第6話 就職活動(異世界版)

 野丸が王城を追い出され……もとい出てから三日目の朝。

 重い足取りでとある建物の前にやってきていた。

 そう、剣と魔法のファンタジー世界ならおなじみ"冒険者ギルド"である。

 ちなみに冒険者ギルドにやってきた理由は登録して仕事をもらうためだ。


「……はぁ」


 深いため息をつき目の前の建物を再び見る。

 そう、冒険者ギルドである。

 剣と魔法のファンタジー世界での冒険者のやることと言えば魔物と戦ったりするアレだ。

 この三日で町の外では魔物がいるらしい情報はすでに聞いている。実物は見たこと無いが危険な生物と言う認識で多分間違いないだろう。

 正直、気が重い。


(あんまし危ないことに首突っ込みたくないんだけどなぁ)


 仕事を探すにあたり冒険者も一応候補には挙がってたものの、真っ先に除外した職種だ。

 理由は単純、危ないからである。


 仕事を探すに当たりここより先に職業斡旋所に行った。だがそこで突きつけられるこの世界での現実。

 まず給仕関連はよっぽどのスペックが無い限り女性じゃなければダメらしい。

 そこで初日に斡旋してもらったのは商店での店番見習いだ。

 読み書き計算は言葉同様この世界基準に変換されるらしく問題なかったのだが、商品の名前と見た目が上手く結び付けられず対応できなかったため一日で帰されてしまった。

 そして翌日の荷馬車への荷物積み下ろしの仕事は開始早々帰されることになる。何せまともに荷物が持ち上がらないのだ。

 雇い主からの『モヤシ野郎!』とか『子供でも持てるぞそんなもん!』とかの怒声を浴びせられ早々に撤退。なお自分と同じように斡旋されたであろう少年は問題なく持ち上げていた。

 日本では普通の体力腕力でもこの世界では相対的に貧弱レベルになってしまうらしい。

 そして戻ってきた斡旋所でも匙を投げられた結果、冒険者ギルドに行くことになった。

 何故冒険者ギルドかと言えばこのギルドのみ登録に条件がなく門戸が広いためである。


 ……逆に言えばどんな人でも集まるわけで。


「……行くか」


 もはやなるようにしかならない。諦めムードでギルドのドアを開け、


「………………」


 きっかり二秒中を見てそっとドアを閉じた。

 あかん、アレはあかん。なんだあのコッテコテのチンピラ冒険者の数は。

 ここは王都でしょ。普通そういうところは治安はまだ良いってもんじゃないのか。日本基準なら中高生の不良が無条件で泣いて謝るレベルだぞ。

 マンガなら間違いなく背景に『?!』がついてるに違いない連中が、何故こんな朝早く勢ぞろいしているのか。

 あれか、雨の日の捨て猫に手を差し伸べるような連中ばかりなのか。実はマジメさんか?


「すぅー……はぁー……」


 いかん、思考が暴走した。落ち着こう、そして現実をちゃんと見るんだ。

 例え中が不良の溜まり場だろうが世紀末覇者の世界だろうが生きるためには入らなければならない。

 どうせこのままだと文字通り金が無くなって死ぬ。

 なら腹を括れ、無条件に襲われることはないはずだ。

 ……一応いつでも大声を出せる用意だけはしておこう。


「す、すいませんー……」


 中に入ると一斉に冒険者と思しき面々の視線がこちらに向けられる。

 目は口ほどに物を言うというが、なるほど、鈍感な自分でもこれは分かる。なんだお前、と雄弁に物語っていた。

 

「はいはい、どうかしたか」


 いたたまれなくなったのを見かねてか、男性のギルド職員がやってきてくれた。彼は彼でここの冒険者に負けず劣らずに強面でゴツい体つきをしている。

 そんな職員にそのまま引きずられるようにカウンターの方へと案内され促されるまま椅子に座らされる。


「見ない顔だな。依頼か?」

「あー、いえ。登録のほうで……」


 あ、こいつ本気か?って顔してる。いや俺だって分かってるよ他のメンバー見てたら分不相応だってことぐらい。


「まぁ本気ならいいが……止めた方が良くないか? 冒険者は多く見てきたつもりだが、正直向いてないと思うぞ」

「えぇ、ご忠告は有難く受け止めますが……もうここしかないんです」


 まだこの世界に来てたった数日とは言え割と心は折られている。悲壮感を漂わせて乾いた笑いを浮べていたら、何となく察してくれたであろう男性職員がカウンター下から紙を取り出した。


