2017年5月26日(金曜日)

 夕飯を食べながらテレビを見ていると、オデュッセウスの特集が始まった。

 間もなく地球に最接近するということで、観測に適した場所には、早くも場所取りのために多くの人が集まってきているのだという。

 オデュッセウスは直径127kmという、恐竜を絶滅させた隕石の十倍以上の大きさがあり、万が一、地球に落ちてくるようなことがあれば、地球の自転を一時停止させるほどの衝撃が起こり、たとえ衝突した箇所の反対側に居たとしても助からないのだという。


 そんなコメンテーターの言葉に、賑やかしに居た芸能人たちが、「こわーい!」だの「えええ!」だのと、わざとらしい悲鳴をあげた。

 しかしすぐさまコメンテーターが、オデュッセウスの地球への衝突確率はゼロパーセントだと告げた。

 そんなことは随分前から分かっていたことで、いくらなんでも最接近の数日前にやるにしては乱暴な内容で、僕はうんざりした気分になった。


 その後、オデュッセウスが地球上には存在しない特殊な合金で覆われていることなどが紹介されていた。ネットではオリハルコンなどと呼ばれているその合金は、既に探査機によって欠片が地球に持ち帰られ、幾度も分析が行われているが、未だ不明な点の多い謎の合金である。


 不意に、外で激しいブレーキ音がした。

 驚いて外を覗くと、赤いバンが急加速してその場を去って行くところだった。

「どこ見てんだ! 危ないだろうが! 馬鹿野郎!」

 横断歩道に立っていた男が、去って行く赤いバンに向かって怒鳴った。

 どうやら前方不注意の赤いバンに衝突されかけたらしい。

 あまりに一瞬のことだったので、ナンバーまでは確認できなかった。

 

 不幸中の幸いか、怒鳴っていた人は轢かれかけたものの、特に怪我がなかったようで、そのまま去って行った。


 オデュッセウス特集が終わってすぐ、唐突にジム帰りの坂本先輩が酒とツマミはないか、などと言いながら大変むさくるしい雰囲気を纏って僕の部屋へやって来た。

 そんなものはない、と告げると、先輩はしょぼくれながら1時間ほどテレビを見て帰って行った。



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