第79話 魔術師の街へ


「依頼OK出て良かったね」

「まぁあれは完全にコロのお陰だけどねぇ」


 依頼はマギアと呼ばれる魔術師の街への商隊の護衛補佐だ。

 メインの護衛には傭兵ギルドから数名守りに着く予定であり、自分らの他にも冒険者が少数その補佐として着くことになる。

 ただギルドに依頼の紙を持っていったときは本当にこれ受けるのか?みたいな顔をされた。

 一応募集文にはDランク以上のパーティーと書かれてはいるが、パーティーと言えど【風の軌跡】は実質ペアである。

 ポチも戦えるが頭数に入らないと見越されるため、Dランク冒険者がリーダーのペアパーティーと言うのが世間一般から見た妥当な評価だ。

 その上でここの職員は大丈夫か?と言いたかったのだろう。

 とは言え募集要項は満たしているし、何より今回は依頼主との簡易面接もある。職員が足切りして余計な反感を買うぐらいなら、あちらで判断してもらった方が良い。


(なんて思ってたんだろうなぁ)


 結果は職員の予想通りことが進み渋い顔をしていたが、Bランク傭兵コロナの存在が発覚すると見事なまでの手の平返しで即採用だった。

 いや、手の平返しと言うか雇用側からしたら普通か。Dランク冒険者募集したらBランク傭兵がおまけでついてきたみたいなもんだし。


「それで今日はどうしよっか」

「んー……ゆっくり街を見て回ろうか」


 出発は明日の朝。

 ここまでで使った消耗品は昨日補充したし、今日はゆっくり街を見よう。

 何せコロナは昨日一日寝てたから全然見て回れてないし。


「あ、一応買ったもの言うから確認してもらっていい? 足りないものあれば買い足しときたいし」

「うん」


 後ろから刺さる同業者からの視線に気づかない振りをしギルドを後にする。

 王都もここもやっぱり女性の冒険者少ないんだなぁ、と思いながら今日一日をゆっくり過ごすことにした。



 ◇



「はぁ~……カバンが軽い」

「だってあれは……まさか全額そのままカバンに詰めてるとか思わなかったよ……」


 翌朝、時間に余裕を持って宿を出立し指定された集合場所へと向かう。

 早朝というのに大通りを往来する人や馬車は多い。露店もこの時間は商品ではなく、片手で食べられそうな屋台が目立っていた。


「いや、まさか宝石に換金するなんて……」

「こっちこそ紙のお金が普通にあるのびっくりしたし……良くそれで取引出来てたね」


 そう、自分にとってお金はそのまま使うものという概念だ。

 金貨も銀貨も銅貨もすべて一万円とか五百円とかそのような感覚で使っていた。そのためジャラジャラ持ち歩こうともそういう物だと思っていたのだ。

 ただそんな貨幣を大量に持ち歩いては色々不都合がある。

 特に良く稼ぐ上位冒険者ならば報酬の量も馬鹿にならないし、何より先も言ったようにとにかく重い。

 だからある程度お金がまとまったらどこでも同額の値段で売買出来る宝石に交換するのが普通だったらしい。

 今までコロナが気づかなかったのは、彼女に渡していた個人資産以外のお金はすべて自分で管理していたからだ。


 ちなみに宝石はこの街の商業ギルドで交換してきた。

 他の店で買うのもありと言えばありだし、物によっては儲かることもある。だがその逆もあるため安全を期し、確実に同額で取引出来る物と場所を選択した。


「まぁかなり精巧に作れるし、偽物防止も当然仕込んであるし」

「一枚一枚に? すごいね……」


 知らない人から見たら紙幣はそう見えるのか。

 未だこう言った常識の差異は度々出てくる。今後どれだけ出てくるのだろうか。


「お、あれかな」


 集合場所に行くと昨日の依頼主の男性が他の人と一緒に馬車に荷を詰め込んでいた。

 近づき挨拶をすると彼は何故か驚いた表情をしていた。

 あれ、時間間違えたかな?なんて思っていたら、依頼主がその理由を教えてくれる。


「いや、冒険者って割とギリギリまで来ない人が多くて」

「そうなんですか」


 確かに周りを見れば今日一緒の予定の冒険者も傭兵の姿も居ないようだ。

 積み込みの手伝いでも、と一応聞いたが、手順やら何やらあるらしく知ってる人間でやりたいとのこと。

 まぁそれなら邪魔するわけにもいかないので時間まで端っこの方で待っておくことにする。


「コロ、護衛の補佐ってどんな感じなの?」

「んー……基本は索敵とか周囲警戒かな。馬車の上とかに登って魔物が来ないか見るの。戦闘になったら傭兵が前に出るって感じだから、傭兵は戦闘が無ければ馬車の中にずっといるよ」


