第29話 《薬草殺し》の実力4


 ピピピピ、ピピピピ、ピピピピ、ピ。


(ねっむ……)


 枕元に合ったスマホのアラームを消す。

 身体の節々が痛い、ベッドや布団ではなく地面の上で寝そべったからだろう。

 以前の使用者が干し草をそのままにしていてはくれているのだがそれも微々たるものだ。とは言え好意はありがたく受け取っているのだが。


(えーと……)


 まだぼーっとする頭に活を入れるよう状況を整理する。

 ここは山の中の洞穴、冒険者たちのキャンプ場みたいなところ。

 ここまでラムダンらと一緒にやってきて先に仮眠をとった。


(よし、大丈夫。起きれる……起きなきゃ……起きる……)


 のそのそと上体を起こし身体を捻ると背骨がゴキゴキと音を鳴らした。

 更に大きく背をのけぞらせ伸びをするとようやく目が覚めてくる。


「なにそれ? 大丈夫なの?」

「うわっ!?」


 いきなり真横に現れたスーリに驚き飛びのいてしまう。そんなこちらの様子を見た彼女は不服そうに頬を膨らませていた。

 見ると対面側ではダンとユミネが身体を起こしこちらを見ていたが、大丈夫と判断したのか二人は再び横になる。


「何、そんなに私が怖かった?」

「や、いきなりだったからびっくりしちゃって……」

「ならいいけど……で、それは何? 急に変な音出すからこっちもびっくりしちゃったんだけど」


 あー、そうか。奥で寝ていたのは自分だけではない。

 六人いるから三交代で見張ると言う予定だった。つまり自分以外にも仮眠を取っている人はいる。先に寝たときが一人だったので失念してしまっていた。


「ごめん、起こしちゃったよね」

「大丈夫、魔物の急襲に比べたら全然マシだよ。それでその手に持ってるのって……」

「時間教えてくれたりする道具と言えばいいかな。これで今の時間表しているんだけど……」


 そう言ってスマホの画面をスーリに見せるが、彼女は難しそうな表情をしては首を傾げる。


「暗いのに光ってるのって変な感じ。この良く分からない文字みたいなのが時間?」

「うん、まぁそんなとこ」


 やっぱりこの世界の人じゃあっちの文字や数字は分からないようだ。

 ともあれ今からは見張り交代の時間だ。スマホをポケットにしまい身支度を整える。


「そういえばよく寝れた? 慣れてないと地面硬くてキツいでしょ。私も最初中々慣れなくって……って、あれ?」


 ポンポンと先ほどまで自分が寝てた干草を叩き違和感を覚えたのだろう。

 彼女が言うように正直なところ中々寝付けなかった。ガチガチに硬い土の上では干草敷いたところで焼け石に水もいいところだ。

 なので寝る前に一手間加えさせてもらった。


「何かびみょーに柔らかい?」

「本当に微妙な違い程度ですけどね。少しだけズルしました」


 そう言って右手を地面に当て魔法を使う。

 

「《生活の土ライフ・アース》」


 魔法を使用後、手を当ててた地面を。ガチガチに踏み固められていたはずの土に指が刺さり、そのままそれを掬い上げた。

 《生活の土》、効果は指定した範囲の土を耕す。もう開墾用としか思えない魔法だった。

 どれだけ硬い土でもその対象が土である限り鍬で丁寧に耕したような柔らかい土に変わる。ただし対象はあくまで土のみ。

 効果範囲内に土以外のもの、例えば石だったり草だったり、はたまた生物だとしてもこれらには効果が無い。生物については悪いと思いつつもスライムを埋めて効果を試した。

 これの効果が『土を掘る』なら落とし穴でも作って戦闘で役立てたのにと最初残念に思ったのは覚えている。

 そのため使用する機会が全く無く、今日の今日まで使うことすらなかったのだ。


「こんな感じで干草の下の土を柔らかくしたんですよ。もちろん柔らかいといっても所詮土ですから誤差範囲……あ、はい。行く前にやります」


 スーリからの無言の圧力に屈し彼女の寝床の土を魔法で耕す。

 まぁいくら柔らかくても土は土。ベッドにはなりえないし布団みたいにフカフカ寝心地なんて夢のまた夢。

 それでもマシになったことは違いないため、彼女は満足して自分の寝床へ戻っていった。


(俺も行くか)


