第7話 新人研修~武具を買おう~

 俺の名はラムダン。Cクラスパーティ『風の爪』のリーダーをしている。

 昨日大きな依頼がひとつ片付いたところだ。遠征も含む難しい依頼だったが、その分報酬も良く無事終われた事には満足している。

 さすがに皆疲れも溜まっていると判断し、三日ほど自由時間をとることにした。皆、今は伸び伸びと過ごしているだろう。

 まぁ、先ほどメンバーの一人がソロで依頼を受けていたが、自由にしていいのでとやかくは言わない。

 俺だって今日依頼を受けているのだから。


 受けた依頼はギルド職員のおっさんからだった。しかも俺に向けての名指しだ。

 そのときはついに俺にも指名依頼が!?と内心舞い上がってしまったが、どうも事情が少し違うらしい。

 依頼内容そのものは簡単だ。ある新人冒険者へのレクチャーである。

 期間は二日間。一日目は武具と必須道具の選定、それに冒険者としての基本的な知識の伝授。

 二日目は街の外での実地研修兼護衛。ただし行き先は日帰りで帰ってこれる距離までの制限付き。


「しかもこの内容でこの金額か」


 提示された金額はCランクハンターがソロで二日分稼ぐ程度の金額。これだけならば相応の報酬とも取れなくも無いが、依頼内容がとにかく温すぎる。

 知識の伝授とは言うものの、冒険者に限らずどの職業でも隠す部分はある。だがどうも望むのは冒険者としての当たり前と取れる部分の知識らしい。

 実地研修も駆け出し冒険者が行く程度の距離。もちろんそんな場所はある程度場数踏んだ冒険者なら危険などほぼ皆無である。

 つまるところ、『ちょっとした小遣い稼ぎ程度の仕事で普通の報酬』なのだ。パーティメンバーが聞いたらきっと飯を奢れの大合唱が始まるだろう。

 ……さっきのメンバーがこちらをスルーしてくれたのには正直ほっとしている。


「おう、今日はしっかり頼むぞ。まじで見てて不安になるやつだからな」


 ギルドに来た俺に開口一番そう言ってきたのは依頼者であるギルド職員のおっさんだ。

 いや、正確には彼は依頼者ではない。今日会うことになっている新人冒険者が本当の依頼者だ。

 この依頼自体とてもおいしい話ではあるが、なんで俺に?と聞くと依頼者からの希望に沿える人選が俺だったかららしい。


『ある程度の腕と知識を持って、面倒見が良く、仕事に対して責任感を持っている人が良い』


 コネもツテも無いその新人はギルド職員にその様な人材の斡旋を頼んだそうだ。

 ギルドに何か頼むときは別途料金が発生するのだが、必要経費と割り切ってポンと出したらしい。


「お、来たな。おい、こっちだ!」


 職員が向ける視線の先には肩から大き目のバッグをぶら下げた少年がいた。

 なるほど、確かに一目で不安になってくるような人物だ。

 この辺りではあまり見ない黒目黒髪の少年、体つきもその辺の村人よりも筋肉量が無いのが見て取れる。

 何よりその雰囲気だ。正直なところ命のやり取りすら行うこともあるこの仕事にはとても向いているとは思えない。


「はじめまして、古門 野丸です。今日と明日、よろしくお願いします」


 こちらにやってきては頭を下げ挨拶をする少年。

 無骨物が多いこの業種でこのような対応をするのは珍しい。どこかの貴族の次男坊か商店のボンボンだろうか。


「Cランクパーティ『風の爪』のリーダーをやっているラムダンだ。まぁそう気張らず、楽にしてくれ」


 まぁ彼にどのような思惑があろうと仕事は仕事で割り切ることにする。

 無理難題を押し付けられるよりはボンボンのお守りを二日する方がはるかにマシだ。


「依頼内容は聞いているが一応確認は取りたい。あっちで少し話をしよう」

「あ、はい!」


 ふむ、返事は良し。中々素直な子のようだ。

 ボンボンならば変な気位があってもおかしくはないが、どうやら杞憂に終わりそうである。





「まずはここだな。店舗はいくつかあるが、俺が良く行く店だ」


 最初にやることはまず武具の調達だ。

 あの後話を聞いたが、どうもこの少年は冒険者としての必需品を何一つ持っていないらしい。

 それも含め今日色々買い揃えたいとのことだった。


「邪魔するぞ」

「お、いらっしゃい」


 中に入ると馴染みの店主が出迎えてくれた。

 この店主は俺がひよっこの頃からの付き合いであり、その為変なものは用意しないと信用している。


「今日はどしたい、武器のメンテか?」

「あぁ、それもあるが本命は別だ。こいつの武具を調達したい」


 飾ってある武具に視線を這わせている少年を呼び寄せ店主に会わせる。様々な冒険者や傭兵を見てきた店主の見立てはかなり正確だ。


「へぇ……お前さんのね。パーティの新人かい?」

