第91話 ドワーフとお酒3


「ヤマル、どうする? また酒場行く?」

「う~ん……いや、ちょっと考えを一旦まとめよう。コロも付き合って」


 頷くコロナとポチを伴い、一旦宿へと戻ることにした。

 宿に入ると戻ってくるのが早かったせいか女将さんが驚いていたが、軽く理由を言っては自室へと戻る。


「さて、とりあえず情報を整理しようか」

「まず既存のお酒は難しいってことだよね。一番絶賛してたのでもドルンさんの予想ではトントンぐらいだって」

「となると新しいお酒になってくるわけだけど……」


 この世界にも酒蔵もあればお酒を造る人も場所もある。

 地酒をやってるところをしらみつぶしに探せばドノヴァンの好みの酒にいずれ当たるかもしれないが、当たらない可能性も十二分にある。

 そもそも彼の知らないお酒を探すこと自体難しそうだが。


「コロもお酒さっぱりだよね?」

「うーん、地元でお父さんがお店で飲んでるの見てたぐらいだし……何を飲んでたかまでは覚えてないよ。ヤマルはどう? 向こうの知識で新しいお酒作るとか」

「無理無理。酒造に携わってた人間じゃないし、そもそも勝手に酒作ったら捕まるよ」


 確かそんな法律があったはず。

 それにお酒の知識面もそんなにない。

 醗酵とかその辺で作る?ぐらいの知識ではどう考えても普通のお酒を造るのに年単位の時間と膨大なお金が掛かってしまう。

 つまるところ……ヒントはもらえたが現状完全に手詰まりだ。


「ならお酒に手を加えるとかどうかな?」

「何か足すみたいな? 変に触ると味がえらいことになりそうだけどそれも手かなぁ」


 ポピュラーなとこだと水割りとかだろうか。

 変化球求めるならフランベもありだけど、これは『飲み』ではないから論外だろう。


「煮詰めてみる?」

「風味とか滅茶苦茶になりそうだね」

「じゃあ逆に凍らせるとかはどう?」

「氷のお酒かぁ。削れば見た目は良くなるかも——」


 頭の中でその光景を想像していたらふと、何かが引っ掛かった。

 凍らせる? いや、なんか違うけど正しい感じもする。

 なんだろう、近すぎて逆に手が届かないようなもどかしさ。何かが喉まで出掛かってるような……。

 そして考えることしばし。

 その正体がようやく掴めたところでゆっくりと顔を上げる。


「……コロ、酒場に協力頼めると思う?」

「え、ドルンさんの紹介もあるだろうしお酒のことならドワーフなら大丈夫だと思うよ。良い手、浮かんだ?」

「んー……まだなんとも。でもコロのお陰で試したいことは出来たかな?」


 そもそもこっちに来てから酒の席は何度かあった。

 でも異世界に馴染んでたせいか、はたまた『そういうもの』と思ってたせいか今まで気にも止めてないことがあった。

 幸いにもここは物造り職人と酒好きの聖地でもあるドワーフの村。今から試したいことをするには条件は十分整っている。


「じゃぁ早速行こっか!」

「よし、思いついたらとりあえずは行動だね」


 ようやく見つけた自分なりの美味い酒を飲ませる方法を試すべく、駆け足で一路酒場へと向かうことにした。



 ◇



「それでどうです。試すの協力して欲しいんですが……」

「そりゃまぁ俺としては美味い酒増えるのは歓迎だからそら構わないが……本当にそれで美味く出来るのか?」

「なんとも……自分の味覚と他の人の味覚違うかもですし、そもそも自分たちお酒あまり飲めないからマスターに色々試飲して欲しいんですよ」

「よし任せろ」


 試飲の言葉で酒場のマスターにあっさり協力を取り付けることが出来た。

