第2話 呼ばれたその理由

 視界が黒に染まり、ふわっとした浮遊感を覚えるのも束の間。

 急に重力が戻りとっさに足に力を入れるものの間に合わず、盛大に尻餅をついてしまった。


(ってぇ~~……!!)


 痛む尻をさすりつつあたりを見渡すが、そこは見たことも無い薄暗い部屋の中。

 いや、部屋というのは語弊があるかもしれない。その部屋は学校の体育館と同等かそれ以上の広さがあったのだから。


「召喚、成功しました。人数も予定通り十人です」

「うむ」


 そして聞こえる誰かの声。

 誰だ?と思うのと同時に、どこだ?と別に考えが混ざり合い思考がまとまらない。

 ふらつく体で何とか立ち上がり声の正体を探ろうとするも、立ち上がった瞬間バランスを崩し後ろの壁にもたれかかってしまった。


「む」

「ッ!?」


 いや、壁ではなかった。

 頭上からの声に振り返れば二メートルは軽く超えるであろう筋骨隆々の男。

 マンガでしか見たこと無いような黒い鎧を身に纏い、男の身長と同じ長さもある斧を見ては驚きのあまり再び尻餅をついてしまう。


「む、大丈夫か?」

「え、あ、はい……」


 差し出された手に目を瞬かせながらこちらも手を差し出し起き上がらせてもらう。

 視線が高くなったことでようやく自分が部屋の中央の少し小高いステージのような場所にいることが分かった。

 周囲を見ればこの大男だけではない。

 背中に西洋風の剣を背負った青年。

 真っ白な修道服を着た少女。

 モノクルの眼鏡をかけた壮年の男性がいると思えば、自分より小柄な細身の少年など。

 老若男女、様々な人物が自分合わせて十名。皆一様に困惑した状態で辺りを見回していた。


「突然の召集、誠に申し訳ない救世主の方々」


 そして再び聞こえた声に十人がそちらを振り向く。

 ステージの下、白髭を生やした恰幅のいい男性がこちらを見上げていた。


「いきなりのことで戸惑っておられるのであろう。その点については大変申し訳なく思っておる。だが我らの方も国が滅びるかもしれん瀬戸際なのじゃ。無礼を承知で申し上げる。何卒この国を救ってはくれないか?」



 ◇



 十人が全員来賓室に迎え入れられる。

 あの後、この国を救ってくれと言った男性は現在国の代表者であり国王代理であると名乗った。

 そしてすべてを話す、その上で協力して欲しいと頭を下げ、全員をこの部屋に案内した。


「改めて突然のこと、大変申し訳ない」


 国王代理が皆の前で再び頭を下げるとゆっくりと話し始める。

 彼は丁寧に話そうとするあまり若干脱線したり難しい言葉を並べていたが、要約すると以下の通りだった。


 この国は代々王族が治めており、他国との摩擦もなく平和な統治をしていた。

 しかし一週間ほど前にとんでもない事件が起こる。

 なんと王家の一族全員と国の中枢部分である騎士団長や宰相等が軒並み殺されてしまったのだ。

 そのため現在この国では残された人員で何とか統治はしているもののの、すでに破綻の兆しが見えているらしい。


「……は? んだよそれ、平和ボケしすぎじゃねーのか?」


 皆が絶句してる中、小柄な少年がそう問いただす。

 いや、口は悪いが確かにその通りだろう。国の中心人物である王族全員と中枢メンバーが全員やられるとか尋常ではない。


「あの……犯人は?」

「王のそばで息絶えていたそうじゃ。犯人は第一王妃らしい」


 第一王妃がすでに亡くなってる以上推察でしかないが、と前置きを置いた上で再び話し始める。

 国王には第一から第三までの王妃がいたが、正室である第一王妃のみ子が恵まれず肩身の狭い思いをしていたらしい。

 実家のほうからも色々言われ、第二、第三王妃とその子供たち、そしてそれを可愛がる王に憎しみを抱いた結果禁忌の魔法に手を出した。その証拠として王妃の部屋からその禁呪の魔道書が見つかっている。

 城の魔術師が魔道書を調べた結果、この魔法は術者の命を糧に発動し、対象を指定した後、その対象が持つ好感度、親密度……いわゆる仲の良い順に呪殺していく。

 止めるには術者である王妃の順に回ってくるか、対象である王の順になるしかないらしい。


「つまり……その結果王様と仲の良かった家族と身近な家来が犠牲になった、と?」

「えぇ……おそらく魔法が止まったのは、王が自分より大事な人がいなくなった結果、自身に順番が回ってきたせいではないかと考えております」

「でもそれヒドくねー? もしその第一王妃様が一番だったらその王妃様が自爆するような形で終わったんだろ。ないがしろにしてた王様も自業自得っつーか……」

「少年、言ってやるな。王からしたら自身を殺しにきた相手だぞ。好感度など一気に下がると思わないか?」

「あー……」


 まぁ確かにどれだけ仲が良かったとしても、自分を殺しに来てるならそりゃ好感度大暴落だろう。下手しなくてもストップ安まで下がりかねない。


「大まかではあるが国の現状は分かっていただけたかと思う。皆様には国の建て直しの助力をお願いしたいのじゃ。亡くなった人員の穴が埋まるまで、我々と共に尽力していただきたい」


 再び深々と頭を下げ助力を請う国王代理。

 本当に困っているのはものすごく感じるものの、こっちはただのサラリーマンである。

 政治力も武力も一切合財持ち合わせていない。


「ともあれ急な要望であるのは変わりますまい。本日は皆様向けのお部屋をご用意させました。ゆっくり休んで頂き、明日お答えをお聞かせください」


 何かご質問ありましたらそのときにでも、と告げられ、異世界生活の一日目は幕を下ろしたのだった。


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