第114話 首都デミマールへ


「えーと、その、ごめん……」


 戻ってきたヤマルさんが開口一番に謝罪されました。

 一体なんのことでしょうか。

 良く分からず隣のコロナさんの方を見ても、彼女も良く分からないと言った顔をしています。


「ヤマル、魔煌石の場所聞いてきたんじゃ?」

「あぁ、うん。そうなんだけどね……その、もうあった」

「「……え?」」


 隣のコロナさんがポカンとした表情をしています。多分私も同じような顔をしてるんでしょう。

 でも、その……あれだけ大変な目に遭っても見つからなかったものがもうあったとはどう言う事でしょう。



 少し頭が混乱してきたので今日のことを最初から辿ることにしました。

 今日はヤヤトー遺跡から二日かけてドワーフの皆さんと一緒に村へと戻ってきました。

 職人の方たちと別れ一息をついたあと、ヤマルさんにこれからのことについて話し合おうと言われたんです。

 ちなみにドルンさんは自宅へと戻っています。お仕事の方も理由の一つではありますが、それ以上に奥さんに顔を見せないとドヤされると言ってました。

 それで今後の方針について三人で話していたときのことです。

 確か私が魔煌石についてちょっと気になったことをヤマルさんに聞いてみました。


『魔煌石ってそもそも鉱石なんですか?』


 石ではありますが遺跡で見つかる以上掘って探す類のものとは思えません。

 それに私の目で見た限りでは自然の鉱石のような形ではなく、人の手が加わったかのような形をしていました。

 そのことについて話すとトレントと戦ってる際に間近で見ていたコロナさんも同じようなことを思ったそうです。

 それを聞きあれこれと三人で話をまとめた結果、古代の人が使ってた遺物ではないかと言う予測が立てられました。

 確かにこれでしたら遺跡にあったことも納得出来ます。

 とは言えヤヤトー遺跡では頑張って探してみたものの結局収穫はゼロ。

 もう一度探すか、他の遺跡を調べてみるかと言う段階でヤマルさんがこう提案してきたんです。


『ちょっとメムに聞いてみるよ。遺跡の場所知らなくても何か知ってるかもしれないし』


 そう言って部屋を出て行かれ待つこと数分。

 帰ってくるや否やいきなり私達に頭を下げたんです。



 そうでした、確か今日はこんな感じだったはずです。


「あの、ヤマルさん……。魔煌石、どこにあったんですか?」

「えーと、王都の研究室……あ、一応二人にもちゃんと説明するね」


 ヤマルさんが言うには王都に残してきたメムさんに連絡を取り、まずこちらの事情を説明したそうです。

 メムさんは確かヤマルさんとコロナさんがあちらの国の遺跡で見つけたロボットと言うゴーレムみたいな方ですね。以前ヤマルさんのスマホで写真を見せていただいてるので姿は知っています。

 そのメムさんに話したところ最初は良く分からないと言ってましたが魔煌石の欠片を見せたところですぐ分かったそうです。

 メムさんによると昔は魔煌石と言う名前ではなかったみたいで最初は分からなかったみたいですね。

 それでその石自体は実はロボットの中に内蔵されてる部品の一つで、なんでもメムさんはもとより他のロボットでも使われているそうなんです。

 チカクノ遺跡で発掘された動くロボットはメムさん含め数体だけみたいですが、壊れて回収されたロボットはそれなりにいるみたいで魔煌石も同じだけあるとのこと。

 遺跡の発掘物の所有権はヤマルさんにあるそうなので、研究所の責任者の方と人王国の貴族の方とお話した結果一つ譲ってもらえることになりました。


 つまりヤマルさんがあちらを出る際に最初から材料を知っていれば色々やらずに済んだ、と言うことで現在私達に平謝りしているみたいです。


「うーん、まぁ過ぎたことはしょうがないんじゃない? ヤマルもわざとだったわけじゃないんだし。それにそのお陰でエルさんとも知り合えたから悪いことばかりじゃないと思うよ」