 実際試すにしても色々準備はいるし場所も必要だった。なので客が少ない昼間なら、と言う条件の下でと思いお願いに行ったのだが、うまく協力を取り付けれてまずは一安心だ。


「あぁ、あとお前さんの探してた工房だがここからすぐだぞ。外出て右側に向かって三軒目だ」

「あ、ありがとうございます。早速行ってみますね」


 とりあえずそこ行って予定を聞いて空いてたら値段と相談だけど作ってもらって……。


「ヤマル、ヤマル」

「ん?」


 これからの予定を頭の中で組み立ててるとコロナに服の袖口を引っ張られた。

 彼女を見ると自分も何かしたいと目をキラキラさせている。

 ……あぁ、フリスビー持ってきたわんことかこんな感じなのかなぁ?と思わせるような仕草だった。


「……じゃあコロナにはドルンのとこにお使い行って貰おうかな」

「うん! 何買ってくるの?」

「ちょっと待ってね。今メモ書くから」


 バッグからメモ本を取り出し一ページを綺麗に破っては欲しいものの仕様と希望をなるべく細かく記載する。

 そしてそれを四つ折にし待機中のコロナに手渡した。


「希望は大体これに書いたから見せればわかってくれると思うよ。ドルンが対応出来ないなら他の人紹介してもらってその人にこれを見せてね」

「りょーかい!」

「あ、それと作製自体はまだしないように。これを作るにあたり金額と期間聞いてね。何か向こうからの質問があればそれも。もしコロが対応出来ないと思ったら後で俺が行くから、その時は案内お願いね」

「任せて! それじゃ行ってくるね!」

「慌てなくても良いから安全にねー!」


 バタバタと出ていくコロナを見送れば自分も行動開始である。

 とりあえず用意する物を集めなければ試すことも出来ない。


「わんこの嬢ちゃん、元気だなぁ」

「あの元気に何度も救われてますよ。じゃあ自分も行ってきますので、用意出来次第お願いします」


 あいよ、と片手を挙げ了承するマスターに今度は自分が見送られ店の外に出る。

 確か右手方向三軒目だったか。


「じゃあポチ、コロいないから護衛よろしくね」

「わんっ!」


 こちらも任せろ!と先程のコロナのように元気良く吠える。

 そんなポチを伴い目的の物を作って貰うべく、紹介された工房へ真っ直ぐ向かっていった。



 ◇



「親父、ちょっと良いか?」

「なんだ?」


 自室で槌を振るっていた親父の背中に声をかける。

 振り向くことなく打ち続けるのはいつものこと。この状態でも一応話は聞いているのでそのまま言葉を続けた。


「数日前に来たヤマルいるだろ、異世界人の」

「あぁ、ギブアップでもしてきたか?」

「いや、見合うか分からんが一応飲んで貰いたいもんは出来たらしい」


 カン!と一際槌の甲高い音が部屋にこだまし、親父がおもむろに顔だけこちらに向ける。


「ほぉ、思ったより早いな」

「まぁ親父のために色々やってたみたいだけどな」

「そういや他の工房の連中が言ってたな。なんか旅の人間に妙なもん頼まれたとかなんとか」


 親父も耳が早い。

 ヤマル達が別の工房で何か頼んでたのは俺も知っている。

 むしろ頼まれた側だったしな。流石に手が空いてなかったのと専門家が他にいるのでそちらを紹介したが。


「んじゃ今日の仕事片したら早速飲ませてもらうか!」

「親父、それなんだがあいつらが近くの酒場まで来て欲しいんだと」

「ふむ、と言うことは酒瓶ではないのか」


 確かに俺もそれは気にはなってた。

 普通贈り物なら酒なら酒瓶に入ってるもんだ。形状の違いはあれど大体箱詰めされた物が出てくる。

 しかし酒場まで来て欲しいと言うことは違うのだろう。もしくは観客が欲しかったとかか?