 立ち上がり入り口の方まで行くとラムダンとフーレがそれぞれ起きて見張っていた。


「すいません、遅くなりました」

「いや、大丈夫だ。フーレ、お前も少し休んでこい」

「えぇ、それじゃぁ後よろしくね」


 壁を背にもたれかかっていたフーレが立ち上がり、代わりに自分がその場所に座る。

 そして彼女はあくび一つ、眠たそうに奥の方に歩いていった。


「よく起きれたな。さっきの変な音か?」

「あ、はい。時間教えてくれる道具使いました」


 ポケットからスマホを取り出し彼に見せると物珍しそうな顔をしていたが、それ以上は特に追求はしてこなかった。

 多分『そういうもの』と思ってくれたのだろう。

 スマホを再びポケットに入れ外を見ると雨はもう止んでいた。時間的にも外はまだしばらくは暗いままのようだ。


「わぅ」

「あ、起こしちゃった? おいで」


 すると奥のほうからポチが眠そうな足取りでこちらにやってきた。そのまま自分の膝の上で丸くなったかと思えば再び目を閉じ寝息を立て始める。


「よく躾けられているな」

「躾するほどもないですよ。この子頭いいですし」


 意思疎通が出来るのは本当にありがたいと思う。普通の犬だったりしたらもっと苦労してるだろう。

 そもそも今まで動物なんて飼ったことない。ここまで手間がかからないポチは本当に賢い子だ。


(しかし見張りは暇なんだろうなぁ)


 実際暇なのは良いことなのは分かってる。もちろん暇だからといってサボるのは言語道断だ。

 ちなみに現在の自分の見張り方法は基本魔法頼みになっている。暗いということもあるが、そこまで視力が良い訳でもないため目で見るよりは魔法の方が確実なのだ。

 そして風を洞穴周辺に流していると、ふと見知ったものを感知する。魔物ではない、薬草だ。

 群生地なのか五枚ぐらい生えていた。取りに行きたい衝動に駆られるものの、こんな闇の中一人で行くのは流石に無茶が過ぎるのでやめておく。

 後でラムダンに相談して余裕あれば少し寄ってもらうのが無難だろう。


「……どうした。何かあったか?」


 そんなこちらの様子が少し変わったのを見抜いたのか、ラムダンが剣を持ち厳しめの表情で尋ねてきた。

 そんな彼に苦笑を漏らしつつ首を横に振る。


「いえ、この洞穴のちょうど上辺りに薬草生えてるんですよ。余裕あったら後で取りに行きたいなぁと思いまして」

「薬草? ここから見えるのか?」

「見えませんけどあるのは分かりますね。五つもありますから少しは美味しいと思いますよ」

 

