第30話 《薬草殺し》の実力5

「よし、いくか」


 ラムダンの号令の下、二日目の探索が開始される。

 今日は山の中を歩き獲物を探し明日は早めに帰るとのこと。そのため今日が実質最終日となる。

 短いように感じるかもしれないが、下位メンバー、それも他のパーティーが含まれる今回のような依頼では大体三日が通例らしい。


「さぁ、大物探すぞー!」

「昨日あまりやれなかったもんね。頑張っていこー!」


 元気良く手を上げて気合を入れているのはダンとスーリの二人だ。

 その横でフーレが二人を嗜めては全員の前に移動し、それを合図に昨日と同じ隊列を組む。


「ヤマルさん、どうかされましたか?」

「や、大物は出て欲しいような出て欲しくないような……まぁ複雑な気分って感じでして」


 大物が出れば一攫千金……とは行かないものの、やはり実りある収入になるのはもちろん分かる。

 ただ頭ではそう分かっててもやっぱり怖いものは怖いのだ。周りに頼れる人がいるのは分かっているがコレばかりは仕方が無い。


「大丈夫ですよ。私もまだ怖いときありますけど、皆さんいれば心強いですから」

「ん、そうですね。俺もちゃんと覚悟決めておかないとなぁ……」


 パン、パンと自分の頬を叩き気持ち的に活を入れる。

 年下の子にこう言われてはまぁ頑張るしかないだろう。小さな見栄だが今はそれがありがたい。


「でもヤマルさんってなんか落ち着いてる感じしますよね」

「そう? それなら自分なんかよりラムダンさんの方がずっと落ち着いてると思うけど。どっしり構えてるし」

「ラムダンさんはやっぱり年長者ですから。ヤマルさんは自分と同い年ぐらいなのに、物腰柔らかいと言いますか……」

「ユミネちゃん、ダメダメ。比べる相手がアレじゃ誰だってそう見えるんじゃない」

「おう、喧嘩売ってるなら買うぞこのペッタン魔術師」

「おチビが何言ってもね~」

「「あ゛??」」


 先ほどまで意気投合していたはずなのにあっという間に一触即発ムードだ。彼らの間に《生活の電》のような火花が散ってる気がするのは多分気のせいじゃないだろう。

 だが周囲は見慣れているのか特に止める様子も無い。いつものじゃれ合いみたいなものなのかもしれない。

 それよりも一つ、気になるセリフがあった。いや、前々から薄々感づいてはいたが確信が持てないでいたことだ。

 最初に引っかかったのは昨日のイーチェのセリフである。

 なのでこの疑問を彼らにぶつけてみることにした。


「あの、良かったら皆さんの年齢聞いても?」

「歳ですか? 私は十七ですよ」

「俺は十八だ」

「私もユミネちゃんと同じ十七だよー。ダンとは年子だから同い年みたいなものだけどね」


 まだ二十になっていなかったのか。いや、見た目からすれば告げられたぐらいの歳なのはわかる。

 ただCランクはいっぱしレベルと聞いてたためもっと年齢重ねているかと思ってた。思ってる以上に彼らは優秀なのかもしれない。


「俺は二十八だ。で……」

「私は二十一よ。イチ姉は二十四ね」


 ラムダンとフーレもまだそんなに歳は行って無い。それ以上にイーチェが年下なのが驚きだった。

 あんな雰囲気なのだからてっきり年上とばかり思ってたのに……。


「……ちなみに自分、何歳に見えます?」

「何歳ってそりゃあ……」


 率直に回答しようとしたダンの口が直前で止まる。こんなことを聞いてきた場合のある可能性を考慮しているのだろう。

 横を歩くスーリがこちらの顔をまじまじと見ているあたり彼女も同じことを考えていそうだ。

 そして皆が一様にある人物の方に視線を送る。視線の先はもちろんラムダンだ。

 こういうときの年長者は辛い、みたいな哀愁を漂わせてることに対し心の中で合掌をしておく。

 彼はため息一つ零す皆を代表して回答した。


「まぁフーレと同じぐらいじゃないのか」


 出た答えは二十一。多分これでもかなり気を使った方だろう。

 その言葉に首を横に振ると途端にダンとスーリの表情が明るくなる。


「なんだよー、脅かしっこ無しだぜ? やっぱ俺らとタメぐらいじゃーー」

「二十五」


