第20話 キズモノ傭兵

「お前、そろそろパーティー組んでもいいんじゃないのか?」


 翌朝のこと、まだ武具類が直らないため通常依頼を見に来ていたら不意にそんなことを言われた。

 告げた主はギルドの男性職員。もはや顔なじみである。


「よっぽど強いやつじゃない限りソロでやるには限界あるぞ。それに前のようなことが無いとも限らんだろう?」

「あ~……」


 前の事とは戦狼バトルウルフの一件の事だろう。

 あんなたまたま倒せたなんてことはそう何度もあるはずがない。と言うか次にそんなことがあったら間違いなく自分は腹の中だ。


「でも組んでくれる人いるんですかね?」

「それなんだよなぁ……」


 《薬草殺しハーブスレイヤー》の二つ名が付き纏ってる現状では自分と組んでくれる冒険者など皆無である。

 と言うか昨日勝手につけられてまだ一日すら経ってないのに何故ここまで周知されているのだろう。

 確かに目立ちたくは無いから戦狼の一件を払拭したいとは思っていたが、逆に悪目立ちしてむしろ悪化している。

 そのこともあってか……いや、今までの行動のせいでもあるがパーティを組んで欲しいという要望も無かった。

 一応組めないものかと思い募集掲示板を見てみたものの、どれも条件を満たせるものではなかったのだ。


「だがこのままで良いって思ってる訳でもないんだろう?」

「そりゃまぁ……」


 今は生活の安定に努めてはいるが最終目標は変わっていない。

 日本へ帰ること、そのためにやることは召喚石を自力で手に入れることだ。

 だがその道はまだまだ果てしなく遠い。

 少なくとも生きていけるだけの生活力を身につけない限り王都から出ることもままならないだろう。

 となると自分の弱点……いや、弱点しかないが、特に劣っているのはやはり『戦闘力』だ。

 それを補うためにはやはり誰か他の人員を集うのが望ましいのだが……。

 

「例えば仲間ってパーティー募集以外だと何か手あるんですか?」

「そうだな。手っ取り早くするなら金はかかるが……」


 そう前置きした上で彼は一つの提案をする。


「やっぱ傭兵だろうな」



 ◇



 傭兵。

 冒険者と似ているが、彼らは戦うことを生業としている職業である。

 護衛、討伐などの依頼は基本的に傭兵マシーナリーギルドの管轄だ。

 

「ここが傭兵ギルドか……」


 傭兵ギルドから出る雰囲気は何か物々しい。常在戦場の心構えとか皆が発しているのだろうか。

 若干近寄りがたい感じはするが意を決し中へと入る。

 室内の造りは冒険者ギルドと似通っていた。だがそこにいるメンバーが冒険者ギルドとは決定的に違う。

 まずパッと見で分かるのは武装面だろう。冒険者があまり好まない金属製の装備をつけているのが殆どだった。

 また武器も重量系の物や長物が目立つ。


(う~ん、もしかしたらこの中から……?)


