第一章 原初の三種族

魔素から芽生える

流れ枯渇し溜まり流れる

 祝災・世界振動により魔素の対流が始まったイクサー。この魔素の流れは長い月日を掛けて一定の道筋を辿るようになっていく。

 この一定の流れを理は龍脈と認知した。

 この龍脈はとある法則より発生しその流れを保っている。魔素の濃い場所から、魔素の薄い場所へと。

 この場所はそれぞれ、魔素の濃い場所を魔素溜まり、魔素の薄い所は魔素枯渇と認知されている。

 龍脈はこの魔素溜まりと魔素枯渇の間に存在して、魔素溜まりから魔素枯渇へと魔素を流しているのだ。

 そして、魔素溜まりはいずれ魔素枯渇になり、逆に魔素枯渇は魔素溜まりへと変化してく。

 このサイクルを幾度も繰り返していく最中、龍脈の中でとある存在が発生し始めることになる。


 魔素とは知的生命体の思考から発生するエネルギー物質である。それはつまり魔素は思考したものが含まれているという事。

 そして、その思考された結果生み出された魔素は、停滞している状態よりも動いている状態の方が変化が起きやすくなる。

 これは、思考というものが動的なものだからである為で、魔素状態も同様に何かしらの動きを持つことによって、何かを生み出すようになっていく。

 今この世界に存在する魔素の殆どは、河野と天照てんしょうの活動によって生じた魔素となっている。

 その為に、龍脈によって移動する魔素から生じる存在は、二柱の思考の影響を色濃く受けて生じることになるのだ。


 龍脈によって生じる魔素の循環により生じる魔素の流れ、この流れはその時々により様々な色を見せている。

 赤・青・黄を始めとした様々な色へと変化し流れゆくその様は、幻想的と一言で語るだけでは物足りないと評価できるほどの美しさとなっている。

 そんな龍脈の流れの中に小さな小さな粒が発生し始める。

 この非常に小さな粒は、魔素に含まれる思考を含んではいるものの、内包している情報は断片的なものだ。これは、この粒が小さいが故にその身に宿した魔素の量が少ない為、内包できた思考が少ない為である。

 また、この粒は外界との境が曖昧でもある。故に自我と呼べるようなものが芽生えることもなかった。

 今の状態では、ただ魔素がある程度まとまりそこに情報が組み込まれているだけの存在だ。


―――

新しい種族、妖精を認知しました。

新しいスキル、魔素生成を認知しました。

新しいスキル、魔素吸収を認知しました。

新しいスキル、魔素探知を認知しました。

新しいステータス、魂力を認知しました。

―――


 幼く純粋な存在。妖精の誕生である。

 生まれたばかりで、情報のみと魔素のみを内包した存在であるこの妖精たちは、龍脈の流れの中で少しづつではあるが、己と同様に流れている周囲の魔素を吸収していっている。

 龍脈の中で生まれたこの妖精たちではあるが、流れに身を任せた結果として魔素枯渇に行きつくことになる。

 そして、この魔素枯渇の中でも魔素を吸収は止まることは無かった。

 龍脈より常に流れくる豊富な魔素を吸収する妖精たち。

 龍脈と魔素枯渇が接する場所に集まる妖精たちの様は、千変万化の色の変化を伴なう龍脈を流れる魔素と相まって、より一層の幻想的な雰囲気を醸し出している。

 魔素を吸収する妖精たちはキラキラと光輝くその様を眺める存在が、この世界を覗き見ている河野と天照てんしょうだけというのが勿体ない程だ。

 残念ながら妖精たちは、まだこの情景を見て何か思うほどの自我を確立し得ていない。彼らがさらなる成長を果たし自我を獲得出来た時何を想うのか、今から楽しみである。


 自我が無いとはいえ、この妖精たちが全く魔素を生み出さない訳ではない。

 明確な思考こそ望めないまでも、内包した情報が動くことにってごく少量ではあるが魔素が発生している。

 この魔素もまた妖精の成長の一助となっている。

 そして、魔素溜まりが魔素枯渇になると、龍脈の流れが逆流を始める。

 今まで妖精たち運ばれるままに運ばれていた場所、魔素枯渇が魔素溜まりへと変化し、そこに留まっていた妖精たちは流れに身を任せるままに龍脈へとその身を躍らせる。

 だが、全ての妖精がこの流れに乗れたわけではない。

 魔素溜まりと龍脈との接点からほど遠い場所にまで流されていた妖精たちは、この龍脈の流れの逆転に乗り遅れることになる。

 それでも、何れかは流れに身を任せることが出来るようになるのだが、この一連の龍脈の流れの変換というサイクルが幾度も繰り返される内に増えて行く取り残されるままになってしまう妖精たち。

 魔素も同様にして増えて行っているのだが、妖精たちから生じる魔素の殆どが、魔素を生み出した妖精たち自身に吸収され、龍脈を中心にした環境下での魔素量は徐々にではあるが減少を始めることになる。


―――

新しい種族、中妖精を認知しました。

妖精を小妖精と再認知しました。

新しいスキル、妖精膜を認知しました。

―――


 幾度も繰り返される龍脈の循環。この世界イクサーの自然現象の中で成長した妖精たちは中妖精と、理に認知されるまでに成長する存在が出始める。

 それと同時に、今まで妖精と認知されていた存在は小妖精と再認知されるようになった。

 自我を持たない小妖精に対して、中妖精は自我を持つようになった。これは、長い月日の中で吸収した魔素と、それに伴う情報の取り込みによって自我の確立が出来るようになった為だ。

 この自我の確立には、新たに認知された精霊膜の存在が大きな要因となっている。

 これにより、曖昧だった境界線が明確になった。これにより、自己と外界を明確に認識することが可能になったのだ。

 そして、中妖精になった彼らから生じる魔素量は、自我の獲得と共に小妖精とは比べ個体によっては数倍にもなる。これによって、吸収しきれなかった魔素が漏れ出すことになり、魔素が世界に増えることになった。

 世界規模の魔素の払底となる前に、中妖精の誕生により安定したイクサーであったが、やがてとある存在が魔素溜まりと魔素枯渇を繰り返されている場所で生まれることになる。

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