「まぁ何を用意したかは知らんがそうすることに意味があるならそれに従うしかねぇか」

「あぁ。しっかりと働いてから来て欲しいんだとさ」

「ならそいつを楽しみに張り切るとするか!」


 そして普段よりも気合いがこもった甲高い音が再び部屋にこだまする。

 俺としては楽しみ半分、不安半分と言ったところ。

 もちろん個人的には成功して欲しいし御相伴に預かりたいところではあるが、彼らは酒に関してはとんと疎い。

 親父も楽しみにしてるようだし出来るだけ変なのは出て欲しくは無いが……はてさて。



 そして時は夕刻。

 工房の仲間も思い思いに飲みへ散っていく。

 その中には珍しく親父も混ざっていた。特別な集まりや飲みでなければ部下に対して遠慮してかめっきり見なくなった光景である。


「親方、珍しいですな」

「まぁな。今日はちょっととある人間が酒用意したからよ」

「ははぁ、またおやっさんの悪い癖出ましたか」


 ある意味ヤマルに出したお題は親父が昔やってた遊びのようなものだ。

 最近ではトンと聞かなくなっただけに周りにそのことが伝播するのも早かった。

 いつの間にか親父の周りに他のドワーフが集まり、少なくないメンバーが一挙酒場へと押し寄せる。


「おぅ、来たぞ!」


 親父を先頭に中に入ると人の多さに面を食らった彼らの姿があった。

 背の低いドワーフの中において頭一つ身長が高い彼の顔は後ろからでも良く見える。


「マスター、とりあえずいつものをくれ!」

「あ、じゃぁ俺もそれで頼む」


 いつも通り入り口でエールを頼み親父と共にヤマルの近くのテーブルに腰掛ける。


「よぉ、今日は期待してるぞ。ただ用意してくれたもんあるだろうがちょっと待ってくれ。まずはエールってのがドワーフだからな」

「あ、それなんですけど……自分用意したのそのエールの代わりのものなんですよ。最初の一杯、それ飲んでもらえませんか?」


 ほぉ、と親父のみならず周りのドワーフすら興味深そうな声を漏らす。

 昔から初手エールは誰もがずっと続けているものだ。そこに手を加えたやつはあまりいない。

 いや、いるにはいたが結局様々な理由からエールに戻ってしまったが正しいか。


「いいぜ、こちとら酒が飲みたくてたまらねぇからな。早めに頼むわ」

「分かりました。マスター、お願いしますー!」


 ヤマルの声にマスターがあいよー!と返事をし、カウンターの奥へと姿を消した。

 程なくして奥から件の酒を用意してきたマスターが姿を現しこちらの方へと持ってくる。


「ラガー三つおまち!」


 ドン!!とテーブルに置かれたのはマスターが言う通りならばラガーなのだろう。

 何故これを選んだ、と思うよりも今までに無いその姿に目を奪われる。

 まず真っ先に目に付くのはそのジョッキ。この店で普段使われてる木製のジョッキではなくガラスのジョッキだった。

 ここでこれを見た覚えは無いので、多分こいつが他の工房で用意したものなのだろう。


「……なぁ、俺にこれを飲めってことか?」

「えぇ、出来ればぐいっと一気にいって欲しいです」


 ラガーを飲んだことの無いドワーフはいない。誰だって好奇心や何かで一度は口にする。

 その後はあまり飲まれないのはもはやお約束となっており、少数の物好きなどのために一応置いてある。そういう酒のはずだ。


「良いだろう。ふざけてたら後でぶん殴るからな」

「自分は大真面目ですよ。お口に合わなかったらまぁそのときはごめんなさいするしかないですけど」

「ドルン、お前も付き合え」


 有無を言わさぬ物言いに頷きガラスのジョッキを手に取る。

 瞬間、指先に冷やりとする感覚。これはジョッキ自身が冷やされているということか?

 今まで感じたことの無い感覚に戸惑いながらも親父のジョッキにこちらのジョッキを当てる。

 木で無いため幾分か気を使ったせいか普段より勢いは無かったものの、ガラス製品のためか小気味良い音が響いた。


(えぇい、ままよ!)


