年齢的にいえばポチが一番だろう。

 それにセーヴァやセレスみたいに年下でも天上人クラスの能力持ちだっている。

 そもそもこの世界の戦闘力ヒエラルキーで自分は最下層の住人だ。上なんて見上げたらキリが無いし首が痛くなってしまう。


「ほれ、アーレ。こう言ってるんだしもういいだろ。俺らも今日の依頼受けに行こうぜ」

「そうだよ。他の人が何を言っても本人が認めてるならひっくり返せないんだしさ」

「うぐぐ……」


 多分このリーダー、アーレも頭では分かっているんだろう。

 でも気持ちが追いついてないか、ひっこみが付かないだけか……仕方ないな。


「うん、じゃぁどっちが上か下かはっきりさせるために勝負でもしようか?」

『えっ?!』


 こちらの言葉に『フォーカラー』の四人はもとより、ギルド職員すら驚きの声をあげていた。

 まぁ確かに今までの自分ならこちらから吹っかけることは無かったし、職員の反応は当然だろう。


「もちろん殴りあったりしないよ。あと勝負方法はこっちが決めさせてもらうけど良い?」

「おぉ、おお! 良いぜ良いぜ! 何でも来いや!!」


 うわ、物凄く嬉しそうな顔をしてるよこの子。

 パーティーリーダーとしてはあまり良くないが、ここで溜めておいても今後碌なことにならないのは誰の目にも明らかである。

 それを自分以上に『フォーカラー』の面々は分かっているらしく、好きにしてくれと言わんばかりに閉口していた。


「すいません、さっき言ってた溜まってたあれ持ってきてもらっていいですか?」

「え、あぁ。分かった、少し待ってろ」


 そして職員が程なくして依頼書の束を持ってきた。

 あれは自分向けの主に簡単な仕事のやつだ。言うまでもなく報酬も安く残りやすい依頼である。


「勝負は単純。俺と『フォーカラー』でこの依頼をどちらが多くこなせるか。ただちょっとルールは追加するよ」


 彼らに持ちかけた勝負のルールは次の通り。

 まず勝負はこの依頼書の中から決める。そして基本的にはより多くの依頼をこなした方の勝ちとする。

 ただしこれでは人数差がある自分が負けるのが目に見えてるので更に一つルールを追加する。

 依頼人に仕事が済んだ後に一から五の点数をつけてもらうことだ。

 例えば彼らがただ数だけこなそうとしてやった場合全員手分けしたとしても最悪一人一点で合計四点。

 その場合自分が一つの依頼だったとしても最高の五点を取れば人数差を覆して勝つ事が出来る。

 もちろん『フォーカラー』は全員が冒険者なので依頼に対する人数配分は好きに出来る。手分けするも良し、全員で協力するも良しだ。


「最後に一つ。勝負形式にしちゃったけど依頼人第一にお願いね。だから相手への妨害はもちろん厳禁だよ。何か質問は?」

「ねぇな。要するに多くの依頼を速く正確にやれば良いって事だろ?」

「そゆこと。んじゃ開始!」


 こちらの合図と共に全員が依頼書に群がる。

 どれを受注するか吟味する中、彼らはどの依頼が効率が良いか、メンバーの振り分けはどうするななど話し合っていた。

 だが焦りは感じられない。人数差はどう足掻いても覆すことは出来ないからだ。


(なんて思ってるんだろうなぁ)


 確かにその考えは正しい。普通にやれば効率面では逆立ちしてもこちらに勝ち目など無い。

 だからちょっとした裏技を使うことにした。別に秘密でも何でもないのだが、このシステムを知っているのは彼らのような新人では余りいない。


「んじゃ俺はこれとこれと、後これも。それじゃお先~」

「は? ちょ、待……!」


 だが待たない。

 彼らは知らないだろう。冒険者ギルドには条件さえ満たせば複数同時受注が出来ることを。

 通常依頼は一回に付き一つが原則だが、似たような依頼を幾度と無くこなしていることでギルドから許可が下ることがある。

 もちろん一度に受けて出来ませんでしたでは当然ながらペナルティが発生するが、受け直しにギルドに戻らなくても良い利点もあるのだ。

 本来ならばこの様な雑務依頼ではなく、例えば同じ生息域の魔物を倒すと言う依頼でやることが殆どだ。

 その為Dランクで足踏みしているベテラン冒険者らはこの方法を使用している時はある。だが同じ依頼ばかりでは昇級する事が出来ないためこの手法はあまり目立つ事がないのだ。


「俺らも何枚か抱えて行くぞ!」

「無理でしょ。適当に選んでも返って効率が悪いよ。それに不慣れなことをしたら低い点連発になる」

「だな。数の利はこちらが上だ。焦らずしっかりやればまず負けねぇよ」


 お、ちゃんとアーレの手綱しっかり握ってるようで一安心だ。

 確か同じ村の出身と言ってたしこの様な事は割と慣れっこなのだろう。

 喧々囂々と言った様子だが尖ったような感じはしない。互いに信頼しているのが良く分かる。

 あんな同性で言い合える関係は羨ましいなぁと心の底からそう思える。


 彼らはもう大丈夫だろうと思い、自分は自分の依頼をこなすべく冒険者ギルドを後にした。



 ◇



「んで勝負どーなったんだ?」

「どうも何も負けたに決まってるじゃない。いくら手馴れた仕事でも流石に四人相手じゃ無理無理」


 パタパタと手を横に振り今日あったことを皆に話す。

 あの後予想通り日暮れまでやった結果、圧勝とまではいかないもののあちらの勝利で幕は閉じた。

 流石に自分の提案で彼らの一日を潰してしまった為、『フォーカラー』には敗者から勝者への名目でポーションをいくつか提供しておいた。

 無論自分の手製。品質は商業ギルドお墨付きだから問題無し。

 それを渡した途端アーレから『お前良い奴だな』と物凄い良い笑顔を送られてしまった。

 現金な奴に見えるかもしれないが、多分彼は良くも悪くも真っ直ぐなんだろう。こういう子は割と嫌いではない。


 ともあれ結局『フォーカラー』との勝負でやりたいことが殆ど出来ず一日が終わり宿へ戻ることとなった。

 その事を皆に話すと『しばらく休日と言ってた当人が仕事するな』と呆れられてしまった。


「まぁでも溜まってた依頼が殆ど無くなったからギルド側からは喜ばれたし、それはそれで……」


 でもやっぱりちょっとバツが悪くなり軽く謝る

 そんなこちらを見て仕方ないな、と皆が苦笑を漏らしたところでメンバーの今日の一日がどんなのだったか尋ねてみた。


「そっちはどうだったの?」

「特に問題は無かったな。ただ炉の借り受けの審査で剣を一本打ったらえらい騒ぎになった。最終的にはいつでも使って良いってことになったけどな」

「まぁそれは……良かったのかな?」

「おう。色々あったが気の良い奴らだったぞ」

「お酒貰ったからですか……」


 ボソリとエルフィリアが言うように、まだテーブルにお酒は並んでいないのにドルンの顔が赤い。

 これはあれか。腕の良い鍛冶師から嫌われたくないのでちょっと気分良くさせておこうってやつ。

 傍から見れば買収に見えるかもしれないが流石に抜けられることは無いとは思う。

 まぁ何かあった時の繋がりが欲しいとか多分その辺だろう。


「私の方は報告だけだしすぐに終わったよ。その後は少し街歩いて帰ったから一番早かったね」

「コロナさん帰ってからはお部屋で一緒に色々とお話してました」

「そうそう、屋台で美味しそうな果物買ってきてね。あ……二人の分は、その……」

「あぁ、いいよいいよ。話弾んでついついっての良くあるからさ」


 女子トークに花咲かせて止まらなくなった、と言った所か。

 流石にそれは笑って許せるレベルなので気にしない。むしろコロナが自費で買ってるのにどうして怒れようか。


「エルフィはどう? ギルド入るかどうかだけは決まった?」

「あ、はい。コロナさんとも相談したんですが、魔法使えますし魔術師ギルドが良いかな、と。ヤマルさんもポチちゃんも所属してますし……」

「了解。それじゃ明日レポート出しに行くから一緒に行こっか」

「なら折角だし皆で行かない? エルさんとドルンさんに街案内したいし」


 コロナの提案に自分も含め皆が了承。

 明日は魔術師ギルドを含め、普段自分達が行くところを中心に回ることとなった。

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