第二十一話 助け合うセカイ

 ナズとサランは合同実習訓練中に魔導具の誤発動により、見知らぬ洞窟に飛ばされ、近づいてくる不気味な音に怯えていた。


「こ、怖い……。な、なんとかしてよ! あ、あんた特待生でしょ!」


「そ、そんなこと言われても。小羽がいないとナズは……」


 ナズは小さな手でサランの大きな手を強く握っていた。その手はわずかだが震えていた。サランはそれに気づいた。


 ――あれ? この子も怖いんだ……。それなのに手を握ってくれてたんだ……。ちっちゃいくせに強がっちゃって……。


「あ、あんたってさ? 一色さんとどういう関係なの?」


「え、えーっと……。小羽とは。そ、その……ごにょごにょ……」


 ――ほ、本当のこと言ったらダメだって小羽言ってたし……。な、なんて言えばいいのかな? 


「ん……っとね……。小羽とは仲間? かな?」


「仲間? あんたも一緒に冒険してたの? 学園長とも?」


「うん。出会ったのは偶然だけどね……。小羽といると安心するんだ……。ナズのことを大事にしてくれるし。子供扱いするのは少し嫌だけど……。でも小羽は大好き。ずっと一緒にいたいって思える大事な人だよ。小羽なら必ず助けてくれるって信じてるんだーっ」


 ナズは自身がエルフであることやに虹の精霊として小羽と契約したことは口には出せなかったが、今思っていることを素直に伝えた。


「それにね。小羽は意外とおっちょこちょいでね。ナズがいないと全然ダメなんだー。この前なんかね―――」


 ナズの小羽を語る声の調子は実に楽しそうだった。


「…………。一色さんって思ったより普通なんだ……」


「そうだよ。でもさー。小羽の色魔導って凄いんだから! シュって描いて、バって何か出てきて、ドカーンって感じなんだよ?」


「ぷっ……。何それ? 全然わかんないんだけど……」


「そ、そう?」


 サランはナズとの会話に笑顔を見せた。これまでサランはGMAに入学して以来、笑顔を見せることはほとんどなかった。


   ◇◇◇


 GMAの入学式でサランは周りの目を気にしながら自信なさげに立っていた。背の高い彼女は顔立ちもキツめでどことなく品のある雰囲気を醸し出していた。だが、サランは良家でもなければどちらかといえば貧しい家柄だった。両親がせめて娘は幸せになってほしいとGMAへ入学を勧めた。サランは無理をしてくれた両親のために頑張ろうと希望を胸に秘め入学した。


 だが、周りを見渡せば自分よりもできそうな生徒たちばかり。そう思うとサランはさらに自信をなくしていた。一人孤立するサランは焦りを覚え始める。そんな時に声をかけてきたのがネーブルだ。ネーブルもまた貧しい家柄の出身でオドオドした様子でサランの側に近寄る。


「あ、あの……。サランさんって背が高いよね? 羨ましいな。私も背が高くなりたい……」


 それがきっかけになりサランとネーブルは行動を共にし始める。だが、頼りにならないネーブルを見ていてサランは自分がしっかりしなければと少しずつ態度を変えていった。


 それと同時に家柄の良い生徒たちが次々に才能を開花していくことに嫉妬を覚え始める。その中でもクワナは群を抜いており、いつも誰よりも早く課題を終わらせていた。


 そんなクワナにサランとネーブルは度々ちょっかいを出すようになった。


「クワナさん? あんたの家って魔導具店なんでしょ?」


「えっ? うん。サ、サランさんとネーブルさんだよね? それがどうかした?」


「課題とかお店の商品使ってないよね? あの有名なスカーレット魔導具店だもんね……。何でも用意できるんじゃない?」


「そ、そんなことしてないっ!」


「そうなの? 本当にしてない? どうなの?」


「だからっ。してないってば!」


 サランたちはわざと聞こえるように騒いでいた。そして、クワナへの嫌がらせが始まったのだ。


 きっかけはなんであれ、サランは歪んだまま学園生活を過ごしていた。そして、笑顔を見せることはそれ以来無くなった。


   ◇◇◇


 そのサランがナズの無邪気とも言える言葉に思わず笑顔になっていた。


「……なんかバカらしい。……あたしさ。魔工科でも全然ダメでさ。クワナとかにヤキモチ妬いていたんだよね。一色さんも特別扱いでいきなり現れて……。学園長のお気に入りでしょ? 本当に羨ましいなってずっと思ってた。……自分が頑張ってないのを人のせいにして……。本当にあたしはバカだ……。その罰だよ。これは……」