 正直あまり強面なのは精神的によろしくないけど、今回求めに来たのは強さである。

 実際一緒に戦うならこういう人らのほうがいいかもしれない。

 ともあれまずは話を聞きに行くことにしよう。このギルドのことは何にも知らないんだし。


「すいません、お話よろしいですか?」

「いらっしゃい。今日はどのようなご用件かしら」


 受付の女性に手短に用件を伝える。

 傭兵の雇い方、それと長期間雇ったりすることが可能か等だ。


「傭兵ギルドは初めて?」

「えぇ、今回が初めてですね」

「じゃぁまずはその説明からね。ギルドから傭兵を雇いたいときに必要な情報がいくつかあるの。『目的』、『依頼金』、そして『期間』ね」


 例えば商隊の護衛なら、目的は商隊の護衛、それに対する依頼金、最後に目的地から逆算する期間など。

 それらをギルド側がボードで張り出し、メンバーが受注する形となる。

 これが基本と言うことらしい。


「君の場合長期間って言ってたけど、どれぐらいになりそうなの?」

「それがちょっと分からなくて……」


 何しろ今後の予定次第では遠いところまで足を伸ばす可能性がある。

 最終目標である召喚石を手に入れるまでいて欲しいとは思うが、入手の目処が現状まったく立ってない以上明確な期間の設定ができない。

 期間が分からないということは依頼金も青天井で増えるだろうし、その間どのような危険があるかすら不明である。


「うーん、なら個人契約かなぁ。分かる部分だけ書いて、後はそれに対して個々で応相談って形を取るの。契約時に不備が無いか、こちらでチェックはするけどね」

「ふむぅ……でも来てくれますかね?」

「さぁ? 内容次第だろうけど情報に不明瞭な部分あると避けられる傾向にはあるわね」


 うーん、となるともっと別のアプローチですべきだろうか。

 例えば期間を次の目的地の町までとか、到着したら期間延長の交渉をするとか……もしくはその街で別の人を探すとか。

 でもそうなると行動に移すまでに時間がかかってしまう。下手したら行った先で孤立することになりえない。

 どうしたものか、と思っていると室内にいた傭兵と思しき男性が声をかけてきた。


「兄ちゃん、お前もしかして冒険者ギルドの《薬草殺し》か?」

「えぇ、まぁ……」


 なんで昨日の今日で傭兵ギルドここにまでその名が知れ渡っているのだろうか……。

 少し冒険者らの広報能力や横の繋がりを甘く見ていたかもしれない。


「あー、やっぱりそうか! じゃぁ悪いことは言わねぇ、諦めろ」


 薬草殺し?と受付嬢が首をかしげているが、男性は構わず話を続ける。


「いいか、傭兵は確かに護衛は良くある仕事だが、お前さんの内容じゃぁちょいと無理だ」

「と言うと?」

「不明瞭ってのは嬢ちゃんが言った通りなんだが、依頼はずっとお前さんの護衛になるわけだろ?」

「そうなりますね、可能ならそれが一番ですが」

「そんないつ終わるか分からない期間を護り続けるってのは無理難題なんだよ。大体お前さんの事知ってたら尚更だ」


 あー、確かに足手まといでしかない戦闘力の自分を護り続けるのはきつい。

 程度にも寄るが依頼者の身を護るのが護衛だ。その依頼者が普通の人よりも弱いなら難易度は跳ね上がる。


「お前さんに何かあったら傭兵側は失敗なんだよ。傭兵としての名誉もそうだが、何より失敗したって事実がついちまう。そんな長期間失敗せずに守り通すってのはよっぽど強いやつか人数集めるかしないといけないわけだが……」

「どう考えても潤沢な資金力無いと無理ですね……」


 そんな長期間一流パーティ雇う資金あるなら、まだ召喚石を金銭で用意した方がはるかにいいだろう。

 やっぱり先立つものが無いと無理か、と思っていると、傭兵が何やら『我に秘策あり』みたいなしたり顔をしていた。


「なら『護衛』って括りやめて『パーティー』ってのはどうだ? 冒険者らは面子足りないときに一時的に俺らと組むこともあるからその延長みたいなもんだな」

「バイトみたいなもんですかね? 報酬とか傭兵側のメリットは?」

「ばいと? まぁ報酬の振り分けは契約時の取り決め次第だが、大体はあっちの成功報酬を人数で等分になるかな。利点は目的が明確だし、何より『依頼』ってことで傭兵としての実績もしっかり記録される」

