第127話 帰還


 明けて翌朝。


「こんにちわー」


 もはや最初に感じた工房の威圧感も慣れたもの。

 いつもの面々で中に入るとこちらの声を聞いたドルンが玄関まで迎えに来てくれた。


「お、来たか。とりあえず先に防具取りに来てくれ」


 と言うわけでまずはドルンの部屋へ。

 中に入ると作業台の上に自分とコロナの防具が置いてあった。

 しっかりと補修はしてくれたようで、あれだけ細かい損傷があったのにまるで新品みたいになっている。


「……あれ?」

「ん、どうした?」

「手を加えるって言ってたけどなんも変わってないような……」


 どれだけ見てもそこにはいつもの着慣れた皮の鎧一式。

 修繕が済んでいる以外は特に目立った変化は無い。

 いや、着慣れた防具に妙な手を加えられるよりはよっぽど良いんだけど本当にどこに手を加えたのか分からなかった。


「まぁぱっと見は変わってないからな。俺がやったのは裏だ、裏」


 裏?と言われた箇所を見てもやっぱり変わってない……いや。

 なんだろう、これ。何か紙……じゃないな。でもそれに近い何か薄い物が貼り付けられている。


「何これ?」

「精霊樹の樹皮部分を加工したモンだ。強度的には金属より数段劣るからコロナの鎧には使えないが、お前が使ってる皮鎧なら追加する形で付けれるからな」


 金属より柔らかく布より硬い為使いどころが限られているものの、追加装甲の扱いでありながら重さも無く強度増加に使える一品らしい。

 ただ言うまでも無くやっぱりこれは出回らないとのこと。

 精霊樹自体は本数は少なくともエルフの森以外にも一応はある。

 なので樹皮も加工の際に出そうな感じはするのになぁと疑問を口に出したところ、その加工に今まで問題があったそうだ。

 先の銃剣作成の際に得たエルフの精霊樹の処理方法。その中に今まで知ることの無かった加工方法が書いてあったらしい。

 結果これまで無駄にしていた部分を新たな素材として生まれ変わらせる事が出来たそうだ。この樹皮の増強処理もその一端である。

 とは言え商品化するにしてもまずは試作品を造り様子を見なくてはならない。

 そこで白羽の矢が立ったのが丁度皮鎧を着込みこの精霊樹を持ち帰った自分だったそうだ。


「この技術を得れたのもヤマルのお陰だからな。つーかエルフィリア、エルフとしてはコレ漏らしてもよかったのか?」

「えぇと……どうなんでしょう。エルフの秘術……は、あれぐらいしか聞いたこと無いですし……」

(結界の事かな)