「ならまずはこれに目を通して下のここに署名してくれ。文字の読み書きは?」

「あ、はい。大丈夫です」


 渡された紙面を見ると誓約書見たいなものだった。

 要約すれば犯罪するな、とか、ギルドに迷惑かけるな、といったお約束の決まりごとのようだ。

 またそれらを破ったときはギルド規約に則った処分を受けるといったものも書かれている。

 特に問題なさそうだったので誓約書にサインをする。日本語で書いたつもりだったが手は自然と見慣れぬ文字を綴っていた。もちろん自分の名前である。


「フルカド=ヤマルな。んじゃあとは登録料と仕事の説明だな」


 指定された金額を支払うと、ついてこいと促され部屋の一角へとやってくる。

 そこにはボードに張り付いた張り紙とそれとにらめっこしている冒険者の集団。おそらくあれは依頼書なのだろう。

 

「冒険者が金稼ぐ依頼クエストには大きく分けて三つの種類がある。通常依頼、指名依頼、常設依頼ってやつだ」


 通常依頼は一番基本的な仕事だ。

 冒険者ギルドに持ち込まれた依頼内容の紙がボードに貼ってあるので、達成できそうなのを選び職員へ持っていく。

 一応冒険者のランクと依頼のランクなど見比べ、ギルドが問題ないと判断したら受注完了だ。あとは依頼をこなし報酬を得るだけである。

 

 指名依頼はその名の通りギルドを通じて冒険者を名指しで指定するものだ。

 主に高ランクや有名人、たまに個人的なツテなどで発生する。依頼主が冒険者を選ぶ分、動く金銭や依頼難易度も高い傾向にある。


 最後の常設依頼は依頼主がギルドであり、常時受けれる依頼である。

 主な内容としては消耗品である薬草類の採取など。危険度が低い分報酬面も少なく、単体では面倒くさい内容が多い。

 その為冒険者は基本通常依頼のついでに薬草を採取する、みたいなおまけ感覚でやっているそうだ。

 なお常時開放型のため受注登録は特にないので、いつでも受けれるのも強みである。


 説明を受け終えると再び先ほどのカウンターへと戻る。

 そして職員が奥のほうから何か持ってきた。皮の紐に通された薄い板状の物、戦争物の洋画で見かけるドッグタグにそっくりだ。


「ほれ、指出せ。登録するぞ」


 ナイフ片手にさも当然とばかりにこちらの手を引っ張ると、有無を言わさず人差し指が数ミリ切られた。

 チクリとした痛みに顔をしかめるも、職員は気にせずに淡々と仕事を進める。

 赤い血がドッグタグに染み渡ると、その表面に何か文字が浮かび上がってきた。見るとこちらの言語で自分の名前が書かれている。


「後はこれを割ってと……ほれ、こいつはお前のだ。首から下げておけ、肌身離さず持っているように。無くすなよ?」


 職員の手によってドッグタグが厚みが半分になるように割られる。

 割られた側にも自分の名前が書いてあった。紐が通してないだけで、渡されたドッグタグと全く同じもののようだ。


「こいつはギルド所属の証明書ギルドカード兼生存確認板だ。昔のお偉いさんが考えたもんらしいが、細かいことは聞くなよ? 『そーゆーもん』だって思ってりゃいい」


 試しにそれをこっちによこせ、と言われたので大人しく渡すと、職員はドッグタグ……もといギルドカードだけを持ってこちらから少し離れる。

 すると残されていた方の板に変化があった。自分の名前が徐々に透けていったのだ。

 彼が戻ってくるとまた徐々に名前に濃さが戻り、再びギルドカードを渡されると最初と同じ状態になっていた。


「まぁ簡易魔道具の一種だな。登録したやつがこの板から離れる、もしくは死ぬと割った側の名前が消えるんだ。こういった職業だと生存確認も中々難しい場合が多いからな」


 つまり割った側をギルド側で保管し、依頼中に何かあった場合それを見て成否判断するわけか。

 名前が書かれてなかったら何らかの形でギルドカードが外れてる、もしくは当人の死亡ということになる。


「だからこいつは基本無くすんじゃないぞ。紛失したらすぐにギルドに届けるように、再発行するからな」


 そう言って再び渡してきたギルドカードを受け取ると、言われたとおり首から下げるように身に着ける。


「まぁ大体説明はこんなところか。何か質問あるか?」

「そうですね……」


 必要最低限の情報だけ受けたら登録終了なのはさすが冒険者ギルドと言った所か。

 ともあれこれで自分も冒険者の末席に名を連ねたことになる。

 これからは依頼を受け生計を立てていかなければ行けない訳だが、今後を考えるとどうしても一つ聞きたいことがあった。


「ひとつだけ。自分が依頼を出すことは可能ですか?」

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