禁『欲』任務

 秘逃奪追ひとうだっつい


 敵軍から秘書を持ち疾駆する忍を確認した。

 その秘書を奪い、敵軍の情報を得なければならない。

 敵忍の生死は問わない。

 敵忍が目的地に着く前に入手しなければならない任務。


 分身ぶんしんの術

 己とまったく同じ姿の偽物を出し、己の数を多く見せる術。

 水月すいげつの術

 囮を使い、敵の隙を突く術。

 水月とは、水に映る月を指す。

 観音隠れの術

 壁等に張り付き鼻息を止め、目を閉じ、敵に背を向け通り過ぎるのを待つ。



 秘書を持つ敵の忍を目で捉える。

 秘書の内容を知る為、早くも奪わなければならない。

 風が強く唸る音に便乗し、疾駆しっくするその影の死角を取る。

 風音に紛れた音はただわずか。

 しかし、それは振り向きやる。

 目が合う瞬間、煙幕えんまくを張られるが、身を伏せその足を捉えた。

 瞬の事でも先は予測可能。

 頭上を掻っ切る刃の主はもうそこには留まらまい。

 通り過ぎた刃の次に飛び退き、煙幕から逃れた。

 逃がしはしない。

 先回りとゆこう。

 偽りの己と共に左右からその足を追う。

 駆け抜けるこの草木には、何処に紛れようものか。

 その木を曲がればふと見失う。

 舌打ちを飲み込みその場に偽りを残し離れた。

 そこに潜むのであれば。

 そうでなければこの目でもその疾駆を捉えられよう距離の筈。

 偽りをゆるりと歩かせあるその木を通り過ぎた時、二、三は前の木から敵忍が姿を走らせた。

 予想通りか。

 もう一つの偽りがその視界に入り込む。

 それに向かう方向を変えたのを見切った。

 木からその地へ斜めに降りれば瞬にすれ違う。

 着地し偽りを失せらせ振り返るも無く走った。

 何度も木を交わらせ、視線を何度も遮断させる。

 岩にこの身をピタリと付け、息を殺しこの背を向ける。

 足音がすぐそこで減速したが、ゆるりとでも狙うその目に映ることなくして。

 その敵忍に潜む宝さえ見えていた。

 遠のくその首を目掛け、この刃を的確に飛ばせば風は此方に味方した。

 命中に目を細め素早くとどめの一撃を与えた。

 近くに別の敵忍の気配がするのに気が付く。

 宝に魅られる場合でもなく、また、この息を絶やすのを望む場合でもない。

 風が唸る。

 便乗せざるを得ない。


 秘書を入手した忍はその場から素早く離れた。

 秘書の内容を読み外れでは無いことに安堵する。

 報告と共にこの秘書を差し出す為、忍は疾駆する影となって姿を眩ませた。


 任務達成

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

限界突破 影宮 @yagami_kagemiya

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

フォローしてこの作品の続きを読もう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