第57話 模擬戦反省会


 模擬戦がコロナの勝利で終わり、見学していた他の冒険者が良いもの見れたと満足げに帰っていった。

 残ったのは当事者である『風の軌跡』と審判役である『風の爪』の面々。

 これから先ほどの模擬戦に対して色々と意見交換をすると言う流れだったのだが……。


「うお゛ぇぇ……」


 現在自分はバケツに入ったスライムに餌をやってる最中だ。

 激しい上下振動に加え自分では出せない急激なストップ&ゴー。

 三半規管が狂い始め車酔いならぬ狼酔いをしているところにコロナの体当たりがダイレクトに腹に決まった。

 青い顔をしたこちらを察したダンが慌ててスライム入りのバケツ(本来はゴミ箱)を渡したところが限界だった。

 中身を確認することなく盛大に吐き、バケツの底で動くスライムに悪いことしたと吐き気とともに罪悪感も沸いてくる。

 後で《生活の水》で漱いでやろうと思いつつ、もはや出すものが何も無くなったところでようやく落ち着いてきた。


「大丈夫か?」

「なんとか……」


 口を《生活の水》で濯ぎラムダンにそう返すのが精一杯だった。

 ちなみにコロナはやりすぎたとしきりに反省し、先ほどからずっと後ろで背中を擦ってくれている。

 模擬戦だったんだから気にしないでいいとは言ったのだが、そんな顔じゃ説得力がないと逆に言い返されてしまった。


「慣れて無いの考慮しても最初から飛ばしすぎたな。これからはポチに乗りなれておかないともっと辛くなるかもしれないぞ」

「そうですね……ポチ、また今度練習頼める?」

「わふ!」


 横に控えてたポチが元気良く返事をする。

 ちなみにすでに子犬状態に戻っていた。両方ともベースと言ってたが、こちらの方が慣れてるためか落ち着くようだ。


「ふぅ……すいません、落ち着きました。反省会しましょう」


 もはや出るものが無くなった為かやっと気分も落ち着いてきた。

 バケツを少し離れた場所に置き、皆で円陣を組むように地面に座り込む。


「じゃぁ私からヤマルとポチちゃんの評価ね。ポチちゃんは個としての強さは申し分無かったかな、これならヤマルを任せれそうだし。ヤマルはまぁ……あ、でもポチちゃんとの連携はすごかったよ!」


 正直な観想を言ってくれるのは非常にありがたいが、そこは気にせずもっと精進してと言わないと反省会にならないのではないだろうか。

 とは言え彼女が言うようにポチとの連携自体は初めてにしては自分でも上々だったと思う。


「そうだな、あの魔法なんだったんだ? ヤマル使えなかっただろ?」

「あれは《生活魔法》ですよ。ただ威力を上げたのは自分じゃなくてポチですけどね」


 あの時、首輪を掴んだ手に魔力を入れたことがトリガーになったらしい。

 能力の名前は《魔法増幅ブーステッドマジック》。獣魔契約してる人、つまりポチなら自分専用の能力となる。

 魔法発動前にポチを介する事で効力がかなり上昇するのだ。

 結果は見ての通り。

 ライター程度の火の《生活の火ライフファイア》は《ファイアーボール》並みに。

 《生活の風ライフウィンド》もコロナを吹き飛ばすほどの暴風となった。


「あ、だからポチちゃんの角の色がコロコロ変わってたんですね」

「うん、属性の色に染まるみたい。まぁ欠点と言うか気をつけなきゃいけない部分もあるんだけどね」


 《魔法増幅》も利便性は十分だが注意すべき点もある。

 まず何と言ってもポチが戦狼状態でかつ自分が触れてなければならないこと。

 ポチ自身だけではこの力は何の意味も無いこと。

 ポチを間に介する為に普段自分がやってるような同時に別の魔法を使うことはできないこと。

 またそもそも使ってるのが《生活魔法》のため、その範疇からは脱せ無いことなどだ。

 順にそう説明していくもうまく頭の中で纏まらなかったのかダンが聞き返してくる。


「ん、どゆことだ?」

「つまり威力とか効力上がってても、どこまで行っても《生活魔法》には変わりないってこと。小さな火が大きくなってもマグマに変わることもないし、風がどれだけ吹き荒れても風の刃が出ない、みたいにね」


 つまるところ殺傷能力の無い魔法は根本的に攻撃魔法になり得ないのだ。

 最初に使った《生活の火ライフファイア》も元々火を扱う魔法である以上火傷ぐらいは負う部分があったため攻撃魔法として今回は使用できた。

 水なら量が増える、風なら強く吹き荒れる、光なら輝度や大きさが増す。

 どれも魔法の増幅だが、威力そのものに直結はしていない。


「でもまぁポチちゃんに乗ってればそれでも十分でしょ。あの速度で離れられながら強風や泥化とか前衛としては嫌なことこの上無いわ」

「だな。多彩な魔法があの速さで間髪無く飛んでくるとかないわー。相手にしたくねぇ」

「しかもポチちゃんいるから遠距離戦のセオリーみたいに近づいても大丈夫ってわけでもないもんね。ヤマル捕まえようとしてカプッといかれちゃいそうだし」


 皆が思い思いに自分とポチの戦い方に賞賛をしてくれるのを横で聞いてるのは気恥ずかしさもあったがそれ以上に嬉しいものだった。

 何せ自分がぶっちぎりで劣っていたのが戦闘力である。それがちゃんと有用性を認めてくれるまでに至ったのが何より嬉しい。

 それにポチも自分をフォローしつつ足りない遠距離系を得たのも大きいだろう。

 ……問題はポチがいなきゃ相変わらずの自分と、自分がいなくても普通に戦えるポチに差があることだ。そこは今後の課題としてまだまだ探していく必要があるだろう。

 それに……。


「まぁ後問題があるとするなら……」


 まさにこちらがそう言うタイミングを狙ったかのように、どこからともなく腹の鳴く音がした。

 時刻はもうすぐお昼辺りだが、何度も鳴る腹の虫。音の発生源を見ると自分の横にいたポチである。


「……まぁ戦狼化に加えて自分の魔法サポートだからこうなるよね」

「わふ……」


 つまるところあの状態での燃費の悪さ。

 魔石に溜めてた魔力を相応に使った反動だろう、ポチが完全にガス欠状態になっていた。


「まぁご飯にしましょうか。今日は俺が皆さんに奢りますよ、色々お世話になってますし」



 ◇



「ヤマル、大丈夫?」

「んー……まぁ予想以上だったけど大丈夫だよ。一応ちょっとお金入る当てはあったし」


 入ったお店はフーレやスーリの女性陣リクエストのお店だった。

 とは言え男性用メニューも充実しており、味もこの世界基準では満足のいく出来だったと言えよう。

 ただ目の前で物凄く食べるその様は見事と言うより他無かった。

 いや、下手に遠慮されるよりはずっとご馳走のし甲斐がある食べっぷりだったのだが、それを差し引いても遠慮のえの字すらないほどに食べていた。


「ヤマルー、ご馳走様~」

「はー、食った食った。やっぱ他人の金で食う飯は三倍美味いな」


 特に無遠慮ツートップのスーリとダンが一番満足そうだった。

 食べたものに対してあれが美味かったこの料理が良かったとしきりに褒めちぎっている。


「ポチちゃんも良かったわね。お肉、美味しかった?」

「わうっ!」

「そっかそっか」


 フーレの腕の中で満足そうにするポチが一番堪能したかもしれない。

 お店側には許可を取り無理を言って戦狼状態のポチで食べさせてもらった。子犬状態では満腹は兎も角、魔力の回復まで時間がかかると踏んだからだ。

 大量のお肉を持ってきてもらいお皿片手に店先でポチにそれを食べさせる。

 最初は街の人からは遠巻きに見られいい見世物状態であった。

 しかしその内興味を持った子どもが寄ってきてはポチに餌やりよろしく自分の代わりにお肉を食べさせ始める。

 すると今度は女性陣も同じように食べさせ、危険が無いと判断されたのかポチに触ったりするようになっていた。

 あまり戦狼を見る機会が無い人にとっては大きい犬に見えたのかもしれない。

 その証拠に戦狼の怖さを知っている冒険者が遠巻きに尻込みしてる中、彼らよりも弱いはずの一般人が嬉々として触れ合う光景は中々シュールなものがあった。


「そう言えばコロナちゃんの方も気になる動きしてたよね」

「あ、私そっちの方が気になるかも!」


 思い出したようにスーリが先ほどのコロナの動きについて言及する。

 フーレとしても同じ速度タイプ、同じ剣を使う前衛とあっては気になるのだろう。物凄く食いついていた。


「えーと、あれは私の魔法だよ。《天駆てんく》って言うの」

「あれが獣人の魔法かぁ。見るの初めて……と言うより獣人の魔法って見れないの殆どだけど」

「あはは……そこは仕方ないよね」


 何やら納得するスーリに苦笑するコロナ。だが何のことを言ってるのか自分からはさっぱりである。

 訝しげに彼女らの会話を聞いているとコロナがこちらの視線に気づいたらしい。


「ヤマルは獣人の魔法については何か知ってる?」

「獣人の魔法? いや、知らないしそもそも魔法は魔法じゃないの?」


 使い手によって使える魔法が変わるのは知っている。

 極端な例だが自分とマルティナでは質も数も種類も何もかもが違うだろう。

 そもそも魔法を覚えるには自分で開発したり魔道書で覚えたりするはずだ。自分の《生活魔法》もその一種だし。

 だからコロナの魔法も自分で開発したか魔道書で覚えたかそんな感じなのではないのだろうか?


