第107話 ヤヤトー遺跡3


 ネズミの魔物と戦ってから遺跡の奥へと進んで行くが、やはり魔物に阻まれては中々探索速度は上がらなかった。

 ここでは外と違い動物系より虫系の魔物が多く生息しているらしい。巨大なムカデや蜘蛛の魔物を見たときはエルフィリア共々卒倒するかと思った。

 台所の黒い悪魔の魔物も世の中にはいるらしいので会わないことを願うばかりである。

 ちなみに最初のネズミはそんな魔物や侵入してきた冒険者らを餌にしているんだろうと言うのがコロナの談だった。


 さて、そんなあまり心臓によろしくない環境の中ドアが開いてる部屋を一つ一つ調べては手書きのマップへと落としこんでいく。

 一応調べた目印として部屋の入り口の床にコロナが剣で傷を作った。

 そんなもんで分かるの?と聞くと真新しい傷だし数日程度なら判別出来るようだ。

 特に武器に詳しいドルンがいるため今回はかなり高い精度で判別出来るらしい。

 進行度があまり無いため二度手間になる可能性を潰せるのはとても大きい。

 特に今回のように似たような作りの建物や部屋ならなおのことである。


 皆の協力の元、少しずつではあるが探索範囲を伸ばしていく。

 そして通路を歩いていると珍しくエルフィリアが声を上げた。


「あれ、十字路がありますね」


 そう言う彼女の視線の先は進行方向の通路。

 だが《生活の光ライフライト》の範囲外らしく闇に覆われており何も見えなかった。

 一応索敵用に飛ばしてある《生活の風ライフウィンド》が確かにこの先に十字路があるのを感じ取っているものの、普通の目視であれが見えるものなのかと感心してしまう。


「確かにあるみたいだけど俺の目じゃまだ真っ暗にしか見えないな……コロ、見える?」

「うぅん、何にも見えないね。ドルンさんは?」

「俺も分からねぇな」


 魔法で感じ取れる自分以外は分からないようだ。いや、自分も目視では全く見えていないんだけど。

 十字路まで結構距離が離れているのにエルフィリアにはあれが見えるらしい。


「エルフは夜目が効く上に目が良いですから……」


 苦笑しながらそう言うエルフィリアの説明には流石は森の民と言わざるを得ない。

 彼女自身は弓が不得手ではあるものの、エルフとしての特性はしっかりと引き継がれているようだ。


「それで他には何か見えるのか?」

「見た限りでは、その、特には……」

「こっちも今のところ魔法には何も引っ掛かってないよ」

「なら近くまで行くしかないか」


 とりあえずは前方にある十字路まで進むことにする。

 左右の通路を警戒しながら交差箇所へ足を進めると、横切る通路は今まで歩いていた通路よりも大きかった。

 薄暗いからはっきりとは見えないものの、幅は八メートル、高さは六メートルほどだろうか。


「またでかい通路に出たな」

「右が外側に向かってるから……左が遺跡の中央の方?」


 反時計回りに弧を描くように移動してたので多分合っているはずである。

 左側に視線を向けるもやはり奥は暗くどうなっているか窺えない。《生活の風》を飛ばすも通路が大きくなったためか中々全容が窺い知れなかった。

 ただその中央の方、ホールか何かだろうか。やたらと広い空間になっているのは分かる。


「なんでしょう……何か大きな……樹?」

「樹があるの?」

「うぅん、薄ぼんやりとですがそれっぽいような。こう、こんな感じの……」


 そう言うとエルフィリアがその樹の再現とばかりに両手を左右に広げる。

 必死に教えてくるそのポーズはコロナとは違った可愛らしさがあった。本人は至って真面目にやっているのでその事は黙っておくが。


「うーん、近くまで寄らないと分からないか。しかし樹かぁ……」

「遺跡に巻きついてるのかなぁ?」

「どうだろ。でももしかしたらここの遺跡に関係あるかもね。チカクノ遺跡は元病院だったし、植物園だったりして」

「植物園? なんだそれ」


 あれ、この世界には植物園は無いのか。

 ……まぁ結構自然豊かな世界だし、あえてそう言うのは作らないのかもしれない。

 とりあえず植物園については世界各地の植物を集めて展示する施設とだけは説明しておく。


「ヤマル、それでどっち行く?」

「う~ん、中央の樹は気になるけど……先にこっちの方を見ておきたいかな」


 反対の右手側。順当に行くなら表に出る何かがあるはずである。

 この通路の大きさだと搬入路の可能性もあるだろう。


「こっち行き止まりじゃないの?」

「多分ね。でももしかしたら開閉タイプの壁かもしれないから一度見ておきたいかな」

「ん~……了解したよ」

(……?)


