第64話 立場
「レーヌ様、どうかされましたか?」
今までよりもずっと豪奢な自分にあてがわれた自室。
領地の部屋より広くいま一つ落ち着かないが、周りが言うにはそのうち慣れるとのこと。
でも今一番慣れないのは……。
「いえ、なんでもありません」
「そうですか。何かございましたら遠慮なくお申し付けくださいね」
にこやかな笑顔を浮べる自分の侍女。
昨日から女王付きの侍女として自分よりもずっと年上の彼女がつきっきりで世話をしてくれている。
彼女以外にも総勢十名以上から成るメイド達。
元々王族の身の回りをしていた人達だけあり、仕事ぶりには文句の付け所も無い。
女王としての自分に対しては相応なのだろうけど、レーヌ個人としては過剰なぐらいに感じてしまう。
(メイにも来て欲しかったな……)
母親が後妻となる前からずっと自分の身の回りの世話をしてくれた一人の侍女を思い出す。
同い年ということもあり、主従関係ではあったもののそれ以上に友人としてずっと一緒にいれると思っていた。
今回自分が女王になることによりメイも一緒に連れてきたかったのだが、一貴族の侍女としてはともかく唯一の王族の侍女としては能力も出自も足りなかったらしい。
彼女は笑顔で送り出してくれたものの、ずっと一緒にいた人がいないのは不安で仕方なかった。
「それにしてもレーヌ様も災難でしたね。来て早々あんな事になるなんて」
「え、えぇ……」
曖昧な笑みを返しつつ言われた昨日のことを思い出す。
保護されたあのとき、一緒にいたあの人は兵士隊に取り囲まれ捕まってしまった。
自分がいくら違うと言っても騙されてると言われ聞いて貰えず、そのまま引き剥がされ城内へと保護されてしまった。
その後の話は何も聞いていない。
ひどいことされてないと祈るしかないのがもどかしい。
「まぁレーヌ様を
「え?」
「その住人には手厚い補償を持って釈放されるみたいですよ」
あぁ、そういうこと。
つまりこの侍女はすべてを知った上でこういう話で終わらせましたと報告しているわけか。
その話を聞いてあの人が無事で良かったと心から思う。でも……
(ヤマルおにいちゃん、きっと怒ってるよね……)
この様子ではきっと嫌われてしまったとしても無理は無い。
一般人のあの人と王族となってしまった自分ではもはや今後接点を持つことも無いだろう。
つまりそれは二度と謝る機会をも失ったことになる。
王族としてその様な細事なんて気にするな、なんて言われそうだけど、一方的に迷惑かけて何もしないのはどうしても気になってしまう。
手紙でも書ければいいのだけど、立場上きっと中身を見られてしまうんだろう。下手したら送りましたとだけ言われて手紙は闇の中、なんて可能性もありそうだ。
「はぁ……」
「レーヌ様、その様なお暗い顔をされてはいけませんよ。上に立つ人間がそのようでは下の者達も不安がってしまいます」
自分のような子どもに上に立たれる時点で不安になってしまうんじゃないのかと思ったが、それは心の中だけに留めておく。
確かに王族の血『だけ』は引いているが本当にそれだけ、他に何も無い。
暗い顔をしてはいけないのは何となくは分かるけど、逆にそんな他所から来た子が偉そうにしてても良い気分にはならないんじゃないだろうか。
「大変でしょうがレーヌ様はこの国に残った最後の血筋の方です。周りも十分サポート致しますので、一緒に頑張っていきましょう」
ね?とにこやかに笑顔を浮べる侍女に何とか首を縦に振る。
もはや大人が決めた決定事項に従う他なく、今日から女王になるべく様々な勉学や授業が待っているのだった。
◇
「おじ様、お待たせしました」
「おぉ、来たか」
本日最初に訪れたのは国王や側近などが仕事を行う執務室。すでにそこで待っていたのは摂政のおじ様だった。
とは言え座学は別の先生がいるため、おじ様からは実際の仕事の様子を見学しながら実地研修を行うとのことだった。
……そう聞いていたはずなんだけど。
「あの、そちらの方は?」
「女王陛下、お初にお目にかかります。スヴェルク=ルードヴィッヒと申します」
おじ様の隣に立っていたモノクルをかけた老執事風の男性が淀みない動きで会釈をする。
あまりにも自然すぎてそれだけで思わず見とれてしまうほど、彼の所作は様になっていた。
「彼は私の手伝いをしてもらってる一人だ。今回は別件だがこちらに来てもらった。……さて、すまないが席を外してもらえるかね」
「かしこまりました」
自分とおじ様の侍女が頭を下げ部屋を出ていく。
まるで祖父二名と孫みたいな三人だけがこの場に残された。
「まぁ最初からあれこれ詰め込んでも仕方ない。まずはこの国のこと、周辺領土や歴史も含め話していこう。もし習った部分があったら復習と思いなさい」
「はい」
そう言っておじ様は淀みなくテーブルの上に資料を置き、一つ一つ丁寧に教え始める。
確かに習った部分もあったりはしたものの、知らないことも沢山あった。これでもまだまだ基礎中の基礎と言うのだから先は長いんだろう。
そして話は国の秘術の部分へと入る。
「秘術……異世界の方たちをお招きして、でしたか」
この国が困窮に陥ったとき、異世界からの救世主が救うという御伽噺のような本当の話。
実際は救世主一人でどうこう出来るようなことはなく、彼または彼女を中心に皆で力を合わせ乗り切ってきたのがこの国の歴史だ。
存在自体は自分も知っていた。ある地方の領主が異世界人の末裔というのは有名な話だったし。
そしてふと、気づく。
流されるままに何も知らない自分が王位につこうとしているこの現状は、国が危ないときではないのだろうか。
そもそも王族が自分以外亡くなってる時点でもはや瓦解一歩手前なのでは……?
更には隣にいるこのスヴェルクと言う人。自己紹介のときに特に地位について何も話さなかった。
普通貴族などならどこの家の者の誰々、みたいなことは必ず言うはず。
つまりこの人は……。
「あの、もしかして……」
「女王様は聡明であられますな。その通りです」
何も言わずとも考えていた通りだとスヴェルクは肯定する。
彼こそ今回呼ばれた救世主。この場にいるということは政に詳しい人……ではなかった。
その後のちゃんとした自己紹介と一緒に現在の彼の仕事は教えてもらった。
そして今回何故王族が居なくなったのかの経緯についても……。
そんな恐ろしいことが起こってるなんて知りもしなかった。
もしかしたら今度は自分が……なんて不安が過ぎるが、犯人については目星がついているらしく手は打っているらしい。
しかし子どもだから詳しい事は分からないが、王様もだけど王城内の中心人物が殆どいなくなっちゃうのはまずいんじゃ……。
えーと……もしこれが自分がいたところに置き換えると……。
領主のお父様、お母様、それとお兄様と自分が死んでお家断絶。さらに執事長、料理長、庭師、警備隊長も……。
うん、家が傾くどころの騒ぎではないのはよく分かった。
こちらの考えがまとまったところで、おじ様は救世主のことについて話を続ける。
「そのため今回は十名もの召喚を行った。彼はその内の一人であり、他の救世主たちも得意分野にてそれぞれ働いてもらっている」
「まぁ、そんなに……! もしかしたらすでに会ってる方もいらっしゃるかもしれませんね」
あれ、何故二人とも目を背けるのだろう。
会ってるなら会ってるで別に問題ないと思うのに。それとも会ったらまずい人でも混じっているのだろうか。
「サイファス……あぁ、昨日城門で黒い鎧を来た偉丈夫がいただろう。あの人もその内の一人だ」
「そうなんですか。……あの、まだ何か隠してません?」
何故説明し終わったのにおじ様はいまだ目線が挙動不審なのか。
すると横から観念したかのようにスヴェルクが話し始める。
「ヤマル殿……昨日レーヌ様と一緒にいた方もその一人です」
「ヤマルおに……あの人が? そんな偶然もあるんですね」
危ない、地が半分出掛かってしまった。
そっか、おにいちゃんも異世界の人だったんだ。偶然とは言えあの場に現れ自分を助けてくれたのは救世主と言えなくもないかもしれない。
実際は自分の嘘で捕まってしまったのだが……。
あれ、でも何であの人は救世主なのにあんな場所にいたのだろう?
「あの、ヤマル……さんは今は何を?」
「冒険者をやっておりますな」
「ではそちら方面の力を持ってるんですね。なら護衛隊の方から逃げられたのもその力のお陰なんですね」
遊んでもらったときはそんな様子は微塵もなかったが、救世主なら何かしら力を持っていても不思議ではない。
その力であの人は市井から国を助けてくれているんだろう。ならまた会える機会だってあるかもしれない。
早速彼と会えないかと思い話しかけようとすると、何故か二人が再び目を背けていた。
「もしかしてまだ何か……?」
「代理、諦めましょう。大人しく話した方が早いかと」
「う、むぅ……」
そして語られる彼の——唯一の救世主ではない召喚者の顛末。
為政者としての判断としては正しい、と言うのは子供ながらでも分かる。でもこれは……
「それじゃ何の力も無い人を勝手に呼びつけた挙句、右も左も分からないまま外に放り出したと?」
「まぁ悪い言い方をしてしまえば……」
「そして今回その王族の後釜の私が更に迷惑をかけたと」
「まぁ……そうですな」
「最悪じゃないですか……」
もはや望みが絶たれたとばかりに項垂れるしかなかった。
出だしから国に対して恨み持たれてもおかしくないというのに、いくら自分のこと知らなかったとは言え今回の一件で完全にトドメだろう。
もはや嫌われたかもしれないではなく確実に嫌われてるに等しい。むしろ自分があの立場なら恨み辛み晴らさせて……などと考えてもおかしくない。
召喚した者の一族と召喚された者という接点は出来たのに、これでは会うなど夢のまた夢。
仮に会えたとしてもその瞬間刺されても……あの人ならしないと思うけど、最悪のことが起こってもおかしくない。
「実は本日同席致しましたのはヤマル殿から言伝とお願いをされたからです」
「え……?」
顔を上げるとスヴェルクが懐から何かの資料の束を取り出していた。
そしてコホンと一つ咳払いをし彼からの言葉を代弁し始める。
「まずは言伝から。『もし気に病んでいるようだったら自分は気にしてないから落ち込まないで欲しい。まだ子どもなんだしそう言った部分もあるだろうしね。ただ……今後は君の言葉一つ、態度一つで色んなことが動く立場なんだってことを分かってほしい。今回の件でそれをしっかりと学んで、良い女王様になれるよう期待してます』とのことです」
「ヤマルおにいちゃん……」
あれだけのことやってしまったのに良い人過ぎじゃないだろうか。
その言葉に思わず涙ぐんでしまう……が、横からスヴェルクが持っていた資料の束を自分の目の前に置いた。
「続いてヤマル殿からのお願いです。今回の件で懲りたでしょうが、さりとて責任はしっかりと負わなければなりません。よって彼から頼まれた貴女様の一言から始まった被害報告書です」
捲られる資料には色々な数字が書かれていた。
もちろん自分は文字の読み書きや計算も学んでいたため内容を読むことは出来る。
「護衛隊の日当から算出した時間単価による貴女を見つけるまでに掛かった費用、兵士隊と護衛隊が衝突した際に発生した物損被害や怪我に使った薬代、王城の兵士動員による諸費用などですな」
何も言えない。天文学的、とまでは流石に行かないが、動員された人数による膨大な費用に膨れ上がっているのは自分でも分かった。
一応地方に居るときはメイを連れて買い物をすることもたまにはあったので、貨幣価値は分かってるつもりではある。
しかしこの金額は……。
「もちろん各兵士たちはこの様な時のためにこのような仕事をしている身。なので被害と言うよりは実際は仕事の範疇内とも取れるでしょう。ですが貴女様の一言がなければこれらの費用が浮き別の仕事に従事出来たとも取れます」
「それは……」
「それと下手すれば死者が出ていた可能性もありますな。ヤマル殿にいたっては護衛隊と会ったとき、城門前で捕縛されたとき、地下牢に連行され尋問されたときの三度。いずれも彼は逃げたお陰で斬られずに済み、顔見知りのサイファス殿が居たお陰で手荒な真似はされず、普段の評判から疑いをもたれたお陰でいずれも怪我をせずに済んでいます。また護衛隊の方も本当に誘拐されたらその後の処遇がどうなっていたか分かりません」
耳を塞ぎたくなるような可能性。もしかしたら目の前で彼が死んでいたかもしれない。
まさか自分の不用意な一言でそこまで……ううん、その不用意な一言がこうなってしまったんだと教えてくれている。
もはや子どもの戯言では済まされる立場ではないんだと嫌でも分からせてくる。
「この件に関してはすでに終わった話ですので、もはや関係者にどうこうすることはもう出来ません。ですが貴女様が今回の件で自分がどの様な立場の人間なのか。それをヤマル殿は学んでいただきたいと言っていました」
「私の……立場。私は女王……」
「えぇ、貴女は女王様です。その言葉にはこの国で一番重みがあります。それをお忘れなき様、よろしくお願いします」
すべてを言い終えると、スヴェルクは失礼しますと一礼し部屋から退室していく。
部屋にはやや重苦しい雰囲気があるせいか、おじ様があー、うー、と何を話そうかと言葉を選んでいた。
「……大丈夫です、おじ様。多分、これが私の最初の一歩なんだと思います」
「そ、そうかね?」
「えぇ、最初だからこそ転んで良かったのかもしれません。もちろん結果的に一番良い形で終わったからそう思えるのでしょうが……。おじ様、もう転ばないよう色々ご助力お願いします」
「……あぁ、あぁ! 任せなさい。私も周りの人も協力は惜しまぬ」
力強く頷くおじ様に笑みを向け、改めて本日の勉学が再会されていった。
◇
「ほんとヤマルが帰ってきてくれて良かったよぅ……」
「あー……ごめん、心配かけちゃったよね」
いつもの宿でいつもの晩御飯。
テーブルに突っ伏すようにコロナが脱力し、その後頭部をポチが前足でポンポンと叩いている。
「はっは、災難だったねぇ。でも女王様とお近づきになれて良かったじゃないか」
「あれはお近づきなんですかね……」
と言うかなんでこの女将さんはもうその情報を……いや、いつものことだからもはや聞くまい。
「まぁまぁ、出所祝いに今度何か作ってあげるよ」
「出所て……」
間違っちゃいないけどもっと言い方あるでしょうに……。それに捕まったのも勘違いみたいなものだし、実際犯罪者になったわけではない。
こりゃ明日冒険者ギルドで色々言われるのは覚悟してた方がいいかもしれない。お勤めご苦労様です!とか絶対誰かがからかいに来るのが目に浮かぶ。
「それでその女王様とはどうなったの?」
「んー、どうもこうももう会うこともないんじゃないかなぁ。住む世界違うわけだし」
少し寂しい気もするがこればかりは仕方ない。
片や一般人、片や王族である。
もしかしたらレーヌ本人は良いと言ってくれるかもしれないが、そんなことは周りが許してくれないだろう。
王族の女性が一般男性と会うとかスキャンダル以外何物でもない。
「まぁ戴冠式のときもし街に姿見せることあれば、遠目で見ることがあるぐらいじゃないかな。っと?」
不意にカバンの中に入れていたスマホから音楽が鳴り響く。
慌てて取り出すと画面にはメムからの通話が通知されていた。
ボタンを押しスマホを耳に当てるとメムの声が聞こえてくる。
「……もしもし?」
『マスター、メムデス。今お時間よろしいデスカ?』
「いいよ、どしたの?」
こんな夜分に珍しい。
基本メム自身が自分に連絡することはないので大体は研究者や生徒からの話である。
でもあの人たちは最近ずっと研究しっぱなしで、この時間はまだ調査とかしているはずなんだが……。
『すみません、すまほをどこか立てかけれマスカ?』
「え、ちょっと待ってね」
飲みかけのカップにスマホを立てかけ、スピーカーモードにする。
するとタイミングを見計らったかのように画面がメムのアイコンから知らない部屋の映像になった。
乱雑に……というより乱雑だったのを慌てて整理しましたと言わんばかりに資料や遺物が所狭しと並んでいる。
多分メムがいつもいる研究室なのだろう。
『私の視覚とリンクさせマシタ。マスター、見えていマスカ?』
「うん、大丈夫だよ」
『では代わりマスネ』
誰に?と問いただす前にスマホの画面外から一人の少女が姿を現した。
銀髪赤眼、豪奢なドレスを着ているのは紛れもなくレーヌ。だが彼女はどこを見たらいいのかキョロキョロと顔を右往左往させている。
『もう見えてるんですか? あの、私はどうしたら……』
『いきなり訪れて申し訳ないが少し席を外していただけますかな』
『皆、すまないが少しだけ外に出よう。それでは摂政殿、ごゆっくりと……』
見えぬところで聞き覚えのある声……多分国王代理と研究者の誰かだろう。
それ以外にもバタバタと退室する音や鎧の擦れる音などが聞こえてくる。
『……あの、ヤマルさ……おにいちゃん、見えてる? 聞こえてる?』
「あぁ、うん。どうしたの……じゃなくてどうかしたんですか?」
『はー、これがつうしんとやらですか。古代の技術はすごいですなぁ……あ、ヤマル殿。人払いはしましたので普通でいいですよ』
ちょいちょい画面から見切れてる国王代理がメムのカメラを覗き込みながらそう言ってきた。
まぁそれなら遠慮なく、今は女王ではなくレーヌとして相手をすることにする。
『レーヌ様、私の腹部にモニターがありますのでそちらをご覧下サイ』
『もにたー? あ、おにいちゃんがお腹に入ってる!?』
未知の道具に驚愕し子どもらしく目を輝かせるレーヌ。
メムと一緒に機能とかを簡単に説明したところでようやく本題に入った。
『おにいちゃん、その……一杯迷惑かけてごめんなさい。謝りたかったけど無理と思ってたら、ここの人が話せるって教えてくれて……』
『まぁ実際は城内視察でたまたま知りえましてな。遺物が入ってるのは聞いてましたが、ここでヤマル殿と話せるのは全く知らなかったのでびっくりしましたよ』
どうも視察に来たレーヌ達を研究者が意気揚々と出迎え、自分らの成果を声高らかに説明していたらしい。そしてメムの説明のときに仮マスターである自分の名前が出たとのこと。
その後自分と一緒に発掘していたときのことを彼らは熱弁してたのだが、自分と話せるのが分かり我慢出来ずにここの面々を追い出してしまったようだ。
「……立場」
『そっ、その! 今謝らないとずっと機会なくしちゃいそうでだからえと……』
「ん、まぁ国王代理が一緒にいるし大丈夫って判断したんでしょ。俺の方は大丈夫だから、レーヌも気にしないでいいからね」
『うん、おにいちゃんありがとう……』
いきなりでびっくりしたが、何にせよこれで一件落着と言った所だろう。
しかしまさかこんな方法で話すことになるとは思わなかった。
これからも機会があればまた話して欲しいとのことだったので、公務とかに支障がなければと言う条件付きでそれは了承した。
もう少し話したがってたものの、あちらも自由な時間があまりないということなので今日はここまで、と思っていたときだった。
「ヤマル、この子が女王様?」
「あ、うん」
我慢出来なくなったのか、自分の後ろから肩に手を置き覗き込むようにスマホを見るコロナ。
互いに初顔合わせのためかきょとんとした表情を二人ともしていた。
『おにいちゃん、その人は……?』
「自分のパーティーの仲間のコロナだよ」
レーヌにコロナがよく見えるよう彼女に席を譲り、代わりに自分が彼女の背後に立つ。
「はじめまして、パーティではヤマルを護ってるコロナです」
『はじめまして、ヤマルおにいちゃんに護ってもらったレーヌです』
コロナがぺこりと頭を下げ、レーヌが上品にドレスを摘み会釈をする。
お互いにこやかな笑顔なのだが……画面越しにも関わらず何か妙な圧を感じるのはなぜだろう。
「あの、代理。そろそろ時間では……?」
『お、おぉそうじゃな。ではまた何かあれば連絡をしよう。紹介状の件は近いうちにやるのでもう暫く待っていて欲しい』
「わかりました、お願いしますね。メム」
『了解、通信を終了シマス』
『あ、私まだお話しした――』
ちょっと強引だったが通話を切ってもらった。
あちらの時間云々もだが、なんかこのまま二人を話させてはいけない気がしたからだ。
そんな風に危惧されている目の前の少女は、頬を膨らませながら恨みがましくこちらを見上げてくる。
「いいなー、私ヤマルに護ってもらったことないんですけどー」
「いや、そりゃコロナは護衛で俺を護る側でしょ。それに生活面はちゃんと守ってるんだし……」
「でもこう『コロは俺が守る!』みたいなのたまには見たいなーなんて……」
「間違いなく数秒後に倒されてる場面しか浮かばないんだけど……」
その後も中々納得してくれないコロナを何とか宥めつつ、慌しい二日間がようやく幕を閉じようとしていたのだった。
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