第3話 絶対的な鉄壁

数週間して、漸く仲間の一人の大剣の男の怪我が完治した。


「っち……この俺様が負けるとはなぁ、上には上がいるって事か」

「まぁ、俺の上は居ないがな」

「へぇ?随分と自信があるようだな?」

「あぁ、自信も何も当たり前の事だ。じゃあ、やっと仲間が集まった事だし、王国へ戻るぞ」


やっと勇者の仕事が出来ると、俺は背伸びをし、肩を鳴らしながら行こうとすると、女魔道士が何かを思い出した様に俺を止める。


「あ、そう言えばまだお互いの名前を名乗って無かったですよね?」

「あぁ、そうだな。俺の名はカオスだ。覚えておけ」

「俺様の名前は、ウラノス」

「私は、スピカ」

「ぼ、僕は、クロノです……」


全員名乗った所で、改めて王国へ行く事を決めた。


三十分後、王国に着き、王に仲間と無事合流した事を報告した。


「お、遅かったでは無いか。いつ戻って来るかと心配だったぞ」

「すまないな、街の方で少し問題があって遅れた。まぁ、あの時無理矢理来ても良かったが、仲間を死なせる訳にもいかないんでな」

「死なせるって……何があったのかは聞かない事にしよう……」


報告が終えた所で、次は何をするかと聞こうと思った時、焦るように俺の質問より王が先に口を開いた。


「無事合流して戻って来た所悪いが今すぐ緊急で頼みたい事がある」

「なんだ?」

「急いでいるから単刀直入に言おう。魔王軍が我が国に攻めて来ている」

「ほう?良い度胸だな?」

「驚かないのか?」


魔王軍の事を聞いた俺の後ろの三人は驚き絶句するが、俺は至って冷静でいる。


勇者と間違われ、仲間を見つけ、突然魔王軍と戦えと?普通の人間なら、混沌その物だろう。


まだこの世界はどの様な構成で成り立っているのかイマイチ理解出来ない。ただ、この俺に対して大軍を率いて攻めて来るとは、魔王とやらは何を感じ取ったのか……。


元々王国を攻め落とすつもりだったのか又は、勇者の誕生を感じ取りその強大さ故の大軍か。どちらにせよ、この世界全てにいる魔物を使っても俺に勝つ事は不可能だ。


「あぁ、それがどうした?殲滅すれば良いだろう」

「はぁ?カオス、てめぇ頭でも可笑しくなっちまったか?魔王、『軍』だぞ?」

「単体であろうが、軍であろうが、俺に敵うまい。一撃蹴散らしてくれよう」


俺の発言に、王は笑い、スピカとクロノは言っている意味が分からないのか困惑する。

「ハッハッハ!冗談が面白いな?だが、死なれてはこちらが困る」

「カオスさん、ウラノスさんを一撃で倒してその強さは十分に分かりました。しかし今回はそうはいきません」

「そ、そうですよ!相手は何万どころでは無く、数十万いるかも知れないんですよ!?」


そして、俺の次の言葉で場の空気が凍りつく。


「お前らが死のうが俺は知らん。ただ手は出すな。俺の力に巻き込まれて死にたく無いのならな?」

「……魔王軍は、今日の夕方こちらに到着すると予測している。しっかり準備する様に」


その後、俺は常に余裕を見せるが、仲間三人は、夕方になるまで一言も喋らず、ただその時を待っていた。


そして夕方になると、王国の警鐘が鳴り響く。


「来たぞー!魔王軍だー!」


王宮の中まで響く警鐘を聞き俺は、ゆっくりと立ち上がると、仲間三人は良しと気合いを入れながら立ち上がる。手を出すなと聞いていなかったのか?


「お前らは動くな。俺が全て片付ける」

「ッチ……まだそんな事言ってんのかよ!一人一人ってお前の格好付けいい加減にしろ!」

「なら勝手に死ね」


真顔で睨む様に俺は言うと、ウラノスは、立ち止まって呆然とする。


「は……?」

「何て事言うんですかカオスさん!それでも仲間ですか!?」

「お前らを仲間と思った事は一度もない。あくまで国王のお使いだ。そもそも俺に仲間は要らん」

「えぇ?」


そうして俺は、一人王宮を出て魔王軍が攻めて来ていると言う正門へ向かう。


外に出るとまだ煩い程に警鐘が鳴り響く。


そして王国の正門から、遠くを見ると、草原の地平線に、数百万さえも予測出来る大軍が迫って来ている事が確認出来る。


「これまた、大規模だな。普通なら戦争というレベルでは無いな……」


まぁ、肩慣らしでも行くかと俺は正門から一歩踏み出した所で、後ろから仲間三人が追いかけて来る。


「やっぱり一人では行かせねぇ!」

「いい加減にしろ?」


俺は咄嗟に正門を塞ぐ様に透明の結界を張る。


「っておい!ふざけんな!此処を開けろ!」

「そこで良く見ていろ。俺の力を見せてやる」


徐々に迫って来る魔王軍に対して、俺はただ時を待つ。


「おい!何ボーッとしてんだ!クソ!どうなってんだこの壁!」

「カオス!もう敵は目前だ!」


後ろから国王も、俺に声をかける。丁度いい。この国を統べる王までがすぐ後ろにいるのなら、俺のこの力は一気に世界中に広まるだろう。


魔王軍との距離、もう五十メートルも無い。その時、俺は両手に炎を出す。


「なんだあれ……手が燃えてんぞ?」

「まさかアレだけの炎で蹴散らすとか言っていた訳?あんなのじゃ無理!足りない!」


距離、三十メートル。魔王軍は、目と鼻の先だ。俺は、全身を炎で燃やす。


「か、カオスさん!!もう間に合いません!」


距離、十メートル。俺は、両手に思いっきり握り、叫ぶ。


「炎よ、全てを焼き尽くし、大災害を齎さんっ!燃えよ!ヘル・ファイア!」


その瞬間、目を潰す程の、閃光が全てを照らす。


「うおっ、なんだ!?」

「うっ!」

「うわ!」


閃光による目くらましが収まると、辺りを見回せば地平線のずっと奥まで焼け野原になっていた。


「殲滅完了。これで魔王の率いる、従える魔物は一匹残らず消えた」

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