創造神の異世界冒険

Leiren Storathijs

第1話 勇者神・降臨

「っ……つつ、あ?此処は?……」


ブラックホールに吸い込まれた後、目覚めると、そこはただ無限に広がる草原だった。


まず、情報整理をしよう。俺の名はカオス。世界の創造神であり、混沌の神である。世界の創造と破壊を気まぐれにやりながら、自分が過去作った世界の事を考えていると、突然ブラックホールに吸い込まれた。と。


つまりその流れ的に、此処は俺が作った世界のどれかだ。


大体こう言う展開は『異世界転生』なんて呼ばれているが、逆に俺が異世界で行われる儀式とやらを手伝い、別世界から人間を、何らかのきっかけで死に至らせるか、気を失わせて『転生』させる事はある。


しかし、神である俺自身が、何者かに転生される事はあり得ない。


何故あり得ないかと言えば、俺がいた空間、超次元空間、いや神界と言った方が分かりやすいか。そこで俺は、最も頂点に立つ存在。最高神だからだ。


と言っても別に俺のいる神界はそこまで上下関係が上の者は、アレが出来るとか、下の者はアレしか出来ないとか分別される程、はっきりしているわけではないが、唯一はっきりしている事がある。


それは、下の者は、上の者に危害を与えるような干渉は出来ない事。上の者が下の者がやる事に関して、攻撃的であると感じた瞬間に、下の者がやる事が完全に無効化されると言うシステムだ。


つまり今回の転生で、俺以外の者による事では無いと考えられる。じゃあ、あのブラックホールは……?


そこで俺はふと思い付いた。あのブラックホール俺自身による力なんじゃね?


過去作った世界に関して思い耽ていると時に、あのブラックホールが開いた。てって事は、単なる俺の無意識?


「はぁ……面倒な事やっちまったなぁ……」


勿論、異世界に俺自身が訪問する事は過去に何度もあった。だから帰る方法はいくらでもある。


しかし、まさか自分でブラックホールを作り異世界に飛ばすと言う事は初めてのケースだ。それもブラックホールから入れば俺でさえも、行き先は分からない。


神界から異世界へ行くには、俺の部下が作った神界と異世界を繋ぐルートを辿れば、何処へだって行き来は出来る。だが単なるルートではなく、部下が決めた、ルートへ侵入するゲートから入らなければそのルートを辿る事も出来ない。


俺たちはそれを、カナンズゲート《神界の扉》と呼んでいる。


「さて、これからどうしようか……」


自分の立ち位置と神界について思い耽ていると、草原のずっと奥から赤い無地の服を来た男がこちらに走ってくる。


「おーい!そこの人ー!」

「誰だあれ?」


俺は、何となくその場から立ち、男に手を振る。


その男は、勢いが余ったのか、慌てて俺に退けと命令する。


「あわわわ!止まれ止まれ!ぶつかる!避けてください!」

「その必要は無い」


俺は、自分の目の前に透明の障壁を作り出し、男を弾き飛ばす。


「どぉわ!?へ……え?今の何?」

「それはこっちが聞きたい。お前は何者だ?」


男は俺の質問を無視し、顔を寄せて質問を返してきた。


「あなたが勇者ですよね!?」

「は……?すまん、言っている意味が分からない」

「いや、どう見たって、その見た目からして、勇者でしょ!儀式を行った直後、窓から閃光と今あなたがいる場所に雷が落ちたんですから!いやぁ……遂に召喚に成功したんだ!」


