第46話 チカクノ遺跡11


「迎撃用意。構エ――撃テ」


 二階へ続く今まで開かれることの無かったドア。それが開かれると同時に指示を出し、一斉にドアに向かって無数の銃弾が放たれる。

 先頭にいた見慣れぬ鎧を着た人間ヒューマンが弾丸を浴びたたらを踏みながらもドアを閉じ始める。


「何故倒レナイ?」


 見たところ重厚な金属鎧と大盾を持った侵入者。

 だが彼我の戦力を鑑みてもあの程度のアンティークな鎧などこちらの武装で容易く貫き打ち倒せるはずだ。

 しかし銃弾はいくつも弾かれついには非常口が全て閉じられる。


「撃チ方、止メ」


 最後に見たのはあの人間が後ろに倒れる姿。

 弾かれた理由は不明なれど、防げなかった銃弾がいくつも体を貫通しているのを確認した。あの怪我ならばこれ以上の戦線復帰は無理と判断する。


「弾丸補充後警戒。ドアガ開イタラ撃テ」


 再度指示を出し警戒を続行。

 現れたのが報告のあった動物人間アニマロイドでは無かったが侵入者には違いない。

 ならば排除すべきだ。その為に自分は創造主より一部裁量を与えられているのだから。



 ◇




「ポーションを持って来い! 怪我した奴はすぐに報告しろ!」


 全員が階段から撤退したのを見届けたシーオが次々と指示を飛ばす。

 一番ひどい怪我をしているのは下のドアを開けたであろう重装歩兵の人。鎧や盾には生々しい銃弾の跡があり、彼自身も鎧に覆われてない部分を撃たれたのかところどころ血を流している。


「サイファス殿、すみませんが……」

「む、了解した」


 兵士隊の代わりに単独で非常口へと入っていくサイファス。

 無茶はさせないだろうし彼なら大丈夫だとは思うが、それでも知り合いが死地に出向くのは心配である。

 だが現状一番の死地はこの場であろう。


「ポーション持って来ました!」

「個数に構うな、治せるまで使――」

「あ、ちょっと待ってください!」


 ポーションをそのまま使いそうだったので慌てて止めに入る。

 怪我の治療を止められた為か割と友好的だった兵士の何名かの表情が険しくなった。


「ヤマル殿、何か? 急ぎ治療したいのだが」

「えぇ、でもその前に怪我を確認してください。もしかしたら撃ち出された礫が体内にあるかもしれません」


 ポーションは本当に便利だ。戦狼に噛まれた時の怪我も持っていたポーションであっという間に治ってしまった。

 だがそんな効能を持つ魔法の薬を銃弾が体内に残ったまま使えばどうなるか。

 一番良いパターンが銃弾が体から抜け元通りになることだろう。だが体だけ治すとしたら銃弾を残したまま傷がふさがってしまう。

 シーオもこちらの言わんとしてることを理解してくれたのか、怪我人の鎧を脱がせまずは体内に礫が止まってないか確認するように指示を出した。

 幸い一番怪我のひどかった人も弾丸は貫通しており、他の第一班と第二班の人も跳弾が掠めたりしたものの全員怪我の程度はそれほど重くなかった。

 一番前に出てたあの兵士がほぼ一手に攻撃を引き受けてくれたお陰だろう。

 各々がポーションを使い怪我を癒していく中、下へ降りて行ったサイファスが戻ってくる。どうやら一人様子を見てきたらしい。


「戻ったぞ」


 治療を担当者に任せ、残ったメンバーはサイファスの元へ集合した。


「階段はそのまま、どうやら進軍してくる気は無さそうだった。だが待ち伏せは続行されている。試しにドアを少し開けたがその瞬間攻撃をされた」


 サイファスが言うにはドアを数センチ開けただけで銃での攻撃を受けたとのこと。

 幸いにも弾丸自体が開けたドアの隙間よりも大きいため入ってくることは無かったが、あれでは開けた瞬間集中的に狙われるのは間違いないとの事だった。


「しかしあれほどの火力を持ちながら何故打って出ない?」

「恐らく数として戦力が少ないのだろう。通路があそこしかないのであれば少ない数でも集中投入できる」

「問題はこれからどうするか、ですな。相手にはこちらの存在はばれている。これではとてもじゃないが調査班はここには呼べない」

「だが倒そうにも開けた瞬間あぁなる、か」


 あぁなるとは現在治療を受けている重装歩兵の人のこと。

 一番硬い兵士が盾で防ぎながらでもあの状態だ。魔法兵はおろか通常の兵も耐えれない。

 基本装備が兵士よりも軽量な冒険者も論外だ。そもそも狭い階段で銃弾をかわすなど不可能に近い。

 そんな中、応急処置が終わったのか件の重装歩兵が同僚の肩を借りながらこちらへやってきた。


「すいません、報告を……」

「無理は……いや、今は少しでも情報が欲しい。頼む」

「は。まず敵の攻撃ですがこちらの鎧や盾を貫通するまでには至りませんでした。これは《魔法の盾マジックシールド》の魔法を使用したからかと思われます。現に自分の体は魔法が掛けられててもあの攻撃には耐えれませんでした」