 暗くて姿が見えなくてもナズにはわかっていた。繋いだ手から伝わる想い。自らの過ちを認めたサランの後悔が頬を流れている涙となって溢れていることも。


「サランってば頑張ってないの? ナズは魔導具のことはよくわからないけど。発動の失敗は別として結構いい線いってると思ったけどなー。もっと自信持てば? それにサランって案外悪いやつじゃないじゃん」


「…………」


 サランは泣き声を押し殺していた。


 だが、洞窟の奥からはおかまいなしに音が近づいてくる。


 そして、ナズの目にあるものが映る。それは巨大な亀のようなモンスター。体中に色とりどりの魔石。顔には黒っぽい魔石が大量にへばりついており、不気味さを感じさせていた。近づいてくる音はこのモンスターが洞窟内を這いつくばる音だろう。


「で、出たっ! ん? ……でも弱っちい感じ。動きも遅いし……。ただデカいだけ?」


 サランは涙を拭いてナズに尋ねた。


「あ、あんた見えるの? ど、どんなやつ?」


「んーっとね。亀を大きくしたようなやつ? 体中に魔石つけてカラフルだけどちょっと汚いかな……」


「亀? なーんだ……。―――って!」


 サランは突然震え出した。これまでは恐怖と不安で気づけなかったものの。異常な魔力に体が反応する。ナズは最初から魔力は感じていたものの。もともと魔力の高い虹の精霊はその辺りは少し鈍感だった。


 サランは震えた声を振り絞っていた。


「こ、こここ、この魔力……ヤバくない? それに……。い、今思い出したけど……魔石つけた亀って……。ピ、ピエージャドルじゃん……」


「う、嘘っ! それって……五神の?」 


 ピエージャドルは五神の地の神だ。普段は大人しくしているものの。自分の住処を荒らされるとなれば防衛本能は働く。いきなり現れた二人の侵入者を感知して現れた。それにはナズの魔力の存在が大きかった。自身と同等の魔力が現れたとなれば言わずもがな敵とみなす。


 ピエージャドルは咆哮を放つ。洞窟内は大きく揺れ、天井からは小石がパラパラと落ちてくる。サランは落ちてきた少し大きめの岩に足を挟まれた。その上にさらに細かい岩が落ちて身動きのできない状況になっていた。


「い、痛っ! あ、足が動かないっ!」


「ちょ、ちょっとヤバいかも……。こ、小羽―っ! た、助けてよ―――っ!」


 ナズは思わず小羽の名前を叫ぶ。だが、虚しくもピエージャドルはゆっくりと近づいていた。



 ―――――――――



 一方で八方塞がりなゴートルたちは焦っていた。居所のわからない二人の生徒の行方に奔走する。


 そんな中。小羽はナズに呼びかけ続けていた。


 ――ナズちゃんっ! ナズちゃん……。ん? 今……声が……。


 ナズの叫んだ声をかすかに聞いた小羽はさらに呼びかける。


 ――ナズちゃんっ! 


 ――小羽? 小羽っ! うわーんっ! 助けて! 


 ――ナズちゃんっ。良かった……。今どこ?


 ――わかんないっ! わかんないよっ。早く助けてよっ!


 ――ナズちゃん。落ち着いて聞いて? 場所を特定できれば救助に行けるから。どこにいるか教えて? 


 ――ぐすっ……。うん……。ピエージャドルの洞窟……。五神の洞窟に迷い込んじゃったよー……。早くたす―――。


 無情にもここで繋がりが途切れる。


「ゴートル先生っ! ナズちゃんの居場所がわかりました!」


「な、何だってっ! ど、どこに?」


「ピエージャドルの洞窟だそうですっ!」


 ここでゴートルは肩を落とす。よりによって五神の洞窟に迷い込んだとなれば最悪の結果もありえる。だが、嘆いてもいられない。ゴートルはアレクサンダースとレオニードを呼び、解決策を話し合う。