「ヤマルって私と同じで魔術師ギルドの人なのに……。妙に知識あるときあるのに当たり前の部分知らないこととかあるよね?」

「んー、まぁ知らないで大丈夫な環境だったからなぁ」


 そもそも魔法なんてゲームやアニメでの妄想の産物の位置づけだったし。


「まぁギルド戻ったら私が教えてあげるよ。同じギルド員のよしみだし」

「うん、お願いするよ。それでコロの……えーと、《天駆》だっけ?」

「あ、うん。《天駆》は簡単に言っちゃえば魔力の塊を作ってそれを破裂させる魔法なの」


 見てて、と言いコロナが右の手の平を上に向ける。するとぼんやりとだが何かが手の平に集まってきたのが分かった。

 これが《天駆》の魔力の塊なのだろう。


「これは私の意志で破裂の方向や威力は調整できるの。だから例えば力を込めなくても……」


 そのまま手の平を横に向け、パン!と乾いた音が響く。それと同時にコロナの右手が水平方向に弾かれた。


「この魔法が出来るのはこれだけ。生み出せる場所は私の体ならどこでも出せるけどね。これを使えば私みたいなタイプの人だとこんなこともできるの」


 コロナがそう言うと同時に彼女が地を蹴り垂直方向に飛ぶ。

 人よりは高く飛んでるとは思うがそこは人種の跳躍、二メートルぐらいで最高点に到達したのかコロナの体が落ちかけたそのときだった。

 彼女の足裏辺りで再び乾いた破裂音。同時にコロナの体が更に上に持ち上がる。

 日本人なら間違いなくこう表現するだろう……二段ジャンプだ、と。

 スカートを抑えながら降りてきたコロナが、どう?と言いたげにこちらに目線を向けてくる。


「これを使えば空中でも方向変えれたりするし、無理やり攻撃したり体勢を直したり色々とできるよ」

「つまり……空も飛べたりするの?」

「飛ぶと言うよりは駆ける……かなぁ? ある程度速度無いと落ちちゃうし、静止して浮けるわけでもないし……」


 イメージとしては全身に小型のブースターがついてるようなものか。

 しかし身動きの取れない空中で色々動けるのは剣士としては利点しかないのだろう。理屈上では自分も分かるし、それ以上にフーレが物凄く期待した目をしてるのが全てを物語っている。


「つまり夢の高速移動と空中機動! それさえあれば私も……!」

「あ、これだけじゃダメなの……」


 両手を握り期待に胸を膨らませてたフーレがガクリと膝をつく。

 あ、これ見覚えがある。自分が魔法無理と言われたときと同じ感じだ。


「なんで?!」

「えーと……これだけだと体壊れちゃうから……」


 魔法の反動で空を駆ける。言うだけなら簡単だが体に掛かる負担はかなりのものらしい。

 実際小規模とは言え零距離で魔法の衝撃があるのだ。どちらかと言えば弾き飛ばされてると言った方が正しいかもしれない。

 そもそも先ほどの模擬戦でもコロナは地面に体が沈むほどの着地をしていた。そんなことをしたら足を痛めるどころの話ではない。

 しかし彼女は現在こともなげに皆と歩いてるし《天駆》もやってみせた。


「もう一つ《身体向上》って魔法を使ってるの。これはそのまま自分の体を強化する魔法で単純に体の動きや力の増加、あと頑丈さとかを上げるんだけど、これをしてないと多分私も自分の魔法でダメージ受けるよ」


 つまり魔法の二重展開。

 自己強化による底上げがあってこその《天駆》と言うわけだ。

 自分を守るのみならず、強化による恩恵がそのまま《天駆》使用時にも反映されるから相性は抜群だろう。


「うーん、自分で似たの開発するしかないか……。でもなー、二つかぁ……」

「フー姉、近接職で魔法は辛いんじゃないの? そもそも詠唱の隙どうするの?」

「ああぁ、言わないでえぇぇ……」


 頭をぶんぶんと振って聞こえない考えたくないと身悶えるフーレ。

 彼女の理想とする戦い方をするにはまだまだ前途多難そうである。

 しかしふと気づく。彼らの会話の中であれ?と思う箇所があったことに。


「詠唱? そう言えばコロは詠唱してなかったね」

「うん、そもそも詠唱無いしね」

「でもフーレらは詠唱がいる……? う~ん?」


 そもそも何故同じ魔法ではなく似た魔法を開発と言ったのだろうか。

 同じ魔法でいいなら目の前に使い手がいる分、覚えるのも覚えた後も色々便利そうなのだが。

 それに魔道書だって売ってるかも知れないし。


「まぁその辺りはこのスーリちゃんが教えてしんぜよう。苦しゅうないぞ」

「苦しいのはスーリのお腹じゃないの? 消化できたの?」


 彼女のお腹に手を伸ばす仕草をすると、スーリはすすす……とこちらから距離を取る。

 どうやらまだ消化し切れてないらしい。あれだけ食べれば当然だろうが、せめて限度は知っておいて欲しいとは思う。


「ともかく! ギルド戻ったらしっかり教えてあげるからね!」


 スーリを中心とした賑やかな集団はそのまま冒険者ギルドへと向かっていった。


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