第41話『ネリネ・コロン』

 その少女は、深く沈んだ黒いショートヘアーで、やたらとスタイルがよかった。

 体を写真にでも納めて、売りさばくだけでそれなりの見世物になりそうなほどだ。優しい輝きをちらつかせるタレ目の瞳で、遊乃達三人を捉えながら、長い足で大股歩きをし、あっという間にアリエスの隣に立った。


 やたらとアリエスに対して距離が近いところから、関係者のようだが、遊乃達と同じく龍堂学園の制服に見を包んでいるところから、まだプロではないらしい。


「どーも! ウチはネリネ・コロン。学園の二年生で、職業は魔術師ソーサラー。よろしゅうな」


 片手を挙げ、元気よく、八重歯を見せて笑うネリネ。

 その言葉が独特なニュアンスで紡がれていることに気づいて、遊乃は首を傾げた。


「あぁ。風祭遊乃だ。よろしく」


 手を差し出し、握手をする遊乃とネリネ。


「……変わったイントネーションの言葉だな。共通語とは、ちょっと違うようだが」

「あぁ、先祖代々これなんよ。ご先祖さまが、こういう言葉を使う地域に住んどったみたいで。くせになっとるんよ。勘弁してな」


「別に。聞いたことがなかったから、興味をそそられただけだ」

「へえ。ほんま、知らんことには興味津々なんやな。ウチも学園の生徒やさかい。噂はよお聞いとるよ」


「あぁ、世界制覇をする男だ。知られててもおかしくはないだろうな」

「そーそー! 世界制覇や! ええでー、遊乃くん。男の子はでかい夢もっとらな!」


 バシバシと、無遠慮に遊乃の肩を叩くネリネ。だが、遊乃もそういう、無遠慮なところがある。だからすんなりと受け入れ、ネリネの肩を叩き返し、二人で「あっはっはっはっは!」と笑い合っていた。


「うわぁ。遊乃くんと、もうあんなに仲良く……似たもの同士なのかなぁ」


 遊乃と合わせることの難しさは、琴音が一番よく知っている。長年パートナーを組んできた彼が、他の女性とあっという間に仲良くなるのは、琴音としては複雑だったが、それよりも尊敬、あるいは困惑の感情の方が大きかった。


「このネリネは、私の護衛団、団長の娘で、幼い頃から友達だったんです」


 アリエスはそう言って、ネリネに耳打ちをする。位置が近かったので遊乃にも聞こえたが「大事な話をするから、黙ってて」だった。


「幼い頃から家の事情により、魔法の訓練を積んでいましたので、その戦闘能力はプロ級。なまじプロを付けるより、こちらの方が組みやすいだろうと思い、ネリネをあなた方のパーティに加えさせていただきます」


「そーゆーわけやな。短い間かもしれんけど、よろしゅう」


 と、今度は琴音、リュウコと両手を差し出し、同時に握手するネリネ。

 近接二(遊乃、リュウコ)と後衛二(琴音、ネリネ)のパーティならバランスもいいし、何よりネリネが面白そうなタイプだったので、遊乃としても異存はなかった。


「あぁ。よろしく……で? その封印獣、どこ逃げたんだよ」

「どうやら王家にある征服の扉から、地上――ロシア地域に逃げ込んだとのことです」

「……征服の扉、だと?」


 人類が地上に降りる際使われる、転送装置であり、遊乃たちも以前、ベラージオに降りる際使ったものだ。

 そして、遊乃が問題視したのは、地上に逃げたことではない。


 封印獣が、征服の扉を使える知性を持っている、ということだ。


「……こいつは、なかなか面倒な依頼っぽいな」

「うん。しっかり準備してから、地上に降りよう」


 頷き合う遊乃と琴音。二人は頭の中で、冒険に出掛ける前、購買で装備を整えようと考えていると、


「あぁ、封印獣が降りたとされるアドレスは、遊乃くんのデバイスに送っておきましたからね」


 ようやく、マリが口を開き、遊乃がポカンとした表情をした。


「なんだ、ばあさんいたのか」

「……あのね、ここは校長室なんだから、それはいるわよ……」


 ちょっと地味に徹しすぎたかしら、と人知れず思い悩むマリを起き、風祭パーティは、校長室を後にした。

 封印獣討伐依頼。

 これが、遊乃とリュウコの運命を大きく変える転機となるのだが……


 未だ何者でもない遊乃たちが、それを知る由もなかった。

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