第78話 次の行き先は


「今日は本当にありがとうございました。すごく楽しかったです」

「いや、私たちこそ久々に会えて良かったよ。王都に戻ったらまた食事でも行きましょう」


 お店の入り口でセレブリアと硬い握手を交わす。

 今日はあちらが誘ったということですべて彼に出してもらった。悪いと思い申し訳なくしていると、代わりに今度何か自分に出来ることがあれば手伝って欲しいという約束を交わす。


「ヤマルさん、今日はありがとうございました」

「いや、特に何もしてないし気にしなくて良いよ。また愚痴ぐらいならいつでも聞くからさ」


 いまだ目が覚めぬラットを背負いながらセーヴァが頭を下げる。

 そして同じようにコロナを背負いポチを頭に乗せたままセーヴァとも握手を交わした。


「宿まで送らなくても大丈夫ですか?」

「んー……まぁ多分近いし大丈夫だと思うよ。何かあれば大声あげるからさ」

「分かりました。それでは気をつけて帰ってくださいね」


 そっちもね、とセーヴァに返し、再度頭を下げては宿の方へと歩き出す。

 背に乗るコロナは相変わらず小さく寝息を立てているだけだったが、ここまでお酒が入るとダメなのは予想外だった。

 単に慣れてないだけかもしれないが、旅の間はなるべくお酒は飲ませないようにしようと心に誓う。


(夜なのに人多いなぁ……)


 深夜に入りそうな時間なのに流石大都市と言うべきか。歩く大通りは魔道灯が何本も連なり道行く人々を明るく照らす。

 そんな中コロナが滑り落ちないようおぶさっていると、なんかものすごくコレジャナイ感が出てきた。


(おかしいなぁ。女の子おんぶするシチュエーションってもっとこうドキドキするものだったはずじゃ……)


 いや、べったりとコロナの顔が肩に乗ってるのでまったくドキドキしないわけではない。

 女の子特有の匂いもそれに拍車をかけている。

 ただそれ以上にコロナの格好に問題があった。簡単に言えば普段通り……つまり傭兵ルックである。

 装備重量のせいで小柄な彼女の体格に反してそこそこ重いし、何より

 こう、マンガとかなら女性特有の膨らみが背中越しに当たってわたわたするのがテンプレなんだろう。だが実際背中に胸は確かに当たってるがそれは彼女が装備しているブレストプレート。

 密着してるため胸の形に湾曲した金属の板が背中に押し付けられ、まるで下手なツボマッサージを受けてるように思えるぐらい痛かった。

 自分の腰にくくり付けた彼女のガントレットや履いているグリープが歩くたびにガチャガチャと金属音を出すのも、甘酸っぱくなりそうな雰囲気を良い感じにぶち壊してくれる。

 そんな中、上下に揺られながら歩いてたせいかコロナがむくりと顔を上げた。


「ふぁ……?」

「あ、起きた?」


 こちらからは彼女の顔は見えないが、密着してた体が離れたので目を覚ましたのだろう。

 反応がいまいち鈍いのは寝ぼけてるせいか、お酒がまだ残ってるせいか。


「ヤマルの背中だー……」


 力ない声でそう言うと再び顔を肩に密着させてくる。

 寝ぼけてるか酔ってるかは分からないが、少なくとも正気でないのだけは分かった。


「ん~……」

「……何してるの?」

「マーキングだよぉ」


 そんな犬みたいなことしなくても、と思ったが彼女は犬型獣人。もしかしたら自分が知らないだけで普通はするものなのだろうか。

 しかし頬をぐりぐりとこちらの頬や肩に押し付けるのはやめて欲しいところだが……今は好きにさせておくことにする。

 もし仮に酔ってたとして彼女が暴れでもしたら自分じゃ手に負えない。せめて宿までは彼女の機嫌を損ねないよう細心の注意を払う必要がある。


「これでぇ……ヤマルは私のものー!」


 あ、こりゃ寝ぼけてじゃなく酔ってるわと状況を断定。

 いつもと違うテンションの彼女に戸惑いながらもなんとか外で迷惑をかけることなく宿へと到着する。

 しかしそれからもまだまだ大変だった。

 そのまま彼女の部屋まで運んだときには『今からおとなの時間でしょー』とか言い出し、流石にそのまま寝かせるわけにはいかないためせめて防具だけでも外そうとしたら『ヤマルのえっちぃ』と見事なまでにテンプレ酔っ払いの言葉を浴びせられた。

