第十一話 認められるセカイ
馬車の中は異様な雰囲気が漂っていた。緋翠の持つ独特な空気は小羽とナズを緊張させていた。落ち着いた雰囲気に加えて何を考えているかわからない虚ろな瞳。不思議な感覚がそこにはあった。
「ガーちゃん。そーちゃんは一緒じゃないのかい?」
「天は五神の玉を集める旅をしている。ハインスに頼んでギラナダ騎士団に捜索はさせている」
「ふーん……。それで……封印の更新の日は決まったのかい? ハーちゃん」
「まだ時間はあるからいつでもいいんだけどね。ちょっと魔族の動きが気になってるんだ。それで僕たちは緋翠の力を借りたくてここに来たって訳さ」
「あたしがいなくてもできるんじゃないのかい? マーちゃんには会いたいけど、あんな姿のマーちゃんは見たくないよ」
「……緋翠。マリーは必ず救いだす。そのためにはお前の協力は必要不可欠だ。更新に合わせて魔族が襲撃する可能性が出てきた。まさか五神にも種を植え付けているとは思ってもみなかった。正直今は何が起きるか予測がつかない状況だ」
ガッシュフォードの緊迫した言葉にも関わらず、緋翠は淡々と答える。
「あたしには関係ない話だよ。そんなことより……もっと大事な用で来たんじゃないのかい?」
緋翠は虚ろな目を小羽に向けた。
「あぁ、一色小羽。緋翠に聞きたいことを聞いておけ」
「あ、あの……。私は……」
「どうしたんだい? 遠慮しなくてもいいよ?」
小羽は唾を飲み込んで口を開いた。
「ど、どうしたらマリーさんを救えるのですか?」
そこにいた皆はその言葉に驚いていた。ガッシュフォードはもちろん、ハインスも緋翠ですら小羽がここに来た理由は元の世界に戻る方法を聞きにきたものだと思っていたからだ。
「い、一色小羽。お前は何を考えている」
「い、いえ……。聞きたいことをと言われたので……」
緋翠はニコリと笑った。
「救う方法なんてないよ。マーちゃんはもう戻れない。そうだろ? ガーちゃん」
「そ、そんなことはない! 魔王と融合したマリーは必ず分離できる……」
「相変わらず甘い考えだ。あのまま魔王に止めを刺せばよかったのに……」
「そんなことをしたら……マリーも一緒に……。マリーが想った未来をあいつに見せるまでは……」
「ガーちゃん。あたしは異世界者だ。この世界を誰が支配しようが関係ない。自分の理想のためだけに魔王を殺さなかったのは間違っているよ。それをマーちゃんが望んでいたとでも?」
「な、何を言う! マリーの犠牲が今の未来を作ったんだ! 異世界者のお前にはわからないんだっ!」
緋翠は「ふぅー」とため息を漏らした。そして、虚ろな目が豹変する。
「あたしはねっ! マーちゃんがいるからこそこの世界で生きるって決めたんだっ! 見殺しにしておいてよく言うっ! だったら今すぐマーちゃんを返せっ! この場にマーちゃんを連れてこいっ! 今すぐ連れてこいっ!」
大声でガッシュフォードの胸ぐらを掴む緋翠はわめき散らしていた。それを見たハインスは緋翠を抱きかかえる。
「落ち着けよ……緋翠。今それを言ってもどうにもならないだろ……。これからのことを考えるためにお前に会いに来たんだ」
「うるさいっ! マーちゃんを返せっ! かわいい姿のマーちゃんを元に戻せっ!」
「僕もガドも天もそれは望んでいることだ。お前だけじゃないよ……」
緋翠はガッシュフォードの膝の上に崩れ落ちた。
「マーちゃん……。ううっ……」
「ガドも少し落ち着け。緋翠だって想いはある。少し熱くなり過ぎだ」
「あ、あぁ……すまない……」
そこには互いの感情しかなかった。互いの想いがぶつかっただけ。皆はそれ以降、口を開くことはなかった。小羽は無言で隣にいるナズの手を強く握っていた。
やがて馬車が止まった。辺りは何もない平地。御者は不思議そうにハインスに伝えた。「い、言われた場所に着きました」と。そして、五人は馬車を降りた。
確かにそこは整地はされているものの何もない場所であった。
「ちょっと待っててね。すぐに終わるから……」
