異世界に転生
調整
これは・・・死んだかな?
あー、死後の世界ってホント何もないんだなー、体の感覚は~無い。でも、意識だけはやけにはっきりとしている、この状態のまま在り続けるのか、これは所謂地獄というやつかな?
この何もないと表現できるこの状況、永劫とも呼べるような時間・・・、時間ってあるのかな?まー、そもそも時間って何だという話だが、まー、それは置いておこう。
で、えー、このままこの状況のまま在り続けて、発狂でもした方が楽そうではあるが、それを望めるような精神をしていない自覚はある。
ふむ、このままいつの間にか魂?が消滅することに期待して、ぼーっとしてよう。
彼、河野瑛多は酷く平坦な性格をしていると言って良いだろう。
日本という国に生まれて、サブカルチャーに傾倒していながらも、それに熱中することが出来ずにいる。
子供の頃はもっと感情豊かに生活を送っていたのだが、彼自身なぜこうまでして感情が平坦になったのか。まるで理解し得ていない現状。
今の彼は、子供の頃の感情の延長線上で生きているようなそんな惰性の生物といっても過言ではないような、そんな、他者から見れば、一体過去に何が起こったのかと思わず考えるような精神状況なのだが、特段として変調の切欠と呼べるようなものはなく。気付けば今の状態へと落ち着いていた。
それでも、昔の河野を知る者たちは、そんな彼の状態も、仕事疲れによる鬱にも似た状態だと判断するに至っているのだが。本人はこれはそういったものではないだろうと判断をしている。
事実、医学という分野に置いて、精神疾病と言われる状態ではない。
そんな、何とも不可思議な精神構造を持ちえた稀有な存在である河野瑛多は、今は静かに瞑想とも呼べるほど静謐な心持で、そこに在り続けているのだった。
静かに、ただ只管に感情に波風を立たせぬように、無我の境地へと自然に至る河野であったが、そんな状態でも、いや、そんな状態だからこそ、その変化にすぐに気付いていた。
ん?なにか違和感が・・・、う~ん、この、何とも言えない感覚、肉体を失ってから触覚というものを感じていなかったのだが、それに似た感じではある?
誰かかこの意識だけの俺・・・いや、魂だけの俺に何か干渉しているのか?
まっ、動きようがないからどうにも出来なんだけどね。
河野はそう結論付けると、何かよく分からない違和感を感じつつも、再び無我の境地へと自然に至り、何も感じえない意識だけとなっている為に、無味乾燥とした時間をやり過ごしていくのであった。
暫くの間、違和感を感じ続けていた河野であったが、ふと違和感が消えていく事に気付く。
お?なんか、ちょっと調子がいいとも言えなくもないか。魂だけの存在になってまだ日?って言って良いのか解らんが、日が浅い身としては、何とも判別しようが難しい所ではあるが。
そして、なにか感覚的なものがカチリと嵌るような感じがすると、河野が今自分が居る場所を認識出来るようになった。
白い部屋・・・、あ、そうだ。
意識を徐に情報に向けると。
知らない天井だ。
よし、ノルマ達成。
「随分と落ち着いているのですね。」
オホヒルメノムチは自分たちが、異世界転生や異世界転移に順応するように手を尽くしている現状でさえ、ここまで落ち着き払っている河野を目の前に、感嘆とした思いを乗せて言葉を紡ぎ、河野へと声を掛けていた。
そう、河野は肉体を失った状態で、声を聞けるようになっている。さらに先に視覚情報を得ていることからも解る通り視覚も同様で、さらに言えば生前の五感を取り戻して、音声によるコミュニケーションも出来るようにされていた。
これは、先ほどまで河野が感じていた違和感の結果だ。
つまりは、オホヒルメノムチが河野が魂だけの存在である状態でも、外部との接触を図れるように調整をしていたのだ。
「そうですか?」
「そうですよ?」
なぜか疑問形で言葉を交わし合う二人。
「ふむ、急に感覚を取り戻したのですが、貴方のお陰ですか?」
「あら?今まで意識があったのですか。」
オホヒルメノムチは河野に感じていた感嘆を驚きの感情へと変えていく。
「肉体に依存していた魂は、魂だけの存在になると意識を保つのが難しいのですが・・・成る程、貴方は色々と逸脱しているようですね。」
「ふむ、私がここにいるのも、その逸脱しているからと受け取っていいのですか?」