 まぁ紙に書いて渡したぐらいだからエルフから見ればそうでもないのかもしれない。

 そもそも高価な精霊樹をポンと渡すぐらいだ。彼らにとって精霊樹は高価な素材ではなく使い慣れた素材なのかもしれない。

 ……もしくはエルフのプライドが単にそうさせただけの可能性もあるが。


「ふむ……まぁとりあえず純粋に強化だからそのまま受け取っとけ」

「うん、ありがとう。でも俺じゃ効果あんま見れないんじゃない? 報告もそうそう出来そうに無いし」


 前に出ないから効能を見ること自体中々無さそうだし、それにこの国での目的は果たした。

 近い内に人王国へ帰るとなると今までみたいに気軽にドルンへ報告も出来なくなる。


「あぁ、その辺は大丈夫だから気にしなくて良いぞ」

「そう? まぁドルンがそれでいいなら……」


 とりあえず防具を受け取りいつも通り着込む。

 付けた状態で軽く体を動かしても何も違和感は感じない。本当に貼り付いているだけのようだが、これで防御力が向上するとか凄過ぎではないだろうか。


「どうだ? 違和感あったら今の内に言えよ」

「大丈夫。むしろ違和感無さ過ぎて逆に驚きだよ……」

「こっちも大丈夫だよー」


 隣では鎧を着こんだコロナが問題ないと告げてきた。

 これで少なくとも王都に戻るまではよっぽどの事がない限り壊れることは無いだろう。


「んじゃ次は台座だな。親父んとこにあるから一緒に来てくれ」

「ん、了解」


 そして全員でドノヴァンの所へ行くと、そこには部屋の主が腕を組ながら待ち構えていた。

 その部屋のテーブルの上には厳重に封がしてある木箱が鎮座している。


「来たか。これが頼まれていたものだ」


 早速とばかりにドノヴァンが箱を開けると、中から素人目でも分かるぐらい物凄い彫金細工が出てきた。

 この形状をなんて表せば良いだろうか。一言で表現するなら『豪奢』。

 白色の鉱石である魔煌石の色はそのままなのだが、何故か所々で小さな光が下から上へ昇るように明滅している。

 さながら下から上へ魔力を運んでいるかのような、そんな印象を受ける光景だ。

 本体部分のデザインもそれを狙っているかのように、下から上へ風が立ち上るように小さく渦が巻く様なデザインである。

 全体的には円柱形だが台座と言っていたが台部分は無く、代わりに三点で上に乗ったものを支えるような形だ。


「綺麗……」

「レプリカを前見たことあるけど本物はすごいね……」


 本来の用途は異界からの召喚の為の道具だが、それを抜きにしてもこれだけで芸術品として価値があるのが審美眼を持たない自分でも分かる。

 なるほど、国宝と言われるだけのことは確かなようだ。


「細かいところは俺も手を加えたが基本はドルンに任せた。初めてでまだ荒削り部分はあるが問題ないはずだ」

「えぇ、ありがとうございます! これ手に入れるのに色々遠回りしたなぁ」


 地震のせいで回り道をして、やっと辿り着いたと思ったら難題吹っかけられて……いや、これは料金分だからまぁいいのか。

 その後エルフの森行ったりヤヤトー遺跡に石を取りに行ったり、デミマールで一悶着あったり……。

 うん、物凄く濃い経験してるな。濃密過ぎて胸焼け起こしそうだ。


「おう。んじゃ悪いが頼んだぞ」

「……え、何がです?」

「あん、聞いてねぇのか? おいドルン、お前昨日話すとか言ってたじゃねーか!」

「悪ぃ悪ぃ、こいつらの話が面白かったのと防具の話でスコンと飛んでたわ」


 はっはっは!と笑う辺り全然悪びれてないなこのドワーフ。

 あんまし聞きたくないけど一応何の話か尋ねてみる。


「えーと……つまり?」

「おう、俺もしばらくお前に付いて行くからよろしくな!」

「……理由をお伺いしても?」

「何で敬語に戻ってんだよ。まぁ簡単に言えば修行の旅ってやつだな。お前に作った武器も作っててわくわくしたし、久しぶりに今の世界回って色々見聞広めようと思ってな」

「なら別に俺じゃなくても良いんじゃ?」

「異世界の武器の話聞くんならお前じゃないとダメだろーが。それに俺がいれば銃剣そいつのメンテもしてやれるし、コロナの武具だって出先で見てやれるぜ。どうだ、悪い話じゃねぇだろ?」


 うぅ、確かにドルンの能力は喉から手が出るほど欲しい。

 前衛の壁役タンクとして皆を守ってくれるのはこの間の遺跡探索で実証済み。

 戦力的にも十分なのにしかも鍛冶の技能持ちだ。それもかなりの上等な部類の。

 ただ、こう……もっと前以て言ってくれるというか心構え的なものは欲しかった。いや、これは自分のワガママか。

 大丈夫とは思うけど一応皆にも意見を聞いてみることにする。


「えーと……コロはどう?」

「え、一緒に来てくれるなら心強いよね」

「エルフィは? 種族的に大丈夫?」

「えと……はい、何とか。前ドルンさんと一緒に頑張れましたし……」

「とゆーわけだ。よろしくな、リーダー」


 そのリーダーの意見を聞く事無く物凄く良い笑顔で肩を叩かれた。

 これはもはや断わることは出来そうにない。いや、断わる理由も無いのだから良いんだけど……。


(……まぁいっか)


