第41話 チカクノ遺跡6
「と言うのが今日一日の流れになります」
あの後自分ら一行と研修生数名が遺跡の入り口にあった丸太小屋に連れていかれた。
そして事の顛末を細かく説明。自分の説明に嘘偽りや不備が無いことをリーダー君やグィンらがフォローし、職員である初老の男性がその記録を取っていく。
ちなみに現在チカクノ遺跡は封鎖されていた。言うまでも無く未踏破のルート開拓にゴーレムの出現など危険な部分が増えたためだ。
「す……」
「す?」
「素晴らしい! 何たる発見! 何たる浪漫! まさかワシがここに来たときにこのようなことが起ころうとは!!」
うひゃひゃひゃ!!と奇声を上げる目の前の職員は完全にマッドな様子だった。最初の受付時の大人しいあの人は何処に行ってしまったのだろうか。
もしかしてほぼ発見が無くなったここにいたのって、こんな性格だから左遷させられたのではないかと邪推してしまう。
「えーと、それでそのロボット……ゴーレムを倒した際に壁にヒビ入っちゃったんですけど……」
「構わん構わん! そのままだともっと被害が出ただろうから問題ないわ! それ以上の余りある成果、若人よ見事じゃ!!」
もはや見つけた当人よりも一人ではしゃぐ職員。
流石に非常口を見つけたときにお祭り騒ぎだった研修生組もこれにはドン引きである。
「あの、それでこれからどうなるんです? 調査とか続けれたりは……」
「もちろん構わんよ。……と言いたい所じゃが多分今すぐは無理じゃろうなぁ」
やはり問題なのは非常口からロボットが出てきたことだ。
今回相手したのがまだ下に、それも万全な状態でいる可能性だってある。そのため調査に先駆けてまずは内部の安全確保が急務だった。
「何せ戦える人手が無い。明日王都に使いを出すから再調査は速くても三日後……まぁ実際はもっと遅くなるじゃろ。だが上手く行けば冒険者じゃなく王都の兵士たちが動員できるかもしれん」
「あれ、こういう調査って冒険者の方では……?」
「普通ならそうじゃの。だが元々ある遺跡で新たに開拓した場所じゃぞ? すでに王国管轄の地、下手に冒険者を呼ぶよりは兵士の方がいいんじゃよ」
まぁそれを言われたら統率できている兵士の方が信用できるだろう。こちらは安定した収入があるわけだし統率だって取れている。
ただこういった場所での冒険者の経験はバカにはできない。彼らは兵士とは違う研鑽を積んでいるのだ。
「あの、私達も一緒に入ることは……」
「お主らは発見者じゃから一緒でも問題ないじゃろ。むしろ下で何か見つけた際の所有権は基本お主らの物じゃよ?」
このあたりは国とギルドとの取り決めになっているとのこと。
遺跡の発見者は中の所有物は基本見つけた冒険者のものだ。ただしそれは未知で危険さも孕んでいる遺跡の調査や情報の開示なども含まれているからこそである。
今回のように王都から近く戦力も学者もすぐに動員できるチカクノ遺跡では事情がやや異なるらしい。
「あの、見つけたのは確かに自分らですけど、半分は手伝ってくれた彼らの手柄でもあります。その辺どうにかなりませんか?」
「流石に第一陣には組み込めないの、戦える学者がいるのなら別じゃが……。とは言え無論功労者である彼らを邪険にすることはできん。安全確保後の調査団に希望する者は編入できるようにしよう」
……あれ、もしかしてこの人実は結構権力者?
