第14話 安全第一効率第二

 あれから数日経った。

 そこまで時間が過ぎているわけではないのに俺の環境は随分変わったように思える。

 武器と道具と魔法。この三つが揃ったことが一番大きいだろう。

 武器は戦う力を、道具は生きる術を、魔法は活力を与えてくれた。


(まぁ武器と道具は殆ど使ってないんだけどね)


 短剣は未だ未使用、スリングショットは魔物を追い払うために少し使う程度。

 道具も今のところノータッチ。怪我をしていないことが一番の理由だろう。

 その中で魔法がここの所一番使っている。

 理由は単純だった。ものすごく扱いやすいのである。


 魔法を覚えたその日は喜びのあまり仕事にならないと判断し、一日中魔法を使うことに費やした。

 日本じゃ絶対無理な不思議な力、昔から望んでいたことが出来るようになったのが本当に嬉しかった。

 そのお陰で現状思いつく限りの生活魔法を創造した。

 そして試した結果は上々だった。予定通り威力そのものは目を瞑りたくなるぐらいだったが、それを補って余りあるぐらいの応用性がこの魔法にはあった。

 

「今日の常設依頼は……っと」


 今日もメインは薬草摘みだ。他にも常設依頼はあるため、可能な限り並行でやりたい。

 カバンからスマホを取り出し、カメラで常設依頼の内容を保存する。


 そう、スマホのカメラである。此度無事に復活を遂げた。

 生活魔法で《生活の電ライフ・ボルト》を創造したときのことだ。作成当初は手に電気を集めスタンガンのように相手を痺れさせる魔法だと思っていた。

 実際その様な使い方も出来る。だがその時ふと思ったのだ。スマホの充電が出来ないものか、と。

 元々すでにバッテリー切れで沈黙しているスマホである。駄目で元々、試してみる価値はあるかもしれないと思いやった結果、なんと充電ができてしまった。

 まぁスマホにアダプタを取り付け、コンセントプラグを握ってしばらく魔法を使い続けている姿はかなりシュールな絵ではあるが。

 ともあれ使えるものが増えたのが大きかった。

 採取物もまだ分からない物、見たことがない物も多々あったため、薬師のお店で現物を見せてもらいそれを写真に撮らせて貰った。

 そのお陰で街の外での採取がしやすくなったのだ。


「うし、行きますか」


 意気揚々とギルドを出る。まだ活動範囲は王都周辺だが、徐々に足を伸ばしていくつもりだ。

 自分の中で未知が既知に変わっていくのが今はとても楽しい。

 今日の目標を頭の中で描きつつ、街門の方へと歩を進めた。



 ◇



 やはり異世界は広いなぁと思う。

 王都周辺は主に平原で起伏があまりない土地だ。一番高い土地は王城が建っており、それ以上となると遠くに見える山脈しかない。

 日本のように山があったり高い建物があったりと遮蔽物がないのも広いと思える一因だろう。


「《生活の風ライフ・ウィンド》、《生活の電ライフ・ボルト》」


 門を出て少ししてから魔法を起動する。

 《生活の風》は風の魔法。風を生み自分が思い描くように流れてくれる。

 と言っても強さは精々扇風機程度だ。風の強い日だと多分負けてかき消されてしまうだろう。

 そんな《生活の風》だが使っていくうちにある事に気づいた。

 風が何かに触れると、その表面の形を感じ取れるようになっていた。

 遠視ではない、実際何があるか見えてるわけではない。ただこんな形の物に当たってるよ、みたいに感じ取れるのだ。

 この機能に気づいてからとある使い方を考案した。

 風を自分の周囲に輪の様に展開、それを循環させるように動かせば半自動状態で周囲の索敵が出来るようになるのではないか。

 そしてこの考えは的中する。周囲に展開した風に魔物が触れると、その瞬間何処にいるのかを感じ取れたのだ。

 まぁたまに魔物と似たような形や紛らわしい形の石や草花で勘違いすることもあったが、少なくとも死角からの不意打ちはめっきり減った。

 そして《生活の電》。スタンガン、充電器に続いて現在レーダーもどきになっている。

 循環させた後は自動展開してくれる《生活の風》と違い、こちらは任意発動だ。

 物陰に隠れられると分からなくなるものの、範囲が広く探知が早い。

 《生活の風》と合わせて使うことで近づく魔物の位置が大体分かり、スリングショットでこちらからけん制し追い払う。

 これが現在考案した一番安全な方法だった。