「ここで話し合っても意味ねーだろ! 俺は行くっ!」


「しかし……。策もなしに行くのは……。騎士団に要請する時間もないし。どうすれば」


「そ、そうですよ。き、危険過ぎます!」


「俺の心配なんかしてる場合じゃねーだろ!」


 そして、ここでアレクサンダースが何かを思い出した様子で口を開いた。


「きゅ、救助だけなら可能なのではないでしょうか?」


「どういうことだ。アレク。説明しろっ!」


「いえ。ここでクワナ君の魔導具を完成させます。彼女の魔導具はこちら側に転移させることのできる魔導具です。洞窟内であれば転移の魔導具も誤発動しますが、クワナ君のそれは洞窟内でも居場所がわかるものです。それを完成させればレオニード先生が行った先で救助が可能かと……」


「そんなすぐにできるのか? 早くそいつを呼べ!」


 クワナはアレクサンダースに呼ばれ、話し合いに参加。それは魔石さえあれば可能だと伝えた。そして、向こうの状況がわかるように小羽を一緒に連れて行くようにお願いした。小羽を連れて行く理由はギニスからもらった魔導具だ。それを使い、合図を送るというもの。当然、小羽も呼ばれる。


「クワナがそう言うなら……。わ、私は行きます」


「どうなるかわかんねーんだぞ? それでも行くっていうのか?」


「はいっ! ナズちゃんとサランさんを助けたいですっ」


「ちっ! 何かあっても面倒見きれねーかもしれねーぞ?」


「そ、それでも行きます!」


 かたくなな小羽の目を見てレオニードは思っていた。


 ――こいつ。意外と頑固だな……。それにこの真っ直ぐな目はガキの目つきじゃねーぞ。ふっ……。ガッシュフォードと冒険しただけのことはあるじゃねーか。仕方ねーな。俺の命に代えて三人共守ってやらねーとな……。


「よしっ! じゃあ、すぐ行くぞ! アレク! 絶対完成させとけっ!」


「も、もちろんです!」


 こうして、ナズとサランの救出が始まった。レオニードは魔法陣を書き終え、魔導具の受信機のようなものを持って小羽と共に転移した。


 アレクサンダースは魔工科の生徒たちに呼びかけ、碧と紅の魔石を探すように指示。クワナは魔導具の改良をするために設計図を書き直す。魔学科の生徒たちもそれに協力をしていた。


 ピエージャドルの洞窟の入り口に着いた小羽はクワナとの繋がりを試みる。


 ――クワナっ! 


 ――聞こえてる。設計図は完成したよ。アレク先生ってば凄いねー。完璧な設計図ができた。魔石もネーブルが探してきてくれたから。頑張って完成させるよ。小羽……気をつけてね?


 ――うん。ありがとう。クワナ。信じてるからね!


 ――任せてよっ。じゃあ、合図送るからね。


 ――うんっ。


 小羽はこのことをレオニードに伝え、入り口近くに落ちていた太めの枝を拾い、筆を走らせる。


 それはランプへと姿を変えた。そして、二人は洞窟の中へと入っていく。


「よし。アレクの方は問題なさそうだな。しかし……色魔導はなかなか便利みてーだな?」


「はい。まだまだわからないことだらけですけど……」


 レオニードは口元をにやけさせる。 


「……まあ。間違っても五神に手を出すんじゃねーぞ。あいつらは化物だ。ここに来た時点でも相当な魔力を放っている。だが、もう一つ異常な魔力もあるな……。誰だ?」


 ――も、もしかしてナズちゃんかな? エルフは魔力が強いって言ってたし……。バ、バレないようにしないと。


「レ、レオニード先生は魔法陣を教えているんですよね?」


「それがどうした」


「いえ……。なんかそういうのに憧れみたいなのがあって……」


「魔法陣は昔からの古代の魔術形式だ。今のやつらは派手な詠唱魔術ばかり習いたがる。古代魔導の方が魔力消費も少なくて俺は凄いと思ってるけどな。色魔導も原点は魔法陣による召喚と同じようなものだ。魔法陣を書く手間暇をかけずに魔導筆によって直接召喚をするのが色魔導って……知ってるよな?」


「そ、そうなんですか?」


「習ってねーのかよ……」


「す、すみません……」


「別に謝ることじゃねーよ。そろそろ近いぞ。うかつに近づくと危険だ。ちょっと待ってろ……」


 レオニードの言葉は緊張感を漂わせ、小羽は魔導筆を強く握る。そしてレオニードは洞窟の壁に魔方陣を書き始めた。


 凹凸の激しい壁に自身の指を走らせるレオニードの魔法陣は一見すれば形の成さない魔法陣だ。だがそれは凹凸の角度や高さを計算した書き方だ。そして、詠唱を始めると炎に包まれたモンスターが現れる。それは暗い洞窟内に灯りをもたらす。