「なら長期間対応も……?」

「人によってはアリっちゃアリかな。少なくとも組んだとしても仕事はするつもりなんだろ? なら報酬をしっかりと保障すれば……と言いたい所なんだが」

「やっぱ自分の強さがネックですか……」


 結局そこに行き着いてしまう。要するに自分から明確に傭兵側に対するメリットがないのだ。

 短期ならば明確に金銭と自分でも払える範囲でいけなくもないだろう。

 しかし長期だと金銭が払えない以上、傭兵側は外れを引かないよう依頼人を見定めてくる。

 そして《薬草殺し》のことを目の前の傭兵が知っている以上、自分の『強さ』や『金銭』がそこまでないことを他の傭兵が知っていても不思議ではない。

 つまり手詰まりである。

 よっぽどのお人好し……それこそ自分の命を張ってでも荷物を抱えても良いぐらいの聖人クラスで無い限り組んでくれる人などいないだろう。


「まぁ落ち込むな《薬草殺し》。ちゃんとお前さんでも組んでくれそうな奴、一人だけだがいるぜ。嬢ちゃん、あいつそろそろ来る頃だよな?」

「え、あいつって……?」

「あいつはあいつだよ。ほら、『キズモノ』の」


 キズモノ? 何か聞きなれない単語が出てきた。

 ……まぁ俺みたいなのと組んでくれそうな人だと、曰くつきだったとしてもおかしくは無い。

 おかしくはないが……。


(キズモノかぁ……こう、顔に十字のキズがあるとか、もしかして傷だらけになりすぎて他の人が敬遠するぐらいの猛者とか……。いや、それなら別に俺と組まなくても……あー、でもあえて弱いのと組んで戦闘を一手に引き受ける戦闘狂バトルジャンキーって線も……)


 などとまだ会ってもいない人物の予想図を頭に描いていると、受付嬢は何やら難しい顔をしていた。


「確かにそろそろ来られるでしょうけど……でも」

「でもっつってもアイツぐらいしかいないんじゃねーか、こんな感じの要求でも呑んでくれそうなやつ」

「そうかもしれませんが……あ」


 何かに気づいた受付嬢の視線を追うと、ギルドの入り口にフード着きマントの人物がそこにいた。

 多分この人が『キズモノ』って人なんだろう。

 その姿は予想と違いかなり小柄だ。目深にかぶっているフードのせいで顔はうかがえそうにない。

 腰に携えた両手剣……いや、あれは片手半剣バスタードソードだろうか。小柄なせいか武器が大きく見えて勘違いしかけたが、確か以前武具屋で似たようなのを見た覚えがあった。


「よぉキズモノ。ちょっとこっち来いよ」


 目の前の男性が呼び止めるも、キズモノと呼ばれた人物はこちらを一瞥することも無く横を通り過ぎていく。


「まぁ待てって。こっちの兄ちゃんがお前に依頼したいんだとさ」

「……あなたが?」


 振り向き様に発せられた声に驚く。

 女性だ、それもかなり若い声。


「おうよ、仕事ないんなら話だけでも聞いていくべきだと思うんだがなぁ」

「…………」


 何やらじっとこっちを見るキズモノ。いや、値踏みされているのかもしれない。


「分かった、話だけでも聞くわ。奥のブース借りるわね」

「あ、はい。三番のところ使ってください」


 ありがと、とだけ言うと彼女は早々に奥のほうへと歩いていってしまった。


「くっく……まぁあんな奴だ。とりあえずお前さんも行って来い」

「あ、はい。ありがとうございました」

「気にすんな。良い話になるといいな」


 何やら含みある物言いは気になるものの、折角のチャンスは逃したくは無い。

 礼を言い立ち上がっては、彼女の後を追い三番と書かれた簡易個室の中に入る。


「……あなた、見ない顔ね。何か知らないけどアイツに吹っかけられたんじゃないの、私に依頼したいなんて」


 そう言うと彼女がフードを取りその姿を露にした。

 まず最初に飛び込んできたのは鮮やかな桃色の髪だ。日本ではまず見ないその色だが不思議と違和感は無い。

 更にその髪を押し上げるようにして。外側は髪と同色の桃色だが、内側は白色の毛で覆われた耳はマンガなどで幾度と無く見た獣耳といったやつだ。

 髪色や獣耳でも十二分に驚きだが、さらに驚かされるのが彼女の顔。

 翡翠色の目、まだあどけなさが残りそうな可愛らしい……と言うか下手すればまだ子どもではなかろうか。

 何にせよこんな女の子が傭兵業をやっているのは驚きしかない。


「何、獣人は珍しい?」

「あ、うん。見たの初めてで……」

「そ、この国じゃあんまり見かけないからね。でもあなたぐらいの歳で見たこと無いって人珍しいね。田舎暮らしだった?」


 異世界暮らしでした、とは流石に言えず曖昧な回答でごまかしておく。

 別に隠すつもりは無いが、第一声で『異世界人です』なんて言う人の印象がどうなるか想像に難くない。


「では改めて。私の名前はコロナ=マードッグ。見ての通り獣亜連合国の出身で元Bランク傭兵。そして現在は知っての通りDランクのキズモノ傭兵よ」


 ヨロシクね、とやや自虐的な笑みを浮べながら、コロナと呼ばれた少女はこちらに手を差し出した。


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