第4話 第二の魔王(神)
一面焼け野原になった草原は、動物や魔物の焦げ臭さと、一瞬で炎で全てを焼き尽くした俺を見る国民達の沈黙で包まれていた。
「何だよあれ……本当にあれが勇者なのかよ……」
凄烈な光景に唖然とする人々の中には、希望どころか、絶望する者も居た。
「あんなの勇者な訳がねぇだろ!あぁ、俺たちも近くはあの炎の中に……」
不味いな……。国は確かに守る事は出来た。しかし、やり過ぎた。
とりあえず、焼け野原になった草原を復元すれば、何とか機嫌を直せるか?
俺は、サッカーボール程の大きさの光球を王国真上上空に投げる。
「お、おい!あ、アレは何だ!?」
そして指を鳴らすと、光球は空中で爆発し、緑色の光の粒が王国とその周りの草原に降り注ぐ。
「うわあああ!アレは、きっと毒ガスだ!皆んな逃げろおおお!」
光が注がれた所は、傷や損傷した場所を修復し、焼け野原の草原は緑が回復し、更に至る所に花、木が生え、花畑と森を作る。
しかし、そんな奇跡も気づかず王国の人々は、逃げ惑うばかりだった。
「ひいいいぃ!誰かああ!」
「ッチ……こうなったら、無理矢理捻じ曲げるか!」
俺は更に、逃げ惑う人々の王国の中央に、巨大な石塔を作る。
「おいカオス!アレは何だ!?何をしている!?」
ウラノスが、俺に叫ぶ中、俺はまた指鳴らす。
石塔は青白く発光し、直後、空気を歪ませる柔らかい衝撃波を王国全体に発生させる。
「おいカオス!何して……」
すると、王国の領域にいた者達全ては一斉に気を失う。
「ふう……これで治るだろう」
今の衝撃波は、簡単に言って影響を受けた者に軽い洗脳を起こす。
これで、人々に『これは異常事態ではない』と認識させた。
ただこの石塔は、俺の力で制御しているから良いものの制御せずに出力最大でやった場合は、洗脳どころか、自分が人間なのかすら分からなくなる程の『記憶消去』も可能。
この記憶消去は、一時的な記憶喪失とは違い、脳から生存すると言う基本的な機能だけ残し、残りは二度と回復せず完全無気力状態にさせる。
まぁ、人間には扱えない物なので、石塔を奪われる心配は無い。勿論、石塔の力を分かって居ても、本当に使った事は一度も無い。せめて物の、混乱を落ち着かせる程度だ。
さて全員を眠らせてから翌朝、王国の人々達は一斉に目を覚まし、次々と家から顔を出す。
昨日の洗脳から何か変わっただろうか?俺は、街を歩きながら聞き耳を立てる。
「はぁ……昨日は大変だったなぁ……何とかして勇者様が魔物共を蹴散らしてくれたが……」
「にしてもあの勇者、一体何者なんだ?」
「歴代の勇者にあんなの居たか?」
皆んな、勇者の事を悪く思っておらず、『昨日は大変だった』『勇者すごい』と思う事は普通の事だった。
しかし、街の路地裏に頭を抑えながらガタガタと震える挙動不審な男が居た。
「昨日のアレは一体?朝になったら皆んな頭がイカレちまってやがる!あぁ……もしやこれは、第二の魔王の誕生か!?」
あれ?あの石塔の力は、建物も地下も範囲内であれば全て貫通するはずだが……?
俺が睨んでいる事に気が付いた男は、その場から逃げるように去っていった。
不味いな……悪い噂が広まる前に始末しておいた方が良いだろうか?いや、俺は勇者の前に創造神だ。人の流れを見るのも一興か。
その日の夕方、予想通り悪い噂は広まり、王国に厳重警備が付いた、白衣の研究者がやって来た。
「ふむふむ、此処が謎の石塔が建つ国ですか……私の住む国より小さいですねぇ!ハッハッハ」
此奴は何しに来たんだ?この石塔をいくら人間が調べた所で意味は無い。俺はわざと研究者の行く先で立ち塞がる。
「そこの者、退きなさい」
だが簡単に片手で退けられてしまった。まぁ、良い。いくらでも調べるが良いさ。人間には扱えないのだから。
俺は研究者共の様子を見ていると、研究者は、ドリル状のカプセルを石塔に刺し、中から魔力を吸い上げ始める。
この石塔の構造は、人から見れば突然地面からせり出てきた物だ。その通り、この石塔は、地中の核から作られた物で、神かそれ以上の者が、操作する事で、石塔が核から一気に魔力を吸い上げ、周囲に影響を与える程の魔力を放出する仕組みとなっている。
つまり、人間が石塔から直接魔力を吸い上げた所で、日常生活に使っている魔力と同等という事。
操作する方法は、特にスイッチとかがある訳では無く、俺が焼け野原に緑を復活させた様に、天地を変える程の魔力が必要なのだ。
しばらくすると、研究者が石塔からの魔力抽出が完了したようだ。研究者は、ふうと息をついてから、何事も無く俺の前を通り過ぎて帰って行った。
国民達の精神を捻じ曲げ翌日、また研究者が来た。王国の入り口から入ってくる研究者は、昨日の魔力のお陰か、それは大層な兵器を持ってきた。
「イッヒッヒ!その石塔のお陰で、ずっと求めていた物が遂に完成した!では早速、この小さな国を実験台としようじゃないか!」
「へぇ〜これはまた大層な兵器持って来たなぁ……」
