第45話 チカクノ遺跡10


「ではこれより探索を開始する。兵士隊第一班は中へ」


 チカクノ遺跡非常口前。

 武装した兵士隊及び冒険者が一堂にこの場に集っていた。

 隊長のシーオの号令の元、班分けされた第一班が非常口から中へと入って行く。

 第一班の構成は強固な鎧と大盾が特徴の重装歩兵が三人、軽鎧の上からローブを羽織った魔法兵が一人、通常装備の歩兵が一人だ。先見隊として防御寄りの構成であり、何かあったときは反撃よりも時間を稼ぐことに主軸を置いている。


「下り階段発見、降ります」


 非常口を抜けた先は予想通りの下り階段。

 歩兵の人が魔道灯で足元を照らしながら慎重に階段を降りて行く。

 その姿を見送りながらメモ用の本に描いた地図の内容を更新。今回の自分の仕事の地図作成を進めていく。


「折り返し地点到達。進路問題ありません、進みます」

「よし、第二班続け。退路を確保だ」


 更に進む第一班の後を追うように第二班が中へと入る。

 彼らの目的は第一班が進んだ場所の退路確保だ。階段の折り返し地点に二班がつく頃には、第一班は地下二階に到達した。

 第一班からの伝言で地下二階の入り口もシャッターが降りているらしい。

 一応前日の会議で非常口の開け方は説明済みのため、シーオの許可を得て第一班が非常口を開け始める。

 前回開けた時のように錆び付いたような音が響き渡り、しばらくしてドアが開くような音が聞こえてきた。


「第三班と冒険者チームは中へ」


 そしていよいよ自分達の番だ。

 第三班はシーオとサイファスを含む司令塔の役割の班。また冒険者チームの護衛もあるため他の班よりも人数が多めに構成されている。

 そんな頼れる兵士隊に守られるよう非常口の中に入り階段を踏み外さぬようゆっくりと降りて行く。

 第一班が地下二階に入った為に第二班も続いて降りたようだ。折り返し地点には誰もいない。

 だがその折り返し地点の端に見覚えのある物が転がっていた。


「ヤマル、あれって……」

「多分戦ったやつの目と足だね。ここにあるってことは階段から落ちたのかな……?」


 階段から落ちたぐらいで破損するようなロボットには見えなかったが、少なくともここにいたと思っていいだろう。

 そのまま更に階段を下り非常口を抜けると未踏破階層の地下二階がその姿を表す。

 第一班と第二班が非常口を守るように展開し辺りを警戒しているが、特に目立った脅威は今のところないようだ。


「うわ、空気悪いな……」

「ずっと閉めきってた状態だったからね……」


 ダンが言うようにこのフロアの空気は一言で言えば悪い。

 埃っぽいと言うか何とも言えない空気だ。少なくとも体に良いものではないのは分かる。


「ケフッ、クシュッ!」

「ヤマル、ポチちゃん辛そうだよ……」


 足元でしきりに咳き込みクシャミを繰り返すポチ。

 嗅覚が人より鋭いポチに取ってはこの環境は辛いのだろう。


「ポチ、お前は上に上がって待ってて」

「クゥン……」

「大丈夫、これだけ人がいるからさ。上の兵士さんのとこで一緒に待ってくれると俺も安心できるし」


 申し訳無さそうにするポチに対し、メモ帳に兵士宛の手紙を書きそれを咥えさせる。

 内容はポチには辛い環境だったから一緒に待たせて欲しいとの伝言だ。


「ちゃんと帰るから大人しく待っててね」


 紙片を咥えてるためいつもの鳴き声は無く、代わりに首を縦に振って了解の意を示すポチ。

 そしてそのまま着た道を戻るように階段を駆け上がっていった。


「しかし調査環境が悪いのは考え物だな。我々はともかく後で調査する学者達に影響が出そうだ」

「一応自分の方で風操作してここの空気を外に出して代わりに上の空気持ってくること出来ますよ。とは言えフロアが広いのですぐには無理ですが……」


 《生活の風ライフ・ウィンド》なら階段を伝って送風機代わりは一応出来る。ただそうなると射程の都合で奥の方までは行けなくなってしまう。

 そのことをシーオに伝えると彼は少し考え込んだ後に首を横に振った。


「魅力的な提案ではあるが今は探索の方が先だ。もうすぐ第四班が……来たか」


 非常口から設置型の大型魔道灯を持ってきた彼らが第四班。

 上の通路に設置されてたのと同型の魔道灯を確保した通路に置いていく工作班といったところだ。


「ではこの場を拠点として調査を開始する。無理はせず少しずつ範囲を広げていくぞ」


 そしてついにチカクノ遺跡地下二階の調査が開始された。

 まずは正面通路へ。反時計回りに部屋と通路を一つ一つ調べていく予定だ。


「よし、行動開始だ」


 事前打ち合わせ通りに先ほど同様まずは第一班が進軍。

 ロボットの襲撃に備え速度は遅め。しかもブロフェスが昨日渡した覚書通り足元が非常に悪い。

 土砂が流れ込み通路の一部を塞ぐ。よく分からないものが散乱する。しかも借り受けた魔道灯の光が《生活の光ライフ・ライト》より弱いため薄暗い。

 明るめの光源は退路を確保してからとのこと。下手に明るくするとロボットが寄ってくるかもしれない危険性があると言う懸念からだ。


「開けるぞ」


 最初の部屋のドア。ブロフェスから地下一階のドアは横にスライドするタイプだったと聞いているため、歩兵の一人が取っ手を持ちゆっくりとドアを横にスライドさせる。

 ギギギ、と耳障りな音を立てつつもドアが開き、重装歩兵が盾を構え入り口から何か出てこないか確かめる。とりあえず襲われることは無いと判断されたため、まず彼らがそのまま中へと入っていった。

