2017年5月28日(日曜日)

 アルバイト先の書店で雑誌コーナーの補充をしていると、初老の男性から何かを尋ねられた。

 昨日から坂本先輩と連絡が取れず、それが気になってぼんやりと仕事をしていた僕は、相手が何と言ったのか全く聞き取れなかった。

 慌てて聞き返すと、初老の男性は微笑みながらもう一度言った。

「オデュッセウスに関する本のコーナーはどこかな」

 僕は雑誌コーナーとは正反対の位置にある、オデュッセウスの特設コーナーへ男性を案内した。特設コーナーでは多くの人が積まれているオデュッセウス関連の本を手に取っていく。


 オデュッセウスの地球最接近も、ついに明日。世間の盛り上がりも最高潮だ。

 向かいの洋菓子店では、小惑星ケーキだとかいう、ゴツゴツした岩のような見た目をしたケーキを売り出していて、それが冗談みたいな勢いで売れている。その隣の揚げ物屋でも、小惑星メンチカツだとかいう、通常の3倍のサイズのメンチカツを売り出している。これはまあ、ジャンボメンチと差別化が図られていないため、売れ行きは大して良くないようだ。


 明日はオデュッセウスが地球に最接近する午後3時から、平日だというのにどのチャンネルでも特番をやるらしい。

 ここまで盛り上がられると、逆に興味を失う、天邪鬼な性格な僕である。

 通り過ぎるまで、意地でも空なんか見上げてやるものか、と思ってしまう。


 帰り道、坂本先輩へ送信したっきり、一度もリアクションのない僕のメッセージを眺めていると、突然僕の顔にバサバサと激しく音を立てる何かが覆いかぶさった。

 慌てて覆いかぶさったものを顔から引きはがすと、それは何かよく分からない液体で薄ら汚れた去年の日付の新聞紙だった。思わず自分の頬を撫でると、新聞紙についていたのと同じ薄茶色をした、なにかぬめぬめした液体で濡れている。

「うげぇ……、最悪……」

 僕は怒りに任せてその新聞紙を破こうとした。

 しかし、まさに指に力を加えようとしたその瞬間、紙面に書かれていた文字が目に入り、僕は心臓が止まるほど驚いた。

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