兵器は巨大なロケットの形をしており、俺の目で構造を透視すると、どうやらこのロケット兵器そのものが一発の弾丸となっている様だ。
あの石塔から魔力を抽出し、こんな兵器が一晩で出来たとは思えないが、本当にこれが発射されれば、この国は一瞬にして消し飛ぶだろう。
「おい貴様!勝手に触るんじゃない!」
「何にもしねぇよ」
そう言いながら俺は、兵器に片手を触れると、中の魔力を全て空にし、外側から見えずに内側だけをバラバラに解体した。
「まぁ良い……ククク、この兵器は見ものだぞ?何故なら、石塔を調べた所、神の古代遺物という事が判明したのだからな!更に!魔力の素粒子からは、あの創造神カオス並の力がある事が分かった!」
まぁ、俺が出した石塔だからそれは当たり前だ。
「さぁ!こんな小さな国なんて滅びてしまえ!ロケット発射ぁ!」
そう言って、兵器の隣にいる警備兵が、ロケット兵器の発射スイッチを押す。
しかし、当たり前だが何も起こらず不発と終わった。
「おい、何をしている!早く発射しろ!」
「博士!ロケットの内構造がバラバラに壊されています!」
「はぁあ!?」
研究者と警備兵が混乱している所、研究者の護衛隊長と思われる者が俺を睨む。
「貴様……さっき兵器に触れた時、何をした?」
「は?何をしたって何をしたと思っているんだ?」
「惚けるな……ただ触れただけでは何を出来ない事はわかる。しかし触れた物の内側だけに影響を及ぼす事は、魔力の扱いに慣れた者なら容易にできる」
「なら俺がこの兵器を壊したとでも?元々壊れていただけじゃないのか?」
「ふざけるな!兵器の不良なぞ、此方に運んでくる段階で気付くものだ。完全に完成した兵器を今さっき、貴様が壊したのだ!」
「へぇ〜だったらどうする?」
「殺す」
そうして、男は腕に鉄の腕甲を装着すると、突然腕が光り出す。
「本来実験するべきだった神の古代遺物の力を見るが良い……これは、あの石塔からでは無く、元々私が持っていた物だ。創造神カオスが作ったとされる古代兵器。アルヘオ・ブラキオス」
「創造神カオスが作った……ねぇ」
確かに神の古代兵器という物は、神界に存在した武器だ。しかし、一つの武器に対し、特定の神が作ったという物は無い。兵器・武具の作製を得意とする神が、各々神に因んだ武具、道具を作り、その神に武器の命名をさせただけなのだ。
つまり、この男が持つアルヘオ・ブラキオスは俺が命名した物であって、俺が作った物では無い。
そして、このアルヘオ・ブラキオスは、武器ではなく、単なる飾りである。
「ふっ……驚いたか。この兵器の力は、殴った物を一撃で木っ端微塵に砕く事が出来るという」
「一体そんな設定誰が付けたんだか……」
余りの馬鹿馬鹿しい設定に口が滑ってしまった。
「ほう?まるで自分が作ったのか、これを昔から知っている口ぶりだな……」
どちらも間違っている推測に、俺は吹きそうになる。
「ふっ……そうかもな」
「馬鹿か?貴様が作ったとならば、貴様は、創造神カオス本人という事になる。こんな所に創造神カオスがいる訳が無かろう」
「そうだねぇ、目の前に神様いたら誰でもびっくりするだろうなぁ……」
少し勿体ない気もするが、この男はその腕甲で、殴る気マンマンでいる。と言って、無防備に殴られる訳にも行かない。軽く触れて、修復可能程度に分解するか……。
「それ以上神を侮辱するな!」
そう言うと、問答無用で男は俺に殴り掛かってくる。
「なら、お前も人の物を勝手に兵器呼びすんじゃねぇ!」
俺は殴り掛かってくる男の腕甲を片手で受け止めると、腕甲は一瞬にしてバラバラに砕ける。
「なん……だと?」
「そのアルヘオ・ブラキオスは、単なる神の威光を示す為の飾りだ。まぁ、もう古くなって使い物にならねぇが、お前だけには言っておこう。俺は……俺こそが創造神カオスだ」
俺は、男の目を見つめ、精神と脳に跪かせる程の恐怖を与えた。
「な……に?あぁあ……何故だ。足が動かない!クソッ!私は、貴様なぞに膝をついてしまうのか!うおおぉ!?」
男は操られる様にして、俺の前で跪き、四つ這い状態で耐えるが、それから動く事は無かった。
「おい護衛!何をしている!?何故そんな奴に頭を下げているのだ!」
「申し訳ありません博士……足が竦んで動かないのです……」
その様子を見た研究者は激昂し俺に怒鳴ろうとするが口を開けた所で言葉を止める。
『今ずくこの王国から去れ、さもなくば、次は貴様らの国に大きいな災いが国を滅ぼすだろう。これは、神からの警告だ』
俺は、若干創造神のオーラを体から出し、研究者と警備兵、その護衛全員に脳内にテレパシーを送る。俺が喋っているという事は気付かれる事は無い。
「ひぃいい!今のお前ら聞いたか!?神の兵器など勝手に使った我々への天からの警告だ!全員、全員撤退!撤退だぁ!」
そう言って、彼らは逃げる様にして、王国から出ていった。
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