第2話 仲間なんて要らない

翌朝、俺が勇者であるかどうかの調査がまた始まった。今回は、戦闘による調査だと、兵が減りかねない為、別の方法として調査するようだ。


「他の方法とは?」

「お主がまだ勇者であるとまだ分からないが、もし勇者であれば、勇者の力という物があるはずだ。それを見せて欲しい」


勇者であれば、勇者の力がある……か。まぁ、俺が創造神である事を鮮明に教えれば逆に面倒事になる確率が高くなるだろう。ここは、力を抑えながら勇者たる力の様な技でも見せるか。


「勇者の力を見せれば良いんだな?なら、これはどうだろうか?」


俺は手から武器を召喚する。その武器は黄緑色に光る、棒状の武器だ。


「ほほぉ……手から武器を召喚と。そして、その武器はどんな物なのだ?」

「此処では試せん。いや、この世界では試せん」

「と言うと?」

「この武器は破壊の剣と言ってな、大地、月どころか、星を一撃で破壊する力を持つ」

「……ハッハッハ。冗談が面白いな。本当にそんな力があっては、試す事も出来ず、本当なのかどうか分からないではないか」

「その通りだ」


この破壊の剣は、俺が創造から、破壊をする際に使う武器だ。


「まぁ、力を最小限に抑えれば、この王宮を一撃で崩壊くらいまでなら出来るが……」

「やめてくれ……もっと優しい力は無いのか?ここまで暴力的では、とても勇者とは呼べんな」

「優しい力か……それならこれはどうだ?」


俺は、片手で指を鳴らすと、ピンポン球の大きさの緑の光球を出す。それを掴み、優しく床に押し込む。


すると、金色に輝いていた王の間の床全面が、一気に芝生へ変わる。


「……何をしているんだ?」

「床全面を芝生に変えた。優しいだろ?」


王は一度咳払いをし、呆れた顔でいった。


「もういい……お主を勇者と認めよう」

「分かれば良い」

「うむ……勇者となれば、やっと話を本題へ移そう。お主を召喚する前に、隣町にて、勇者の仲間を募集しておいた。既に仲間を待たせている。街の門番にはこの紋章を見せよ」


王は俺の手に、王家の紋章が彫られたプレートを渡す。


「この紋章を見せれば、勇者である事を示し、すんなり通してくれるだろう。街は、此処から西へ歩けば三十分で着く。王国より外に出れば、そこは魔物の縄張りが敷き詰められている。十分に注意する様に」

「分かった」

「では、仲間を無事見つけたら一度王国へ戻って来い」

「じゃ、行ってくる」


俺は、王に命令され、仲間と出会う事した。


正直言って仲間は要らないんだがな……。


俺は、王国から出て西へ、隣町を目指す。どうせなら瞬間移動しても構わないが、人に見られれば少し不味い状況になる。あくまでも勇者を振る舞おう。


隣町道中、早速魔物と出会う。目の前に緑色の体で小柄、木の棍棒を持ったゴブリン三匹がいる。


「誰か、誰か助けてくれ……」


三匹のゴブリンは、村人だろうか?質素な服を着た中年の男を一人囲んでいた。


「あ、そこの人お願いだ!助けてくれ!」


男は俺に助けを求めると、同時にゴブリンもこちらに気づく。


人助けや、人を導くのは専門外なんだがな……まぁ、暇つぶしでもするか。


「ギギィ!ギギャ!」

「雑魚が……」


三匹のゴブリンは、一斉に棍棒を振り回しながら俺に襲ってくる。


俺は、指を鳴らす。すると、一斉に全ゴブリンは火達磨となり、悲痛な断末魔をあげる。


「ギギャアアァ!!?」

「はいお片づけ終了。じゃな」


男は俺になにかを言おうとしていたが俺は、それを無視し、隣街に急いだ。


歩いて二十分頃、また魔物と出会う。


体はゴブリンと同じ緑色、体格は二〜三メートルはある巨体だ。名をオーク。


オークは俺の目の前を通りすぎる馬車に巨体全重心を掛けて勢い良く突進し、馬車を吹き飛ばす。


「ひいぃい!だ、だれかあぁあ!」

「ウゴオオォア!」


勇者と言うものは疲れるな。別に此処は無視して、馬車商人が喰われるのを見ていても良いが、こんな所を目撃されれば、人ならざる行動として、非難を受ける事になるだろう。


見つけたら助ける。これを心掛けなくては。


「おーいそこのオーク、俺が相手だ」


俺はオークの注意を引き、手招きで挑発する。


「ウ、ウゴオオォ!」

「来たか……」


挑発に乗ったオークは、馬車へ突撃したと同じ様に、体を丸く固め、こちらに突進してきた。


「そこの人!危ない!」

「はいお終い」


俺は、突進してくるオークに軽く片手で触れる。


するとオークは空間に吸い込まれるように、跡形も無く消滅した。


「は、はあぁあ……き、消えた……?」

「じゃ、気を付けろよ」


俺は、商人に一言言ってから隣街を急ぐ。


そして、漸く街に着いた。街に着くと王の言う通り、二人の門番に止められる。


「そこの方。街へ入るなら通行証をお見せ下さい」

「これだな?」


俺は、門番に紋章のプレートを見せると、門番は驚いた顔をして、すぐに敬礼で迎える。


「勇者様!よくぞお越し頂きました!どうぞお通りください!」

「あぁ所で、此処に勇者の仲間がいると聞いたんだが、心当たりはあるか?」

「いいえ、その様な方は見ていませんね。そう言う時はギルドに行ってみてはいかがでしょうか?」

「ギルド?なんだそれは」

「ギルドとは、数々の冒険者が集まる場所で、この街の依頼から世界中まで募った依頼をこなし、お金を稼いだり、仲間を増やす、言わば集い場です。仲間をお探しなら、そこにいるかと」

