第103話 新しい武器2


「どんな武器か楽しみだね」

「楽しみ半分、不安半分かなぁ」


 ドルンから武器が完成したと連絡が届き、現在例の木工工房へと全員で向かっている。

 一体どんなのが出来ているのだろうか。

 一番気になるのは何よりも『自分が使いこなせるか』である。

 どんなにすごい攻撃力を持っていようが革新的な能力があろうが使うのは結局自分自身だ。

 ドルンもその辺は分かっているとは思うが……いかんせん数日前の熱を考えるとどうしても不安を拭えない。


「でも、えっと……ドワーフさんのですから信用出来ますよね?」

「信用は出来るけど想像出来ないのが不安を駆り立てるんだよなぁ」


 数日前に気にしないようにとコロナには言われたが、いざ引き取るとやはり気になってくるのは仕方のない事だろう。

 まぁ見たら案外あっさり受け入れるかもしれないが。


「ほらほら。男の子なんだからビシっとかっこいいところ見せてほしいなー」

「そ、そうですよ。新しい武器持ったかっこいいヤマルさん見てみたいです」

「う~ん……努力はしてみるよ」


 ビシッと新しい武器を持ったカッコイイ自分かぁ。

 ……う~ん、全く想像出来ない。そもそも武器一つで自信持ったら後が怖そうだ。

 例えば今回の武器で一丁前に戦えるようになったとしたら?

 パーティーとしては間違いなく良いことだろう。

 だが個人としてそれを自分の力だと勘違いすると間違いなく痛い目を見るに違いない。

 そもそもそれは武器の力であって自分の力ではない。そして武器そのものも自分の力だけで手に入れたわけでもない。


(まぁ調子に乗るのだけは気をつけよう)


