第128話 帰還報告


「着いた~~!!」


 ピョン、と馬車から一番乗りでコロナとポチが飛び降りる。

 その後を自分含めた残り三人が王都の地に降り立ち、久方ぶりの街の感触にようやく着いたとばかりに大きく背伸びをした。


「ん~~……!! 長旅だったね。皆もお疲れ様」

「ここが王都……人王国の首都ですか……」

「途中のクロードも人間が一杯だったが、ここも負けず劣らずと言った感じだな」


 馬車が止まったところは丁度街の正門をくぐり少し進んだところ。

 確かこの場所から獣亜連合国へと旅立ったんだっけ。

 行く時はレーヌがしれっと付いてきそうになって色々騒がしい出発だったが、今ではそれすら懐かしく思う。


「あの、ヤマルさん……フードどうしましょう……」

「え? う~ん……エルフィが大丈夫と思うなら取っても良いと思うけど……」


 人王国に入って直後の小さい宿場町でのことを思い出す。

 獣亜連合国でも大概だったが、それに輪を掛けて人王国ではエルフは珍しいものだったらしい。

 そのせいかあっという間にエルフィリアは村人に囲まれてしまっていた。

 別に危害を加えられたわけではない。単にその物珍しさから拝まれたような感じだったのだが、それでもエルフィリアにとってはあまりよろしくない光景だったようだ。

 それ以降日中の殆どはフードを被った状態で過ごしている。


「でも流石にいつまでも隠し通せるものじゃないからどこかで取らなきゃいけないよ?」

「うぅ……分かってはいるんですが……」


 遅かれ早かればれることに違いは無いがやっぱり心構えと言うものはある。

 まぁ無理せず気持ちが落ち着いたらで良いとだけ彼女に告げ、しばらくは耳を隠す方向で落ち着いた。


「んで今からどうするんだ?」

「こっちでいつも使ってた宿あるからとりあえずはそこかな」

「ふむ、部屋空いてるのか?」

「大丈夫じゃないかな。多分『お帰り。人数分の四部屋はちゃんと用意してあるから今日はゆっくりしなさい』って出迎えてくれると思うよ」

「そうなんですか? でも私達が今日行く事は知らないんですよね?」


 確かに特に連絡を取ったわけではないのだが、でもあの女将さんなら大丈夫だろうという確信はある。

 その証拠に隣にいるコロナも同じ事を考えてるような顔をしていた。


「大丈夫大丈夫。さ、行こ」


 不思議そうな表情をする二人を連れ、一路女将さんの宿へと向かうことにした。



 ◇



「お帰り。人数分四部屋ちゃんと用意してあるから今日はゆっくりしなさい」


 予想通りの言葉で出迎えられまたしばらく厄介になることを女将さんへと告げる。

 彼女も久方振りの——他の街の女将さんと同一人物じゃなければ——再会にとても喜んでくれた。

 そして連れてきた二人は彼女の顔を見てポカンとしている。

 それもそのはず。

 ドワーフの村の宿の女将さんと見た目そっくりなのだ。自分達はもはや見慣れた光景と割り切っているが、二人からすればそっくりさんどころの話ではないだろう。

 それに直前のクロードでも彼女と瓜二つの女将さんを見ている。

 流石に一人ぐらいならばたまたま、と言う可能性はあるだろうが、こうも立て続けだとその考えすら疑問を抱かざるを得なくなるのだ。

 自分も最初こんな感じだったのかなぁ、と微笑ましく二人を眺め終えては、まずはそれぞれの部屋割りを決める。

 そして各々の部屋に荷物を置くと再び宿の一階にある酒場へと集合した。

 女将さんに断わり空いたテーブルの一つを借り受け、明日からのことについて話し合うことにする。


「とりあえず明日から数日は休息日にしようと思ってるよ」


 流石に長旅で疲れも溜まってるし自分も少しゆっくりしたいためだ。

 馬車旅も混じっていたとは言えやはり疲労自体は蓄積していく。今後ちゃんと働くためにもここでゆっくりと皆には英気を養って欲しい。

 それにドルンとエルフィリアには折角だから王都を見てもらいたいって気持ちもあった。


「じゃぁ好きにして良いのか?」

「うん。あ、一応ざっくりでも良いから予定決まってたら教えてね。何かあったとき探しやすいし」


 現状何か予定はあるかと聞いてみると、意外なことにコロナとドルンからはすぐの返答があった。

 とりあえずドルンの方から話を聞くことにする。


「俺はまずここの鍛冶師ギルドに行くわ」

「あれ、ドルンって鍛冶師ギルド入ってたんだ?」

「ドワーフの鍛冶師は大体入ってるな。一応申請出せば炉を貸してくれるから色々便利なんだよ」


 流石に本家本元のあの工房ほどの設備は無いが、炉の有無でやれることも随分違う。

 今の内にギルドに申請を出しついでに自分の顔を売っておきたいらしい。

 続いてコロナの予定を聞いてみる。


「私は傭兵ギルドに報告に行くつもり。最後に報告したのデミマールだったし」