 なんかコロナの歯切れが悪い。

 先程まではこんなことはなかったけど何か思うことでもあるのだろうか。


「コロ——」

「おーい、行くぞー」


 少し気になったので問いただそうとするも、ドルンが移動し始めたので打ち切られてしまった。

 離れるわけにもいかないので彼の後を慌てて追っていく。

 そして少し歩いただけで予想通りすぐに突き当たりへと到着した。やはり遺跡のかなり外側部分を歩いていたらしくそこまで距離は無かったようだ。

 多分この壁は外壁だろう。


「ここに出入口あるのか?」

「通路の大きさからすればあってもおかしくはないけど……ただこれ開くかなぁ」


 遺跡に入ったときに見た亀裂から外壁の厚さはかなりあった。

 ドアと違いコロナの剣で破壊するのは流石に無理そうである。


「とりあえず調べ——っ?!」


 そう言って一歩踏み出したところで何かを蹴飛ばし、危うく悲鳴をあげかける。

 蹴飛ばしたそれを見て思わず飛び退きバランスを崩してたたらを踏んでしまった。

 しかしそれに気づいたポチが背中側に回って支えてくれたためなんとか尻餅をつくことは避けることが出来た。


「これって……」

「白骨か。風化が激しいから最近のものではないな」


 壁付近に転がる多数の白骨死体。

 あまり見慣れぬ髑髏しゃれこうべに思わず息を飲む。


「昔の人でしょうか……?」

「流石に年代までは分からんが……まぁ古代人か、はたまた冒険者の成れの果てか。どちらにせよこうはならないようにしないとな」


 各々がそれぞれの方法で彼らの冥福を祈る。

 弔ってやりたい気持ちはもちろんあるが、現状ではそんな余裕など無い。

 明日は我が身と先人の身を持った教えを心に刻み目を開けたそのとき——気づく。

 後方の先程曲がってきた十字路。その物陰に何かこちらを窺うものがいた。

 《生活の風》を周囲に展開し続けてたからその何かに気づけたが、何故か自分以外の仲間が気付いた様子はない。


「っ?!」


 即座に後ろに振り向き武器を構えようとするもすでにその何かは自分の眼前。

 薄暗い空間に小さく浮かぶのは爪か牙か。

 それらが自分に向かい当たると思ったその時、突如何かは攻撃を中断し後ろへと下がる。

 何が、と思考が混乱する中、直後下から上へ風切り音と共に別の何かが通り過ぎていった。

 視線を横にずらせばそこには鋭い視線で下がった何かを見るコロナ。彼女が下から切り上げてくれたお陰で攻撃されずに済んだようだ。


「あり——」

「下がれ! そのまま座ってろ!」


 礼を言う間もなく腰を捕まれては後ろへと引き倒される。

 尻餅をつく中目線をあげればドルンの背中。何かが飛んできたのか、彼が盾を眼前に構えると小さい火花と共に甲高い音が響き渡る。


「ヤマル、光!」

「え。あ、《生活の光ライフライト》!」


 付けて良いのか、と一瞬の戸惑いの後コロナの判断の方が的確だと結論付け魔法を放つ。

 位置は前方の天井付近。照らされた光によって暗闇が晴らされ何かの正体が露になる。

 それは黒い外套と灰色の外套に身を包んだ子ども——ではなく二人の小人コビットだった。

 光に当てられた小人の片方が手持ちのナイフを《生活の光》の玉へと投げるも、ナイフは魔法を透過し天井へと突き刺さった。


「ち、面倒な……!」


 フードで顔は見えないものの忌々しそうな声で舌打ちを漏らす小人。

 コロナよりも小柄な体格であんな外套を着られては光が無ければ闇に溶け込んでしまうだろう。