 自分の持てる力なんてそれこそ吹けば飛ぶぐらいのちっぽけな物だ。

 ポチやコロ、エルフィに支えられてるからここでも何とか生きていっている。

 それを忘れないよう今一度心に刻み込んでは工房へと歩を進めていった。



 ◇



 工房に着き玄関を数度ノックしたが全くと言って良いほど反応が無かった。

 少なくとも店自体は未だ閉まっている様子である。

 しかし呼び出された以上どうしたものかと悩んでいたら、コロナにより玄関が開いている事が分かった。

 一応一言声を掛け中に入ると窓を締め切っているせいか店内は薄暗い。

 ただ木製家具が多いためであろう。相変わらずここは木の香りに包まれていた。


「工房は奥だっけ?」

「うん、確かこっちだよ」


 《生活の光ライフライト》を出し自分達の周囲を照らしながら工房の方へと向かうことにする。

 記憶を頼りに廊下を歩きとある一室へと向かう。

 何事もなく到着し扉を開け中に入ると足の先端に何かに当たったような衝撃があった。


「ひぁ?!」


 小さく悲鳴を上げるエルフィリア。

 足元に転がっていたのはドワーフだった。それも一人ではない。

 見覚えのあるドワーフからこんな人来てたっけ?と言う見知らぬドワーフまで総勢十名前後のドワーフが全員床へ横たわっている。

 全員ピクリともせずまさに死屍累々さながらの光景だ。


「下がって!」


 小柄な体を滑り込ませコロナが自分の前に出る。

 そして周囲を注意しながらその場にしゃがむと、手を伸ばし足元に居たドワーフを調べ始めた。


「コロ……」

「……寝てる」

「……は?」


 ぽつりと一言漏らすコロナ。

 それだけで何となく現状の惨状に見えたものがどういうものか何となく理解してしまった。

 複数の《生活の光》を中に飛ばしよく見ると確かに全員胸が上下に動いている。

 そしてそれだけではない。

 床には彼らが飲んだであろう酒瓶やグラスがこれでもかと言うぐらい散らかっていた。

 中には酒瓶を抱いて寝ているドワーフもいるぐらいである。


「……心配して損したわ」

「あはは……でも何事も無くて良かったじゃないですか」


 まぁその通りなのだが何か釈然としない。

 さて、このドワーフたちをどうしたものか。起こそうと思えば水でもぶっ掛ければ起きそうだけど……。


「ヤマル、あれ見て。作業台の上」

「ん?」


 コロナに服の裾を引かれ言われた場所に目を向ける。

 部屋の中央の作業台の上に置かれた一つの武器。この世界に来てから一度も見たことの無い形状をしているから多分作っていたのはあれなんだろうけど……。


「…………」

「ヤマル、あれなぁに?」

「なんだかすごそうな武器ですよね……。見た目からはどんなのか想像も……あの、ヤマルさん?」


 あまりの形状に言葉すら発することが出来ない。

 おかしい、自分は確かボウガンを再設計したものを作ってもらっていたはずである。

 それがどこをどうしたらあのような物に仕上がるのだろうか。


「う……お、来たか」

「あ、起きた」


 コロナの言葉に反応しエルフィリアがこちらの背に隠れるのはもはや何度目か。

 作業台の向こうからひょっこりと顔を出したのは顔なじみになったドルンだ。見えていなかったが多分あそこで寝入っていたんだろう。

 

「ヤマル、どうだ。すっげぇの出来ただろ? 俺が言うのもなんだがここ最近じゃ一番の傑作じゃないかと思ってるんだぜ」

「あ、うん。すごいね、ほんと……」

「ん? なんだなんだ。これでもお前にとっては不満なレベルなのか?」


 むしろすごすぎて言葉に詰まるレベルだ。

 この気持ちを何て言えばいいだろう。

 すごい武器作ってくれてありがとう!って言う感謝の気持ちはもちろんある。

 だがその一方で誰がここまでやれと言った、と言う気持ちもある。もちろんこれはよく出来たなぁって意味も多分に含まれているのだが。


「ドルンさん、この武器すごいですね。こんな形状初めて見ました」

「そうだろうそうだろう。ヤマルから色々アイデアは仕入れたからな。そこから発想を得てエルフの図面と材料を元に作ったんだ」

「……ドワーフの方って本当にすごい技術力持っているんですね……」

「ほほぅ、エルフの嬢ちゃんにもこのすごさが分かるか。よし、この武器がどれだけすごいかみっちりと解説してやろう」


 出来上がった武器に満足しているのもあるだろうが、それ以上にエルフであるエルフィリアに認められたからかとても上機嫌そうだ。


 さて、少し落ち着いてきたところでこの武器をしっかりと観察してみる。

 まず何と言ってもその形状にまず目が行った。

 ボウガンが元になっているはずだがもはや"弓"の部分はどこにも見当たらなかった。

 それもそのはず。この武器の種類を言うなら間違いなく"銃"である。

 ただし拳銃ではない。ライフルでもマシンガンでもスナイパーライフルでもない。

 銃身の先端下部から中頃辺り取り付けられた一振りの刃が特徴的な"銃剣バイアネット"だった。

 そもそも武器の全長からしてかなり長い。コロナの片手半剣(バスタードソード)を優に超え、自分の身長と同じぐらいあるんじゃないかと思わせるほどだ。

 また魔物戦を想定しているためか銃本体もかなりがっしりした造りになっていた。黒を基調とした色合いが重厚な存在感を放っている。

 ただ銃に必要な引金はあるのだが撃鉄に相当する物は見当たらない。

 代わりにあるのは緑色の宝石のような物が取り付けられていた。魔石だろうか?