「そうですよ。ヤマルさんに会わなかったら多分まだ村であのままだったと思いますし……」


 確かヤマルさん達が村を訪れたのは遺跡に行く前の武器の更新に時間がかかるから、その空いた時間を使ってたまたまエルフの集落の森へ来たと言ってました。

 私がここにいるのも、ヤマルさんやコロナさんの武器が新しくなってるの全てはそのミスのお陰なんですよね。

 そう思うとちょっとしたことでも色んなことに影響しているんだと実感します。

 その事を言うとコロナさんは元気良く同意してくれましたし、ヤマルさんは気恥ずかしそうにありがとうと言ってくれました。

 うん、ヤマルさん。その感じ私的にはポイント高いですよ。

 なんかこう、男の方からお礼言われるのってぐっと来ます。


「じゃあ魔煌石取りに戻るの?」

「いや、流石に距離あるからドノヴァンさん宛に届けて貰うことにしたよ。と言っても着くまで結構時間掛かるね」

「普通の足だと一ヶ月……はかかんないと思うけど、それぐらいかな?」


 私は森から出たこと無いためそのへんの距離感は分かりませんが、ヤマルさん達はここまで結構時間をかけてきたみたいですね。

 今後人王国へ行く時があればそれぐらい掛かるんですよね。大丈夫でしょうか……。


「あの、石が届くまではここで滞在ですか……?」

「ううん、流石にそれは時間勿体無いしね。だからちょっと……まぁコロが良ければだけど足伸ばして行きたい場所はあるんだけど……」

「うん、いいよ。どこに行くつもりなの?」


 ……コロナさんが良ければ? 私は無条件でお供確定ってことでしょうか。

 いえ、ヤマルさんはそんな蔑ろにする人ではありません。

 そうなると考えられるのはコロナさんにとってあまり良くない場所と言うことになりますが……。


「コロの実家。折角遠路遥々ここまで来たんだから親御さんに顔見せてあげなよ」



 ◇



 コロナの里帰りのためドワーフの村を出て数日。

 自分達は彼女の地元でもある獣亜連合国の首都デミマールへと向かっている。

 ドルンにも付いてきて欲しかったので誘ってみたものの、やはり工房での仕事があるため残念ながら断られてしまった。

 まぁドルンは奥さんもいるし工房長のドノヴァンの息子。流石にそうそう連れて行くわけにはいかなかった。

 前衛が一人減ったため少し不安だったものの道中は特に問題なく旅が進み、本日中には何とか目的地に到着出来そうと言った感じだ。


「それでね、この国では各種族のトップからなる連合議会があるの」


 そして現在の話題はコロナによる獣亜連合国の歴史。

 彼女の話によるとこの国は三百年前の大戦時にその土台が出来たようだ。

 当事は国ではなく各種族からなる小国家のようなものだったらしい。それこそ今のエルフみたいに種族単位で集まり生活していたみたいだ。

 しかし大戦となり、隣接の人王国と魔国との関係が悪化し戦いになると種族単位の数では太刀打ちすることが出来ず連戦連敗。

 そこでこのままでは遠からず負けると言う危機感の下、各種族の代表者からなる獣亜連合国の基礎となった連合議会が発足された。


「じゃぁその議会で国の舵取りしてるんだね」

「まぁ舵取りは合ってるけどヤマルが思ってるようなものじゃないかも」

「と言うと?」


 現在の獣亜連合国も基本はトップダウン式の構図なのだが、人王国とはやや事情が異なる。

 人王国はトップを王とし、その下に中央機関と各地の領主貴族、更にその下に領内の町長や村長と言った感じだ。

 しかし獣亜連合国はまず連合議会がトップであり国の舵取りはここでするものの大まかな方針しか打ち出さない。

 何故ならこの議会、現状では多種族からなるこの国の特色としてあくまで『種族』としての視点で見ることを義務付けられているからだ。

 例えば亜人に取ってはなんでもないことも獣人に取っては良くない事だったりするものがある。その逆も然り。

 あくまで国としてみた場合、種族として問題がない事を決める。このため方針としておおまかなことしか決めれないと言う事になる。

 細かい領地運営に関しては殆ど各地の町長に一任してあるそうだ。なお領主はいない模様。

 なので首都のデミマールも運営に関しては連合議会より町長のほうが発言力は高いらしい。

 ちなみにヤヤトー遺跡で会ったレオ達は連合議会と同じく国としてのお抱え機関の一つなのだそうだ。


「人王国と結構違うんだね」

「大戦終わって他種族との交流に忌避感が無くなったからね。それまで単一種族で集まってたのがどこの町も色んな種族が混じりあう感じになったし」

「だから連合議会は領地経営にはあまり口出さないんですね」

「昔に逆戻りしかねないからね。今うまくいってるし戻す理由何も無いし。あ、そうそう。議会にはエルフの席もちゃんとあるよ。いつも空席になってるみたいだけど」

「あ、エルフもちゃんと入れてもらえてるんですね……」


 あまり外と関わらないエルフもちゃんと仲間として見てもらえてるためか、嬉しさと申し訳なさが半々といった微妙な表情を浮べるエルフィリア。

 まぁエルフは大戦時から他種族とは積極的に関わってなかったらしいし、それを考えたら彼女の表情も仕方のないことかもしれない。

 そんなエルフィリアの顔を見ていると、彼女が進行方向の先に何かを見つけたようでそれに向け真っ直ぐ指をさした。