 第二班が周囲を警戒し第四班が付近に魔道灯を設置していると中を見終えてきた第一班が表へと出てくる。


「どうだった?」

「中は風化で元がよく分からないものが多数ありました。恐らく昔の家具と思いますが……それとベッドと思しきものの上に白骨化した死体が」

「そうか、古代人の遺体かもしれないな。後ほど神殿にも使いを送るよう進言しよう」


 流石に仏さんがいる部屋を調べるのは色々と憚られる為室内の調査は一旦中止だ。

 地図を作成しつつ部屋を一つ追加。白骨化した死体、それと室内は無害と地図に書き込む。

 そして次に、次にと順番に部屋を回っていく。

 構造自体は予想していた通り通路は『日』の字とみていいだろう。また室内も大きさの大小はあれど概ね最初の部屋と同じような構成。

 ただいくつかの人骨が発見されたため、その度に個々で故人の冥福を祈っていく。


 こうして右半分ほどの部屋を問題なく調べ終えることが出来た。

 当初危惧していたロボットの襲来は全く無いがそれが逆に怖い。

 そしてマップの『日』の上部分に差し掛かったところでついに変化が訪れる。


「ッ! ゴーレム発見!」


 先頭の重装歩兵が角を曲がったところで盾を構えながらそう叫ぶ。

 一同に緊張が走り全員が武器を抜刀。いつでも戦闘に入れるよう身構えるが、第一班の動きがそれ以上は無かった。

 重装歩兵の一人が通路の曲がり角の先に慎重に進み、程なくして戻ってくる。


「ゴーレムはどうした?」

「それが既に生き絶えてるようで全く動きません」


 その言葉に顔を見合せ全員で通路の角を曲がる。

 『日』の字の一番上の通路の部分、ここは他と違い特に土砂が溢れている一角だった。

 そしてその土砂の上や側で複数のロボットとおぼしきものが立ち尽くすように固まっている。

 数日前に戦ったものと同型とおぼしきロボット達。ただし両手のアームはシャベルや塵取りみたいなものになっていた。

 それはまるでこの土砂を片付けようとして途中で止まってしまった、そんな在りし日の様子が窺える。


「この土砂を片付けようとしてたのでしょうか……?」

「……かもしれないな」


 同じことを考えてたユミネがそれを口に出すとラムダンがそれに同意する。


「ともあれ少し調べてみよう。ラムダン殿、ヤマル殿」


 シーオに名を呼ばれ頷き返し、数名の兵士を護衛としてロボットを調べ始める。

 とは言え自分では分かることなんて殆ど無い。ロボットの概念はあってもこんな二足歩行で動く自律型なんて技術が違いすぎる。

 専門的なのは学者組に任せるとして、出来る範囲ではとりあえず調べることにした。


「ヤマル、どう?」

「長年経ってるからその跡はあるね。あとは所々凹んでるけど……なんだろ、戦ったより何かでぶつけた感じかなぁ」


 後ろから覗き見るように質問してくるコロナに対し、触った感じの所見を伝える。


「作業中に動かなくなった、って見るのが自然かな。多分燃料かその辺が切れたんだと思う」

「ねんりょう?」

「あー、物を動かす力の源って言えばいいかな。俺たちならご飯、魔道具なら魔力を源に動いてるでしょ。そんな感じ」


 ロボットの燃料は現在不明だが、もし燃料切れなら少し納得いかない疑問が沸いてくる。

 一応他のロボットも調べてみるが似たり寄ったりだ。一体目以上の目新しそうな情報はなさそうである。


「ヤマル、そっちはどうだ?」

「どれも動きませんね。少し刺激与えれば変化あるかもしれませんが……」

「いや、それはやめとこう。ここで一斉に動かれても困るしな」


 そりゃそうだ。銃を装備した個体はいないが、こんなとこで大乱戦はお断りである。

 一通り調べ終えたところでシーオに報告。自分もラムダンもここにあるロボットは自然と動かなくなったと言うことで見解が一致した。


「とは言えよくわからない物に変わりはありません。何かの拍子に動く可能性も……」

「なぁ、ヤマル。さっきお前はコロナにねんりょうとやらが無くなったから動かなくなったんじゃないか、って言ってたよな」


 先程の会話をラムダン達も聞いていたようだ。

 燃料の件に疑問を浮かべる彼らに先程コロナに教えた様に噛み砕いて説明する。


「つまりそのねんりょうとやらを入れれば動く、と見ていいのか?」

「可能性はありますね。実際動いてるのに襲われましたし……」

「問題はそのねんりょうとやらが何なのか、と言うことか。ヤマル殿、何か心当たりは?」


 正直言ってそんなものは無い。

 車みたいに分かりやすい給油口でもあれば良かったのだが調べた限りそんなものは無かった。なので現状首を横に振ることしか出来ない。


「流石にそこまでは……。ただ燃料関連で少し気になる点はあります」

「聞こう。何か糸口が見つかるかもしれん」


 第二班に周囲を警戒させつつ今からは討論会だ。


「そもそも燃料切れって言うのは先ほど言ったように人間で言えば食料切れです。人間ならそのまま餓死ですが、ロボ――ゴーレムはそれでは死なないので空腹で動けないに相当します」

「ふむ、それで?」

「現状燃料が無いから動けない、逆に言えば燃料を補給する方法がこのゴーレムに備わってると見て良いと思います。これほどの物を使い捨てとは考えにくいですし。スーリ、例えば君がここで仕事しててお腹空いたらどうする?」

「え、わ、私? そりゃ外にご飯食べに行くけど……」


 急に話を振られたスーリが慌ててそう答えると、その通りと言うように首を縦に振って見せる。


「そう、燃料を補給するのであればどこかゴーレムの食堂にあたるような場所があるはず。ですがこのゴーレム達はそちらに向かおうとはせずにここで止まってます。そこから考えられる点は自分が現状思いつく限りで二つ」


 自分がお腹空いたとき、そして周囲に食べる場所が無い状況。そんな状態になったことなんていくらでもあるしなったこともある。それも日本でだ。


「一つは誰かがその燃料を持ってくる場合です。古代の人が作業中のゴーレムに燃料を渡すようなものですね」


 所謂ピザのデリバリーの様な物。

 食べ物が無いなら頼めば良いし持ってきてもらえば良い。お弁当の線もあるが、長時間行動するならやはりどこかで補充行動を起こすはず。

 それがないままここで動きを止めているということは、そもそも燃料補充のプロセスが存在しないと見るのが自然だ。


「ですが自分はこれはないかな、と思ってます。利便性に富んだこの様なゴーレムを作った古代の人が、そんな手間の掛かるような方法を取るとは思えません。となると残りはもう一つの方法」


 食べる場所も無い、お弁当も無い、デリバリーも無い。

 そんな無い無い尽くしの状況でお腹を満たす方法は――ある。特に冒険者ならこの手のことは経験があるはずだ。

 皆が固唾を呑む中、指を二本立て二つ目の方法を告げる。


調


 俺はまだ未経験だが、冒険者は現地で食料調達を良くするとのこと。

 特に長期の探索では木の実のみならず、釣り、狩猟も立派な冒険者としての腕の見せ所だ。


「む、ヤマル。だがここには調達できるようなものは無いぞ」

「人間目線からしたらそれっぽいのは無いでしょうね。でもあるじゃないですか、ゴーレムからしたら彼らの力の源が」

「そんな物――」

「分かった、魔素マナですね!」


 魔法兵の一人が告げる答えに首を縦に振ると彼は嬉しそうに顔を緩める。

 目に見えないけどその辺にある魔素、つまり魔力の源。コロナが言うにはゴーレムの核は魔石らしいから、この世界のロボットの燃料が魔素である可能性はある。

 だがそれは多分不正解だろう。すでに何人かが気づいていた。


「しかしヤマル殿、その場合この場には魔素が無いと言うことになってしまうが……」

「まぁ自分で言っててなんですけど魔素は違うでしょうね。正確には他にも何かあると思った方が良いかも、ですが……」


 試しに出力を抑えた《生活の火ライフ・ファイア》を使うが問題なく魔法は発動する。

 使用後の魔力疲れも出ていないため、周囲の魔素を自分が問題なく取り込んでいるんだろう。つまりこの場には魔素があり、もしそれが燃料であればロボットたちは問題なく動いているはずだ。


「他の何かとは……?」

「なんとも。少なくとも室内で使えて危なくなく供給出来て常にありふれてる物ですが、そうなると限られてくるでしょうし……。魔素もですが例えば光なんかもそうですね」


 その言葉に慌てて第四班が魔道灯の光を消そうとするもすぐさまシーオに止められた。

 光が原因で動くならばとっくにこのロボットたちは活動を再開しているからだ。

 そんな中、何か気になることがあったのかユミネがこちらに質問をしてくる。


「ヤマルさん、そもそも光ってそんな力あるんですか?」

「んー、割とあるよ。例えば人間なんか太陽の光浴びないと調子悪くなるし、植物だって光合成とかに必要だからね」

「こうごうせい?」

「あー、まぁお日様の光浴びて元気になるようなものと思えば良いよ」


 そうなんですか、ととりあえずユミネは納得してくれたようだ。

 しかし魔素でもなく光でもない。ならあの最初に会ったロボットは何故燃料切れを起こしていなかったのだろう。


「とりあえず話をまとめると動かない理由は予想できたが、動くためのものがわからない。で、いいか?」

「そうですね。いきなり動かれても困りますし、もし上に運搬するならガチガチに手足固定するのが無難かと」


 正直簀巻きにしてもロープぐらいなら引きちぎりそうな気がしないでもないが、かといってあのロボットのようにボコボコに壊すわけにもいかない。

 どうしたものか、と思っているとシーオが皆を見渡し見解を述べる。


「今動かれても今後の調査に差し支えるだろう。それならすぐにでも縛っておいた方が良いと思う」

「ですがその最中に動かれでもしたら……」

「どの道このゴーレムは上に運ばねばならん。ならば遅かれ早かれ何か対策は講じねばならない。それなら現状戦力が集まってる今のうちにやっておくべきだ」


 現在ここには総勢二十名以上の戦える人間が集っている。

 しかもサイファスがこの場にいるのが大きい。自分と違い救世主として呼ばれ、しかも前の世界では戦士をしていた彼だ。その実力は計り知れないだろう……多分。

 先ほどラムダンが一斉に動かれても困ると言ったが、むしろ一斉に動かれるならこの状況が一番の理想なのかもしれない。


「……よし、探索は一度中止、第四班は上からロープをありったけもってこい。魔物用の鎖でも構わん」

「はっ!」

「第二班は引き続き周囲の警戒。第三班は半数は我々と、もう半数はゴーレムを縛り上げろ。第一班は何かあればすぐに対処だ」

「了解しました」


 シーオの指示の元きびきびと兵士たちが自分の仕事をこなしに行動を開始する。

 動いてないのはシーオとサイファス、そしてその直下の兵士数名と冒険者チームだ。


「なら俺たちはゴーレムを注視しておこう。何かあったらすぐに兵士隊のバックアップにはいるぞ」

「はいよ、了解したぜ」

「その間にヤマルは地図と所見を書いてくれ、俺もやる」

「ん、分かりました」


 地図に覚書として土砂を運ぶ途中で止まったゴーレム多数、と記入。ついでに口で説明するよりもいいと思いスマホで何枚か写真を撮る。

 これがあればあとで説明のときに楽になるし。


「む、写真か」

「えぇ、皆で撮ったのも残ってますよ」


 サイファスはあの時のことをちゃんと覚えてくれていたようだ。

 フラッシュを意図的に止めてる為やや暗いが、現場の状況を教えるだけなら問題ないだろう。

 撮り終えこれまでの分も色々と記入している横で、第三班の兵士がおっかなびっくりで一体一体慎重にロボットの手足を縛り上げていく。