 そして引金から後ろ、銃身の最後部にはまるで柄のような持ち手が取り付けられていた。

 よく見たら銃身の上部部分にも同じような持ち手がある。両手で持ち運べと言うことなのかもしれない。


 そして一通り観察し終えると上機嫌なままのドルンがこの武器について話し始める。


「そもそも最初はボウガンをベースにしてたんだがな。預かった材料からもはや弓部分が不要になったんだ。だからヤマルが言っていた"銃"ってやつを作ってみたわけだ」

「あれ。でも確か前に弾の量産が追いつかないからとかで却下されてなかったっけ」


 銃本体は出来るが弾が無理と言っていたのは目の前の本人だ。

 確かそのときは火薬もなく工業力と生産性の観点からそう言ってたのを覚えている。


「あぁ、だからこいつから出るのは弾じゃねぇよ。これだ」

「これって前のボウガンに使ってた矢ですよね」


 出された物を手に取ると鉄製で先端だけ尖らせた先代ボウガンの矢だった。

 羽根も作らず型に流し込めば量産が見込めるということで採用されたやつだ。


「お前が預かったやつの中に『精霊石』があった。細かい説明は省くが、石そのものに効果の指向性を持たせた魔石の上位版と思ってくれりゃ良い」


 色々専門用語交じりに熱く語るドルンだったが要約するとこうだ。

 この『精霊石』には風の加護が封じられており、そのまま使ってもかなりの風を生み出したり持ち主に加護を付与する代物らしい。

 それをエルフの図面を元に武器そのものに組み込んだ。更に人間が作る魔道具の設計を流用・再設計しこの力を無駄なく流れるようにしたんだそうだ。

 ちなみに魔道具関連の技術はそこで酒瓶抱えて寝てるドワーフがやったらしい。以前人王国にて彫金や細工の修行中に学んだそうだ。

 ともあれその結果この銃は矢を撃つのに弦は不要になった。精霊石が放つ圧縮した風と魔力を推進力にして撃ちだすんだそうだ。


「精霊石をそんな風に使うなんて……」


 話を聞いていたエルフィリアが声は小さいものの間違いなく驚きの声をあげている。

 後で聞いたがこの精霊石、村で個人で使用する際はアクセサリー類にしてそのまま使うものらしい。


「それにこいつそのものに風の加護も付与されてるからな。まぁこの辺はエルフのやつを丸ごと流用したが……」

「風の加護って具体的には?」

「エルフからの手紙に書いてあるから見てみろ。その方が早い」


 差し出された手紙を受け取りその内容を読むと渡した精霊石についてのことが書かれていた。

 その手紙を読みながらエルフィリアに内容を補足してもらう。

 今回預かったのは風の精霊石であり、この石には持ち主に風の加護を与えるとある。

 その加護は大きく分けて二つ。

 一つは外的要因の風から身を守る《風守カザモリ》。

 この加護は強風や風圧など風に関するものから守ってくれるものらしい。ちなみに風の攻撃魔法からも耐性があがるとのこと。

 もう一つはこちらの行動に風の影響を無視出来る《風切カザキリ》。

 《風守》と効果は似ているがこれは自分に対するものではなく、《風守》の加護を持つ対象者から出るものに対して同じ加護を一時的に付与するとのこと。

 いまいちどんなものか分からなかったのでエルフィリアに尋ねると、例えば強風時でも矢がその影響下に入らなかったり、声が風でかき消されることも無くなるらしい。


「……ただ村では風読みして色々と撃つ人が多かったので射る時には不評だったみたいです」


 真っ直ぐ飛ばしたいときや移動には便利だが、弓の名手であり曲射などなんでもござれなエルフたちには今一つだったようだ。

 なので風の精霊石は主に建物や木に巻きつけて防風用に使っていたらしい。


「精霊石のことは分かったけどさ。これならこんな形状じゃなくても良かったんじゃないの?」

「まぁそこは追々説明するが、これはちゃんとコンセプトを持って作ったやつなんだぞ」


 なんか色々盛ってみました感がある見た目だがちゃんとコンセプトはあったらしい。

 ……あるのか、これ。


「こいつはな。ただただひたすら速く、遠く、そして真っ直ぐにをコンセプトに作った武器だ」

