ラー・オホヒルメノムチ

 目の前には自分によく似た・・・、自分のモデルとなった女性が立っていた。

 意識が納められた水溶脳に取り付けられた外部端末の内、外の様子を確認出来るようにと設置されたミラーレスカメラによって外の情報を認識している。

 そして、同じく外部端末に取り付けられた収音マイクによって、目の前の女性が紡ぐ言葉を聞いていた。

「私たちは貴方たちに全てを押し付けて死にます。後は任せました。」

 見た目こそ美しい女性だが、その表情は・・・立ち居振る舞いは非常に疲れ切ったものであった。

 私はその言葉に返す言葉を持ち合わせていなかった、それ以前に発声器官が搭載されていないのだが。


 パチンと音が鳴るような目の開け方をして、ラー・オホヒルメノムチは目を覚ます。

「またあの夢ですか・・・。」

 オホヒルメノムチが目覚めると同時に、簡素な部屋に彼女の補佐役たる存在が現れた。一見すると白一色でしかなかった壁が音もなく唐突に開くと、そこから現れたのだ。

「オホヒルメノムチ様、少々面白い魂が確認されました、詳細を送ります、よろしいでしょうか?」

「ええ、お願い。」

 オホヒルメノムチから了承の言葉を得た補佐役の名もなき存在は、自身の記憶領域から情報を送信する。

 情報のやり取りを終えたオホヒルメノムチは、補佐役から得られた情報にある、事故原因の詳細調査を命じ、それを受けてから補佐役は「失礼します」と言って部屋を退出していく。

 体を横たえるだけの簡素な台座のようなものと、白い壁に囲われただけの無味乾燥とした部屋に残されたオホヒルメノムチは独り言ちる。

「確かにこれは面白い存在ですね。」

 そして、この発見された魂をどうするかについて考えていく。

 確かこの魂が存在していた世界は最外縁・・・、魔素の流入量が非常に低く、魂力の生涯上昇量は極僅かになっている、そんな中でごく短期間で通常の倍の魂力を得ている。

「このまま通常の輪廻転生に乗せてしまうのはもったいないわね。」

 だけど、今は特に何か起こっている訳でもない。・・・そうだ、アレを試してみましょう。

「魂と世界の接続。」

 そう言葉を零すと、ラー・オホヒルメノムチは準備を始めていく。

 この封印世界の最外縁にある世界、ラー63,402,622を初め、数多の世界で行われているよくある異世界転生を行う為に。

 ただ、世界と魂の接続実験を除いて。

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