 傭兵は敵が居なければただで儲けれるわけか。

 でも安全をお金で買うなら仕方ないよなぁ。護衛つけずに外に行って、いざ襲われたじゃ命に関わるし。

 そんな話をして時間を潰していると街の方から武具を着込んだ人が四人ほどこちらにやってくるのが見えた。

 どれも男性だ。金属防具が目立つので彼らは今回同行する傭兵のようだ。


「あれー、女の子いるじゃーん」


 先頭にいた茶髪の男性がコロナを見て声をあげる。

 その後ろでは同じ傭兵仲間と思しき面々が『よっしゃー!』とか臆面も無くテンションをあげているのが見えた。

 やっぱ男の子だなぁ、とやや微笑ましく彼らを見ていると、自分の横にいたコロナが『うわぁ……』と言いたげな何とも言えない微妙な表情を浮べていた。

 まぁ、ノリが軽そうなのであまり良い印象は無いかもしれないが今回は仕事である。その点は多少は嫌でも我慢するようにと小声で彼女に注意を促しておいた。


「どーも、今回俺らと一緒に仕事する子だよね? いやー、こんな可愛い子と一緒にお仕事できて嬉しいなぁ」

「は、はぁ……」


 完全に一緒にいる自分のことを無視してコロナに話しかける傭兵。

 なんというかここまで来るといっそ清々しいものすら感じる。


「まぁ何が来たって俺らが倒すから安心してりゃいいよ。あ、何なら一緒の馬車乗る? 一番安全な場所だと思うよ」

「いえ、一緒の人がいますので……」


 ちらりとコロナが視線をこちらに向けるとようやくと言った感じで傭兵の男性もこちらに視線を送る。

 まぁ予想通りと言うか何と言うか……え、こいつ?と言うのが聞こえてきそうなぐらいの視線だった。


「ふーん……まぁなら仕方ないか。でも何かあればすぐに言ってくれよ」

「あ、はい」


 しかし仕事前であるせいか雇われ立場は弁えているのか。特に何か言うことも突っかかる事も無く彼らは依頼主の方へと向かっていった。

 男性たちが離れたことにコロナがほっと胸を撫で下ろしている。


「あーゆーの苦手?」

「あんまり好きじゃないかなぁ。こう無神経にぐいぐい来られるのはちょっと……」

「まぁ仲良くとは言わないけど当たり障り無いように接してね。どうしてもダメそうだったらすぐに言って」


 若干不安なものの目的地まで何事もない事を祈るしかない。

 その後他の冒険者パーティーも集まり、全員が揃ったところで貿易都市クロードを後にするのだった。



 ◇



 やはりと言ってはあれだが、道中は割と平和であった。

 王都を直接繋ぐ街道ではないものの、ここはクロードと結ぶ主要街道の一つ。人通りもそれなりにあるため魔物も見かけることはあっても襲うまでには至ってなかった。


「のどかだねぇ。外で見張るのも悪くないもんだね」

「はっは、そりゃこの天気じゃそうなるな。だが仕事はしっかりやってくれよ」


 商隊は荷馬車が三台から構成されている。その最前列の馬車に【風の軌跡】は配置された。

 前方警戒は大事なポジション。真っ先に狙われてもおかしくは無いが、コロナがいると安心出来るらしい。

 荷運びの幌馬車の前面部、馬の手綱を握る業者のおじさんの後ろに自分とコロナが肩を並べる形で座っていた。

 ちなみに索敵向きのレンジャーがいた別の冒険者パーティーは真ん中の馬車の屋根の上に取り付けられた見張り台から周囲警戒。

 傭兵達は一台目と二台目に一人ずつ、最後尾に二人配置された。

 なお誰が一台目になるかで傭兵達が仲間内で揉め事を起こしかけたのをここに付け加えておく。


「おーい、冒険者ぁ。見かけたら早めに教えてくれよー。俺のかっこいいところ見せてやるからさ」

「自分としては誰の出番も無いのが理想ですけどね」

「はっ、臆病者め。コロナちゃん、やっぱそいつなんかより俺らと一緒に仕事しようぜ。もったいねーよ」

「お断りです」


 本日何度目かの引き抜きの勧誘。

 最初はやんわりと断わっていたコロナも度重なる同じ問いかけにもはやうんざりしたのだろう。ツンと彼から顔を背け遠慮無くばっさりと両断していた。

 もはや取り付く島が無いと言った様子なのに、まだ諦めてなさそうな感じなのはある意味すごいと思う。

 そんなやりとりをしていると業者の男性が珍しそうな顔でこちらを見てきた。


「ほぉ、兄ちゃん冒険者にしちゃ珍しい考え方してるな。武勲はいらんのか?」

「武勲より安定の方が良いですねー」

「はっは、安定と真逆の職でか! だが俺は嫌いじゃないぞ。旅の道中なんて何にも無いのが一番だしな」

「何にも無かったら傭兵おれらおまんま食い上げなんだけどなー」


 盛大にフラグを立てる傭兵だったが、彼には残念なことではあるが何も起こらない。

 まぁ何か起こったときのため、と言うよりは何も起こさないための護衛の傭兵と冒険者なのだから当たり前と言えば当たり前だ。


 その間自身の腕に自信があるのか、単にそれ以外見せ場が無いのか、彼らのコロナへのアプローチは相変わらずだった。

 結果、限界に達したコロナが一日もたずに泣きついてきたため仕方なくGOサインを出すハメになる。

 あのしつこさは流石にどうかと思ったのも勿論だが、彼らと違い補佐側のこちらは一応索敵や周囲警戒の仕事があるのだ。

 それを邪魔されるのもだし、何より依頼主側も迷惑そうにしてたので白黒つけることにした。


「良いところを見せてくれるんですよね?」

「おぉ、いいぜいいぜ。俺らのかっこいいところしっかり見ててくれよな!」


 休憩時間を使っての模擬戦。

 にこりと笑みを浮べて彼らを誘ったコロナだったが、その後姿からは怒りのオーラが漏れていたのが何となく分かった。と言うか後ろから見ると尻尾が逆立っているのが良く見える。

 念のために言うが彼らは傭兵としてはCランクであり相応に腕に覚えのある面々である。

 そして自己紹介のときにコロナがBランクである事も一応知っているはずだ。

 にもかかわらずどうしてあそこまで強気に出れるのか理解に苦しむ。確かにコロナは見た目ではそんな強いようには見えないが、人より身体能力に優れた獣人でもあるのに……。

 コロナが彼らより若いからか、はたまたそこまで強そうに見えなかったからか。

 ランクがすべてではないものの一応強さの指針にはなるはずなのだが……。


 結果は……まぁ言うまでも無かった。

 一人目の傭兵をコロナが完膚なきまでに叩きのめしたところで、向こうの心が完全に折れた。

 二人目が出るといった気概を見せることもなく、以後ちゃんと真面目に仕事に従事するようにと依頼者に言われたところで大人しく従ってくれるようになった。

 

「ふぅ、すっきりした」


 そう言ってコロナはとても清々しい笑顔を見せてくれたが、流石にぼこぼこにされたあの傭兵が視界に入った状態では同じ男として多少なりとも同情はする。

 なので鞭が入ったところで飴を投入することにした。

 自作ポーションを彼に渡しやんわりと諭すことで、以後の道中で恨まれぬよう心のケアを施す。

 単にこれ以上面倒ごと起こされないようにしたいという私欲からだったが、彼からしたらどうもあれだけ酷い事言ったのに優しくしてくれた自分が聖人に見えたらしい。

 物凄く感動されお礼を言われてしまった。


(……なんか俺、すごい詐欺師みたいだな)


 仲間使ってボコった上でポーションで懐柔。

 うん、向こうの自業自得な部分もあるがこれは酷い。自分でもドン引きするほどだ。


「まぁ気にしないで。同じ仕事仲間だし、頑張って護衛を完遂しよう」

「はい!」


 流石にこれ以上は気が引けたので当たり障り無い言葉を返し、とりあえずこの場を何とか終わらせる。

 その後の彼らは至って真面目に取り組むようになり、今まで以上に平和な道中を進むことになった。



 ◇



 その後中継地点の宿場町を経由しクロードを出てから三日。

 ついに目的の魔術師の町マギアの姿が見えた。

 その外観は今までの街と同様、街全体を被うような壁があるが、特に目立つのはこの位置からでも見える塔のような建物と街門だろう。

 街門の上部に物凄い大きな宝石のような石がはめ込まれており、それが定期的に様々な色に変化しているのが見える。

 その下では街に入るための検問待ちの人がずらりと長蛇の列を作っていた。


「おー、今日も並んどるなぁ」


 業者の人の言葉からあの列がいつものことなのだということが窺い知れる。

 不思議に思い彼にあの宝石っぽいものと長い列のことについて尋ねてみた。

 あれらはこの街を知ってる人にはある種名物のようなもので、宝石はその下を通る生物の魔力を測定し量に応じて色を変える仕組みの魔道具なのだそうだ。

 多い魔力を持つ人をスカウトするためにあるものらしく、警備の兵と住人の魔術師がほぼセットであの街門に常駐しているらしい。

 ただし測定が基本一生物ごとのため、検査と測定でいつも時間かかるのだそうだ。


「まぁあの街じゃ仕方ないことだな。何せ魔術師の聖地みたいなもんらしいし」


 元々人間の魔術の開祖とも呼べる伝説の魔女が大戦時にあの地で研究をしていたのが街の成り立ちらしい。

 そのため国内から魔術に覚えのある人はここに集い、あそこにある学校で魔法を学ぶことが一種のステータスになっているのだそうだ。

 またその様な事情があるため特に魔力の多い人も集まりやすく、何か問題があったときのためにマークする意味合いも兼ねてるとのこと。


「なるほど……まぁ俺らは特に大丈夫だよね」

「そうだね」


 何せ魔力が殆ど無いため引っかかりようのない人と、普通程度しかない前衛の魔力値だ。

 これがセーヴァやセレス、ローズマリーならどうなってたか分からないが、自分たちなら問題が起こる方がどうかしている。


「しかし魔術師の街か……何か良いアイテムあるといいなぁ」


 特に自分かポチ向けの何かあれば買ってみようかと思いつつ、荷馬車はゆっくりと街門へと向かっていった。

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