第5話 厄災

王国を破壊しようとした研究者を撤退させたその後、今俺はその敵国の目の前にいる。


敵は神の古代遺物を使いとある小さな国を破壊しようとした。神の古代遺物とは、神が昔作った武器や道具の事を表し、全てが武器や兵器という訳では無い。


しかし、こちらに攻めてきた敵国の一人が俺のアクセサリーでもある、アルヘオ・ブラキオスを持っていた。つまり、神の古代遺物の大半は、既に人の手に渡っていると推測出来る。


人の手に渡ると言っても神は容易に自分の物を人間に渡すことになど無い。精々落し物辺りを拾ったのだろうか?


ただ、例え落し物であってもそれが、兵器や武器だった場合、古代遺物と言えど、人の脅威にはなり得る。


俺は、人の流れを見るのも一興とも思ったが、神の遺物を勝手に使われては困る。だから俺があの時、研究者に警告を促し撤退させたが、今俺が敵国の目の前いるという事は、敵国は、あれから一切反省していないという事だ。


この国はどうやら国民にはバレずに地下で研究をやり、透視すれば、現に今も神の遺物を開発している。


「ったく!なんだあのカオスと名乗る若僧は!」

「我々は見ていないので分かりませんが、そんな奴、我々の力で捻じ伏せてやりましょう!」

「当たり前だ!神の力を舐めるなよ……」


神の力を舐めるな。だと?人間風情が、甚だしい。本当の力という物を見せてやる。


俺は、その地下研究所に対して、もう一度警告する。


『神の力を乱用する者達よ、今それを止めよ。さもなくば、すぐに災いが降り注ぐであろう』


しかし、研究所の者達は、逆に怒る。


「ふ、ふざけるな!神の力を使ってはいけないなぞ、そんな法は知らんぞ!それに何故、神の声が我々だけに聞こえるのだ!貴様は何者だ!」


良し決めた。天変地異の力で研究所だけを吹っ飛ばすか。


『最終警告だ。今すぐそれを止めよ』

「無理だ!偽物の声なぞ聞かん!それに、神自身の力で人は殺せない事は知っているぞ!?」


その通り。神界のルールにおいて、如何なる理由があっても『人を殺してはいけない』というルールが存在する。もし破れば、例え最高神の俺であっても、神界から永久追放され、神の力も抜き取られ、普通の人間の姿にされてしまう。


で、コイツは何故そんな事をわざわざ言った?俺は、災いが降り注ぐと言ったが殺すとは一言も言っていない。


神が人を殺すという物は、勿論直接手を掛ければ、それに当たる。更に、精神異常や死ぬきっかけを作っても、神が殺したという事になる。


ならばどうするか?答えは簡単。『生き地獄』を見せてやれば良い。


では、早速行動に移ろう。せっかくだから、俺自身が国へ不法侵入し、派手にかましてやろうか。


『神の最終警告を無視するか。ならば、今汝らは絶望を味わうだろう』


俺は、早速瞬間移動で警備を無視し、地下研究所のサイレンをわざと鳴らす。


地下研究所に鳴り響くサイレンは、神の声と同時という事もあり、一気に警備が強化させる。


「クソ!一体何が起きているんだ!侵入者か?それとも工作か?」

「何でも良い!偽物の災いなぞ、我々には通用せん!見つけ次第破壊し、殺せ!」


ここの研究所は一体何を隠しているのやら、あったら国民にばら撒いてやるか?


俺は、遊び半分で警備員の前に姿を現わす。


「侵入者だよ〜」

「容赦するな!撃て!」


警備員は俺を見つける否や、手持ちのアサルトライフルで躊躇なく撃ってくる。


だが神に銃弾は意味は無い。俺は、体に銃弾が数百発も貫く中、堂々と突き進み、警備員を通り過ぎると同時に一声。


『我が前に跪け』


すると警備員は忽ち膝を突き、俺を睨む。


「体が勝手に!お前は……本当に神なのか?」

「さぁな……」


俺は警備員の言葉を適当に流し、地上から見ていた兵器開発室に着く。


開発室に着くと、中にいた例の研究者が俺に一番早く気づき、顔を赤くしながら地団駄を踏み、怒り狂う。


「き、貴様はぁ!?何故、何故ここにいる!?あいつだ!あいつを殺せぇえ!」

「よ!来てやったぜ」


研究者の怒号と同時に、また俺の体を数百発の弾丸時々爆炎が吹き掛かるが、やはり全くの無意味である。


そんな中、俺は呑気に欠伸をすると、研究者は言葉にならない怒りを叫ぶ。


「まぁまぁ、落ち着けって。神は人を殺さない」

「はぁ、はぁ、じゃあ、何故ここに来た……?」

「こうする為だよ!どんな結果になるか楽しみだなぁ……」


俺は、何も無い空気を握ると、拳に稲妻が走る。研究者の目からは見えないが、今俺は研究所内の、全てのデータを一瞬にして王国中のネットワークにばら撒いた。


「何を……した?」

「時期に分かるさ」


しばらくすると、PCを持った白衣の男が顔を青ざめながら、開発室に入って来た。


「博士!大変です!」

「何があった!?」

「これを見て下さい!今突然、我々の情報が漏洩し、ネットに流出、物凄い速さで拡散されています!」

「き、貴様ぁ……何て事を……」


流石ネットだ。数分も立たぬ内に大拡散か。まぁ、そりゃあ自分達の真下でこんな兵器開発なんてしている事を知ったら大混乱が起こるだろうな。


「はぁ、兵器開発をやめとけば良かったのに……。神に喧嘩売るとか、怖いもの知らずかよ」

「そんな馬鹿な……もう終わりだ。これから王国を追放された後、我々は生きる術も無く野垂れ死ぬだろう……」


兵器開発が命か……。だが神の遺物を使う事は許さん。


さて、これによって研究者共の自殺のきっかけを作ってしまった。なら自殺しないようにすれば良い。


命代わりの物が無くなり、生きる術も無いと言っていた。なら神が命であり、生きる術である事を伝えるのだ。


俺は、あくまでも破壊と創造を繰り返す創造神だから、人を導くという事は専門外なんだが、とりあえず俺の下につかせよう。


『汝らよ神の遺物を使えなくなるだけで自らを死に追い込むな。まだ汝らに生きる価値も術もある。汝らの心にまだ光があるなら、神を崇めよ』


俺は、体から優しい光を放ちながら、研究者達に声を掛けた。


すると研究者達は、まるで人が変わった様に、俺の前で膝を突き、穏やかな表情で、天に両手を広げる。


「あぁ、神よ。我らを導き下さい」


これで一件落着だ。だが、これで研究者の王国追放は確定。兵器開発の混乱がまだあると思うが、兵器は全て俺が修復不能にした。混乱は時間が治めてくれるだろう。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る