「フレイムスライム。こいつは火の力を宿したロスト砂漠北に生息する珍しいスライムだ。こいつを先に行かせる。周りが見えればあいつらも救助に気づくはずだ」


 レオニードが古代魔導のエキスパートとしてガッシュフォードに呼ばれた理由の一つに歪んだ場所に魔法陣を正確に書けることがあげられる。

 通常の魔法陣は紙や床など水平な場所に書くのが常識だ。古代文字と歪みのない円形。それはただ書くだけでも難しい。だがレオニードは場所を気にせず魔法陣が書ける。

 そして、傍若無人に見えて実は慎重な男だった。たまに冷静さを欠くこともあるが、命が懸かっているとなれば話は別だ。あくまでも冷静に物事を見極める。これはもともとの性格もあるが、これまで彼が過ごしてきた軌跡ともいえるものであった。


 ピエージャドルがナズたちの目の前に本格的に姿を現したと同時にフレイムスライムがその場に到着。その灯りはピエージャドルの姿を鮮明に現した。


 ナズが亀と比喩した通り姿は亀だが、その顔はボコボコに腫れたような顔。魔石を顔中にくっつけたような気味の悪い姿。改めて見るその姿にサランは大声で叫ぶ。


「キャ―――っ! 嫌―――っ!」


 その声を聞いて小羽は無我夢中で走り出した。


「待てっ! 一色っ! 勝手に行くんじゃねーっ!」


 レオニードの制止を無視して怯える二人を追い越した。


 小羽はナズとサランの前に立つ。二人は小羽の背中を見つめていた。

 その背中から自信ともとれる声が聞こえる。


「ナズちゃん。サランさん。もう大丈夫だよ」


「う、うわーんっ! 小羽っ!」


 振り返り、笑顔を見せる小羽にナズは泣きながら抱きついた。サランも泣きそうな顔で小羽の制服の上着を握る。


「合図が来るまでここを少し離れるよっ」


 小羽はピエージャドルの目の前に筆を走らせた。


 そして、レオニードが合流。だが、レオニードが合流した頃には目の前にピエージャドルの姿はなかった。その先は行き止まり。それは小羽の描いた岩の塊。それは洞窟の天井と壁に同化するように蓋をしていた。


「これはどういうことだ?」


「洞窟を塞いだんです。時間稼ぎにいいかと思って」


「そうか……。本当にガッシュフォードの言った通りじゃねーか……」


 ――この短時間でここまで具現化できる色魔導士なんて見たことねーぞ……。こいつは色魔導のために生まれてきたようなやつだ……。異世界者でなければ魔方陣も使いこなせるだろーな……。もったいねーな。


 レオニードによりサランの足元の岩は取り払われた。小羽たちは洞窟をゆっくりと出口へ向かっていた。ナズは小羽におんぶされ、サランは足を負傷したためにレオニードの肩に掴まり、痛そうに足を引きずっていた。


「一色。合図はまだか?」


「はい。クワナのブツブツした声は聞こえてますので、繋がりは切れていません。ですが、合図はまだ……」


「そうか……。マズいな」


「な、何か問題があるんですか?」


「ピエージャドルは動きは遅い。だが、あれは一時的なものだ。あいつは擬態する。地の神であるピエージャドルは普段は岩に擬態している。だが、厄介なことに魔石に擬態されるとその魔石の能力を使いやがる」