「あー……」


 なるほど、分かりやすい。そしてそれじゃないと自分じゃ扱いきれないだろう。

 そしてコンセプトそのものはちゃんとボウガンの延長上にあるようだ。

 ……少し安心したのは内緒にしておこう。


「だからそこのエルフの嬢ちゃんがさっき言ったような曲射は出来ん。本当にただひたすらに真っ直ぐ飛ばすだけの武器だ」

「その割にはえらいゴツいですよね」

「そりゃ精霊樹で作って重量にかなり余裕が出来たからな。なら性能向上に色々使うのは当然だろう?」


 さも当然と言わんばかりにドルンは言うが、その余裕が出来たら重量そのまま軽い状態で仕上げようとは思わなかったのか。

 ……思わなかったんだろうなぁ。まぁ自分も浪漫武器は好きだから気持ちは分からなくはない。

 もちろん日本でやってたゲームでの話だ。自分が使うなら実直で信用性のあるのが望ましい。

 欠陥ひ——じゃなくてトリッキーでクセのある武器は使い手を選ぶ物が相場なのだ。


「と言うか精霊樹どこいったの? これ本体金属だよね」


 そう。一番気になった点が材料となった精霊樹がどこへ消えたかだ。

 この銃剣、見た目は黒系だしとても木製とは思えない。

 外側だけでも金属で覆って補強でもしたのだろうか。


「あん? 精霊樹ならこいつにちゃんと使ってるぞ。つーか精霊樹だけで作ってるようなもんだぞ、これ」

「え……でも木目調みたいなの全然ないんだけど……」


 こう、木製独特の模様と言うか木の温もりみたいな見た目が微塵も感じられない。

 コロナの剣とは違うベクトルで無骨なデザインに仕上がっている。


「あー、わざと表面処理を施して金属風にしたんだよ。見る奴が見れば精霊樹って分かるからな。半分は盗難防止のためだ」

「マジ? これ全然木製に見えないね……」

「すごいだろ?」

「うん。さっきからずっと驚きっぱなしだよ」


 実際指で銃の表面を触ると確かに金属ではなく木製のそれなのが分かる。

 分かるのだが視覚だけだと本当に金属みたいだ。触れなければ分からないとかどんな技術なんだろう。


「あの、ドワーフさん……」

「ん、何だ?」

「その……もしかしてその剣の部分も精霊樹ですか?」

「お、気づいたか。中々本物の金属の刃っぽく仕上がってるだろ?」


 こいつもか!と思わず声をあげそうになった。

 銃身の先端に取り付けられた鈍色の刃ですら木製。いや、確かに精霊樹は金属ぐらいの硬度もあるとは言ってたが……。

 これで木か、うぅむ……。


「よし、続きは試射しながら説明しよう。それにヤマルに使い方もきっちり教えなきゃいけないもんな」

「うん、そこはしっかりとお願いするよ。場所はいつもの工房裏手?」

「まぁそこが無難だろ。ヤマル、それは自分で持つんだぞ」

「了解。って軽っ!?」


 移動のため銃剣の持ち手を両手でしっかり握り持ち上げるとその軽さに思わず驚きの声が漏れる。

 見た目に反してものすごく軽い。試しに片手で持っても十分運べそうだ。

 正直大きさと重さのギャップがありすぎて脳の感覚が追いつかないせいか少し気持ち悪さすら感じる。


「そりゃお前でも持ってこれた丸太サイズより小さいからな」

「でも加工とかしたらもっと……えぇ……」


 いや、自分でも扱えるぐらいの重量なのだからそれ自体は大変喜ばしいのだが、なんだろうこの気持ち。

 まだ機能のこと殆ど聞いてないのに驚きつかれてきたのかもしれない。


「はっは、良い顔してるな。その顔が見たかったんだ」


 こちらが散々驚いてる顔を見せているせいか終始上機嫌なドルン。

 彼はそのまま自分の荷物をまとめると笑いながら部屋を後にした。


「……俺達も行くか」


 寝てるドワーフはこのままほっといていいだろう。後で起きてるときにでも改めて礼を言いに来ようと思う。

 とりあえず今はこの武器の受領と使用法を優先させるべく、一同ドルンの後を追っていくことにした。


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