 ふむ、とラムダンは頷くと手に取った剣をそのまま持ち洞穴の外へと出た。


「すぐ戻る」

「え、ちょ……!」


 止める間もなくラムダンが暗闇へと姿を消す。

 いや、確かにすぐ側だし何か感知してるわけじゃないけどこんなの一人残して行くのは止めて欲しい。

 もちろん自分の魔法だって見落としの可能性だって十分ある。それに何かあったとき紙ぐらいの防衛力しか――。


「戻ったぞ」

「おわ?!」


 ラムダンが離れてたのはものの一分ぐらいだろうか。あっという間に彼は右手に薬草を掴み戻ってきた。

 上と言っても結構高かった……いや、自分基準で考えちゃダメなんだろう。きっとラムダンみたいな身体能力があればこの通りすぐに済ませれるんだと自身を納得させる。


「本当にあったな。ほら、やるよ」

「え、いえ。取ってきたのラムダンさんですし流石に……」

「気にするな、見つけたのはお前だ。それに下のやつのを横取りするような形になったからな、むしろ貰ってくれ」


 そう言われてはもう断り切れなかった。

 差し出された薬草を手に取りお礼を言い、ありがたくそれを頂くことにする。

 しかしただ貰いっぱなしのも悪いような……あ、そうだ。


「ラムダンさん、見張りと並行してちょっと別事してもいいです?」

「まぁ見張りサボんないなら構わんが……危険なことや外に出ることはするなよ?」


 ラムダンの言葉に首を縦に振り早速行動を開始する。

 とりあえずカバンからすでに乾いたタオルを一枚取りだし、それを地面に置いて膝上で寝ているポチをそちらに移動させた。

 続いて持ってくるのは焚き火周りにある椅子の代わりに使われてた大きめの石だ。なるべく平たいのを選び転がすようにして先程の見張り位置まで移動させる。


「《生活の土ライフ・アース》」


 まずは石の下の土を柔らかくして上からぐっと石を押し込む。押された石が土をかき分け少しだけ沈み普通に置くよりも固定された。

 そして続いて別の魔法を発動させる。


「《生活魔法+ライフマジックプラス風と水と火ヒートウォッシャー》」


 魔法を起動すると右手の手の平の中で風が渦を巻くように回転、そこに温められた飛沫が付与される。

 イメージは洗車機か食洗機。手の平を石に押し付けるように当てると、その表面から埃や泥がお湯と一緒にゆっくりと滴り落ちていく。


(こんなとこかな)


 表面の汚れをしっかり落とし、止めとばかりに《火》の威力を上げ煮沸消毒もどきをする。

 これで『台』は用意できた。準備を終えた石の前に座り、先程貰った薬草を一枚その上に置く。

 更にカバンから木のカップを取りだし地面に置き、続いて空のポーション瓶を三つ手に取った。これらはカバン側面のホルダーに差し込む。


「なぁ、何してるんだ?」

「折角の機会ですし少しばかりお礼を、と思いまして。いつも迷惑かけてますしね」


 折角薬草採ってきて貰ったのだ、これでポーション作って何本かあげてもバチは当たらないだろう。

 彼には最初期から現在進行形で世話になってるんだし。

 ナイフを手に取り一応これにも煮沸消毒もどきをする。それが終わればようやく作業開始だ。

 手早く薬草を刻みそれを終えると茶葉布を取りだしてそれで包む。

 そしてカップを台の上に置き魔法で水を注ぎ入れ続いて布を沈めた。ここまではローズマリーのところでやったことと同じだ。

 そしてここからが異なる。何せ木製のカップではガラスと違いちゃんと染み渡っているか確認しにくい。いくら魔法で時短ができるとは言え、このままでは確認のため一々中身を取り出さなくてはならなくなる。

 なのでそれをしないよう更に一工夫だ。


「《生活の光ライフ・ライト》」


 ポゥ、と指先に光が灯る。丸い光は現代人なら豆電球やLEDと表現しただろう。

 《生活の光》はそのまま光を灯す魔法だ。光るだけで害は何もない、と言うかそもそも触れない。

 ポチが以前興味を持ってこの魔法目掛け飛びかかったが、そのまま体を透過してしまっていた。

 しかしこの魔法はこちらのイメージで色や形、輝度をかなり自由に変えられる性質を持っている。

 その性質を使うためまずは光をカップの中に入れる。そして底面と内壁に張り付かせるように形を変化させた。

 これにより上から見れば水が内側から照らされ透明度が解ると言う仕組である。


(うん、いい感じ)