緋翠は何食わぬ顔で筆を走らせていた。小羽はそれをじっと見つめているとハインスが近寄ってきた。
「小羽ちゃん。空気悪くしてごめんね? ガドも緋翠もマリーのことになるといつもああなんだよ……」
「い、いえ。大事な存在なのはわかりますから……」
「ところで。どうしてあんなこと聞いたの? 元の世界に戻る方法を知りたくてここに来たんじゃないの?」
「そ、それもありますけど……。イナビの目から出ていたあの触手はギニスさんの命を奪ったものと同じですよね?」
珍しくハインスが動揺したかのように顎に手を添える。
「……知ってたのか。そうだよ。それが何か気になっているの?」
「私のせいでギニスさんが犠牲になりました。私は今、元の世界に戻るより、ギニスさんを救いたい……。もし、それができなくてもクワナの悲しみを少しでも無くしてあげたいんです。お、おかしいでしょうか……」
ハインスは優しい顔で微笑んだ。
「いや……。とても素敵なことだと思うよ……。君ならギニス氏を救ってくれそうだ。マリーもね」
「で、できるかはわからないですけど……」
ハインスは満面の笑みで小羽に微笑んだ。
「……ガドが連れてくる訳だよ。ほらっ。あれが緋翠の家だよ」
ハインスが見た先を小羽が見ると、何もない平地に突如として現れた和風の大きな家。それは古い日本家屋といった雰囲気だ。
「相変わらずいい趣味してるよ。理解はし難いけどね」
「す、凄いですね……」
緋翠が玄関の戸を開ける。
「さぁ。部屋はいっぱいあるから。好きなところ使っていいよ。どうぞ」
中に入ると居間の囲炉裏が目に入る。家の中も見事なまでの和風の造りだ。
その囲炉裏を囲んで座っていると緋翠は鍋に何かを入れていた。たちまちいい匂いが立ち込める。
「今日はお客がいっぱいいるから鍋にしようと思ってね。……ガーちゃんも座りなよ」
「ひ、緋翠。さっきはすまなかったな……」
ガッシュフォードは照れ臭そうに眼鏡を直す。それとは対照的に緋翠はニコリと笑った。
「気にしちゃいないよ。ガーちゃんはいいやつだ。マーちゃんを想っての偽りのない気持ちはちゃんと伝わってるよ。さぁ。座りなよ」
「…………」
ガッシュフォードは小羽の隣に腰を下ろした。
緋翠が鍋をよそり、皆に振舞う。
「美味しい……。懐かしい味がします」
「うん。美味しいね。初めて食べるけど……なかなか……」
「それは良かった。ところで君は誰なんだい?」
緋翠はナズを見てニコリと笑う。
「こ、この子はナズちゃんっていって。エルフの女の子です」
「ナズは小羽の色魔導でこういう姿になってるんだよ」
「虹の精霊を連れているのかい? 面白いね」
「小羽ちゃんはたまたま立ち寄ったアブドゥース―の里で契約してきたんだ。本当は僕もしたかったんだけどね」
「ハーちゃんは胸の大きなかわいい女の子がいっぱいいるじゃないか。まだ違う女の子に手をつけるつもりかい?」
「虹の精霊は極端に魔力が強いからね。緋翠の色魔導じゃないけど似たようなことができる。それにエルフは美人で巨乳揃いだからね」
「ハーちゃんのは病気だね。困ったものだ……」
食事を終えた皆をよそに緋翠は一人、黙々と片付けを始めていた。それを見ていた小羽は食器を台所へと運ぶ。
「緋翠さん。美味しいお鍋ご馳走様でした」
「一色小羽ちゃん。お客なんだから座っていなよ」
「いえ。せめてものお礼です。こんなことしかできませんけど」
「君はいいやつだ。ガーちゃんもハーちゃんも気を許しているのがわかる気がするよ」
「そ、そんなことは……」
「君は元の世界に戻りたいんじゃないのかい? どうしてマーちゃんのことを聞いてきたんだい? ここに来たのも帰りたいからだろ?」
「…………。い、今はそれよりも大事なものができました。私にも救いたい人がいます。……し、死んだ人を生き返らせることは可能ですか?」
小羽の質問に緋翠は淡々と答えた。
「可能だよ」
「ほ、本当ですか!」
「あぁ。君ならね。虹の精霊は自らの寿命を分け与えることができるからね」