 だがそれも束の間のことだった。

 ピシリ、と何か空気に亀裂が入ったかのように訪れる沈黙。移動はしているものの誰も彼もその表情が完全に固まってしまっていた。

 そしてその空気を破るかのように更に言葉を続ける。


「二十五ですよ、自分。だからイーチェさん込みでも上から二番目ですね」


 苦笑しつつ彼らに対し事実を投げつける。

 しかしそんなに幼く見えたのだろうか。

 日本にいたときはそんなことは一度だって言われたことは無い。逆に年上に見られることも無かった、つまり年相応ぐらいとみていいはずだ。

 見慣れた顔だが自己評価でも童顔かと言われれば首を横に振るだろう。

 だが彼らの様子からするとそんなことはないらしい。


「あー、えーと、その……」

「あぁ、気にしないでください。別に歳上だから偉ぶるとかそんなことはしませんよ。むしろランクはこっちが下なんですし」


 歳が上だから偉い、なんてことはあまり思わない。もちろん多少礼儀としては必要とは思うが絶対ではない。

 実際ここで自分が偉ぶったところで皆の目にどう映るかなんて分かりきってることだ。実力皆無のEランクが偉そうにしてる姿など滑稽を通り越して哀れみすら覚えそうである。


「えーと、その、ヤマルくん、じゃなくてさん? ……あぁ、もうめんどくさい!!」


 言葉を選ぼうとしていたのだろう。だが脳内で処理しきれなくなったのか、スーリがビシリと人差し指をこちらに突きつけた。


「もうヤマルでいいよね? てかそう言うからね! はっきり言ってそのですます丁寧口調が悪い!」

「えぇ……」


 ものすごい理不尽な事を言われた。丁寧な口調は仕事仲間では円滑に事を進めるのに重要なことなのに。

 そもそもラムダン以外のメンバーと顔を合わせたのは昨日が初めてだ。初見でフランクに挨拶するような教育など自分は受けていない。 


「だからヤマルも私らのことはさん付けじゃなくていいから。もっと口調崩して普通に喋ること! あ、お義兄ちゃんにはそのままで良し!」

「え、えーと……スーリちゃん?」

「ちゃん無し! 呼び捨て!」

「あ、う~……コホン。分かったよ、スーリ」


 よろしい、と胸の前で腕を組み満足そうに頷くスーリ。

 他の人も少しどうしようか迷っていたようだが、結局扱いに困ったためか彼女の案がそのまま採用されることになった。


「しかしよー、ホントに二十五なのか? マジでタメって言われた方がしっくり来るんだけど……」

「歳でサバ読んでも仕方ないでしょ。むしろ今の今まで若く見られてるってことすら知らなかったんだし……」

「周りに言われたりはしなかったの?」

「特には。普通に歳相応と思ってたしね。まぁ……ん?」


 ふと、いつも通り飛ばしていた魔法の索敵に少し気になるものが引っかかった。魔物ではない、周囲にそれっぽいのは感じられない。

 でもこれは……。


「どうした、敵か?」

「いえ、敵じゃないんですけど何か変なんですよ。何と言えば良いか……」


 言葉に直すと難しい、何かの跡と言えばいいだろうか。

 明らかに不自然な跡がその場所からどこかに伸びている。


「まぁ見たほうが早いんじゃね?」

「そうだな。ヤマル、場所を教えてくれ」


 違和感の正体を確かめるべく先頭のフーレにその場所の方向を教える。

 歩くことしばし、その問題の場所へとやってきたわけだが……。


「これは……」


 目の前に広がる光景は端的に言えば木々がなぎ倒されていた。

 日本人に分かりやすく言うなら、トラックが山の中を暴走した跡、と言えばいいかもしれない。

 木の倒れ方から何かが一直線で突き抜けていったんだろう。その主は今はこの周辺にはいないようだが、それでも倒れなかった木についている痕跡からその大きさが窺える。

 削られた木の跡には自分と同じぐらいの高さのものまであった。仮にこの木に当たって削りながらも通り過ぎていったとしたら、この痕跡の主は自分よりも高く大きいということになる。


「厄介だな、ラッシュボアの跡か」

「うげ、アイツいんのかよ……」


 ダンがものすごく嫌な顔をしている。ラッシュボア……突進猪?