「新人ですがパーティは違います。まだ組んだことも組む予定も無いので……」

「なるほど、ソロか。……ふむ、見立てる前にひとついいかい? この店内でお前さんが思う自分に合った武器をひとつ指してくれ」


 あぁ、はじまった。この店主のちょっとした洗礼あそびである。

 別に変なものを選んだところで物を売ってもらえなくなると言う訳ではないが、回答次第で心象がかなり変わってくるのだ。

 何せ俺も昔、『一番高い剣だから一番良いに決まってるだろ!』と言って豪奢な剣を選び大爆笑されたのだ。今となってはいい思い出だ。

 ちなみにその剣は儀礼用のやつで宝飾がついてるため値段が張っただけだった。


「分かりました、ちょっと見てきますね」


 そう言って少年が店内を歩き回る。

 そこまで大きい店舗ではないが、多種多様な武具が所狭しと並んでいる。この中で彼は果たして何を選ぶのだろうか。

 少ししてから少年が店主に声をかけた。物が決まったのだろうか。


「んー……すいません、ボウガンとか無いですか?」

「ぼうがん? なんだ、そりゃ?」

「あ、いえ。無いならいいんです」


 そう言って再び店内を探し始める。

 しかしぼうがんとはなんだろうか。あの口ぶりから察するに武器の類だろうが、自分もそのようなものは聞いたことがない。

 少し興味が沸いたので後で聞いてみることにしよう。

 そして……


「素人目と考えですが、あれかなと思いました」


 およそ十分後、彼は一振りのナイフを指差した。刃渡りおよそ十五センチほどの何の変哲も無いナイフだ。

 正直な所少し意外である。あれぐらいの歳ならば長剣あたりを選びそうなもんなんだが。


「ほー、ナイフか。なんでそれを選んだんだ? 足に自信有りかい?」

「いえ、足も腕も自信ないです。なので軽くて負担の少ない武器が一番かなと思いました」

「ふん、ならそっちの剣なんてどうだ。我ながら良いもん仕入れたと思うんだがな」


 そう言って店主が指差す先には一振りの長剣があった。シンプルな作りだが中々の業物に見える。ただし値段も中々の業物相応だが。


「長剣も考えたんですよ、一応。でも多分腕力や体力がきっと追いつかないです。この場で振って終わるならともかく、外に出て歩くだけでも身の丈に合わない重いものは負担になりますし」

「なら弓は? それなりのものは取り揃えてるぜ」

「弓は使ったことないのでさすがに……」


 弓もダメか。身体能力が劣るならなるべく遠距離の手段を持っておきたいところだったんだが。

 なら明日の実地研修は基本的な護身術と危機回避辺りが無難なところか。


「ふむ、冒険者になるやつにしては珍しい堅実思考だな。……いいだろ、見繕ってやる。ラムダン、予算どんぐらいだ?」

「そうだな、この後まだ買うもんあるから……」


 今回の予算はすでに聞いてある。その中から道具分を差っ引くと大体こんぐらいだろう。


「分かった、ちっと待ってろ」


 そう言うと店主はカウンターの奥へと姿を消した。後は彼が持ってきた武具に俺の意見取り入れれば特に問題もないだろう。

 さて、この後買うものは……ん?


「どうした、それが気になるのか?」


 見ると少年は棚にあった鞭を手に取っていた。確かあれは植物モンスターの蔓を使った武器のはずだ。

 伸縮する蔓で出来た鞭は振ると遠心力で伸び、戻ると縮む性質を持っている。


「あ、いえ。この伸びたりしてる部分、切れ端程度でいいからないかなぁ、と」

「どうだろうな。仮にあってもどうするんだ?」

「この店にはちょっとないんですけど、もしかしたら自作できる武器になるかもと思って」

「あるぜ、聞かせろ」


 見ると武具一式を持ってきた店主がそこにいた。表情はいかにも悪巧みしてそうな顔だが、あれはものすごく興味を示している顔だと言う事を知っている。

 あの顔が出た以上多分聞くまで離してくれないだろう。武具大好きの血が騒いでるに違いない。


「武器に携わるものとしては素人が自作できる程度のモンを知らないのは名折れだ。もしそれが有用なモンならそれを作ってやるし、今後少しまけてやってもいいぜ」


 がっしりと少年の肩を掴み、満面の笑みを浮べる店主。正直不気味すぎて少年がこちらに助けを求める視線を送っているが、そ知らぬ顔でそれ受け流す。

 あの状態の店主には下手に関わらないほうがいいのが、この店を知る者の暗黙のルールだ。少年にはそれを身を持って体験してもらおう。


「じゃぁ俺はちょっとぶらついてくるわ。すぐ迎えに来るからな」


 泣き出しそうな少年を置き店を出る。

 それから店主が彼を解放したのはきっかり三時間後のことだった。 


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