「で、では……。あ、あの姿は魔石に擬態する前ってことですか?」


「俺は姿を見てねーからわかんねーよ。要するに何に化けるかわからねーってことだ」


「そ、そんな……。顔は黒っぽい魔石が多かったです……。サ、サランさん。あれって何の魔石でしたっけ……?」


「あれは黒紫の魔石。純粋な黒紫の魔石はもともとは闇の精霊の石って言われてるって習った。痛っ!」


「おいっ。サラン。本当のことか?」


「は、はい。アレク先生に習いましたけど……」


「くそっ! 五神が闇の精霊の力を使うとなれば逃げ切れる気がしねー……」


 小羽はここで重大なことを思い出していた。


 ――闇の精霊って魔族を生むんだよね……。もし、魔族が現れたら……。私は魔族を呼び寄せるって言ってたし……。


 そして、この世界では異世界者の予感は現実になりやすい。洞窟が急に揺れ始め、奥からはピエージャドルの咆哮が響いていた。


 ようやく洞窟から出た瞬間にレオニードが魔法陣を書き始めた。


「これで合図を待たなくても戻れる……」


 突然、太陽の光が雲に遮られたように辺りは暗くなり始めた。それを見たレオニードは手を止める。


「ちっ! 一番最悪なことが起きたみてーだ」


 レオニードは一度書いた古代文字を消し、書き直した。そして、空を見上げる。

 太陽を遮ったのは雲ではなく、魔族の群れ。おそらくは黒紫の魔石に擬態したピエージャドルが無自覚に呼び出したものだ。


「一色。サランとその小っちゃいのを見てろ。この魔法陣から出るんじゃねーぞ」


「レ、レオニード先生は? な、何を……」


「魔族を撃退する。いいか? 合図が来たら三人で向こうへ転移しろ。わかったな?」


「そ、そんな……。レオニード先生はどうするんですかっ!」


「俺のことはいい。お前らだけは絶対に守ってやる。そんなこともできねーようじゃガッシュフォードに怒られちまうからよ」


 そう言い放ったレオニードは二、三個ほど魔法陣をその場に書いてその場から離れた。


 レオニードが書いた魔法陣は小羽たちを守る結界。その近くに書いたのは魔族を呼び寄せないためのものだ。あくまでも自分一人に魔族を引き付けるためにしたことだ。


 魔法陣の中で何もできない小羽は不安そうな顔を見せる。


「小羽。大丈夫だって。あの先生強いみたいだし」


「う、うん……。でも……」


 ここでサランが小羽にいつもの調子を出す。


「そんなに心配なら行けばいいでしょ? あんたさ……。伝説のパーティーと冒険したんでしょ?」


「ちょ、ちょっとっ! サランってば! 小羽に何か恨みでもあるの!」


「ち、違うわよ……。痛たた……。一色さんならできるかもって思っただけだって」


「わ、私ならできる?」


「あんた。異世界者のくせにこの世界に馴染んでるじゃん。色魔導士として一流の魔導士だってルメールで騒がれてるの知らないの?」


「えっ? わ、私が?」


「あんたね……。自分が凄いことになってるのもわからなかった訳? ぷっ……。何それ……。あーあ……こんな鈍感な子だと思わなかったわよ。一色さん。あたしはあんたがずっと羨ましかった。持ってない才能を持っていることにね。その力でレオニード先生を助けてあげて? お願い……」


「サ、サランさん……。ぐすっ……。うん」


「な、泣かないでよ。あたしが泣かしたみたいじゃん……。あっ。これ使って」 


 サランはポケットから魔導具を取り出し、小羽に差し出す。


「こ、これは?」


「これはただの目くらましだけど……。なにも無いよりはいいでしょ? 詠唱コードはあたしの名前。サランミナディア。……は、早く戻ってきてよね」


「うん。ありがとう。ナズちゃん。サランさんをしっかり見ててね?」


「えーっ! ナズも行きたいーっ!」


「ナズちゃん。サランさんを守れるのはナズちゃんだけなんだよ? できる?」


「や、やれるもんっ! 小羽……。は、早く戻ってきてね?」


「うんっ! じゃあ、お願いね!」


 小羽はナズの頭を撫でると魔法陣の外に出る。その場で足に筆を走らせ、一瞬のうちに姿を消した。その素早く無駄のない動きは初めて色魔導を見るサランを驚かせていた。


「ちょっ……。ほ、本当に凄いんだね。一色さんって。……勝てる気がしないよ」


「サランってば意外といいとこあるじゃん」


「助けに来てくれた人を見殺しにできないでしょ? それにさ。一色さんなら何とかしてくれるってあたしも信じれたしね……」


 無数の魔族に囲まれていたレオニードは苦戦をしいられていた。レオニードは魔法陣のエキスパートだ。どちらかといえば時間のかかる大魔術向き、敵の数の多い戦闘向きではない。不慣れな詠唱魔術で撃退はしていたものの。魔力の消費や数の減らない魔族に業を煮やしていた。


 ――こいつら。どんだけ沸いて出てきやがる。さすがに一人じゃキツいか……。召喚の魔法陣さえ書ければ一掃してやるのによっ!


 レオニード一人に対して、取り囲む魔族はおよそ数百体ほど。


 気を緩めるとすぐにでもやられてしまう状況でレオニードは得意の魔法陣を書けずにいたずらに魔力を消費していた。

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