 以前飲んだラガーの不味さは未だ覚えている。

 文字通り苦い経験を払拭するように一気に口に含むと、ジョッキ同様冷えたラガーが口いっぱいに広がっていく。

 苦味が消えたわけでもない。今まで飲んだ、それこそ親父の相伴に預かった高い酒に比べたら一番とは言いがたい味だろう。

 だがこれは物凄く飲みやすくなっていた。以前飲んだラガーが何だったんだと言わんばかりだ。

 仕事で火照った体に冷えたラガーが心地よく、気づけば意識せずとも一気に飲み干してしまっていた。

 ドン!と空になったジョッキをテーブルに置くと思わずプハー!と声が漏れ出てしまう。

 美味い。これは仕事上がりの一杯目に飲むにはやばいぐらいに合う。

 そしてそのまま二杯目に突入しようと別のジョッキに手を伸ばすと、横から親父の手が現れジョッキを掻っ攫われてしまった。

 あ、と思うが時すでに遅し。二杯目のラガーを親父はあっという間に飲み干していく。

 そして二杯目のジョッキが空になりテーブルに置かれると、親父がヤマルの方へと顔を向けた。


「……何故これを選んだ? 他にも美味い酒はあるだろう?」


 確かにラガーより美味い酒はそれこそ山のようにある。

 にもかかわらず何故あいつはこれを選んだのかは気になるところだ。


「そうですね、理由は色々ありますが……自分は酒はあまり飲まないので美味しい酒を見つける自信が無かったんですよ。なので発想を変えて『既存のお酒を美味しくする方法』でアプローチすることにしました。ラガーを選んだのは自分の地元で一番飲まれてるからですね」

「そしてこの方法を生み出した、と」

「まさか。地元の、それこそドワーフの皆さんと同じぐらい酒好きの先人たちの知恵ですよ。自分はそれを拝借して、ドワーフの職人さんやここのマスターに協力してもらって可能な限り再現しただけです」


 苦笑し自分の力ではないとヤマルは言うが、異なる世界で再現出来るのはすごいのではないだろうか。

 実際、これほど美味いラガーを飲んだのは初めてのこと。それは二杯目を飲み干した親父も同じだろう。


「なるほど、ラガーは冷やしたらこうも変わるってことか」

「えぇ。金属製の小さい酒樽とガラスジョッキを皆さんに作ってもらいました。それをお店の冷蔵庫の一角を借りて、後は自分の魔法も使って両方冷やしました。樽は知識不足と急増品なので多分味が多少落ちてしまったと思いますけど……後多分冷やし方も本来とは違うと思いますし……」

「ふん、それでもこんだけ出来りゃ上等じゃねぇか。しかしこう手を加えるだけで変わるとか、酒についてまだ知らんことあるとは思わなかったな」


 それは俺も同じ思いだ。

 親父ほどではないにしろ、それなりに飲んで酒のことは十二分に知ったつもりだった。まさかそれを酒を良く知らない人間に……いや、酒を良く知ってる異世界の先人たちに教えられるとは。

 これが異世界交流か。得意分野一つ取っても知らないことが出てくるなんて、なんと面白いことか!


「まぁそこは今後は大丈夫でしょう。今回のラガーみたいに手法次第でもっと美味くなる、ってのは皆さんに知ってもらえましたし。自分以上にもっと美味い酒の飲み方は絶対生み出せます。何せここにいるのは酒好きで物造り一族のドワーフなんですから」

