コーヒーは始めブラックで最後にミルクと砂糖を入れるのが好き。紅茶も然り、です

 テスト明けの土曜日の午前本来なら家でダラダラと寝ている予定だった。

 しかし、どういう因果か俺は女子と近所のカフェに来ていた。


 俺は結局あの後「おでかけ」をすることに承諾し「美味しいお店があるんです!」と言う天星に案内された。

 個人店の落ち着いた雰囲気で内装が統一されたカフェに来て、柔らかな一人用ソファに座り、天星とテーブルを挟みブレンドコーヒーを飲んでいる。


 俺の前にはサンドイッチが置かれ、天星はフルーツタルトを紅茶をそのお供に楽しんでいる。


「このお店、私のお気に入りなんです」

「そうなのか」

「はいっ。何の予定もない休日の午前によく来ているんです」

「へえ。良いな、そういうの。憧れる」

「えへへ、ありがとうございます。河奈さんのご趣味を聞いてもいいですか?」

「俺か? 俺は……――」


 こんな昨日の登校中にもしたような取り留めのない会話を天星とする。


 つい昨日会ったばかりのはずなのに不思議と話が弾む。

 何故だろうか。緊張はするにはするが嫌な緊張じゃなく……どこか心地良い。


「あははっそんなことがあったんですね。その神田さんっていう河奈さんのお友達に会ってみたいです」

「機会があったら紹介するよ。人見知りの少ないやつだから快く会ってくれると思う」

「ほんとですか! 楽しみです!」

「ああ。また話つけとく……ん、すまん。電話だ」


 机の上に置いたスマホが震え、着信を告げる。画面を見ると『神田 おとぎ』の名前が表示される。何てタイミングの良さだと思いながら応答をタップする。


「もしもし」

「やあ夏彦。夏休みはどうだい?」

「ん。まあぼちぼちだ。どうした?」

「いやもし夏彦が暇だったら昨日遊べなかったから遊べないかなぁと。どう?」

「いやすまん。今日はもう違う人といるんだ」


 えーそうなのかぁ。というおとぎの声を聞きながら天星に目をやり、通話画面の名前を見せる。天星は意図を察したのか、いいですよ。と小声で言う。それに頷き通話を切ろうとしているおとぎに話しかける。


「待ておとぎ。お前さえよければなんだが」

「ん? なんだい?」

「お前に会ってみたいというやつがいるんだ。どうだ?」

「それって女の子? んなわけない――」

「そうだぞ。よくわかったな」

「っ――」


 ん? 応答が無くなったな。電波が悪いのか?


「もしもし? おーい、聞こえるか?」

「……夏彦が女の子といる……? まさか、いやまさかそんな……いや、きいてみなきゃわからないか」


 スマホの向こうで一人でぶつぶつと呟いているおとぎの声が微かに聞こえる。やっぱり電波が悪いのか?


「もしもし、おとぎ。聞こえるか?」

「あ、ああ。ごめん夏彦。大丈夫。聞こえているよ。うん、僕も会ってみたいな。どこにいけばいい?」

「ああ。よかった。場所はー……おとぎ今家か?」

「うん、まだ家。どこにいけばいい?」

「えっと……」

「『ことのは』って名前のカフェです」


 店の名前を覚えていなかった俺に天星が助けをくれた。復唱し、片手を天星に挙げつつ、おとぎに尋ねる。


「『ことのは』っていうカフェなんだが、わかるか?」

「ああ、『ことのは』ね。わかるよ。たまにいく。サンドイッチがおいしんだよね。そこにいけばいいかな?」

「そうなのか。確かにサンドイッチおいしかったぞ。ああ、入ったらすぐにわかる場所に座ってるから」

「え、そうなの。ずるい、僕も食べよ。わかった。今から行くから、15から20分……くらいかな、そのくらいみといて」

「あいよ」


 通話を切りスマホを机の上に置く。天星に目をやると、メニューを見ていた。


「と、いうわけでおとぎが来る。今更だが、今日の今日で大丈夫か?」

「え? 大丈夫ですよ。むしろ嬉しいです。こんなに早くお会いできるなんて」

「そうか。それならいいんだが……何か頼むか?」

「えっ。えっと……そうですね、もう一杯紅茶を頼もうかと……」


 そういう天星の手元にはパフェのメニューが開かれていた。

 今日はパフェのフェアをやっているそうで、通常の値段よりも安くなっているようだ。


 ちなみにイチゴがふんだんに使われているパフェのようで、『当店№1人気!』との売り文句がパフェの上に乗っかっている。


「……パフェおいしそうだな」

「……はい」


 天星は少し赤くなりながら同意する。


「……頼むか?」

「……ちょっと食べたいですけど、お腹に入るかどうか」


 そう言いながらタルトが乗っていた皿を見やる。……確かにあのタルト、中々ボリューミーだったな。うーんと難しそうな顔で考えている天星を見て、あることを思いついた。


「それなら、天星が気にならなかったらだが、食べれなかった分を俺が食べようか」

「えっいいんですか?」

「ああ。俺もそれ気になるしな」

「それなら、二人で食べましょう!」


 そう言うとパぁっと明るい笑顔でシェアすることを提案してきた。


「二人?」

「ええ。私が頼んで残したものを河野さんに食べてもらうのは、私が嫌なので……一緒に食べればいいかなって。だめ、ですか?」


 不安げな表情でこちらを窺う天星。こちらから言い出したのもあり、断ることができなかった。


「いや……いいぞ。そうしようか」

「ありがとうございます!」

「とんでもない。じゃあ頼もうか」

「はいっ」


 その後、おとぎを待つ間、俺と天星でイチゴパフェを堪能し、おとぎが着く頃には二人とも満腹に限りなく近い状態になってしまっていた。

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