ただの受付の職員がこうもホイホイと人選に介入できるものではない……はず。
「まぁ見つけた際に関しての分配はそっちで決めとくれ。ともあれまずは人員調達じゃの」
「最短で三日後ですか」
「ヤマル、どうしよ。一度王都に戻――」
「ダメじゃよ?」
コロナの言葉を職員が遮る。
何で?と問いかける前に職員はそのまま言葉を繋げた。
「戦力が足らんと言ったじゃろう。少なくとも応援がくるまではお主らはいてもらわないと困る。まぁこっちの都合で引き止めるから滞在費は出させてもらおう」
「うーん……仕方ないか」
あのまま放置は流石に無責任すぎる。
どちらにしろ王都に帰るにしてもまたここに来なければならなくなる。まぁ滞在費は出してくれるとのことだし大人しくそれに従うことにしよう。
「ヤマルさん、僕達は明日一度戻ります。研究室への報告もありますし、本格調査となればこちらも道具や人員もいるでしょうから」
「ん、了解。そっちの上の人も多分来るよね? 一度話はしておかなきゃいけないし、こっち来た時に会えるよう頼める?」
「分かりました、伝えておきます」
とりあえず遺跡の本格的な調査に関しては彼らに任せていいだろう。
今回のことでもっと経験の積んだ本職もくるだろうし。……会ったときに功績焦って彼ら差し置いて出張らない様に釘は刺しておくか。
後は……。
「あ、兵士を呼ぶって事はもしかして王城の方に繋がりがあったり……?」
「まぁのぅ、こう見えても昔はちょっとした権威だったんじゃよ。だから多少は伝手はあるの」
「ならちょっとお願いしたいことが……」
戦力は多いに越したことは無い。
希望が叶うかどうか分からないが、打てる手は出来るだけ打っておくことにした。
◇
「つっかれたぁ……」
丸太小屋での報告が終わるころにはすでに日が落ちていた。
今日一日で色々なことが起こりすぎた。心身ともにすり減らし、疲労を抱えながらもなんとか宿へとたどり着く。
このまま布団に飛び込みたいところだったが流石に汚れた服のままは憚れたので理性でぐっとブレーキをかけた。
「ヤマル大活躍だったもんね」
「んー、俺よりコロの方が活躍してたでしょ」
よっこいしょ、と備え付けのイスに腰を下ろし装備を外していく。
今日初めてコロナの戦いを見たがすごかった、そして頼もしかった。彼女がいなければ現在もここが阿鼻叫喚の地獄絵図になっていた可能性だってある。
「そんなことないよ。ヤマルいたから発見できたんだし」
「そのせいでコロに戦わせる羽目になっちゃったけどなぁ。まぁ今更言っても仕方ないけど……」
過ぎたことを言っても、もうどうにもならない。結果はもう確定しているのだから。
とりあえず今日の反省点を探して明日以降に……。
「ヤーマールー」
「うに゛?」
いきなりコロナが両手でこちらの頬を左右から挟み込んだ。ぶに、と頬が歪みきっとマヌケな変顔を彼女に晒してるだろう。
にしても手甲の金属部が冷たくて気持ち良い。火照った頬がひんやりとする。
「
「ヤマルはちゃんと頑張ったよ。私に出来ないことしたし、そのお陰で皆喜んだじゃない。もっと自信持って良いと思うよ」
真っ直ぐ向けられる視線。気恥ずかしさから目を逸らそうとするもがっちりと頬をホールドされて顔が全然動かない。
てか力強……全然びくともしない……。
「
「もう……なんで自分のことだとそんなに自信無くなるのかなぁ」
自信……かぁ。多分一番縁遠い言葉だろう。
少なくとも向こうで自分を信じたところで何も良いことなんて無かった。いつも間違ってそれに慣れてしまっていた。
「第一皆が知らないことを知ってて、それを教えてあげてたじゃない」
――違うだろ! 何でこんな簡単なこともわからねーんだよ!
(簡単と思えるのは皆が普通だから)
「頭良い研修生の皆に説明してたときとか、横で見ててカッコ良かったよ?」
――古門、このプレゼン資料やりなおせ。教科書通り過ぎて個性が全然無いからつまらん。
(
「ね、ヤマルはちゃんと役に立ってるよ。それに一日で見つけるなんてすごいことなんでしょ?」
――はぁ……少しは役に立って下さいよ。先輩仕事遅いんですから、せめて邪魔にならないようにしてください。
(邪魔にならないように……)
「だから……って、ヤマル!?」
「え?」
急に両頬からコロナの手が離れる。
どうしたんだろうか、彼女が妙におろおろしてるし困った……いや、困惑した表情をしていた。
「ごめん、痛かった?! 大丈夫?」
「え、え……?」
痛くもないし大丈夫と言われるようなことを何も受けてない。
何を言われてるのか分からないと思っていると、不意に視界が滲み目端から涙が溢れていた。