「で、でも。それって……」
「ナズちゃんだっけ? 君の精霊の寿命が縮むだけの話だよ。その二択を決めるのは一色小羽ちゃんって訳だよ」
「そ、そんなの決めれません……。どちらかが幸せになるのは……」
緋翠は真剣な表情へと変わり、口を開いた。
「それが現実じゃないのかい? 食われる者と食う者。そのどちらかが欠けたらどちらも無くなってしまう。この世界は非現実的に見えて、元の世界より実に現実的だよ。あたしはね。この世界に来てすぐに魔族に襲われた。何もわからずに体を引き裂かれてもう死んだと思ったよ。でも……一人の男の子がね。私を助けてくれた。その男の子が連れていたのが闇の精霊のリーちゃんってかわいい子でね。闇の精霊も虹の精霊同様、自らの寿命を分け与えることができる。その男の子は迷わず精霊に命令していたよ。……それであたしは救われた。体は元通りにならなかったけど命は助かったんだよ」
「……そ、その男の子って……もしかして」
「
「で、でも……。天さんはイナビの森で会った時は精霊を連れてませんでしたけど……」
「リーちゃんはね。最後にそーちゃんの命を救って消滅したんだよ。結局はリーちゃんが死んで、そーちゃんが生きている。君の決められない二択はそういうことだよ。それが今ここで起きている現実なんだ……」
「…………」
小羽は何も知らない自分が恥ずかしく思えていた。誰かの犠牲で誰かが生きていること。それはここにいる皆がマリーという犠牲で生きているのと同じ。そして、それを無いものにしようともがいている。
おそらくは天も同じだろう。自らの精霊によって生き永らえている。それがために何かを成し遂げようとしていること。この世界は命の現実をさらしていた。
「一つだけ教えてあげるよ。元の世界には戻ることは可能だけど……ある特定の条件が揃った時にだけ現れる……なんて言ったらいいかな。異空間への入り口みたいなものが現れるんだ。それに入れば戻れるはずだよ。実際。入った人がいないからわからないけどね」
「そ、その条件って何ですか?」
「聞きたいかい?」
「い、一応。聞いておきます」
緋翠はニコリと笑っていた。
「偉そうに言って悪いけど、まだちゃんとわかっていないんだ。一応、研究はしてるんだけどね。ハーちゃんにも協力はしてもらっている。異世界者の研究はガーちゃんの学園の先生たちにも協力してもらってるよ。魔力の持たない特殊な異世界者は珍しいみたいだからね」
「そ、そうですか……」
「君はどうしてこの世界に来たのかわかるかい?」
「い、いえ……。向こうの世界の記憶はあるんですけど。どうやって来たのかまでは」
「そうか。実はね。あたしもそーちゃんもわからないんだ。君と同じで記憶は残っているだけ。だからこそ。ちゃんとわかってからの方がいいよ」
「い、いろいろとありがとうございます。わ、私はこっちの世界のことがまだよくわかってなくて……」
「焦らない方がいいよ。確実に戻れる方法が見つかってからでも遅くない。それまで生きていればの話だけどね」
「…………はい」
緋翠は食器を洗い終わり、囲炉裏へと向かった。
三人は昔の懐かしい話をしていた。途中、ナズが眠くなり、小羽はナズを寝かしつけるために部屋へ一緒に入った。気がつくと小羽はナズと共に寝ていた。すやすやと眠るナズはかわいい顔で口を開けていた。
トイレに起きた小羽は部屋を出て暗い廊下を歩いていた。
――素敵なお屋敷だけど。ちょっと怖い……。
薄暗い廊下を進んでいくと襖の隙間から明かりが漏れているのが見えた。特に気にもせずにその部屋を通り過ぎようとした時、中からハインスと緋翠の声が聞こえた。
その声は男女の営みの声。緋翠の色っぽい声とハインスの荒い息づかいだ。小羽はその行為自体は何かは知らなかった。それでもなんとなく何をしているかは察しはついていた。
――な、何してるの……。ももも、もしかしてこれって……。ハ、ハインスさんって……だ、誰でもいいの? え、えーっ?
気にもしつつトイレから出た後、その部屋の前を静かに通り過ぎようとしていると二人の声が聞こえる。
「ありがとう。ハーちゃん……。こんな醜い体でごめんね」
「何を言ってるんだよ。緋翠がどんな体だろうと美しいのには変わりない。同じことを何度も言わせないでくれよ」
「本当にいい男だね。でもハーちゃんとは結婚はしたくないな……」
「あはは。僕は誰と結婚すればいいのかいつも悩んでいるよ」
「最低な発言だね。でもハーちゃんは最高だ……んっ……」
ハインスと緋翠の生々しい会話を聞いた小羽は自分の部屋に戻った。
布団に潜り、思わずナズを抱きしめた。「んんっ」っと反応するもナズはすやすやと寝息を立てていた。
――あ、あんなの聞かなきゃよかった……。はぁー……。
小羽はドキドキして自分の心臓の音で眠れずにいた。
―――小羽っ! 小羽ってばっ!
「……はっ! ナ、ナズちゃん?」
「やっと起きたーっ。もうみんな起きてるよ?」
「ご、ごめん……。あまり眠れなくて……」
「小羽ってば。枕が変わると寝れないタイプ? お昼前にはギラナダに戻るんだって。そろそろ準備しないと」
「う、うん。わかった」
小羽はボサボサの髪のまま部屋を出て居間へと向かった。そこには着物姿でお茶をすする緋翠の姿があった。
「一色小羽ちゃん。おはよう。朝ごはん食べそびれたね。お弁当にしたから馬車で食べるといいよ」
「す、すみません……。何から何まで……」
「顔が赤いけど大丈夫かい? 疲れてるなら休んでなよ?」
「だ、大丈夫です!」
――ううっ……。緋翠さんの顔がまともに見れないよ……。
「やぁ、小羽ちゃんっ」
「キャーっ!」
「そ、そんなに驚くことないだろ? 肩に手を置いただけだよ?」
「すすす、すみません。ハインスさん。おはようございます」
「まぁ。いいけど。随分寝てたみたいだね? もしかして疲れてる?」
「い、いえ。ちょっと眠れなくて……」
「そうか……。緋翠の家は独特だからね。仕方ないんじゃない?」
――さ、さすがに昨日のことだとは言えない……。
「そ、そうですね。と、ところでガッシュフォードさんはどちらですか?」
「ガドなら庭にいるよ。いつものお気に入りの場所じゃないかな?」
「あ、ありがとうございます……」
小羽は縁側を通り抜けて庭へ出た。広く趣のある庭には東屋が奥に建っていた。その柱の影にガッシュフォードの結った銀髪が見え隠れしていた。それを見た小羽はその東屋に近づく。
「ガ、ガッシュフォードさん。おはようございます……」
「一色小羽か。疲れているのか?」
小羽は目を丸くして自然と笑顔になる。
「なぜ笑っている。良いことでもあったのか?」
「いえ……。みなさん同じこと言うんですね。みんな優しくて思いやりがあって……本当に最高のパーティーですね」
「ふっ……。そう思うか?」
「ち、違うんですか?」
「いや。半分は違うな。でも半分は合っている」
「ど、どういうことですか?」
「全てはマリーのおかげだ。私とハインスとマリーは昔馴染みだ。ある程度のことはわかっている。だが、緋翠も天も知り合った時はひどかった。緋翠は感情の起伏が激しい。天は自分勝手にやりたいことをする。初めの頃は仲間としてとてもじゃないが信用はできなかった。それでもマリーだけはあの二人をわかろうと一生懸命だった。私もハインスもよく緋翠と天と言い合いを繰り返していた。だが、その度にマリーが泣いてそれを止めてくれた。それを繰り返すうちに互いがわかってきたのだ。そうなって初めて伝説のパーティーの名に恥じない強さを手に入れた。マリーがいなければこの世界は本当にどうなっていたか……」
「マリーさんは本当に凄い人なんですね。す、少し……羨ましいです……」
小羽はうつむいた。昨日のグロールの村の件の責任は感じていた。良かれと思ってしたことが身勝手な行動だったことに罪悪感を感じ、泣きそうなのを我慢していた。
ガッシュフォードは小羽の頭にそっと手を置いた。
小羽はガッシュフォードを見上げる。
「何を言う……。一色小羽はマリーと似たようなものだ。それは私もハインスも認めている。それに緋翠もな。君のおかげで緋翠は一緒にギラナダに来てくれることになった。「人のために自分を犠牲にできることは向こうの世界でもあまりない」と言っていた。君を連れてきて本当に良かったよ。ありがとう。一色小羽。改めて礼を言う」
「うっ……ううっ……」
小羽はガッシュフォードのその真っ直ぐな言葉に涙を流した。一人では何もできなかった不甲斐ない自分。ギニスの死によって色魔導を覚えたこと。それを開花させてくれたガッシュフォードやハインス。一人で寂しかったのを忘れさせてくれるナズ。同じ異世界者の天と緋翠。全ての出会いが自身を成長させてくれたこと。
そして、この世界を初めて好きになれた自分に涙を流した。
「泣き虫なところもマリーと同じだ。人の想いを素直に受け止められる一色小羽はもう私たちの仲間だ。胸を張っていい……」
「ううっ……うわーん……」
小羽は我慢できずに声を出して泣いた。認められたことが素直に嬉しくて顔をぐしゃぐしゃにして泣いた。
遠くからハインスの声が響いた。
「ガド! そろそろ出発だっ!」
「わかった。今行く」
こうして、小羽の初めての冒険は終わりを告げた。
ガッシュフォードと小羽とナズはルメールへ戻った。ナズが虹の精霊であることがバレないようにGMAの特待生として迎え入れ、魔導学科へ入学。色魔導を覚えた小羽は魔導工学科のクラスSに特別昇級し、魔導学科へと移った。ナズは小羽と寮の同じ部屋に入り、色魔導によりその姿を人族と変えて過ごしていた。
そして、小羽はある決断をナズに話した。
「ナズちゃん……。間違ってるかもしれないけど……。ギニスさんを生き返らせてほしい……」
「うん。いいよ」
「えっ! そ、そんな簡単に決めていいの?」
「簡単には決めてないけど……。虹の精霊として生まれた宿命みたいなもんかな? それに小羽もずっと悩んでたんでしょ?」
「う、うん……。で、でも……」
「ナズはそんな小羽は見たくないから。それに契約者を守るのが精霊の役目だもん。ナ、ナズは小羽のためにしてあげるんだからねっ。勘違いしないでよねっ。それにさ。ギニスさんっておじいさんでしょ? ちょっとくらい平気だよ」
そして、ナズはルメールの病院で保管されていたギニスに対して、残り少ないであろうギニスの寿命を分け与えた。
死んだはずのギニスが帰ってきたスカーレット家では大騒ぎになっていた。クワナは涙を流し、ギニスの胸で泣いていた。小羽もそれを聞いて胸を撫で下ろしていた。
それでも、小羽には少しのわだかまりがあった。たとえ虹の精霊の宿命だとしても。ナズの命を削ったことに罪悪感を覚えていた。
「本当にこれで良かったのかな?」
「小羽ってば。自分がどれだけ凄いのかわかってないの?」
「私は凄くないよ……」
「もうっ! このナズ様と契約したのがどれだけ凄いかってことよっ!」
「そうだね。ありがとう……。ナズちゃん。大好きだよ……」
ナズのその言葉は小羽を安心させると共に、命に対する現実を知らしめた。
一方でギラナダに戻ったハインスは天の捜索が難航していることを知り、一旦捜索を打ち切った。
そして、魔族の不穏な動きと種の存在を民に明かし、新たに冒険者を募った。
『魔族討伐の冒険者を募る。ギラナダの永遠の平和の為、不振あれば王国へ通報すべし』
このお布令により、ギラナダには多くの冒険者が食い扶持を求めて集まり始めた。
すでに魔王封印の更新の儀の最低期限まで残り一カ月となっていた。
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