何故か男は俺を置いてけぼりに感動する。そこで俺は、男の言っていた自分の見た目を初めて確認する。


自分の見た目は、Tシャツにチェストプレートを装備し、チノパンにレザーブーツを履ている。腰には、鉛で出来た剣が掛けられていた。


まぁ、良くある初心者勇者セットと言った所か。


男はまだ感動しておりこちらに目も向けない。そして俺が、声をかけた瞬間、俺の手を引っ張り叫ぶ。


「おい、お前いつまで感動している?」

「やった、やったんだ!……はっ!では、勇者様!是非こちらへ!王国へ行きましょう!」

「お、おい!勝手に……」


俺は、無理矢理引っ張られながら、十分程で王国へ着いた。


男は王国へ着いても俺を引っ張り、王宮らしき場所へ、そして、王の間まで引っ張って来た。


「王様!王様!勇者様を連れて参りましたァ!」


王の間は、部屋中央に入り口から玉座まで幅三メートルの赤いカーペットが敷かれ、カーペットの左右には一定の間隔を開けながら鉄甲冑を着た警備兵が向かい合いながら並んでいた。


王の間の全体の広さは、約一千平方メートルくらいだ。


俺を引っ張って来た男は王らしき者に膝をつき、勇者を連れてきたと言うと、部屋中央の玉座に座る王の渋く低い声が王の間全体に響く。


「お主が勇者か……」

「知らん……」


俺は、正直な事を言ったまでだ。無意識でこの世界にやって来て、突然男に出会ったと思いきや、勇者呼ばわりなんざされて、自分がすぐ勇者であると理解出来る者は少ないだろう。


俺の言い方が無礼だったのか、俺を引っ張って来た男はあわわと慌てふためき、周りの警備兵は、ざわつき始める。


「なんと……おい若造。勇者を連れて来いと言ったはずだが?」

「すすすみません!召喚の儀式に成功した興奮で何も調べずに連れて来てしまいました!」

「ふむ……まぁ、良い。何も調べていないのなら、この者が勇者なのかどうかを調べれば良い」

「本当に申し訳ありません!」

「では、勇者らしき者よ、これよりお主が勇者かどうかを調べる。良いな?」

「手荒な事で無ければ良いがな」

「フフフ……察しが良いな」


俺の発言に対し王が笑うと、周りにいる警備兵の一人が無礼だと、俺に対して剣を抜く。


「貴様!良い加減にしろ!王の前だぞ!」

「だからどうした?」

「貴様……!」


警備兵の形相は、俺を睨み、挑発に苛ついているのか、歯軋りが聞こえる。


「そこの者!剣を納めよ!」

「ふん、来いよ……一度戦って見れば俺が勇者かどうか、分かるかも知れんぞ?」

「手荒な真似は嫌と言っておきながら自分で誘うか!なら、望みどおりにしてやるよ!」

「おい!止めろ!」


王が周りの警備兵に命令した時は遅く、俺の目の前にいる警備兵は俺に剣を振り上げ、下ろす瞬間だった。


「無駄だ……」


俺は、警備兵の振り下ろす剣を人差し指一本で止め、鉄の剣から、警備兵の体に力を伝え、完全に動きを止める。


「っな……!?ど、どう言う事だ……!か、体が動かない!」


暴れる警備兵を止める為に動いた周りの警備兵は、俺の行動に手を止め驚き、王の間は騒然とした空気となる。


「警備兵の動きを止めた……?あんな苛ついている状態で演技で動きを止めているとも考え難い。どうなっているんだ?」


体が動かない警備兵は、更に苛つきが積もったのか、小刻みに震えだす。


「戻せ……体を戻せ!ふざけおって!」

「体を動かせて欲しいのか?」

「き、貴様ァ!あまり、調子に乗るなよ?」


では、動かせるようにしよう。勿論、下手に動かないようにするがな。


俺は、優しく剣を振り下ろす警備兵の肩を叩く。すると、警備兵の肩は外れ、後ろに二百度程勢い良く回転する。同時にバキバキと骨が折れる音が聞こえる。


警備兵は、その場で倒れ、王の間全体の響く程に喚き叫ぶ。


「ぎゃあぁああ!!!」

「お、おい!?大丈夫か!」

「むう……勇者らしき者よ、今回の取り調べはここで終わる。部屋を貸すからそこに今日は止まれ。警備兵に危害を加えた以上、ここで見捨てる事はできん」

「分かった」


そうして、まだ叫び声が響く中、俺の調査は一時終了し、王が貸してくれた部屋に泊まる事となった。

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