 危険を極力排除できる、なんと素晴らしいことか。

 相変わらずホーンラビットをはじめとする魔物は積極的に寄ってくるものの、お陰様で現在の怪我は無しである。


 この日もいくつかの薬草、木の実などを採取して冒険者ギルドへ戻ることにした。



 ◇



 夕方の冒険者ギルドは相変わらずの賑わいを見せている。

 仕事を終えた冒険者が受け付け前で並んでいるのはもはや見慣れた光景だ。

 初日で危うくチビりそうになった強面の冒険者も、今のところ特に絡んでくる様子はない。

 まぁ……


「よぉ! 今日も薬草探しか? 頑張れよ少年!」

「はっは、言ってやるな。そいつが出来ることなんざそれしかねーんだからよ!」


 馬鹿にするように……いや、実際馬鹿にしてるんだろうけど、この様な事を言われるぐらいだ。

 そもそもそれは事実だというのは自分でも分かってるためそこまで腹は立たない。いつもの曖昧な笑みを返すだけ。

 ギルド内では採取ばかりしてる冒険者としてダメな意味で知名度は上がってきているらしい。


 そうこうしている内に受付前の人が少し捌けていた。

 いつも通り採取してきたものを渡し代わりにお金を貰う。外での採取も安定してきたとは言え、報酬面がそうでないのは辛い所だ。

 元々常設依頼はそこまで金銭面で旨いわけでもないし、対象物を見つけるのも現状運に左右されている。

 一応採取した場所と日時はこの間用意した専用のメモ帳に記しているが、これが機能するのはまだ先の話だ。


(何か手を考えないとなぁ)


 実質自転車操業どころか、六割ぐらいの確率で赤字である。

 全く収入がないわけではないが、それでも資産が徐々に減っているのはよろしくない。

 一番手っ取り早いのはホーンラビットなどの魔物討伐。角をはじめ肉や毛皮、それに魔石も十分収入源になる。


(でもなぁ……)


 そうは言ってもやっぱり怖いものは怖いのだ。

 敵意と殺意を向けられるという事がここまでのものとは思わなかった。今でも多分相対したら尻込みしてしまうだろう。

 そんなことを考えながら買取を終え去ろうとすると、ギルドの男性職員が待ったをかけた。

 

「ヤマル、お前明日からEランクな。今と大して変わるわけじゃないが、一応な」

「へ?」


 自分は一番下のFランクであることは聞いている。そして依頼をこなしていくうちにランクが上がること自体は知っている。

 しかしランクが上がるようなことはまだ何もしていないため、そんなこと言われても信じられなかった。


「え、でも自分特にこれと言って……」

「気にするな、ギルド規定だからな。つーかそろそろ通常依頼なんか受けてもいいんじゃないのか。依頼板すらお前見てないだろ」

「通常依頼ですか……」


 確かに依頼板を見たことはまだない。ここの屈強な面々が受注するような依頼に自分がやれることなどないと思っているからだ。


「おっさん、コイツにゃ無理だって。大体前にホーンラビットに追い掛け回されてただろ?」

「は?! え、マジで!!」

「ぎゃははは! そんなの聞いたことねーぞ! マジか、すげーな!!」


 後ろの方で爆笑の渦が巻き起こるが、何も言い返せない。

 さすがに恥ずかしさを感じ両の手を握るも、ゆっくり息を吸いそして吐く。頭に登りかけてた血をゆっくりと下げるような感覚。

 サラリーマン時代から使ってる自分なりの落ち着き方だ。こっち来てから使うのは初めてだったが。


「まぁそんな人が通常依頼できるわけないじゃないですか」

「何も全部こなせってわけじゃねーんだ。戦わないならそっちの依頼受ければいい。そういうのもあるんだぞ」

「あ、そうだったんですか?」


 知らなかった。てっきり森で魔物討伐とか、洞窟で鉱石採取とか危ない系のものしか貼ってないとばかり思っていた。

 今から何か見てくるか、と思った矢先、バァン!と入り口が勢い良く開かれる。

 室内にいる全員がそちらを向くと、そこには冒険者パーティーと思しき四人。誰もが体に傷を負い、武具もところどころ破損していたりと一目でボロボロだと分かる。

 だがその四人の表情はすこぶる明るい。


戦狼バトルウルフを仕留めたぞ! 買取を頼む!」


 先頭にいる男性がそう叫んだ瞬間、ギルド内に歓声が沸き起こった。

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