「あ、なら後で委任状と報告書を書くから持って行くと良いよ。それならコロ一人でも済ませれるだろうし」

「あれ、ヤマルは一緒に行かないの?」

「うん。ちょっと俺も明日は色々と挨拶回りや報告しようと思ってるからね」


 差し当たってまずは冒険者ギルドで帰還報告と情報収集、それに依頼傾向の調査。

 時間が合えばラムダンと少し話がしたい。

 後は魔術師ギルドに行って獣魔師のレポート提出。出先で起こったことは馬車の中で纏めたからこれを出せばしばらくは何も言われないはずだ。

 他には……可能なら王城に行きたいかなぁ。

 研究室はメム越しで連絡つくから最悪後回しでも良いけど、レーヌに帰ったことは言っておかないと多分むくれるだろう。

 でもあの子はこの国の女王様だからこちらから直接連絡を取る手段が無い。メムを使って話すことはあるが、それも基本あちらからの連絡待ちだ。

 手紙をするにしても閲覧されるだろうし下手なことは書けない。

 と言うかむしろ自分の立場ではまず届けてもらえないだろう。何か考えないと……。

 それにセレスやローズマリー達にも会えたら会いたいところではある。

 最近のことも知りたいし、救世主の面々は割と自分に友好的に接してくれている。

 それにセーヴァ達が護送してた例のレーヌの元婚約者があれからどうなったかも気になっていた。

 もしマッドと何か接点があるなら報告する必要が出てくるからだが……まぁ類似点があるだけで多分空振りに終わるだろう。


「どうしたの?」

「いや、思ったよりやること山積みだなーと思って」


 流石に一日で全部終わらせることは不可能だ。

 とりあえず明日までに優先順位を割り振って出来る範囲からやっていこうと思う。


「エルフィはどうする? 一日ぐらい部屋でゆっくりしても良いし、どこか出掛けても良いし。あー、でも出掛けるなら誰かと一緒の方が良い……どしたの?」

「あ、いえ。その……私だけギルド入ってないので……」

「エルさんは仕方ないんじゃ?」


 確かにエルフィリア以外は全員何かしらのギルドに所属している。ポチですら魔術師ギルド所属だ。

 自分にいたっては冒険者ギルド、魔術師ギルドに加え商業ギルドと三つも所属している。

 だがエルフィリアがどこにも所属していないのはコロナが言うように仕方のない事。

 森の中でエルフだけのコミュニティで生活が出来ていたため、そもそもギルドと言う存在が不要だったからだ。


「まぁエルフの村にはギルド無かったからね。別に無理に入る必要は無いと思うけど。王都でも入って無い人普通にいるし」

「でもま、気になるんならお前も入りゃいいんじゃねーのか? 入れるギルドは何かあるだろ?」

「あるのでしょうか……」


 エルフィリアが入れそうなギルドだと自分と一緒で冒険者ギルドとか……。

 あ、魔術師ギルドも良いかもしれない。エルフの魔法なんてこっちじゃ珍しいだろうし、マルティナに言えば推薦は貰えそうだ。


「俺と一緒で冒険者ギルドか魔術師ギルドなら入れると思うよ。もし入りたいなら付き合うけど」

「え?! えと、あの……や、やっぱり明日一日考えます……」

「そう? まぁ急な話だったもんね。時間あるしゆっくり考えると良いよ」


 と言うわけでエルフィリアは明日は一日宿で待機。

 どちらにせよ少し疲れていたので体を休める日に当てたかったそうだ。


「んでヤマルはどーすんだ?」

「まずは冒険者ギルドかなぁ。その後は人次第だけど……」


 とりあえず明日自分が行きそうな場所だけは全員に話しておく。

 何事も無いとは思うけど、悲しいことに街中でも何かあった前例があるだけにもう油断出来ない。

 魔物がいない憩いの場と思ってたのに……。


「まぁ何かあればここ集合が良いかな。明日ならエルフィが確実にいるし」

「そだね。とりあえず今日のところは……」

「乾杯だろ! 乾杯!」


 まだ夜じゃないんだが……。

 そうつっこもうとした矢先、女将さんがまるでタイミングを見計らったかのように酒と果実水を持ってきた。

 言うまでも無く自分はまだ何も頼んでない。と言うかそもそも酒場は開店前のはずだ。

 だが女将さんの目は雄弁に語る。ドワーフ=酒、酒=売上がっぽり、と。

 もはや止める間もなくジョッキを手に取るドルンを見て罠にはまったことを悟りつつも、今日ぐらいは良いかと気持ちを切り替え皆で乾杯することにしたのだった。



 ◇



「それじゃ、また夜にね」


 翌朝。

 朝食を全員で取り終えた後は昨日の予定通り皆がそれぞれ行動を開始する。

 結局エルフィリアはまだギルドをどうするか決めかねてるようだった。とりあえず入る入らないだけでも夜までには結論を出すとの事。


「ポチと二人きりも久しぶりだね」

「わんっ!」


 頭の上に乗せたポチに話しかけながらゆっくりと大通りを歩き冒険者ギルドへと向かう。