 まず彼から有益な情報が一つもたらされた。

 銃撃にも魔法で干渉できる。これは朗報とも言える貴重な情報だ。

 しかし逆に言えば防御魔法を掛けた金属製の鎧や盾でなければ防げないと言える。


「敵の数は?」

「暗くて正確なところまでは。ただうっすらですが複数いたように見えました。それとこれを……」


 兵が差し出したのは金属製の円柱状の塊。大きさは親指サイズぐらいだろうか、彼の血なのか赤く滲んでいる。

 倒れた拍子に落ちていたのを握りこんでいたらしい。


「おそらくこれが飛んできたのかと」


 これがこの世界の銃弾、自分らの世界のものとそっくりだった。……いや、実物見たこと無いけど。

 先端が潰れているのは鎧か盾に当たったんだろう。あんなものが自分に当たったら間違いなく死んでしまう。

 

「ヤマル殿の想定が現実になってしまいましたな」

「なって欲しく無かったんですけどね……」


 未来兵器群に立ち向かう中世装備+魔法。

 ダメだ、蹂躙される未来しか見えない……。あちらの数が少ないだろうと言うのがせめてもの救いか。


「話をまとめよう。現状ゴーレム軍団と思しき敵は下層に陣取っている。相手がこのまま出てこないのであれば封鎖もあるが、こちらに上がってこないとも言い切れん。民を守る王国兵としては無視する訳にもいかん」