 人間と違うあの丸いパイプのような手足、普通に巻いてたら隙間が出来てしまうようで中々悪戦苦闘しているといった様子だ。


 しばらくするとほぼ簀巻き状態になったロボットが五体完成した。

 何もして無いのにあの姿は流石に哀れみを感じてしまう。安全のためと分かっていてももう少しなんとかならなかったのだろうか。

 ……まぁならなかったんだろうなぁ、きっと。


「それでこいつらどうするんですか?」

「一旦はこの場に置いていく。勝手に持ってっても調査班の方で準備が出来てないだろうしな。あちらと予定をすり合わせた後に運搬するぞ」


 かわいそうと思いつつもロボットは全て壁に持たれかからせるような形で一旦放置されることとなった。

 その後更にまだ見ていない場所を調べ上げていくが、ロボット以上の成果は今のところ見受けられなかった。

 違いと言えば中央部の小部屋が地下一階と違い扉が閉まったままなぐらいか。やはりエレベーターの線が一層濃厚になる。

 とりあえずぐるりと一周する形で一度非常口前へと戻ってきた。

 成果としては地図作成とロボットの発見、それと通路に魔道灯を設置出来たことだろう。

 緊張しっぱなしの一周だったが、何事も無く終わりほっと胸を撫で下ろす。


「とりあえず地下二階は初回としてはこんなところだろう。戦闘も特に起こらなかったようで皆を預かる身としては嬉しいことだ」

「隊長、下の階層はどうしましょうか」

「あるなら見ておきたいところではあるが……」


 ちらり、とシーオがこちらに目線を送ってくる。

 その意図することがなんとなく分かったため頷くと地下一階の非常口と同じ場所を調べ始める。

 程なくして同じタイプの非常口を発見。上のときと同じように砂埃で埋められたそれを《生活魔法》を駆使して埃等を洗い落とす。

 昨日居残り時に学者の先生に遺跡を傷つけない落とし方を聞いてて……と言うかこういうときのために強制的に覚えさせられたのだ。

 現れた非常口のドアノブを兵士隊が見守る中、第三班の兵士に場所を譲りゆっくりと開けてもらう。

 前回はここでロボットが出てきた。その事を思い出しながらドアを注視していたが今回は何も無さそうだ。

 兵士が中を確認。予想通り下り階段があることを告げ、地下二階に降りてきた時と同じように第一班、第二班と中へと入って行く。

 非常口から覗き見える第二班の姿。彼らが第一班より地下三階の非常口を開けていいかの確認の言を伝え、シーオが許可を出しそれを第二班伝いで先頭の第一班に届けられる。

 予定ではここが最後の階層、元は地上一階だった地下三階――


 ――パァン!!


 非常口から響く乾いた音。その音が続けざまに幾度となく響き、中にいた第一班と第二班の怒号がこだまする。


『敵襲! 待ち伏せ――』

『ドアを閉めろ! 負傷者を運び出すんだ!』

『く、このおぉぉ!!』


 バァン!!と最後に一際大きい音がしたのはドアを勢いよく閉めたからか。

 異常事態に一気に空気が張り詰める。それでもシーオらが動かないのはこれも想定されたことなのだろう。

 先頭にいたであろう重装歩兵の一人が仲間に引きずられるよう階段から運び出され、第二班、第一班の順で脱出してくる。


 血まみれの兵士に這々の体で非常口から出てくるその姿は、完全に敗走したと思わせるには十分な光景であった。


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