 それでもなんとかコロナを宥めすかしながら布団に入れると、彼女はものの十秒も経たず再び寝入ってしまった。


「ふぅ……これでよし、と」


 日本での飲み会酔っ払いズに比べれば全然マシだったなぁと当事を思い返し、コロナの部屋を後にする。

 あの様子では朝までぐっすりだろう。

 女将さんに頼みスペアキーで彼女の部屋は施錠させてもらい、自分も部屋に戻り今日は休むことにする。


 久しぶりの楽しい時間に幸福感を覚えつつ布団の中で目を瞑ると、思ったより疲れていたのかそのままあっさりと意識が遠のいていった。



 ◇



「やだぁ、今日は顔見せたく無、いたたた……」


 明けて翌日。

 珍しく中々起きてこないコロナを心配し部屋を訪れるも彼女は頑なにドアを開けてくれなかった。

 理由を言っても教えてくれず、今日は顔を見たくないの一点張り。

 自分が何かしたかな、と思い理由を尋ねるもやはり教えてもらえない。

 仕方ないので女将さんに頼み同伴の元、彼女の部屋の中へ入らせてもらった。

 中に入るとまるで身を護るかのようにベッドの上で布団を被り丸くなっているコロナが居た。

 全身を完全に覆い隠す姿はまさに貝を髣髴とさせる。

 とは言え理由も分からず部屋に篭らせる訳にもいかない。なのでせめてそこだけでも教えてもらえないか再度問いただすと何とか回答を得ることが出来た。


「だって私昨日あんなことして……あと頭痛い……」


 布団から出てこないためくぐもった声だが、どうやらコロナは酔っていた間のことは記憶に残るタイプのようだ。

 そのため正気に戻った現在、昨日の帰り道から寝るまでのことを思い出し羞恥で悶え死にそうになってるんだろう。あと二日酔いで頭が痛い、と。

 まぁそういうことなら今日は休ませた方がいいか。本人も心身ともにまいってるみたいだし。


(難儀なタイプだなぁ……)


 酔ってた自分を覚えてるとか一番キツいだろうに。

 ともあれ彼女が癒えなければ旅は続けれないので、今日はもう一泊滞在することにする。


「まぁ今日はゆっくりすると良いよ。後で水筒にお水入れてくるから」

「うん……」


 未だ布団から顔を出さないコロナを見ると今日はもう顔見せは無理そうである。

 なら空いた今のうちに買い物だけ済ませておくことにした。


「じゃあ買い物行ってくるから。明るいうちに戻ってくるからね」


 ついでに二日酔い向けの薬でも見てくるかなぁ、と考えつつ、コロナに水筒だけ渡し街へ繰り出すことにした。



 ◇



 更に明けて翌朝。


「もう大丈夫?」

「うん。その……ごめんね」

「まぁお酒だけはお互い気を付けるようにしよっか。発覚したのがこの街でまだ良かったよ」


 コロナの部屋に迎えに行くと今日はちゃんと顔を見せてくれた。

 ただ一昨日の一件と昨日丸一日潰してしまったせいか申し訳なさそうしている。

 椅子に座る姿もまだ肩が落ちており、しゅん……という擬音が聞こえてきそうな感じだ。


「気にしないでいいよ。お酒入るとあぁなることはままあるし慣れてなかったのもあるだろうしさ」

「うん……」


 フォローは入れるもやはり今一つ元気が無い。

 ならばと思いもう少しテコを入れることにする。幸いにもちょっとだけ手はあるし……。

 自分のカバンの中を漁り目的のものを探しそれを取り出した。

 昨日買い物に行った際にセーヴァ達のとこに行き王都へ向かう彼らを見送った。その時セレブリアから譲り受けた……ではなく買い取った物だ。

 ちょっとどころかかなり値は張ったが、相場的に見れば安いのは知り合い価格だからとのこと。

 綺麗に包装された小さな箱をコロナに差し出した。


「はいこれ」

「え、これは……?」

「コロへプレゼント。開けて良いよ」


 なんだろう、といった様子でコロナが包装を剥がし中の箱を開けると、彼女の手のひらサイズの真っ赤に染められたすでに結んである状態の小さなリボンが姿を現した。

 結び目の部分には金色に縁どられた台座に深紅の色をした宝石がはめられ、それだけでブローチとして使えそうである。


「ほら、コロも女の子だし少しぐらいお洒落しても良いかなって思って。それにただのリボンじゃないよ、なんと魔道装具なのです!」


 心持ちテンション高めにどやってみる。

 このリボンはセレブリアのツテで購入した試作型の魔道装具。込められた魔法は《魔法の盾マジックシールド》だ。

 どの辺りが試作なのかと言うと、本来の魔道装具と違い自動発動タイプであることと、発動箇所を限定している点らしい。

 もっと詳しく言えば一定以上の頭部への攻撃を自動で防護するリボンと言えば良いか。

 防護箇所を頭限定に狭めたことで使用回数の増加と自動発動を付与したからこその試作型なんだそうだ。

 それをコロナに説明すると、彼女は目をぱちくりと瞬かせた。


「え、魔道装具ってものすごく高いんじゃ……」

「まぁ安い物じゃないけどちょっとツテで良い値段で買えたからさ。見た目もコロに似合いそうだったし、これならアクセサリー感覚で着けて頭護れるしね。気にしないで……って言っても多分気にするだろうから、代わりにこれつけて今後も護って欲しいなって」