「分かった」


どうやら俺の仲間とは、ギルドと言う場所にいる確率が高いらしいので、俺は、そこに行く事にした。


そして俺は、街の案内板を頼り、ギルドを見つけた。


ギルドの外観は、酒場と言うか、宿場と言っても良い、石造りの三階建の建物だった。


ギルドの入り口扉を開くと、酒で騒ぐ者達と冒険者らしき装備をした者達が集まって話し合って賑やかな光景が見えた。


さて、かなりの人数がいるな……とりあえず呼び込んでみるか。


俺は、ギルド全体に聞こえるように、声を上げて勇者の仲間を探す。


「此処に勇者の仲間がいると聞いたんだが、話を知る者はこの中に居ないか?」


すると、その中から三人の男女が前に来た。


「おぉ!貴方が今回の勇者様ですね!」

「よ、よろしくです……」

「へぇ?てめぇ勇者か……そうはみえねぇな?」


一人は、背より高い杖を持った女魔道士。

一人は、小柄、腰あたりまで低身長のヒーラー。

一人は、最も高身長、俺と同じくらいで、細く筋肉質で、上半身裸の大剣を持った男。


「あぁ、そうだ。お前らが勇者の仲間だな。よし、王国に戻ろう」

「おい、待てよ」


高身長の男が、俺の肩を掴み、歩きを止める。


「どうした?」

「本当にてめぇ勇者だな?本当に勇者なら、強さを確かめさせてもらうぜ!」

「は?」


男はギルドの中でありながらも、背中に背負う大剣を構えて、大声を上げる。


「オラァ!剣を抜け!やるぞこらぁ!」


すると、ギルドの空気が一変する。


「おうおうまた始まったぞ!あいつの腕試しが!」

「俺は、今回も大剣の野郎に賭けるぜ」

「ははは!やっちまえ!」


いつものイベントなのか、又は、この男の日常なのか。ギルド全体が、賭場のような空気に変わった。


野次馬の会話からして、毎度大剣の男が勝っているようだ。男へどんどん賭け金が注ぎ込まれて行く。


「武器が必要か?」

「あぁ?てめぇ、舐めてかかると痛い目にあうぜ?」

「そうか……なら俺の武器はこれにしよう」


俺は、偶々床に落ちていた木の枝を拾う。


「はぁ?ふざけてんのかてめぇ」

「いや、真面目だ。自然の力を舐めるなよ?」


すると、野次馬の中に居た女魔道士と、ヒーラーが叫ぶ。


「本当に真面目にやってください!勇者様。この腕試しは、何度も死者が出ているんです!あの方も貴方を殺すつもりで来ますよ!」

「そうか。なら、俺は殺す気は無い」


俺の余裕ぶりに野次馬が更に興奮する。


「ガハハハ!あいつまさか死ぬ気じゃあねぇだろうな!」


野次馬の興奮が頂点に達した時、大剣の男は、大声を出して俺に剣を振り下ろす。


「行くぞおお!うおおお!」

「無駄だ」


俺は、勢い良く振り下ろされた大剣を軽々と木の枝で受け止める。


「は、はぁ!?な、何で折れねぇんだ……!」

「どうした?殺すつもりじゃないなのか?」

「てっめぇなぁ!!ぶっ殺す!」


男は一度大剣を枝から離し、次は思いっきり高く飛び上がり、大剣を真上から振り下ろす。


「隙がでかい!」


俺は、落下してくる男を垂直真上に蹴り上げ、高く蹴り上げられた男の空中に瞬間移動し、壁まで吹き飛ぶ強烈な回し蹴りを腹に打ち込む。


「ごはぁッ!」


腹に打ち込んだ回し蹴りには、肋を数本折り、胃のあたりな内臓を破壊する感覚が伝わる。


空中で壁まで吹き飛び、床に落ちた男は、多量の血を吐き、壁に座り込みながらぐったりと脱力する。


この対戦は野次馬から見れば一瞬の出来事だろう。ギルドの空気はすぐに凍りつく。


「今、何が起きたんだ……?」

「一瞬で終わったぞ?」


壁に座り込む男はまた一度吐血し、弱々しい声を出す。


「て、めぇ……い、いったい……?」

「これで分かっただろう。ヒーラー、あくまでもコイツは仲間だ。回復してやれ。肋数本と、内臓を破壊した。回復しながら、安静にさせろ」

「は、はい!」


あの体では、数週間は動けないだろう。王国へ戻るのがかなり遅くなってしまうが、コイツが完治するまで、この街でも見回るか……。



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