 そして術者が倒れれば魔法が消えると思ったのか三度自分へと襲い掛かってくる。しかしコロナとドルンがそれを許容しない。

 接近されればコロナが対応し、ナイフを放たれればドルンが鉄壁の守りでそれを弾き落とす。


「【大地の精霊さん、力を貸してください。その力強い頑強な守りを私達に】……《ガイアプロテクション》」


 そしてその後ろではエルフィリアが杖を掲げ魔法を唱えていた。

 文脈から察するに恐らく防御力が上がる魔法。多分、《魔法の盾マジックシールド》と同系統だろう。

 淡い橙色の光がエルフィリアの足元から円状に広がり【風の軌跡】全員の体に纏わりつくとまるで溶ける様に消えていく。


「あいつもか!」


 今まで自分に向けられてたナイフが今度はエルフィリアへと放たれる。

 コロナは片方と戦闘中、ドルンも自分に飛んでくるものを受けるため釘付けだったため初動が遅れた。

 しかしエルフィリアの前にポチが立ちふさがると、飛んできたナイフを右手の一振りだけで弾き飛ばす。


「な……!」

「ポチちゃん?!」

「ポチ、大丈夫!?」


 驚く小人を余所にポチの方へ顔を向けるも、問題ないと言わんばかりに右手をこちらへと見せてきた。

 毛皮が厚いのか爪で弾いたのか、先のエルフィリアの魔法のお陰か一見どこも怪我は負ってない様だ。

 でも刃物を手で弾くとか心臓に悪いからあまりやらないで欲しい……。

 しかしあの小人達は何者だろう。ドルンの言うようにやっぱり野盗——。


「双方、剣を引け! ってかお前ら下がってとりあえず謝れ!!」


 不意に聞こえる叫び声。小人の後ろ、先ほどの十字路から別の人物が姿を現す。

 それは腰に二振りのロングソードを携えた豹の獣人の男性だった。

 ただし獣人と言ってもコロナのように人に近いものではなく、二足歩行で歩く豹と言った方が近いかもしれない。

 その男性の声に小人の二人がすぐさま手を止め後ろへと下がっていく。


「いや、本当にすまなかった。大丈夫か?」


 ひとまず危機を脱したことでようやく立ち上がることが出来た。

 お尻の埃を払うと緊張が解けたためか早く脈打つ心臓の音が妙にうるさく感じる。さっきまで全然聞こえなかったのに。


「おめぇさん、そいつらの連れか?」

「あぁ、彼らは自分達の斥候なんだが……」

「どういう了見だ? 流石に事と次第によっちゃ——」

「いや、だって俺らより奥に居る奴がまともとか思わないだろ?!」


 不満を露にし敵意を向けながらドルンが詰め寄ろうとするも、小人の一人が自分らは悪くないと言わんばかりに声をあげる。

 しかしその言い分だと鉢合わせた人物全員がまともじゃないことになるんだがいいのだろうか。


「それを判断するのは自分なんだけどな。と、すまない。まずは謝罪を受け入れて欲しい。自分達は獣亜連合国の正規兵だ。ここには魔物駆除の任で来ている」

「正規兵?」

「国のお抱えの兵隊さんだよ。種族や部落単位の枠から離れて国を守る人って感じかな」


 こちらの疑問の声にコロナがそう答える。

 なるほど、日本で言う自衛隊のようなものか。種族や部落単位での守り手が県警みたいな位置づけと思えば大体合っているだろう。


「それで君達は冒険者……冒険者?」

「いや、なんでそこで疑問符付けるんですか」


 改めてこちらを見ては何故か不思議がる豹の男性に思わずつっこみを入れてしまう。

 だが彼らも互いに顔を見合わせては『だって、なぁ?』と仕方ないよねと言いたげな表情を浮べていた。