 自動翻訳でそう聞こえるから多分そんな意味合いの名前なんだろう。


「ダン、周囲にはいそうか?」

「んにゃ、音も聞こえないから多分近くにはいねーな。高台いけば見えるかもしれないけどさ」

「まぁいきなり出てこられても困るか。高いところに移動するぞ、その後に対策だ」


 高いところと言っても山の頂上ではなく、突き立った斜面の上と言った意味合いだった。

 運良く近くにその地形があったため全員その上に登り様子を見る。

 正面は崖……と言うには些か低いもののそれなりの高さがある絶壁。反対は今登ってきた道なので、もし敵に襲われるとしたら後ろか上ぐらいだろう。


「さて、作戦会議と行くか。その前にヤマル、ラッシュボアのことは?」

「いえ、何も知らないです」

「ならまずはその説明からだな。皆も認識を統一させたいから改めて聞いていてくれ」


 ラッシュボア、それはとにかく一直線に爆走する猪型の魔物。

 大きさは高さ二メートル前後、全長三メートルほど。茶系の毛が全身を覆い巨大な二本の牙を生やしている。

 特徴は何と言ってもその生態だろう。名前の通り目に付いたものを全て薙ぎ倒しながら前に前にとにかく突き進む。

 小回りはそこまで効かないが一応曲がれ、何より速度が速い。直線だけで言えば馬と同等かもしれないらしい。

 戦闘方法は生態そのままで突進オンリー。速度と重量に物を言わせた突撃は直撃すれば金属鎧ですら易々とひしゃげるほどだ。まともに食らえば命は無い。

 また防御面も分厚い毛皮と脂肪により対刃、対打撃に強い。特に正面の顔面周りは金属の武器すら弾くこともある。

 魔法も生息域が山や森のため木々に邪魔されることが多く、かといって範囲系魔法を撃とうものならその周辺の生態系やその後の被害を考えると迂闊には撃てないらしい。


「……そんな魔物、どう倒すんですか」

「まぁ聞け。話はここからだ」


 正直この魔物は対応するだけならばある程度の冒険者ならさほど問題ない。先も述べたように小回りが効かない為、当たる直前に横に飛べば大体は回避できる。

 問題は他の魔物との戦闘中や移動中のときだ。いきなり接近しては目に付いたものを片っ端から吹き飛ばしそのまま去っていく。

 そんなのが周囲をうろついていると探索に支障が出るため、冒険者は優先的に狩るようにしているのだ。

 しているのだが……この魔物は冒険者にとって全くと言っていいほど人気が無かった。

 まず第一に倒しづらい。避けるのはともかく通り過ぎてから攻撃をしても中々傷をつけることが出来ない。

 カウンター自体はしやすいものの、狙おうものなら攻撃した武器ごと体を持っていかれる事態になってしまう。

 第二にうまみが無い。

 実はラッシュボアの狩猟方法は確立されている。そして大体の冒険者はそれを実践して退治はする。

 その方法はラッシュボアが倒した木を削り即席の巨大な槍を作る。それを何本も用意しては地面に水平に近い形で固定する。

 後はうまく槍の所まで誘導すれば自身の速度でそのまま串刺しになると言う寸法だ。

 問題はその方法だとラッシュボアの素材が殆ど残らないのだ。皮は千切れ飛び胴体に穴は空き、おまけに体内の魔石は粉砕確定コース。

 一応切れ端程度の皮でもラッシュボアのであれば売れるが、正直労力に見合わないのである。


「まぁいつも通り罠拵えてとっとと仕留めるのが無難か。時間は多少かかるが止む終えまい」


 一応他の手段としては首を一撃で跳ねれたり魔法で一気に……なんて手もあるのだが、残念ながら『風の爪』にその様なことが出来るメンバーは現状いない。


「じゃぁ班を分けるぞ。ダンとユミネは誘導、俺とフーレで――」

「あの、ラムダンさん。ちょっと一案あるのですが聞いてもらってもいいですか?」


 だが作業に入る前に彼に待ったをかけた。

 話を聞いて一つ、ラッシュボアに対しやれるかもしれない案を思いついたのだ。

 もちろんそれが有効かどうかなんて自分では判断できない。素人意見なのだから有効と思ってても実はまったくダメだったなんて話はたくさんある。

 だからまずは相談。打てる手は打ちたいし、仮にこの手がダメでも彼らなら別のやり方に昇華してくれる可能性だってある。

 その方法を彼らに伝えるとなんと大筋で採用されてしまった。細かい修正点はあるものの、試しても問題ないと太鼓判を貰うことができた。


「大丈夫か? それなりに危険だぞ」

「まぁ言いだしっぺですし。それにラムダンさんを信用してますから」


 嘘である。ラムダンのことは十二分に信用しているがぶっちゃけるとものすごく怖いし大丈夫ではない。

 だがようやく戦闘で役に立てる案があったのだ。ここまでおんぶに抱っこに近い状態だったので少しでも手助けはしたい。


「分かった、ではヤマルの案を基に班を分けなおすぞ。誘導はダンとユミネ。ヤマルはフーレと待機だ、他の魔物が来たらフーレが追い払え。俺とスーリで残りの準備をするぞ」


 互いに顔を見合わせて頷く。次に全員が集まるときはラッシュボアを仕留めたときと信じて。


「よし、作戦開始だ!」

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