「あ、街が見えてきましたね」

「見えないんだけど……」


 エルフィリアの視線の先には街が見えてるんだろうけど、残念ながらこちらの目では何も見えない。

 まぁそれでもそれなりに近くまでは辿り着いたんだろう。

 日が落ちるのはまだまだ先のようだし、とりあえず暗くなるまでには着きそうでほっとしている。


「…………」

「コロ、やっぱり俺達も付いて行こっか?」

「ううん、大丈夫。呼ぶにしてもまず私がちゃんと話さないといけないし……」


 そうは言うもののコロナの顔はどこか晴れない。

 まぁこの国を出る際の流れは大体は聞いている。

 仔細は流石に聞くのを憚られたのでそこは尋ねてないが、住み慣れた街を逃げるようにして出てきたのだ。あまり良い思い出ではないだろう。


「まぁ、でも。うん、元気になったってことだけでも伝えなきゃいけないもんね」


 苦笑しつつもそう告げるコロナだが、やっぱり頭では分かっていてもまだ気持ち的に踏ん切りはついていなさそうだ。

 獣亜連合国を出るときのコロナはキズモノとして片手と片足に怪我を負っていた。

 自分はその頃のコロナは最初に出会ったときぐらいしか知らないけど、傭兵なのにまともに動けないなどあまり良く思われてなかったのは想像に難くない。

 実際初めて傭兵ギルドで会ったときは少しやさぐれてたし精神的にも不安定だった気がする。


「まぁ自分で提案しといてあれだけど、無理そうならちゃんと言ってね」

「うん、ありがとう。本当にダメそうだったらちゃんと言うね」


 少し心配ではあるが後は現地で様子を見るしかないか。

 とりあえず今は無事に街に辿り着くことを第一に考えることにする。コロナがこんな調子のときに何かあったら困るし。

 一層周囲に気を配りつつ首都デミマールへ向かうことにした。



 ◇



「賑やかですね……」

「流石は首都っていった感じだなぁ」


 首都デミマールの正面。その入り口の門を見上げるように自分とエルフィリアが感嘆の声を漏らす。

 門から覗き見る街の中は多種多様な種族が行き交い、さながら市場と言った活気に包まれていた。


「獣亜連合国の西と東を結ぶ中間地点でもあるからね。自然と人も多くなるみたい」

「なるほどね。人王国で言うと王都とクロードを足したような感じになってるわけか」


 どちらも大都市だがその二つが合わさったともなれば人が多いのも納得である。


「傭兵の方、結構いらっしゃるみたいですね」

「この国は傭兵ギルドの登録者が多いからね。それに出入りする行商人も多いし、私も昔はあんな感じだったよ」

「まぁ今は行商人どころか異世界人のお守りだけどねぇ」

「そう思うと希少な体験してるよね、私。異世界人のヤマルに戦狼のポチちゃん、エルフのエルさんと普通一緒になること無いメンバーだし」

「それ言ったら多分全員が同じだと思うよ」


 皆が皆、普通に暮らしてたら出会えないメンバーである。

 ともあれさっさと中に入ることにしよう。コロナは実家で寝泊りするにしても自分達は宿を探さねばならない。


「エルさんは今回は多少窮屈な思いさせちゃうけど……」

「あ、いえ。大丈夫ですよ。人にあまり見られるのはちょっと恥ずかしいですし……」


 そういうエルフィリアの現在の格好はローブについているフードを頭からしっかり被りエルフの特徴の耳を隠している。

 別に隠す必要は無く堂々としてもいいのではあるが、何せ滅多に見ることの無いエルフだ。

 このように人が多いところでは否が応でも注目が集まるため、仕方の無い処置である。

 それに今回はコロナが帰省して少しの間パーティーを抜けるため、なるべく問題を起こしたくないという理由もあった。


「とりあえず中入ろ。皆、こっちだよ」


 コロナの案内に従い門の方へと移動する。

 近づくに連れ町に入る為の荷馬車や傭兵パーティーなど様々な人が集まりだした。

 以前の魔術師の街のマギアみたいに門で逐一チェックはしていないが、それでもこの人数では並ぶのも仕方のない事だろう。

 商社の荷馬車に挟まれるように並んでは大人しく街に入る順番を待つことにする。


「お、人間の冒険者かい? ここまで良く来たねぇ」

「あ、ども。ちょっと所用でこちらまで足伸ばしまして」

「そうかそうか。まぁ折角ここまで来たんだ。良いところだから楽しんでいくといいよ」

「はい、ありがとうございます」


 後ろにいた業者の獣人の——耳の形状から多分たぬき辺りと思う——おじさんと軽い世間話を交わしながら待つことしばし。

 列がゆっくりと進み門までやってくると、今回は特に止められる事も無く街に入ることが出来た。

 魔物の脅威から解放されたことでようやく一息ついたといった感じだ。

 ほっとしているとコロナが少し前に出てはこちらにくるりと振り返り、まるで案内人のように右手を街の中心部の方へ向ける。


「ヤマル、ポチちゃん、エルさん。ようこそ私の故郷、首都デミマールへ。折角だし皆はゆっくり楽しんでいってくれると嬉しいな」


 そう言うコロナに了解と笑顔で返し、全員で街の中心部の方へと歩を進めていった。

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