「いや、まぁ君は人間だろ? でそちらが同族の子で隣がドワーフ」

「えぇ、まぁ」

「だがその後ろ……エルフと戦狼か? どんな組み合わせだよ」


 もはや一緒になって慣れてしまったためか割と物珍しさが抜け落ちていた。

 そう言えば滅多に姿を見せないエルフに魔物の組み合わせだったのを思い出す。滞在していたドワーフの村でも普通に溶け込んでたから感覚が麻痺していたのかもしれない。


「いや、でも珍しいからっていきなり襲うのはちょっと……」

「……襲ったのか?」


 こちらの言葉に豹の人の目が鋭く光ったかと思うと小人の二人を睨みつける。一瞬の硬直の後、種族的に小さい二人の体が更に小さくなったように見えた。


「いや、だって気配消しは完璧だったんだぞ!」

「なのにあそこのぼへーっとしてそうなやつが何故か気づいたから、なら先手で黙らせるしかないと……」

「ぼへーって……」


 初対面なのに物凄い言われようである。

 しかしそうか、この二人気配消していたのか。

 だからコロナもポチも自分より反応が遅れたのか。二人の索敵は気配察知だから消されると鈍くなるみたいだし……。

 いや、それでも二人の索敵掻い潜るとかこの小人のペアはすごくないか?


「でもほんとヤマルが気づいてなかったら私も動けなかったよ」

「あれ、そうなの?」

「うん、ヤマルが何か変な気配になったから。それにここだと袋小路だから襲われたら危ないと思ってたし」

「あぁ、さっき歯切れ悪かったのそのせい……」


 その結果この小人に襲われてしまった訳で。いや、今回は小人だったけどもしかしたら魔物だった可能性も十二分にある。

 もっとコロナの話を聞いておけばこんなことにならなかったと思うと反省してもしきれない。

 危ない目に合わない様に気をつけるのが自分に出来ることだと言うのに……。

 仲間が増えやれることが増え、自分も新しい武器を手に入れて油断してしまっていたのだろう。実際は油断出来るほど強くは無いのに心のどこかで慢心してしまっていたようだ。


「しかし自分達よりも奥にいるのは確かに気にかかるな。いつからここにいるんだ?」

「いえ、いつからも何も数時間前ぐらいですけど……」

「……数時間前? どういう……いや、ここで立ち話もあれか。どこかで話し合わないか? そっちさえ良ければ情報共有がしたいんだが」


 どうだ?と豹の男性からの申し出。

 行き違いがあったとは言え流石に先ほどまで戦闘をやっていた間柄だ。

 その辺割り切れるのかなぁ、と横をチラ見すると、『ん?』と全く気にする様子も無くこちらを見るコロナの姿。

 さっきまで小人の片方と斬り合ってたのに……いや、冒険者だと不確定の中こういうことは割とあるのかもしれない。

 確かに危険だったがいつまでも不満を抱えているよりは『そういうもの』として水に流した方がいいのだろうか。

 もしかしたらそう言う考えがこの世界、この業種では一般的なのかもしれないし。


「……分かりました、その話お受けします」

「すまん、恩に切る。じゃぁこっちに来てくれ。別の仲間がまだいるんだがそこで話そう」


 豹の男性を先頭に小人二人が続き自分達が来た方とは逆の方向へと歩いていく。

 ドルンも若干不満そうではあったもの納得はしてくれたようで大きく息を吐いては体の熱を冷ましていく。

 そして置いていかれないよう注意を払いながら彼らの後をついていった。

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