 折角有能なドワーフの鍛冶師が自分に付いて来てくれるんだから素直に喜ぼう。

 細かいことを気にしたらきりが無い。


「まぁこんな愚息だがよろしく頼む」

「いえ、こっちがお世話になりますからむしろ嬉しいですよ。ドルンも……まぁそこまでランク高くない冒険者だけどこれからよろしく」

「おう。まぁお前が帰るまでにはきっちりモノにするつもりだから協力しろよ?」


 そのうち異世界版ミサイル造りそうだな、と一抹の不安を覚えつつ、ドルンと固い握手を交わした。



 ◇



 街道を歩き、馬車に揺られ、小隊の護衛などしつつドワーフの村を出て大体二十日ちょっと経過した。

 行きとは違いすでに最短経路が復旧していたこともあり、多分この世界基準では最速で帰ってこれたと思う。


「ヤマルさん、王都のお城ってあれですか?」

「ん~……?」


 そして現在乗合馬車に揺られうたた寝をしているところをエルフィリアの言葉で目が覚めた。


「ふぁ……やっとついた?」


 チカクノ遺跡に行くときは一日でお尻が痛くなったが、馬車旅もそこそこ慣れ寝れるぐらいにはなっていた。

 目を擦り進行方向を見るもだだっ広い平原が広がっているだけだ。街はおろか城すら自分の目には見えない。

 ただこの景色には見覚えがあった。確かに王都の近くの平原だ。

 薬草を採るためにしょっちゅうこの辺りまで足を運んでいたので記憶にしっかり残っている。


「……俺にはまだ見えないなぁ。でも多分もう少ししたら着くと思うよ」

「ふぃ~、馬車は楽は出来るが長時間移動は堪えるなぁ。肩が凝っちまうわ」


 ぐるんぐるんと太い腕を回しゴキゴキと音を鳴らすドルン。

 そんな亜人や獣人が集まる一角……つまり自分達の方を他の乗客は物珍しげな視線を送っていた。


「でも久しぶりだよね。三ヶ月ぶりぐらい?」

「それぐらいかなぁ。行きで一ヶ月、向こうの滞在で一ヶ月、帰りでも同じぐらいだし」


 流石にここまで長旅になるとは思わなかった。

 しかも行きと違いパーティーメンバーが倍に増えている。それもドワーフとエルフの犬猿コンビ。

 まぁ『風の軌跡うち』の場合はエルフィリアが大人しい性格なのでドルンとは割と仲良くやっていけている。


「わふ……」

「もう少し寝てて良いよ。戻ったらどこかで運動しなきゃね」


 膝の上で丸くなっているポチを撫でつつ、明日から何をしようかなぁと考えを巡らせる。

 とりあえず長距離移動で皆疲れてるだろうから数日は仕事を空けた方がいいだろう。

 その間に体を休めるなり、もしくは運動とかして暖めるなりして体調を整えるべきだ。

 でもまぁ先にギルドだなぁ。一応帰った報告と依頼傾向だけは見ておきたいし。


(う~ん、依頼か……)


 今までは簡単な仕事メインだったが今度からはそうもいかないだろう。

 何せ扶養家族……じゃないけどエルフィリアとドルンが加わったことで生活の支出は倍になった。

 もちろんこのメンバーなら収入も倍にやれなくはないけど……。


(真面目にランクアップ目指すかなぁ)


 現状Dランクでは受けれる依頼も限られてるし、その報酬もやはりランク相応だ。

 大物狩りをしないなら一人で四人分はこのままでは賄えない。

 お城の研究室に預けてる遺物を切り崩すのもありだが、あの辺は蓄財としてなるべく取っておきたい。

 そもそも正直なところ今の自分のランクに対してパーティーが戦力過多も良いところだ。

 あくまで冒険者とした枠で見た場合、個人的主観だがこのメンバーなら適正はCランク、下手すればBランクにすら食い込んでるかも知れない。


 王都に着いたらラムダンにでも相談するか、と今後の予定を立てつつ、馬車は順当に王都へと向かって行った。


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