 思った通りの光景に満足し作業を継続する。

 最後に水をお湯に変化させ渦をまくようにゆっくりと魔法でかき混ぜた。

 布から薬草がこぼれないよう様子を見ていると、ふとラムダンがずっとこちらを見ていることに気づく。


「それはもしかしてポーションか?」

「えぇ、そうですよ。少し前に作り方覚えたので」


 チャポチャポと洞穴内に小さな水音がこだまする。

 そんなこちらのカップに入ったポーションをラムダンは不思議そうな目で覗き込んでいた。


「ポーションって結構簡単に作れるもんなのか?」

「うーん……どうでしょう。簡単だけど面倒くさくて時間がかかる、って感じでしょうか。自分はその面倒で時間かかるところをかなり無視出来るので簡単に見えますけど……」


 徐々に水が薬草の色と同じ緑色に染まっていく。《生活の光》で照らされたポーションはその色も相成って中々幻想的な光景だ。


「俺でも作れるか?」

「自分からはなんとも。魔法に強い人がよさそうですし、『風の爪』の中で作れるとしたらスーリさんですかね」


 ポーションを覚えたときのこと、ラムダンに誘われた当日のことを話す。

 たまたま再会した薬師の人に教えてもらったことやその作り方など。

 最初は自作で作れるかもと思っていたのであろう、だがその方法を聞くと途端にラムダンは難しい表情になった。


「家で作るならともかく旅先では難しそうだな」

「そうですね。自分のやり方がちょっと特殊なので普通にやるなら相応の器具も必要ですし、何より時間かかるみたいですし」


 ローズマリー以外の薬師の作り方を見てないからはっきりしたことは言えないが、彼女が言うぐらいだから混ぜる工程で結構な時間がかかるんだろう。

 旅先でそんな時間や場所、器具が用意できるかと言えばNOだ。いや、用意は出来るだろうがポーション作るぐらいなら商店で買ってその時間を仕事に回した方が良い。


「ヤマルはそれで稼ごうとは思わないのか? お前のその方法だと結構数は作れるんだろう?」

「そうですね。それも考えなかった訳じゃないんですが……」


 実際ポーション作りを覚えたときに自分でも思った。この方法なら冒険者なんてやらなくても食っていけるのではないか、と。

 そして出した答えはYESでありNOだった。短期的にはありだが長期的には難しい。

 実際ポーションの値段の半分以上は人件費からくるものだ。材料なんて薬草に水ぐらいしかないし、器具だって一度買えば長く使える物ばかり。

 そんな中自分が作るとどうなるか。

 本職より質は多分劣るだろう。しかし量産が出来る以上単価自体は絶対安くなる。むしろ無名な自分が劣化品で売るとしたら価格差で勝負するしかない。

 するとどうなるか。

 多少質が落ちてもその分値が安いならそれでも良いと言う購買層は確実にいる。今だからこそ自分で作れるが、仮に二割ぐらい効果が落ちても半値で売ってたら多分そっちを取っただろう。お金ないし。

 市場調査なんてしてないが、客の何割かはこっちに流れると見ていいかもしれない。

 そうなったら後はどうなるかは目に見えている。本職側も売れない以上は売るために値段を下げる。そしたらこちらも値段を下げる。

 元々量産向きな製造方法だ。本職よりは値下げはいけるだろう。そもそもこちらは一人でやってる上原価は薬草だけ。店舗に卸してる訳でもないからマージンもかからない。

 程なくして体力が無い本職と店舗が潰れるだろう。残るは大手か身軽な個人経営のとこばかり。

 そうすると市場を引っ掻き回した原因である自分にあまりよろしくない手段に訴える人がいても不思議ではない。店舗が潰れる前に手を打っておく人だっているかもしれない。

 強さも後ろ盾も無い自分ではそうなったらもうお手上げである。そんな危険を冒すぐらいなら自分用か知り合いに配布するぐらいで丁度良い。

 たまに小遣い程度、ならありかもだが、実際に商売となると多方面でも色々問題が出てきそうなのも理由の一つだ。


「とまぁあくまで可能性の話ですが、こういうパターンも無いわけではないのでポーション稼ぎはしない方がいいかなぁ、と」

「なるほどなぁ、案外ちゃんと考えていたんだな」


 そんな考えをラムダンに話すと彼は納得してくれたようだった。

 まぁ今のはあくまでポーション単体で見た場合だ。実際薬師の人はポーションだけで生計を立ててるわけではない。店舗だって同じである。

 相手の対応策も値下げ以外にも差別化の方法だって色々あるかもしれない。

 とは言え客層の一部は多分こっちに流れるため、それを物理的に阻止することだってありえない話ではない。


「さて、こんなもんですかね」


 ラムダンと話している間も混ぜていたため、ポーションがいい感じに出来上がった。

 空きポーション瓶を一つ手に取り中身を注ぐ。パッと見は市販品とあまり変わりは無さそうだが、所詮個人での製作品だ。品質が保証されているわけではない。

 カップに残ったポーションを瓶に全て移すと丁度三本分になった。残った出涸らしは勿体無いが捨てるしかない。ここから作ってもかなり薄くなるので、ポーションとしては完全に規格外となってしまう。


「はい、自作品は初めてですが差し上げます。いつもお世話になってるお礼と言うことで」

「いいのか?」

「えぇ、むしろ貰って欲しいですよ。これでもラムダンさんには感謝してもしきれないって思ってるんですよ?」

「そうか、ならありがたく頂こう。大事に使うとしよう」

「むしろガンガン使って欲しいところですけどね。自分はあんまし怪我したくないから効果中々見れませんし」

「俺らは実験台か?」

「まぁ半分ぐらいは……」


 ポーションを渡しお互い顔を見合わせるとくっくっ、と自然と笑みがこぼれてくる。

 そのまま二人で話に花を咲かせているといつの間にか入り口からは朝日の光が差し込んでいたのだった。

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