頬を指先で拭うと今流れたのとは別の濡れた跡があった。どうも気づかないうちに泣いてたようだ。
「あ、大丈夫だよ。痛くもないし……。なんで泣いてるんだろうね、俺?」
苦笑し大丈夫と言ってはよく分からないととぼけて見せる。
まぁ、多分コロナの言葉で以前のことがフラッシュバックしてしまったんだろう。
これまでこの様に褒められることなんて無かったし、体が拒絶反応でも起こしてしまったのかもしれない。
もしそうなら知らない間に難儀な体質になってしまったと思う。
「でも……」
「大丈夫、コロのせいじゃないから。俺自身よく分かってないし」
目元を手で拭いながら再度大丈夫と笑いかける。
それでもいきなり泣かれたためか、コロナはあまり納得してる様子ではなかった。
「ヤマルってもしかして触るのも触られるのも嫌い?」
「え? 別にそんなことないよ」
唐突な質問に首をかしげながらも正直に答える。
よっぽど危ない人とかでない限りは別に触れられるのは気にはしない。
ただ触る方は気にするかも。この辺はセクハラとか
「ほんと?」
「ほんとほんと。大体苦手だったらポチと付き合えないって」
今も膝の上で丸くなってるポチ。向こうから触れてくることも多々あるし、こちらから触ることもたくさんある。
その証拠にと言うようにポチを持ち上げテーブルの上に置くと、あごの下や耳を優しく触ってみせた。
とても気持ちよさそうにしているポチを見れば流石に疑いも晴れるだろう。
「……それって私に対しても出来る?」
「う、それはちょっと無理かなぁ……」
「ほらぁ!」
「や、だってコロは女の子でしょ。正直言うとあんまし異性の子といたこと無いからその辺の距離感掴めないんだよ……。でも別に嫌ってるわけじゃないし、それに必要なときはちゃんとやってるでしょ?」
パーティー組んだときの握手とか、今日だって彼女の肩を掴んで引っ張ったりもした。
転びそうになったコロナを抱きとめたこともあった。
ただ必要に応じない限りは能動的に出来ないだけだ。そんなことでこれからギスギスしたくないし……。
「……つまり女の子に慣れてない、ってこと?」
「まぁ端的に言えばそういうこと。恥ずかしいからあんまり他の人には言わないでね?」
「ん、分かった。でもヤマルも慣れてないからって私に遠慮はあまりしないでね。ダメなときはちゃんと言うし断るから」
「うん、ありがと。コロも……まぁコロは大丈夫だと思うけど、そっちも遠慮しなくていいからね」
◇
「いやまぁ遠慮するなとは言ったけどさ……」
あれから数時間後。すでにご飯も風呂も洗濯も全部済ませ今は寝る前のまったりとした時間帯。
今日のことを振り返ろうかと持ちかけたのだが、何故こんなことに……。
「ヤマルに慣れさせるための訓練だよ。体張ってるんだからしっかりやってよね?」
「……本音は?」
「昨日ポチちゃんが気持ち良さそうだったから」
さいですか、と半ば諦めつつも手を動かす。
現在、自分の布団の上でコロナの尻尾を絶賛ブラッシング中だ。
ただしただのブラッシングではない。普通に梳くだけのものと違い、生活魔法を併用すればなんと《
昨日寝る前にポチにやってたのを目ざとく見つけ、自分への特訓と言う建前で現在に至るわけである。
「熱かったり痛かったりしない?」
「大丈夫だよー。丁度良くて気持ち良いし……」
「ここで寝ないようにね」
まぁ寝たところでコロナの体重なら運ぶのは造作もないだろう。ちゃんと自分が抱きかかえ上げれるのであれば、だが。
大体寝巻き姿の女の子が目の前に無防備でいるだけでも心臓に悪いのだ。信頼してくれてるのは嬉しいのだが、もう少し気にして欲しい。
……いや、気になってるのは自分だけか。コロナはずっと自然体だったし。
「しかしコロの尻尾ふわふわだね。濡れてるときはなんていうか、すごいしぼんでたけど」
乾かすとボリュームが増し手触りが凄く良い。
王都でセレスに会う前に着替え直後の彼女を見たが、そのときの尻尾はまるで絞った雑巾のようなものだった。
乾かして少し手入れするだけでこうなるのは毛の性質だろうか。
「ヤマルだって髪の毛濡れたら似たようなものでしょ。尻尾は量が多いから余計に目立っちゃうの」
「なるほどねぇ、その辺は無い俺じゃ分からないな。よし、こんなもんかな」
ブラッシング終了。ポチで慣れてたためか、中々初回とは思えないぐらい良く出来たと思う。
「ん~、気持ち良かったー……。じゃぁ髪の毛もお願いして良い?」
「えー……ちょっとハードル高くない?」
「はーどる?」
あー……それもか。ロボットといい銃といい、日常的に会話する相手が出来るとこう言った違いを感じてしまう。