 そりゃまぁ討伐方向にはなるよなぁ。

 あんな物騒な軍団が下にいると発覚した今、放っておくわけにもいかないし。


「なら討伐、と言うことで?」

「学者らには悪いがあれを無傷確保は無理だ、その場合死体をいくら積み上げることになるか見当もつかん。ならば被害が出ないよう可能な限り迅速に制圧を行う」

「となると偵察は必須でしょうね。あの中闇雲に突っ込むわけにもいかないでしょう」


 偵察と言えば身軽な人、それも丁度冒険者として同行してる人に一人適役がいる。

 一斉にダンに視線が集まるものの、彼は『無理無理』と素早く手を横に振った。


「偵察はいいんだけどさ、どこから見るんだよ。入り口あそこだけだろ?」


 そう、現状下層への進入路が一つしか無いためダンが生かせない。

 サイファスが言ったとおりなら素早く開けて中に入れても蜂の巣にされるだろう。仮に入ったところで再びこちらに戻ってこなくてはならない。

 そんなものはもはや偵察ではない、強行軍だ。流石にそれをやらせるわけにはいかない為、リーダーのラムダンがダンを使用することはダメだと却下する。

 皆が頭を悩ませ自分も何か良い手は無いかと考えることしばし。


「せめて数だけでも分かればいいんだろうが……」

「あのー……」

「目視確認か? だがドアの隙間からあの礫が飛び込んでこないとも限らないぞ」

「あの、もしもーし」

「礫よりも狭く開ければ安全は確保出来るのではないか?」

「シーオさん、お話をー……」

「しかしそれでは中を見れる範囲も限られ……何かな、ヤマル殿」


 やっと気づいてもらえた。

 全員が話を中断しこちらの方を向く。


「えっと、中入らなくてもある程度なら確認する方法あるんですが……」



 ◇



「偵察、終わりました」


 地下三階へ続く階段からサイファスと重装歩兵を一人連れて戻ってくる。

 偵察と言っても中に入ったわけではない。ただ自分ひとりでは出来ないのでサイファスと兵士には協力してもらったのだ。

 あの後自分の案が採用され、必要な人員として二人を借り受けた。

 やったことは簡単に言えば《生活の風ライフ・ウィンド》を使っての索敵である。《生活の風》の風が触れた表面を知覚できる点を利用したのだ。

 まずドアの影に三人とも隠れる。そして重装歩兵の人が自分を庇うようにし、サイファスにドアをほんの少しだけ開けてもらった。

 瞬間銃撃がドア越しに浴びせられたものの、サイファスは微動だにすることなくドアの隙間を維持。銃弾が入って来れない隙間でも風ならばそこに流し込める。

 結果、銃撃で風をかき消されたりして時間は掛かったものの入り口周りの相手の配置を知ることに成功した。


「それで成果は?」

「あ、配置とか書き出しますのでちょっと待ってくださいね」


 メモ帳の一ページにさらさらと上面図を記載。地下三階も同じ形だったため分かりやすかった。

 問題はロボットの配置。

 まず非常口の正面、ドアから十メートルほど離れた場所に扇状で四体が並ぶ。どのロボットもこれまで見てきた他のロボットと同じ形だった。銃撃しているのはこいつらだろう。

 詳しい武装は分からなかったが、外観の形状からどの個体も左手が銃になってると思われる。

 そしてそのロボットの奥。大きさはほぼ一緒ではあるが、他のロボットと明らかに違う形状のが一体。

 武装は不明だが一番安全なところにいるため指揮官ではないか?と言うのがシーオやラムダンら年長組の見解だ。

 そして一番の問題が離れた場所にいる一体。

 形状と武装は銃撃してたロボットと殆ど一緒だろう。しかしこのロボット、非常口からは顔を出さない限り見えない位置にいた。

 仮に時計の盤面で言うなら非常口が中央、11~1の数字の場所にいるのが先の正面のロボット達。

 ただこの一体のみ9の部分に配置されていた。強行突破でなだれ込もうものなら後ろから撃つ予定なのだろう。


「面倒な位置に……しかしヤマル殿が調べなければ挟撃されていましたな」

「問題はこれをどうするかですよね。非常口の大きさじゃ一度に一人しか出れませんし……」


 数で押せばやってやれなくは無いかもしれない。ただしこちらの甚大な被害と向こうの戦力がこれだけならば、と言う前提ならだ。

 そんな不確定要素があるなか部下の命を晒すことなど出来ようはずもない。


「む、ならばこういう手はどうだろうか」


 今まで作戦立案には一度も加わらなかったサイファスが提示したその手段。

 それは明らかに、もちろん自分も含め誰も思い付かないようなぶっ飛んだ内容に一堂開いた口が暫く塞がらなくなるのだった。



 ◇



(撤退シタ……? イヤ、結論ニハ早イデスネ)


 最初に非常口が開けられて以降侵入者はその姿を見せていない。

 二度ほどドアが開かれたがそれも少しだけだ。進入はされなかったが相手にダメージを与えることも無かった。


「引キ続キドアガ開イタラ撃テ」


 現状指揮下に入っている五機のガードロボットの内、目の前にいる四機にそう指示を飛ばす。

 侵入者が次いつ来るか分からない。だがやることは変わらない、ただここを守るのみ。

 三度非常口が開かれてもいいよう注視していると、視覚センサーがおかしな部分を捉えた。


(……聴覚センサーガ故障? チェック――問題無シ)


 いつの間にか非常口のドアノブが回されていた。だがあの扉は開けようとすると歪な音がするのは先刻確認したばかり。

 仮に視覚センサーが何かの拍子で捉えることが出来なかったとしても、あの音を聞き逃すなんてことはありえない。聴覚センサーも問題なく稼動している。

 侵入者が何かした、と思考回路が推測。工程は不明なれど何かをやってくる前触れと認識。

 そして全機に銃を向けるよう指示を出そうとした瞬間ありえない光景を視覚センサーが捉えた。


 


「!?!?!?」


 一瞬の思考ルーチンの停止。その間にもドアが近づき回避不能と警鐘が鳴る中、眼前にいた二機にドアが着弾した。

 自身に当たる事無く二機のガードロボットとドアが後ろに吹き飛び、けたたましい音と共に床に転がる音が響き渡る。

 一体何が?と思考回路がようやく正常に稼動する中、その原因がいつの間にか目の前にいた。

 それはまるで黒い壁。昔データベース内で見た熊と言う生物に該当しそうな人間だった。

 吹き飛ばされなかった左右の二機がその人間に向け発砲。この近距離ならば絶対に外さない必中の攻撃。


「ふんっ!!」


 しかしその人間は両腕を一度振るい、左右の手の甲で銃弾を弾き返す。

 続けざまに二度、三度と発砲するもことごとく撃沈。あろうことか一発はその手で受け止められてしまった。


(理解不能理解不能……)


 こんな人間が存在するなど聞いたことが無い。この様な危険人物、早急に排除するべきだと自身のAIが最大限まで警戒レベルを上げる。

 そして残った一機――侵入者からは死角の場所に配置されているガードロボットに撃つよう指示を出し、同時に現在攻撃を加えている二機はそのまま足止めをするよう命令を下す。

 だが次の瞬間、再びありえないものをセンサーが捉えた。

 巨体からは想像も出来ない程の素早さでその人間は手近なガードロボットまでの距離を詰め、片手で頭を掴み楽々と持ち上げたのだ。

 旧式より軽量化を施されているとは言え金属の塊である我々の重さは人間が一人で、まして片手で持てる重量ではない。

 しかし目の前の人間はそれを成し得、さらにあろうことか後ろから挟撃しようとしていたガードロボット目掛け思いっきり投擲したのだ。

 放たれた味方はその瞬間敵の砲弾へと早変わり。寸分違わぬコントロールでガードロボット同士がぶつかり、手足や中身の部品を撒き散らしながら暗闇の中へと消えていく。


「む、確か会話は出来るんだったか。投降しろ」


 戦闘時間およそ十五秒でガードロボットが四機大破。しかもそれを単騎で、更にそれを成した人物は無傷。

 現有戦力の損害キャパシティを遥かに上回ってしまったため、思考回路がその黒い人間に従うよう即座に命令を下した。


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