 久方振りの風景に安堵しながらギルドへと着くと、丁度依頼が張り出されるぐらいの時間だった。

 受付も混み合うことが予想されるため、それらが捌けてから職員に話し掛けた方が良いだろう。


「おはようございますー」


 慣れた挨拶をして中に入ると予想通り冒険者らが今か今かと依頼板の前に群がっていた。

 相変わらずだなぁとどこか懐かしさを覚えていると、一人の冒険者がこちらの存在に気付く。

 特に見知った相手では無かったのだが、彼はこちらを見ては驚いた表情を浮かべると次の瞬間には指を突きだしギルド中に響き渡る叫び声をあげた。


「あああぁ!! おま、《薬草殺しハーブスレイヤー》?!」

「「「何ぃーー?!」」」


 その声で他の冒険者もこちらの存在に気付く。

 いきなり叫び声をあげられるような人間でもなければ、今回は特に何かした訳でもない。だが皆のこの反応は何なのだろうか。


「《薬草殺し》が帰ってきたぞ! 賭け表持ってこい!!」

「当てた奴大穴だろ! 奢れ奢れ!!」

「っかぁ! 最近見ねぇから死んだと思ったのに。おい、何で生きてんだよ!」


 知らんがな。

 どうやら自分の生死か何かがまた賭けの対象になっていたようだ。

 賭け事が好きな冒険者ならありふれた光景ではあるものの、どうも彼らの反応を見る限り負けた人が多そうである。

 ……とりあえず元締めに少し話でもするか、などと思っていると、こちらも久方ぶりに強面のギルドの職員がにこやかな笑顔でやってきた。


「よぉ、生きて帰ったか」

「ども。確かに国外ですけどそこまで危ない旅では……うぅん、無かったかも……」

「そうなのか? いくら嬢ちゃんがいるとは言え危ない目あったんなら珍しいな」

「えぇ、ほんとそうですよね……」


 当初の目的である台座を作ってもらったらすぐ帰る予定だったのにどうしてあぁなったのか。

 本に出てくるような大冒険とまではいかないものの、遺跡巡りをしたりエルフの森に行ったりと物語の一幕の様な事はしていた気がする。


「それで今日はどうしたんだ? 仕事なら依頼板はあの状態だから待った方が良いぞ」


 あの状態、と職員が視線を送る一角はまさに戦場さながらの状態だった。

 まるで砂糖に群がる蟻の如く依頼板にところ狭しと集まる冒険者達。

 まぁより良い依頼と報酬のために頑張るのは当然だがあの中に突っ込む勇気は未だに無い。


「いえ、今日は帰還報告と依頼傾向とか調べようかと。あとラムダンさんいたらいいなって思って」

「おぉ、そうか。まぁ帰還報告は後で俺がやっておこう。ラムダンは確か少し長期の依頼受けてたな、近いうちに戻るはずだ」

「あら、じゃぁ仕方ないですね」

「依頼自体はあまり変わってない……じゃねぇな。お前向けの依頼が溜まってるか。誰もやりたがらねぇからなぁ」

「行く際にしばらく受けれないって言って回ったんですけどね。まぁ……頼ってもらえるのは嬉しいですけど」

「なら挨拶がてら受けてやれよ。ギルドとしても依頼掃けるのは歓迎だしな」

「うぅん……やるのは良いんですけどちょっと依頼についてラムダンさんと相談したかったんですよね」


 とりあえず依頼は溜まってるようなので内容次第では明日からゆっくりと取り掛かっても良いかもしれない。

 でも自分向けの依頼ってあれだよね。Eランク向けの簡単なお仕事。

 もちろん仕事に貴賎は無いからやること自体は構わない。だけどパーティーの人数が増えて報酬との兼ね合いが気になりだしてきている。

 手分けしてやれれば良いのだが、皆に……特にドルンに雑用依頼はさせたくなかった。

 正直ドルンに雑用やらせるなら剣の一本でも打たせた方が絶対に儲かる。

 そもそも冒険者ギルド所属は自分だけなのだから、皆は自分の依頼の手伝いは出来るけど依頼そのものを手分けして受注は出来ない。

 無論自分が受けた依頼を冒険者じゃない他のメンバーに丸投げすることもご法度である。


「まぁ仕事に関しては早めに再開しますね。今日は他のところも行きたいのでこの辺で——」

「見つけたぞ、《薬草殺しハーブスレイヤー》!!」


 いきなり至近距離で大声で呼ばれては驚き思わず体が強張ってしまう。

 何事と思い声の方を見ると一人の若い冒険者がいた。

 自分と同じような皮鎧を着込み、腰に長剣を佩くいかにも戦士系の青年。

 歳はダンと同じぐらいだろうか。赤い短髪が活発な印象を見る者に与えそうな感じの子だ。


「ようやく会えたな……。待ってたぜ、この時をよぉ……!」

「えーと……」


 妙に敵意むき出しの青年。

 色々と聞きたいことはあるがとりあえず最初に聞くことは決まっていた。


「ごめん、どちら様?」


 全く見知らぬ青年に向け、若干申し訳なさ気にまずは名前を尋ねることにしたのだった。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます