第58話 三種の魔法

 

 冒険者ギルドに戻ってきた一行は職員に頼み会議用の部屋を一室借りることになった。


「さてさて、ではヤマル君のためにこの私スーリが魔法の違いについて教えてあげます」


 むふー、とやや息を荒く得意げにしているスーリの前で座ってるのは『風の軌跡』と『風の爪』の残りのメンバー。

 スーリはスーリで雰囲気出したいのか、どこからか持ってきた指揮棒みたいなものを手に持ちしきりにそれを振っている。


「ではまずヤマルに問題。魔法はまず最初に大きく三つに分かれるんだけど、それはなんでしょーか?」

「え、えーと……攻撃魔法と補助魔法……」

「ちっがーう!」


 ズビシ!と擬音がつきそうなぐらいの勢いで指揮棒を突きつけるスーリ。

 そして自分の横に座ってるコロナにその指揮棒の先端を向ける。


「ではコロナちゃん、答えをどうぞ」

「獣人・亜人の魔法、人間の魔法、魔族の魔法だよね?」

「はいその通り! ヤマル、しっかり覚えなさいよー」


 この教師のノリに付き合うのが早くも疲れてきたのだが、もしかして講義終わるまでずっとこの調子なのだろうか。

 ともあれこの世界で魔法を分けるならまず種族からと言うことらしい。


「つまり種族によって使える魔法が違うと?」

「う~ん、ちょっと違うかな。使える魔法と言うより根本的な部分からと言うか……」


 なんだそりゃ?と思いながらスーリの講義を聴いていくとこんな感じらしい。

 

 まず魔法とは魔力を使って世界の理を捻じ曲げるような事象全てのことの総称らしい。

 そして自分が使ってる魔法は正確に言うなら人間種魔法、コロナが使う魔法は獣人種魔法と言うそうだ。

 ただ種族は違えど似たような魔法はあるため、皆その様なことは全部ひっくるめて魔法と言うのが常識となっているとのこと。


「そもそも人間が魔法を使えるようになったのは他種族よりも一番後なのよね」


 この世界の歴史を紐解くと人間が魔法を使うようになったのは二百年程前のこと。

 もしかしたらそれ以前に使えてた可能性もあるが、少なくとも文献上では無いらしい。

 そして当事は世の中は三国で争うまさに戦国時代であった。

 獣人・亜人のように身体能力が優れてるわけでもなく、魔族のように魔法能力があるわけでもない人間は数でこそ他よりあったものの窮地に立たされていたと言う。

 その際異世界より召喚された一人の魔術師が人間に魔法を与え戦争を止めたそうだ。

 以後今に至るまで大きな戦争が起こっておらず、彼女の功績を称え『伝説の魔女』として後世に伝えられていると言う。


「そう言えばメムの時代でも人間は魔法使えてなかったんだっけ」

「でも魔族は使えてたって言ってたよね。そうなると人間の魔法は割と新しい部類なのかも」

「まぁきっかけはどうあれその伝説の魔女によって人間用の魔法が作られたってことね。さて、ではここでその三つの魔法について比較してみよっか」


 まずはそれぞれの魔法について特徴を述べていく。

 最初はこの場にいない魔族の魔法だ。

 知識として伝えられてるところによると基本は人間の魔法の上位互換が殆どだそうだ。

 元々魔族には人間や獣人、亜人と違い魔物同様その体の中に魔石がある。それも魔物と比べても大きく質の高い魔石だ。

 魔族にとっては第二の心臓とも言われるもので、壊れたり取られても死にはしないが魔力の中枢区なだけあり魔法を使えなくなってしまう器官である。

 そのためその豊富で上質な魔力から繰り出される魔法は人間の魔法とは比べるまでも無く強いものが多いらしい。


 次に獣人・亜人が使う魔法。

 こちらは人間や魔族が使う魔法とは少し毛色が違うのが特徴である。

 その魔法は殆どが外に放つものではなく、戦いにおける自己の強化など強くなるための効果が殆どだ。

 そのため基本詠唱が無い物が多く、自己の中で完結するものばかり。

 つまり元々身体能力が人間より高い獣人と亜人がそれにより更に強化される。

 それがどうなるかは言うまでもない。というより分かりやすい例をさっき見た上で痛い目にもあったはずだ。


「つまり獣人・亜人も魔族もそれぞれが自分に合った魔法を使ってるってことね」

「……ねぇ、人間の魔法っていいところあるの?」


 ここまで聞いて当然の疑問を口にする。

 威力は魔族の魔法に遠く及ばない。

 自分の《生活魔法》は数少ない例外だが、基本どの魔法も詠唱が必要になってくる。獣人らの魔法のように速攻性も無い

 そもそも根本的に種族の壁として身体能力や魔力で他種族より劣っている。

 そこに各々が得意とする魔法を内包してるわけだ。全員が全員魔法を使えるわけではないだろうが、その力は人間を凌駕するには十分な力を備えている。

 ……こうして見ると良く戦争に負けなかったと感心してしまう。それだけ伝説の魔女がすごかったということなんだろうけど。

 

「まぁ確かにこれだけ見れば人間の魔法なんてショボいわよね。発動まで時間がかかるし威力は魔族より下が殆どだし。でもね……」


 こほんと咳払い一つするスーリ。その目は悲観に暮れてるわけでもなく人間の魔法に誇りを持ってる魔師師の目だった。


「人間の魔法の最大の特長。それは魔法の共有化だよ」

「魔法の……共有化?」

「そう。人間の魔法は他人や物に与えたり同じ魔法を体系化したりしてるのが特徴。ヤマルの《生活魔法》も魔道書からだし、魔道具とかもそうだね。これは他の種族には無い決定的な違いだよ」

「例えば人間の使う魔法には《ファイアボール》があるって言うことはあっても、他の種族にはこの魔法があるって指定は出来ないの。皆が皆自分の魔法を持ってるようなものだしね」

「……つまり他種族は魔法は人間で言うところの開発だけみたいな感じ?」

「開発と言うか完全にその人専用かな。コロナちゃんの《身体向上》とそっくりな魔法が他にあっても、似た魔法であって別物の魔法なの」

「実際私達獣人や魔族の人の魔法はその人に合わせた感じだしね。だから人間みたいに魔道書で覚えることも出来ないし、逆に伝授とか魔道書を作るなんて出来ないよ」

「はぁ~……そうだったんだ」


 獣人なんて一子相伝みたいなイメージあったけどそんなことなかったのか。

 ……あれ、もしかしてコロナは自分みたいに他人の努力を金で買って覚えた魔法ってあんまり良く思ってないのでは?

 イメージは……うわ、札束ビンタが何か浮かんだ。物凄く嫌なイメージである。

 まぁこの世界に紙幣は無いのだが。


「同じ魔法を使えるってことは他の種族に比べて集団戦に優れてるってことだからね。同じことが出来るってのは個性がないって思われがちだけど、逆に言えば同じように動けるってことでもあるんだよ」

「獣人の守り人はやれても役割分担ぐらいまでだしね。まぁそれが一番向いてて効率的だからそうなってるんだけど」

「他にも環境的に覚えやすいから個人が使える魔法の種類自体は人間の魔術師が一番上かも。後は魔道書があればって前提だけど、足りない属性部分すぐ補完出来るのも強みかな」


 スーレとコロナが交互にそれぞれの種族の視点で教えてくれる。

 特にスーレから聞かされる人間の魔法。

 自分から見たらどの魔法も強く有用なものばかりだが、世界から見れば弱い部類。

 それでも他には無い特性を以って個性と成し、比肩するほどに認められてるのは中々心に来るものがある。


「まぁもっと細かいところはあるけど、大体はこんなところかな?」

「は~……すごい為になった。今回聞けて良かったと思ったよ」

「ふふん、そうでしょそうでしょ。もっと褒めてもいいのよ?」


 あまり無い胸を張りドヤるスーリ。

 これなければもっと褒めれるのになぁと思いつつも、本人らしくていいかと思わず笑みがこぼれたままその様子をしばらく眺めていることにした。



 ◇



 部屋の貸出時間が終わったので全員でギルドのホールに戻る。

 まだ時間が早いこともあり朝夕の喧騒はなくまばらに冒険者がいる程度だった。

 そんな中こちらの姿を見つけた馴染みの男性職員が自分を手招きしているのが見えた。

 なんだろうと思いながらいつもの受付カウンターに行くと、目の前に出されたのは中身がかなり詰まってそうな麻袋。

 置くときにジャラ……と多数の金属が擦れ合うような音がしたので中身はなんとなく察した。


「その顔だと中身は分かってそうだな」

「えぇまぁ……ここまで早いとは思わなかったですが」


 一応明細を見せて貰うと予想通りのリストだった。

 研究用の遺物買取り、国からの遺跡開拓の褒賞金、それとチカクノ遺跡で兵士隊が来るまでに行った見張りの仕事の賃金。

 買取りと仕事の賃金は額面はさておき中身は聞いてたのでそれほど驚くものでは無かったが、褒賞金に関してはかなりの値段が記載されていた。

 一応研修生らのグループと折半したのだが、それでなおこの金額とは恐れ入る。


「んじゃ話は早いな。いつも通りここに受け取りのサインだ」

「あ、はい」


 了解の意を示し受け取りのサインを書き麻袋を受けとる。

 ズリシと重みのあるのは中身が沢山ある証拠だ。

 本来ならここで金額が合ってるか調べるべきなのだろうが、流石にギルドの職員がちょろまかしたら信用に関わるだろうしあえてしない。

 と言うより目の前の男性職員は信用出来る人と思ってるからどっちにしろやらない。


「あー、それともう一個あるんだ。……お前、今日からDランクな」

「…………?」

「いや何言ってんだこいつ?みたいな顔されてもそのままだよ。ランクアップだ、良かったな」


 ランクアップ。つまりEランクから一つ上のDランクに上がったと言うこと。

 いや、意味は勿論分かってる。だが本当に上がっていいのだろうか?

 前回の戦狼のときですらかなりごたごたしていたのに……。

 そのことを職員に話すと物凄く呆れた顔をされてしまった。


「問題ねぇよ。つーか依頼は小さくてもとりあえずはこなしてるし遺跡の件もある。前回みたいな一足飛びの話でもない、正式な手順でのランクアップだからな」


 と言うか普通はもっと早くなるモンなんだぞ、と言われてしまった。

 でも……


「……嬉しそうだな」

「えぇ、まぁ。あまりこういうの無かったですし」


 日本で賞を取るようなことも、会社で昇級することもなかった。そもそも人に褒められるような物は無かったし、その様な行動を取っても大体裏目に出てた。

 だから今日一つ上に上がれたってことがただただ嬉しい。例え新人から半人前のような上がり方だったとしてもだ。


「よぉ、やっと上がったか」

「あ、ラムダンさん。おかげさまでなんとかって感じですけどね」


 後ろからラムダンに声をかけられ笑顔で返す。

 そう言えばラムダンに色々教えてもらってからそこそこ日数が経ったなぁと思う。あの頃からそこまで成長した実感は無いが、それでも半人前ぐらいには認められたということなんだろう。


「いや、気にするな。俺もヤマルのお陰で良かったことあったしな」

「……? 自分なんかしましたっけ?」

「なんだ、ラムダンから聞いてないのか? こいつもお前と一緒でランクアップだ、今日からBランクだよ」


 男性職員の言葉に思わず、おぉー!と声を上げる。

 そっかそっか、ラムダンもランク上がったのか。それはものすごくめでたい。

 お世話になってる人だけに自分が上がったとき以上に喜びを感じる。


「おめでとうございます!」

「あぁ、ありがとう。まぁさっきも言ったがお前のお陰でもあるんだがな」

「お前、チカクノ遺跡でこいつら呼んだだろ? 公的依頼ミッション以外で国からの名指しでの依頼、しかも未踏破遺跡の探索って大仕事だ。そこが評価されたからだな」


 ギルド評価の内情は言えない為ラムダンがあくまで予測だが、と前置きし話を続ける。

 Cランクである彼らは堅実ではあるがまだまだパーティーとしては若い。それはメンバーの年齢も見れば明らかだろう。

 そんな中最年長の家長、かつ自分の義弟や義妹らを預かっては大きな仕事が中々出来ないでいた。

 無論彼らは自分と違い危険な死線をいくつも潜り経験を積んでいる。

 しかし大きな仕事はそのまま危険度も大きい仕事でもある。

 依頼を吟味し安全と危険と報酬が釣り合う仕事をこなしていたためここ数年ラムダンは足止めを食らっていた。

 考えてみれば一番年上のラムダンと一番年下のスーリが同じランクと言うのも変な話である。多分個人の成果よりもパーティーリーダーとしての責務を取ったのだろう。

 そんな中、自分からの遺跡調査の依頼が指名で舞い込んできた。

 自分としてはそんな事情など知らずにこちらの都合で呼んだだけだったのだが、図らずとも彼らの為になっていたらしい。

 それが今回ラムダンが言ってた自分のお陰の意味だった。


「狙ってたわけじゃないですけど、でも助けになれたのなら嬉しいですよ」


 これは本当の話。最初期から最近まで世話になりっぱなしの『風の爪』に少しでも恩返し出来たのなら嬉しいことこの上ない。


「で、お前さんはこれからどーするんだ? 一応Dランクとして仕事するなら少し難度高めの見繕ってやるが」

「あ、いえ。こうしてまとまったお金手に入ったから少し方針変えようと思いまして」


 その言葉を聞き男二人がほー、と何か関心したような声を漏らす。

 なんだろう、そんなに考えなしに見えてたのだろうか。


「ちなみにどう変えるんだ?」


 興味深そうに言ってみ?と二人の視線がこちらに向けられる。

 今度はどんなことやらかしてくれるんだ?みたいな目を向けられても困るんだけど……。何を期待しているのだろう。

 まぁどちらにしろこの二人には前もって言っておいた方が良さそうなので、今後の予定を先に話しておくことにした。


「獣亜連合国に行こうと思ってます」



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