「乗り越える壁がでかくないかって感じかな」
「そんな大層なものでもないんじゃ……」
「女の子の髪だよ、ほいほい触っていいものでもないでしょ」
「私がいいって言ってるんだから別にいいんじゃないの? ほらほら、早くやってー」
子どもか、と思ったがまぁまだ大人とは言い切れないぐらいの歳だったのを思い出す。
「分かった分かった。それじゃ椅子に座ってくれる?」
「えー、このままでいいのに……」
「いや、正直言うと尻尾が間に入ってちょっとやり辛い……」
「じゃぁ私が前向く?」
「勘弁してください……」
見合って髪梳くのは流石に無理だ。魔法の集中力が絶対に切れる。
流石に今回はコロナが折れてくれたため、椅子を引き寄せてそこに座らせる。もちろん尻尾の邪魔にならないよう背もたれは側面だ。
「……耳のとこどうやればいいの、これ」
「適当でいいよ。痛かったりしたら言うから」
ポチのブラッシングは体だけのため流石にこっちは勝手が分からない。
とりあえず尻尾と同じようにやることにする。髪の毛も尻尾と同じなのか、コロナの髪もかなり柔らかい。サラサラヘヤーという奴だろうか。
「おぉ、なんか耳元でごーって音がする」
「まぁ温風出してるからね」
梳いてて分かったことだがコロナの耳は当たり前だが頭頂部にある。
では人間の耳の部分はどうなっているのか?と思ってブラシで流してみると何も無かった。普段は髪のボリュームで隠れてて違和感無かったが、こういった部分で本当に違う種族なんだと感じてしまう。
「それでヤマルはあのゴーレムはどう思うの?」
「んー、どうって?」
「いきなり襲ってきたじゃない。ゴーレムって命令に従った行動しかしないよ。だから最初と襲ってきたときとで何か違いあると思うんだけど」
確かにそれは気になっていた。
最初から襲う気であるなら出てきた瞬間銃を使ってたはずだ。にも関わらず最初は猶予があった。
「そうだね……一つは単純に時間切れだった、かな。少し待つのニュアンスがこっちとあっちじゃ違ってたとか」
「一つ? 他にもあるの?」
「うーん……あんまり考えたくないけどコロを見たから、かなぁ」
様子が変わったのが彼女が自分とロボットの間に入った後からだ。
ならコロナが原因であのようになった可能性だって十分ある。
「私のせい……?」
「コロのせいと言うよりは女性か獣人かのどっちかで引っかかったが正しいかな。ただなんでそれがダメなのかサッパリだけど……」
「でも最初から私一緒にいたよね。それならもっと早くても……」
「んー……確か片目が壊れてたからたまたま最初こっち見たときにコロのことが見えてなかったのかもしれないね。壊れてた目ってコロがいた方のだったし」
まぁ結局予測でしかない。
そう言えば攻撃前聞き慣れないことを言ってた気がする。確か……
獣人の昔の呼び名だろうか。また研修生達にこのことを聞いた方が良さそうだ。
「私、調査同行しない方がいいのかな。これじゃ先に進んでもまた戦うことになるし……」
「いや、コロは俺の側にいてくれなきゃダメだって。それにどうせ皆で入るんだ、コロがいなくても遅かれ早かれ戦うことになると思うよ」
早く出なければ強制排除、とロボットは言っていた。コロナがいなくても結局時間経過で排除されてただろうし、それならあれを一人で倒せる彼女はむしろいてもらわねば困る。
「まぁとにかく数日は時間あるんだ。今のうちにもう少し色々考えた方が良さそうだね。……はい、髪の毛もこんなもんでいいでしょ」
丁度話の区切りでコロナの髪も梳き終えた。
しかしほんと髪質良くて羨ましい。トリートメントとかもないだろうに、まるでCMでお馴染みの髪がふわっとなるシーンが再現できそうだ。
「ふわふわ……ヤマルすごい……」
「そう? むしろこれだけで十分なコロの方がすごいと思うけど……」
自分の髪ではないかのように両手で持ち上げ感嘆の息を漏らすコロナ。
まぁ満足してくれたようでなによりである。
「とにかく今日はもう休も。色々あって今日はコロも疲れたでしょ」
「そうだね。ヤマルもゆっくり寝てね」
「ん。じゃあ明かり消すよー」
ベッドにコロナが入るのを見送り《生活の光》を消す。
部屋に備え付けの明かりはあるのだが薄暗いため専らこっちを使っていた。
「おやすみー……」
知らない内に思ってた以上に疲れてたのだろう。
布団に入り目を瞑れば、昨日とは打って変わってあっという間に眠りに落ちていった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます