第8話 消去

さて、仲間達の休みは十分取れただろう。今日は魔王を無理矢理引きずり出し、殺す。


「ふぅ……良く寝たぜ。そういや、これで残るは魔王のみか……」

「あぁ、今日一日終わらせよう。魔王の勝手な戯言にはこれ以上付き合ってられん」

「あはは……カオスさん、今日はどうするんですか?」

「魔王を倒す。それだけだ。全員町の外に出ろ。これから魔王を呼び出す」


俺の言葉が理解出来ず、もう仲間達の間抜けな顔を見るのは飽きた。さっさと終わらせるか。


俺は、町の外、なるべく広い草原に立ち、仲間達に少し離れる様指示すると、体を丸く固め力を溜め始める。


魔王の細かい居場所は分からない。しかし、大体の場所は分かっている。


それは、大地、地中、空の何処かにいる。全く予想出来ていないよう思えるが、神にとって『宇宙のどこかにいる』以外なら『自分周辺の何処か』と言うだけでほぼ居場所を特定していると同じなのだ。


何故なのかと言えば、こうすれば良いだけの事だからだ。


俺は溜めた力を一気に放出すると、自分を中心に、障害物貫通の球体状の強力な透明電気網を広範囲に放つ。


電気網は、雲も地面も貫通する。すると、早速反応があった。自分の目と鼻の先、約三十メートル離れた地面から、電気によって痺れ痙攣する魔王が出てきた。


『あばばばばば!き、貴様ァ!』

「どうやらずっと目の前で俺らを監視していたようだな。こんな目の前にいるのに気配に気づかなかったとは不覚だ」

「ま、魔王だ!」


暫くして痺れが収まった魔王は突然俺を馬鹿にしながら笑い出す。


『ククク……ハーッハッハッハ!やはり貴様は化け物だな。だがしかし!貴様の強さは、極稀に現れるチート勇者の一握りにしかならん!そういう奴はな……必ず己の限界に気づき、地に落ちるんだよぉ!』


すると魔王は両手に力を込め、勢い良く俺に黒い螺旋状のビームを放つ。

しかし俺は、そのビームを目の前に透明のシールドを貼り、軽々と受け流す。


「それがどうした?そう言えばやっとお前に会えたんだ。ずっと言っておきたかった事を言おう。『お前の力は俺より十分の一に満たない』のと、お前はいつでも『消せる』存在であると」

『フッフフ……フハハハハ!全く笑わせてくれる!今回の勇者は!魔王をあまり舐めるなよ……?』


この魔王はいつまで強がっているつもりだ?もっと俺の強さを見せつけるべきだろうか?


一瞬に消しては面白くない。魔王の知らぬ屈辱を与えてやらねば。


『今のは小手調べと言うものだ!我が力はこんなものでは無いッ!』


魔王は、体を丸く固め力を溜めると、魔王周辺に六つの黒い渦が出来上がる。そして力を解放した瞬間、その六つの渦がまた同じビームとなって一斉発射される。


「意味の無い事を……」


俺は、前方に全反射シールドを貼ると、黒いビームは全て魔王に反射し、直撃する。


『ぐうぅッ!クソがぁッッ!』

「言っただろう?お前には俺を倒す事は出来ん」

『ふぅ……魔王たる者が取り乱してはいかん。こうなれば、我が究極の奥義を食らうがいい……魔神の剣!』


そう言うと魔王は、俺と同じ様な棒状の剣を手から召喚する。


『愚民共よ!我が魔王の名において、ひれ伏さん!グラビティ・コラップス!』


魔王は剣を地面に刺すと、俺の周りにいた仲間達に凄まじい圧力が襲う。


「ぐあぁっ!なんだこれ!潰されるッ!」

「うぅうッ!」

「うわああぁ!」


しかし、俺は一切の影響を受けない。


「どうした?その程度か?なら次は俺が見せてやろう。俺とお前の力の差をな」


俺は、手から破壊の剣を召喚すると、魔王と同様、地面に剣を突き刺す。すると、圧力によって魔王が一瞬にして、地面にうつ伏せになる。


『なにぃッ!?クソッ!魔王たる我が、何故勇者ごときに!』

「ふっ、まだ勇者だと思っているのか?」

「なんだと!?」

「今押し潰す前に、教えてやろう。俺の名は創造神カオス!そして、お前を作った本人だ!」


そうして俺は、更に地面に剣を押し込むと、同時に魔王は、跡形も無く潰された。


『ぐあッッッ……』

「終わったのか……?」

「やった……やりましたよ!カオスさん!」

「本当に倒しちゃうなんて……」

「喜んでいるところ悪いがまだ終わりでは無い」


そう言うと、魔王が潰れたその場に黒い霧が吸い込まれる様に集まってくる。


「さぁ、ここから本番だ。魔王よ、もう無駄な足掻きを止めろ。お前はもう用済みなのだ」

『ウゥウウ……』


集まってくる霧はどんどん大きくなり、遂には雲を突き抜ける程まで大きくなる。そして、周囲の雲を飛ばす雄叫びを上げる。


『ウオオワアアア!!!……我ガ、死ヌコトハ、有りエヌ……我、無限ニ、蘇ルモノ……』

「そうかそうか。お前の墓なんて無いが、今の言葉覚えておこう」


その巨体を見て、仲間達はまた絶望する。


「無限復活だと!?そんなの勝てる訳ねぇだろ!」

「そうですよ!道理で今まで一人も勇者が魔王を倒せない訳です!」

「僕たち……今度こそ終わるのかな……ははは……」

『ソウ、貴様ラハ、ココデ死ヌ。ソシテマタ、新タナ勇者ガ生マレ、マタ魔王ニ滅ボサレル……ソウイウ、運命ナノダ!』


さて、そろそろ終わらせるか。そんな理不尽な運命を作ったのも俺なんだがな……最初は世界を破壊する為に、魔王を作ったんだっけ?そしたら、案外人間がしぶとくて、更に魔王は世界を潰すも何も、チンタラしてて……


「もう言う事は済んだか?そろそろ本当に終わらせるぞ?」

『創造神カオス、と言ッタナ。オ前コソ用済ミダ!最高神ガ、我ヲ作ッタノガ間違イダッタ……ソノ間違イヲ、イマ悔イルガイイ!!』

「あぁ、本当に間違いだったわ。じゃあ、終わりだな……」


俺は魔王に手を差し伸べる。そして、神の言葉を言う。


「我が名は創造神カオス。我、最高神の名において、汝に命ずる。お前はもうこの世界には要らん。今すぐこの世界から去れ!そして二度と戻ってくるな!」


そう言うと忽ち、強い光が目の前を、世界全域を、この星を包む。


すると、光が消えた頃には、魔王が存在した跡も、傷ついた世界も何もかもも、元に戻っていた。

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