夏ですからね


「天星、こっちが俺の友人の神田おとぎだ」

「よろしくー!」

「それで、おとぎ。こちらが天星詩織さんだ」

「よろしくお願いしますっ」


 天星とパフェを完食し、休憩しているとおとぎが到着した。おとぎはオレンジのパーカーに七分丈のズボンに白のスニーカーという出で立ちで現れた。今は俺の隣に座り、俺が紹介役をしている。


「まさか夏彦に女の子を紹介される日が来るとは思わなかったなぁ」

「やかましい。天星におとぎの話をしたら会ってみたいっていうから呼んだんだ」

「はい。私が河奈さんにお願いしたんです」

「そうなんだ。それは光栄だね。それで、何の話を話したの?」


 おとぎに言われ、何を話したかを思い返すと、おとぎにまつわる話は大体したかもしれない、と思うほど話したかもしれない。おとぎには悪いことをした。


「……色々だな。すまん。話のネタにさせてもらった」

「ん。いいよそれくらい。まあ減るもんじゃないし。夏彦のことだから僕がその行動をした理由なんかも話したんだろう?」

「まあな。誤解のないようには」

「ならいいさ」


 いいやつだな、と一人感動していると天星がこちらを感心したような顔で見ていた。


「……どうした天星」

「あっいえ、お二人本当に仲がいいんだろうなぁ、と」

「そうだね。かれこれ……小学校の途中からと中学三年で、まあ5年以上のつるみだね」

「腐れ縁だな」

「照れちゃってー」


 肩を組みにきたおとぎを防ぎつつ、こいつはまだ来てから何も注文していないな、と気が付いた。


「やかましい、何頼むんだ?」

「あっそうだね。すみませーん、アイスカフェオレひとつお願いしますー」


 おとぎが店員さんにオーダーをした時についでに俺はコーヒーを、天星はアイスティーを注文した。そしてそれぞれの注文したものが来て、半分ほど飲んだ頃には二人ともすっかり打ち解けていた。


「へえ、天星さんC組なんだ。僕らはD組なんだ……って夏彦から聞いたかな」

「そうなんです。あ、はい。えっと、昨日話しましたね河奈さん」


 天星に言われ、昨日の会話を思い返す。確かに昨日どこのクラスなのか、とか、教科担当は誰なのかとか話した覚えがある。俺は頷き返事をする。


「ん? ああ。そうだな」

「えっ昨日? 夏彦と天星さんの馴れ初めかな? 何があったのか聞いてもいいかい?」

「天星、いいか?」

「ええ。私から話始めたんですし」

「そうか。そうだな、あれはつい先日のテスト最終日のことだ……」

「何その入り……」


 俺が芝居がかった風に話し始めるのをおとぎは半目で呆れたようにツッコむ。天星は苦笑していた。すまん。俺らはいつもはこんな感じなんだ。おとぎに昨日、天星と出会ったエピソードを7話す。


「――ってことがあってな」

「懐かしいですね……いや昨日のことですが……ふふっ」

「? どうした天星」

「いえ、すみません。電車でのことを思い出して……あっ」


 電車でのこと……。ああ、俺が今ここにいる理由を思い出し、少しだけ気恥ずかしくなる。隣を見るとおとぎがいいネタ見つけた。と言わんばかりのいい笑顔でこちらを見ていた。


「……なんだその顔はおとぎ」

「いやぁ。聞き捨てならないことを聞いた気が天星さんの反応を見たら思ってねぇ。詳しく聞こうか」

「……」

「ははっめちゃくちゃいやな顔してるね! でも僕のことネタにしたんならそのお返しはもらってもいいと思うんだけど、どうだい? ほんとに嫌なら聞かないさ」

「……わかったよ。話す話す」

「やったねっ」

「すみません河奈さん……」


 おとぎが指をパチンと鳴らし喜ぶのを横目に、天星がいつか見た申し訳なさそうな顔をしながら俺に謝る。


「気にするな。俺の恥を知るやつが一人増えるだけだ」

「すみません……」

「ええ。何この感じ……そんなやばいことしたの夏彦」

「天星の肩で寝ただけだぞ」


 なるべく意識をしないように、俺がサラリと言うと、天星の顔が少しだけ赤くなった気がした。

 おとぎはポカンとした顔をし、俺と天星を交互に見る。


「くくっ……確かにそれは恥だねぇ。あの日夏彦ほんとに眠たそうだったし」

「そうだな。おかげでよく眠れた」

「開き直ってない? 耳赤いよ?」

「あ、ほんとです」


 事実開き直っていたので、適当に返す。


「……今日は暑いからな」

「ふふっ」

「……笑うなよ」

「すみませんっ。つい」

「はぁ……」


 溜息をつきながらコーヒーを啜る。ホットを頼んでいたがすっかり冷めてしまっていた。


「天星さんも耳赤くない?」

「えっほんとですか」

「ほんとだな。赤いぞ」


 おとぎの言葉に天星を見ると、確かに耳赤くなっている。俺とおとぎの視線に耐えかねたのか、わたわたとしながら口を開く。


「えっあっ。な、なつですからねっ」

「あはは。夏彦と同じこと言ってる」

「あ、あはは……恥ずかしいです」


 消え入りそうな声で天星が呟き、おとぎが笑う。それにつられ、俺も笑ってしまった。


 たまにはこんなのも楽しいな。と思った土曜日だった。

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