 どうかな、と再度尋ねると、彼女はしばらくじっとリボンを見ていたが、しばらくしてそれを箱から取り出すとこちらに突き出してきた。

 やっぱ少し重かったかなぁ、と思うのと同時、なんで中身だけ?とやや困惑していると、コロナはこちらを見上げながらこう言ってくる。


「ヤマル、着けてくれる?」

「え?」


 戸惑うこちらをよそに、コロナはそのままリボンをこちらに渡してきた。


「折角のヤマルからのプレゼントだもん。ちゃんと最後までやって欲しいな」

「ん、りょーかい」


 元々彼女を元気にするための行為の一環だ。コロナがそれを望むなら受け入れるべきだろう。


「どこにつける?」

「ヤマルのセンスに任せるよ」

「また難しいことを……あんまし期待しないでよ」


 このサイズのリボンだと後頭部は映えないから駄目だろう。

 頭頂部付近はコロナの犬耳が干渉するので却下。耳の間は論外。

 となると……。


「ここかな?」


 リボンとは言え結ぶわけではなく取り付けるタイプである。

 彼女の側頭部、左の犬耳の付け根のちょっと下辺りにリボンをつけた。ここなら耳の邪魔にならないし見映えも悪くない……と思う。

 それにコロナのピンクの髪と耳の内側の白毛、赤いリボンの三色が良い感じにマッチングしていた。


「どう、似合ってる?」

「うん。似合ってる、可愛いよ」


 世辞でもなく本心からな感想。

 それを聞いたコロナはいつもみたいな百面相をすることもなく、ありがとうとはにかんだ笑顔を見せてくれた。



 ◇



「登録済ませてきたよ」


 クロードの冒険者ギルド。ここも王都の冒険者ギルド同様、割と厳つい強面の面々が集う場所であった。

 あの後コロナとポチを連れこの場所へやってきた。

 仕事が何かあれば、という理由も勿論あるが、ここで王都から来たと足跡を残すことで自分に何かあったときや用事があるときに追いやすくなるのだ。

 ……まぁ義務づけされてるわけでもないのでしなくても良いのだが、なるべくやるようにと言われたらやるのは日本人の性かもしれない。

 ただしここは異世界。あちらならマメとか言われそうな行為でもここでは事情が異なる。


「Dランクが何いっちょまえなことやってんだよ」


 見ず知らずの同業者に急にいちゃもんをつけられる。

 そう、ギルドに行き先提示や足跡を残すのは基本どこにいるか早く判明したい上位の冒険者だ。

 そのため低ランクの冒険者がやると、背伸びしてるように見なされてしまうのである。

 まぁ勿論そのことは知ってたのだが、なるべくルールは遵守したいので守るようにしていた。

 なのでこう言われるのも想定内だし、事情も知ってるので特に腹を立てることもない。


 ただしそんな事情を知らない人にはどう取られるかは言うまでもない。


「む……」

「はい、募集板の方へ行くよー」


 リボンを貰いずっと上機嫌だったコロナの様子が一転するのがわかった。不穏な空気を感じとったので彼女の肩を押しその場から早々に退散させる。

 なんで?!と詰め寄るコロナに先の事情を説明すると不承不承な様子であったがなんとか怒りを納めてくれる。

 そして改めてここの依頼募集掲示板に貼られた依頼内容を読み取る。


「王都とは少し違うね」

「多分土地柄なんだろうね」


 貿易都市のせいかアイテム入手系の依頼が極端に少ない。

 物が手に入りやすい土地柄のせいか、もしかしたら行商人から手に入れるような暗黙の了解があるのかもしれない。

 代わりに冒険者ギルドにも護衛の依頼はいくつかあった。

 この辺は傭兵ギルドだけでは手が足りてないのかもしれない。何せこの街を中心に四方に道が延びているわけだし。


「何か依頼受ける?」

「うーん……」


 お金は現状急ぎ必要ではない。だがそろそろ何か受けても良いかもしれない。

 ぶっちゃけるとここ一週間延々移動だけだったので何かしたいというのもある。


「私は少し受けたいかも。あまり長く間開けてると体なまっちゃうし」

「なら移動しながら出来るやつが理想だけど……問題は行き先だよね」


 獣亜連合国方向に向けての依頼は見る限り無い。

 セレブリアがあちら方面の道が途切れてたみたいなことを言ってたのでその影響かもしれない。


「迂回する?」

「んー……そうだね、確実性取ろうか。となると……」


 迂回の経路を頭に描きそう判断を下す。足止めどころか最悪後戻りを考えると先に進むことを優先させることにした。

 その分多少日数がかさむが、その旅費は依頼でカバーするつもりだ。


「これが良いかな」


 一枚の護衛の依頼書を手に取りギルドへ提出することにした。


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