「「「「おおぉぉぉーーーー!!」」」」


 酒好きに取って自分らの好きな酒がもっと美味くなる可能性がある。

 それを知ることが出来たドワーフのボルテージが最高潮に達するのは当然と言えよう。

 視界の隅ではガラス職人のドワーフが同じジョッキを作れと他の面々に早速詰め寄られているのが見える。


「親父、どうするんだ?」

「……ち、味はともかくこんな面白いもん飲まされたら認めるしかねぇだろ。良いぜ、約束通り作ってやるよ」

「ヤマル!」

「ん!」


 にやりとどこか嬉しそうに笑みを浮べる親父の言葉を聞き、ヤマルとコロナがパチンと手を合わせ喜びを表していた。

 俺としても彼の目的に一歩近づけたようで心から良かったと思う。

 そんな中、親父が空になったジョッキをまるで催促するかのようにヤマルへと突き出した。


「あー、それでだ。出来ればもう一杯ぐらい欲しいんだが……」

「あ、ずるいですよおやっさん! 俺らも同じの飲ませてくだせぇ!」

「ちょっと待った! そんな美味いもんなら譲れねぇな!」


 今まで周りで事の成り行きを面白半分に見守ってた工房のドワーフが群がってきた。

 親父の舌を認めたラガーなら確かに飲みたいだろう。俺だってもう三杯ぐらい飲みたい。

 騒がしくなっていくテーブルに親父の雷が落ちそうになったそのとき、ヤマルが両手を合わせ申し訳無さそうに謝ってきた。


「すいません、試飲用なので三杯までしか作れなかったんですよ」

「「「「「え?」」」」」 


 他のドワーフどころか俺も、それこそ親父もその言葉にピタリと動きを止める。

 あれだけ美味かったのにたった三杯しか作れなかっただと。こいつはドワーフの酒への情熱を舐めているんじゃないのだろうか。

 そんな自分の……いや、こちらの不穏な空気を感じ取ってか彼が慌ててそのまま釈明を続ける。


「いや、だってそのガラスジョッキも専用のビール樽も自分のお金で作ったんですから数が用意出来ないんですよ。仮に用意出来たとしてもここの冷蔵庫じゃでかい酒樽なんて入らないから冷やしようが……」

「わりぃな、樽のサイズに制限かけたのは俺だ。冷蔵庫も元々食品用だしおめぇらあんま食わねぇからそこまで容量ないんだよ。あと冷蔵庫そのものの値段が高ぇから必要以上にでかいのは置けねぇしな」


 つまりあれを常時飲もうとするなら酒場の本格的な改装が必要になってくる。

 ならばどうするか。なんてこの場にいるやつなら誰も考えないだろう。

 美味い酒を飲むために努力を惜しむバカはこの場にはいない。ならば後は行動するだけだ。


「ガラス職人! お前らジョッキ量産しろ、量産!!」

「だったらそっちは樽作れ、樽! 出来ればそれでラガー買って来い!!」

「店の冷蔵庫はどーすんだ! あれ確か人王国の魔道具だろ?!」

「んなもん買え、でけぇの買っちまえ! 村ぐるみで全員がカンパすりゃ大した額でもねぇだろ!」

「大工は店の増築用の図面引いておけよ!」


 まさに混沌の坩堝、とヤマルなら言ったかもしれない。

 だがこれがドワーフだ。目的のために一致団結しバカ騒ぎに見えることですら全力で取り組む。

 そして席を立ち上がり工房へと戻りそうになる面々に向け、親父が声を張り上げた。


「おめーら、慌てんじゃねぇ!! 確かに今日飲めねぇのは非常に残念だが再現自体は簡単だ。各々やるべきことは明日に回し、俺らが今からやることはただ一つ! 飲め! 前祝だ!!」

「「「「おおぉぉぉーーーー!!」」」」


 まるで店を揺らしかねない野太い歓声に近くのヤマルとコロナはドン引きしていた。

 特にコロナとポチはドワーフの声量のせいか耳をペタンと押さえているほどである。

 そして周囲でドンちゃん騒ぎが起きる中、今後のことを考えより近くにいたコロナに身振り手振りで注意を促す。

 端的に言うと巻き込まれる前に逃げとけ、だ。

 こちらの意図が伝わったのかコロナはポチを抱き上げヤマルの手を引こうとするが、時すでに遅く彼は親父以下複数のドワーフに囲まれていた。

 各々が自分の好きな酒を述べ、どのようにしたら美味くなりそうかを彼に聞いているがどうにもしどろもどろと言った様子。とても脱出出来るような状態ではなかった。

 そんな彼女が取った選択は——逃げの一手だった。確か前に酔い潰れたと言ってた気がするが相当変な酔い方でもしたのだろう。

 ヤマルが恨めしそうな視線をコロナに送るが、彼女は両手を合わせごめんと頭を下げるとそのまま音も無く店を後にする。



 その後も大宴会と言う名の店を貸し切ったドンちゃん騒ぎは続き(もちろん自分も参加した)、深夜になりようやく皆が満足して帰っていく。

 そして自分の座ったテーブルでは色々飲まされグロッキー状態の人間が突っ伏したまま残される。

 ピクリとも動きそうになかったためため息一つこぼすと彼を肩に担ぎ上げる。

 そして今日の一番の功労者を宿まで送り届けることにしたのだった。


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