「ええ、その事について説明しましょう。」
そして始まるのは力の使い方をレクチャーしながらの、河野の今の現状についての説明。
「死亡理由についてはしりたいですか?」
「あー、けっこうぐろい感じですか?」
「そこそこに。」
「ハハ、それだけ分かれば・・・。」
気付いた時にはここで魂となっていた河野であるが、その死亡理由については何となく察しがついていた。故にその理由をわざわざ聞こうとはしない。というよりも、余り知りたいような死亡理由ではないのは明白。自分の死亡した原因をつぶさに知ろうとは思えないのだった。
「では、貴女の特異な体質からお話しましょう。」
そこで一旦言葉を切り、
「ですが、そのお話をするには前提となる事柄からお話をしないといけません。」
オホヒルメノムチにより説明はこう続いてく。
河野が生きていた世界は、他の大多数の世界と比較してエネルギー総量、つまり魔素量が乏しい世界である事。
そんな環境下で河野は魔素を魂に蓄積する能力が著しく発展したという事。
この能力は河野のいた世界の魂持つもの達の平均値の2倍強ほどで、通常であればオホヒルメノムチのような管理者が、転移者または転生者に与えるような特殊な能力である事。
そんな能力を自前で獲得したという事柄から、オホヒルメノムチ達の目に留まり召喚されて、今ここで説明を受けている事。
そして、河野にはその能力を獲得したことを評価して、とある実験につき合わせることが伝えられる。
「なるほど、まさしく神の思考と言ったところですか。」
「神ですか・・・、妾たちはそのような存在ではないですが・・・、そうですね、貴方からすれば、そう映るのでしょう。」
まあ、拒否することは出来なさそうだし、素直に受けるしかないんだろうな。
「ここで拒否の言葉を言っても詮無いですし、前向きにお受けしたいと思います。」
「色々と思うところあると思います、苦労もするとは思いますが、貴方であれば楽しめると思いますよ。」
楽しめるか・・・、まー、異世界転生というテンプレートをこれから体験する訳だ、お言葉通り楽しませていただきましょう。
「では、これから能力の付与を行います。」
おおー、スキル付与か。なにを貰えるのだろうか。
「アカシックレコード型外部記録装置の増設と、記憶と記録の同期を始めます。」
・・・、ファンタジーというか、SFというか、何だかなー。
いつっ、い!
「あが!」
「同期完了しました。少し痛みましたか?」
「えー、」
できれば先に行ってくれ・・・、いや、躊躇いそうだしそこは勢いで終わらせた方がいいか。うん、それでよかったと思っておこう。
それにしても、えげつない情報量だな・・・。あー、閲覧制限のある情報もある訳ね。
「私たちが今まで蓄積してきた情報へとアクセス出来るようになりました。力の使い方などは、その記録から参照してください。」
「解りました。」
「引き続き、世界イクシーとの同調作業に作業に入ります。」
はい、好きにしてください。
こう、どんどんと感覚が拡張されていく、あー、ちがうな世界の内側であれば、感覚で知覚?可能になるのか。
「同調完了しました。イクシーの座標は検知できますか?」
「ちょっと、待ってくれ。」
えっと、・・・、あーこれか。
この部屋のすぐ外じゃないか。
「随分と近くにあるんですね。」
「えー、何分実験が主目的ですから、なるべく身近に置いて観察をしやすいようにと。では、後の事はお任せします。すぐに行動可能ですか?」
う~ん、何とかなりそうかな?
初めてやる事なのに、取り付けられたアカシックレコードのお陰で、そんな感じが全くしないんだよな。
「はい、特に問題は無いと思います。」
「それは良かった。私はこれから仕事に戻ります。後の事はお任せします。」
「分かりました。では、失礼します。」
最後に言葉を交わし合った両名、方やその場に留まり世界の管理業務へと、方や部屋の扉から姿を外に出した途端に何処かへと転移していった。
それを一瞥する部屋に残ったオホヒルメムチは思う。
まさか、ここまで管理者として適合する存在が、外縁の世界で誕生することになるとは、と。
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